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6.終わりと始まり⑥
まるでおとぎ話に出てくる王子様のような白い衣装に身を包んだラーシュは、よく似た別人としか思えないほど、何の感情も見えない表情をしていた。
元々俺と一緒にいる時も感情が豊かなほうではなかったが、それでもまだ血の通った人間らしさを感じられた。
この時のラーシュは、その美しい容貌も相まって、そっくりに作られた人形だと言われても信じてしまいそうなほど、作り物めいた顔をしていた。
薄暗い地下牢。
兵士と思われる人間の手で鉄格子の中から引きずり出され、無理矢理ラーシュの前で両膝をつく体勢をとらされた。
俺はそんな目にあっていることよりも、ラーシュが俺に対して、まるで何の価値もないものを見るような視線を向けていることに、心を打ちのめされていた。
これ以上ラーシュを見ていられなくて視線を伏せると、俺を押さえつけていた兵士たちが、役目は終わったとばかりに、この場から去っていった。
俺はもう何も考えることができないまま、ただ呆然と冷たい床だけを見つめていた。
足音が完全に遠ざかり、二人きりになったところで、ラーシュが静かに口を開いた。
『……タイガ』
名前を呼ばれ、弾かれたように顔を上げる。
ラーシュは真っ直ぐに俺を見つめた後、俺に立つよう促した。
突然理由もわからず捕まって以来、ずっと理不尽な扱いを受けていたせいで、俺は立つことすら困難なほどに弱りきっていた。
それでも意地と根性で、なんとかふらつきながらも立ち上がってみせた。
ラーシュが俺のほうへ一歩近づく。
その表情は、先ほどまでとは違い、人間らしい感情が宿っているように見えた。
俺の知っているラーシュがいなくなったわけじゃなかったことに密かに安堵していたその時。
『ぐ…っ………』
突如焼け付くような痛みに襲われ、自分の口から呻くような声が出た。
一瞬何が起こったのかわからず、痛みの発生源と思われる自分の胸元に視線を向けると、ラーシュが手にしていた剣が俺の身体を貫いているのがわかった。
ラーシュの白い服が、みるみるうちに赤く染まっていく。
『タイガ、……※※※※※』
ラーシュが何を言ったのか、その言葉の意味はわからなかった。
でも薄れていく意識の中で、俺がラーシュに何をされたのかは、理解した。
不思議なことに、その時感じていたのは、『異物』のように排除された悔しさや絶望感より、やっと全てから解放されたという安堵。
──そして何より、俺が生まれ育った場所への郷愁だった。
(……帰りたい)
そう思った瞬間、身体の力が一気に抜け、俺は風間大河としての人生を終えた。
◇
身体の内側から熱いものが溢れてくるのがわかる。全身が灼けるような感覚に見舞われ、俺はとても立っていられず、その場にしゃがみ込んだ。
そんな俺の様子を気にかけることもなく、周りにいた人たちからは次々と、歓喜に満ちた声があがった。
「なんと素晴らしい!」
「まさかこのような場所から、神の恩恵を受けた子供が現れるとは……」
「すぐに各所へ連絡せねば」
俺は自分の身に何が起こっているのかわからないまま、ラーシュに刺された胸の辺りを押さえて蹲る。
だんだんと痛みが和らいでいく中で、今度は『自分のものじゃない記憶』が、次々と頭の中に浮かんでくることに混乱した。
『……最悪だ』
口から零れ落ちた言葉が、馴染みのないものだったことに驚く。
その時、ようやく俺の存在を思い出したのか、白いローブを纏った人物が俺の前にしゃがみ込み、声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
白い服が視界に入った途端、身体が竦んだように動けなくなる。
差し出された手が赤く染まっていないことで、『彼』じゃないとわかりホッとした。
大きく息を吐き出すと、俺が吐き気を堪えているとでも思ったのか、背中を優しく擦ってくれた。
その手に、嫌な記憶が呼び起こされそうになり、身体の震えが止まらない。
そんな俺を見てどう思ったのか、その人物は宥めるような口調で俺に語りかけてきた。
「シリル、あなたは神に選ばれた人間なのです。怖い事など何もありませんよ」
呼ばれた名前は確かに自分のものなのに、そうじゃないような妙な違和感に胸が苦しくなる。
そしてすぐに、自分の最期の願いが叶わなかったのだと理解した。
──あれほど『帰りたい』と願ったのに。
……そうでないなら意味がないのに。
忌まわしい記憶しかないあの場所と似たような世界で、なぜか二度目の人生が始まっていたことがわかり、俺は絶望に打ちひしがれた。
元々俺と一緒にいる時も感情が豊かなほうではなかったが、それでもまだ血の通った人間らしさを感じられた。
この時のラーシュは、その美しい容貌も相まって、そっくりに作られた人形だと言われても信じてしまいそうなほど、作り物めいた顔をしていた。
薄暗い地下牢。
兵士と思われる人間の手で鉄格子の中から引きずり出され、無理矢理ラーシュの前で両膝をつく体勢をとらされた。
俺はそんな目にあっていることよりも、ラーシュが俺に対して、まるで何の価値もないものを見るような視線を向けていることに、心を打ちのめされていた。
これ以上ラーシュを見ていられなくて視線を伏せると、俺を押さえつけていた兵士たちが、役目は終わったとばかりに、この場から去っていった。
俺はもう何も考えることができないまま、ただ呆然と冷たい床だけを見つめていた。
足音が完全に遠ざかり、二人きりになったところで、ラーシュが静かに口を開いた。
『……タイガ』
名前を呼ばれ、弾かれたように顔を上げる。
ラーシュは真っ直ぐに俺を見つめた後、俺に立つよう促した。
突然理由もわからず捕まって以来、ずっと理不尽な扱いを受けていたせいで、俺は立つことすら困難なほどに弱りきっていた。
それでも意地と根性で、なんとかふらつきながらも立ち上がってみせた。
ラーシュが俺のほうへ一歩近づく。
その表情は、先ほどまでとは違い、人間らしい感情が宿っているように見えた。
俺の知っているラーシュがいなくなったわけじゃなかったことに密かに安堵していたその時。
『ぐ…っ………』
突如焼け付くような痛みに襲われ、自分の口から呻くような声が出た。
一瞬何が起こったのかわからず、痛みの発生源と思われる自分の胸元に視線を向けると、ラーシュが手にしていた剣が俺の身体を貫いているのがわかった。
ラーシュの白い服が、みるみるうちに赤く染まっていく。
『タイガ、……※※※※※』
ラーシュが何を言ったのか、その言葉の意味はわからなかった。
でも薄れていく意識の中で、俺がラーシュに何をされたのかは、理解した。
不思議なことに、その時感じていたのは、『異物』のように排除された悔しさや絶望感より、やっと全てから解放されたという安堵。
──そして何より、俺が生まれ育った場所への郷愁だった。
(……帰りたい)
そう思った瞬間、身体の力が一気に抜け、俺は風間大河としての人生を終えた。
◇
身体の内側から熱いものが溢れてくるのがわかる。全身が灼けるような感覚に見舞われ、俺はとても立っていられず、その場にしゃがみ込んだ。
そんな俺の様子を気にかけることもなく、周りにいた人たちからは次々と、歓喜に満ちた声があがった。
「なんと素晴らしい!」
「まさかこのような場所から、神の恩恵を受けた子供が現れるとは……」
「すぐに各所へ連絡せねば」
俺は自分の身に何が起こっているのかわからないまま、ラーシュに刺された胸の辺りを押さえて蹲る。
だんだんと痛みが和らいでいく中で、今度は『自分のものじゃない記憶』が、次々と頭の中に浮かんでくることに混乱した。
『……最悪だ』
口から零れ落ちた言葉が、馴染みのないものだったことに驚く。
その時、ようやく俺の存在を思い出したのか、白いローブを纏った人物が俺の前にしゃがみ込み、声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
白い服が視界に入った途端、身体が竦んだように動けなくなる。
差し出された手が赤く染まっていないことで、『彼』じゃないとわかりホッとした。
大きく息を吐き出すと、俺が吐き気を堪えているとでも思ったのか、背中を優しく擦ってくれた。
その手に、嫌な記憶が呼び起こされそうになり、身体の震えが止まらない。
そんな俺を見てどう思ったのか、その人物は宥めるような口調で俺に語りかけてきた。
「シリル、あなたは神に選ばれた人間なのです。怖い事など何もありませんよ」
呼ばれた名前は確かに自分のものなのに、そうじゃないような妙な違和感に胸が苦しくなる。
そしてすぐに、自分の最期の願いが叶わなかったのだと理解した。
──あれほど『帰りたい』と願ったのに。
……そうでないなら意味がないのに。
忌まわしい記憶しかないあの場所と似たような世界で、なぜか二度目の人生が始まっていたことがわかり、俺は絶望に打ちひしがれた。
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