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5.終わりと始まり⑤
それは、秋の気配が深まってきた頃のことだった。
『出かけてくる。……帰りは少し遅くなるかもしれない』
『わかった』
『私の分の食事の用意はしなくていい。私がいない間も、タイガはここを好きに使ってくれていいから』
『? ありがとう』
ラーシュの言い方になんだか引っかかるものを感じたものの、それまでもどこかへ出かける際には同じようなことを言われていたので、気のせいだと思うことにした。
しかし二週間が経っても、ラーシュは戻って来なかった。
保存の魔法がかけられている食料はかなりの蓄えがあり、俺がひとりで生活する分には困らない。
でもこんなに長く家を留守にするのは初めてで、ラーシュの身に何かあったんじゃないかと不安に駆られた俺は、何か手がかりを得られたらという思いで、外に出てみることにした。
この世界に来てからというもの、最初に闇雲に走ってラーシュの家にたどり着いて以降は、家とその周辺しか知らず、ラーシュ以外の人との接触はゼロだった。
だから家がある森の外がどのような世界か全く知らなかったが、ひとり取り残される不安には勝てず、意を決して家を飛び出した。
それが、人生の終わりに繋がる行動だとは夢にも思っていなかったのだ。
『いたぞ! こっちだ!』
森を抜けたところで聞こえた声に驚き、足を止めた。
『間違いない! ※※※※だ!』
『※※※※! ※※※※※※※!』
荒い口調と知らない言葉。
嫌な予感を覚え、咄嗟に身を翻したものの、時すでに遅し。
すごい勢いで何かが飛んできたと思ったら、革紐のようなものが身体に巻き付き、あっという間に拘束されていた。
全く違う世界に来たというのに、ラーシュとの生活は平穏そのものだった。
だから、ラーシュから外の世界について、危険だと言われたこともあったはずなのに、日本で暮らしていた頃の感覚が抜けていなかったせいか、そんなことは頭からすっかり抜け落ちていた。
バランスを崩し、思い切り地面に叩きつけられたせいで、どこもかしこも痛かった。
起き上がろうにも、身体に力が入らない。
すると、すぐに複数の足音が聞こえ、ファンタジー風の鎧をつけた屈強な男たちが、俺をグルリと取り囲んだ。
『捕まえたぞ! 大人しくしろ。お前が※※※※だな? お前を城へ連れてくるよう命令が下った』
この世界に来てからラーシュ以外の人間との接触は初めてだったが、他にも人がいたんだという安堵の気持ちよりも、恐怖のほうが圧倒的に勝っていた。
(マズいかもしれない)
そう思った瞬間、身体にビリッとした衝撃が走り、強制的に意識を奪われた。
……俺がまともに覚えているのはここまで。
あまりに辛いものだったせいか、それからの記憶は曖昧だ。
檻のようなものに入れられ、代わる代わるやってくる人間たちから酷い扱いを受けた。
そいつらが口にしていたのは、ラーシュと話している時には聞いたことのない言葉ばかりで、正直言っていることの半分も理解できなかったが、揃いも揃って下卑た笑みを浮かべていたことから、大半がろくでもないことだと見当がついた。
でも、あまり言葉が理解できていなかった俺にも、わかったことがいくつかあった。
ラーシュのことは、出会った当初からずっと育ちが良さそうな人だと思っていたけれど、彼は正真正銘この国の王族で、育ちが良いなんて言葉で片付けられるような身分の人ではなかったのだ。
しかも、ラーシュは次の国王になることが決まっていて、結婚を控えた婚約者がいるらしい。
俺の語学力では、それが本当のことかどうかの判断はつかなかったものの、ラーシュは二度とあの家に戻るつもりはなく、俺は誰にも必要とされていない存在だということだけはよくわかった。
何が起こっているのかもわからないまま、まるで罪人のような扱いを受ける日々。
過酷な現実に心身共に限界を迎えていた俺は、『どうすれば元の世界に帰れるのか』ということだけを考えるようになっていた。
そして、ついに迎えた終わりの日。
俺の前には、冷たい眼差しで俺を見据えるラーシュがいた。
『出かけてくる。……帰りは少し遅くなるかもしれない』
『わかった』
『私の分の食事の用意はしなくていい。私がいない間も、タイガはここを好きに使ってくれていいから』
『? ありがとう』
ラーシュの言い方になんだか引っかかるものを感じたものの、それまでもどこかへ出かける際には同じようなことを言われていたので、気のせいだと思うことにした。
しかし二週間が経っても、ラーシュは戻って来なかった。
保存の魔法がかけられている食料はかなりの蓄えがあり、俺がひとりで生活する分には困らない。
でもこんなに長く家を留守にするのは初めてで、ラーシュの身に何かあったんじゃないかと不安に駆られた俺は、何か手がかりを得られたらという思いで、外に出てみることにした。
この世界に来てからというもの、最初に闇雲に走ってラーシュの家にたどり着いて以降は、家とその周辺しか知らず、ラーシュ以外の人との接触はゼロだった。
だから家がある森の外がどのような世界か全く知らなかったが、ひとり取り残される不安には勝てず、意を決して家を飛び出した。
それが、人生の終わりに繋がる行動だとは夢にも思っていなかったのだ。
『いたぞ! こっちだ!』
森を抜けたところで聞こえた声に驚き、足を止めた。
『間違いない! ※※※※だ!』
『※※※※! ※※※※※※※!』
荒い口調と知らない言葉。
嫌な予感を覚え、咄嗟に身を翻したものの、時すでに遅し。
すごい勢いで何かが飛んできたと思ったら、革紐のようなものが身体に巻き付き、あっという間に拘束されていた。
全く違う世界に来たというのに、ラーシュとの生活は平穏そのものだった。
だから、ラーシュから外の世界について、危険だと言われたこともあったはずなのに、日本で暮らしていた頃の感覚が抜けていなかったせいか、そんなことは頭からすっかり抜け落ちていた。
バランスを崩し、思い切り地面に叩きつけられたせいで、どこもかしこも痛かった。
起き上がろうにも、身体に力が入らない。
すると、すぐに複数の足音が聞こえ、ファンタジー風の鎧をつけた屈強な男たちが、俺をグルリと取り囲んだ。
『捕まえたぞ! 大人しくしろ。お前が※※※※だな? お前を城へ連れてくるよう命令が下った』
この世界に来てからラーシュ以外の人間との接触は初めてだったが、他にも人がいたんだという安堵の気持ちよりも、恐怖のほうが圧倒的に勝っていた。
(マズいかもしれない)
そう思った瞬間、身体にビリッとした衝撃が走り、強制的に意識を奪われた。
……俺がまともに覚えているのはここまで。
あまりに辛いものだったせいか、それからの記憶は曖昧だ。
檻のようなものに入れられ、代わる代わるやってくる人間たちから酷い扱いを受けた。
そいつらが口にしていたのは、ラーシュと話している時には聞いたことのない言葉ばかりで、正直言っていることの半分も理解できなかったが、揃いも揃って下卑た笑みを浮かべていたことから、大半がろくでもないことだと見当がついた。
でも、あまり言葉が理解できていなかった俺にも、わかったことがいくつかあった。
ラーシュのことは、出会った当初からずっと育ちが良さそうな人だと思っていたけれど、彼は正真正銘この国の王族で、育ちが良いなんて言葉で片付けられるような身分の人ではなかったのだ。
しかも、ラーシュは次の国王になることが決まっていて、結婚を控えた婚約者がいるらしい。
俺の語学力では、それが本当のことかどうかの判断はつかなかったものの、ラーシュは二度とあの家に戻るつもりはなく、俺は誰にも必要とされていない存在だということだけはよくわかった。
何が起こっているのかもわからないまま、まるで罪人のような扱いを受ける日々。
過酷な現実に心身共に限界を迎えていた俺は、『どうすれば元の世界に帰れるのか』ということだけを考えるようになっていた。
そして、ついに迎えた終わりの日。
俺の前には、冷たい眼差しで俺を見据えるラーシュがいた。
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