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10.魔力の発現と思わぬ展開③
それから間もなく、俺を養子として保護することになった貴族からの迎えが到着した。
「ワーグナー公爵家よりお迎えにあがりました。シリル様はどちらにいらっしゃいますでしょうか?」
そう言って入室してきたのは、前世のテレビや漫画で見たような、いわゆる執事服に身を包んだ、青年だった。
手持ち無沙汰なまま椅子に座って待っていた俺は、すぐに立ち上がり、頭を下げる。
「……はい。僕がシリルです。よろしくお願いします」
この世界の礼儀作法なんて知らないから、咄嗟に日本人的なお辞儀をしてしまったけれど、それほど無作法ではないだろう。
そう考えながら顔を上げると、青年の顔にあきらかな不快感が浮かんでいるのがわかり、ため息を吐きたくなった。
俺を引き取ることにした公爵様が、使用人にどこまで事情を説明してるのかはわからないが、おそらく、公爵家に迎え入れられることになった子供が、ここまでみすぼらしい見た目をしているとは思っていなかったのだろう。
公爵家の使用人ともなると、下級貴族の出身だったりするらしいし、貴族の中には当たり前のように平民を差別する人がいるのは前世でも学習済みだから、驚きはしない。
それにしても。主人の命令で仕事としてここに来てるのに、個人的な感情を顔に出すなんて……
こういった手合いは、相手によって態度を変えがちだし、陰で何か良からぬことを考えていそうだから信用できないし、用心するに越したことはない。
使用人がこんな感じなら、公爵も似たような考えなのかもしれないな、なんて密かに思っていると。
「お荷物はどちらに……?」
青年が困惑気味に室内に視線を巡らせる。
孤児の俺が公爵家に持っていけるようなものなど何も無いため、正直にそう告げたところ、さすがにここまでとは思っていなかったのか、青年はしばし絶句した後、俺に対する嫌悪感を隠そうともしなくなった。
「…………それでは馬車までご案内します」
表面上はかろうじて丁寧な口調ではあるものの、俺のほうなど気にかける素振りもなく歩き出す。
俺は遅れまいと必死に足を動かすが、気ばかり焦っていたせいで足がもつれ、うっかり転んでしまった。
青年は面倒臭そうにこちらをチラリと見て小さく舌打ちする。
「チッ、……転ばないよう気を付けてください」
俺は、慇懃無礼というのはこういう態度のことなんだな、と妙に納得した気持ちになりながら、痛みを堪えて立ち上がった。
執事見習いで、どこかの男爵家の出身らしい青年の態度は、他人の目がない馬車の中で更にエスカレートした。
まず、薄汚れた格好で公爵家の立派な馬車に座って乗るなと言われ、服を全部脱ぐか、足元に座るかの選択を迫られた。
あまりに低レベルな嫌がらせに呆れながらも、俺はこの場を穏便にやり過ごすため、足元に座ることを選んだ。
しかし嫌がらせはこれで終わらず、その後も、公爵邸までの決して短くはない道のりの間中、デコボコした道で馬車が大きく揺れる度、執事見習いは偶然を装って俺を蹴り、その都度まるで心の籠もっていない謝罪をするということを繰り返した。
俺は少しでも自分の身を守るために、魔法で身体を覆う薄い幕のようなものを作り出し、ダメージの軽減に努めた。
おかげで、ケガはしないで済んだけれど、前世でされた酷い仕打ちの数々を思い出し、身体が勝手に震え出しそうになるのをじっと堪えるほうがキツかった。
そんな状況だったため、公爵の屋敷に到着した時には、心身共にヘトヘトだった。
でもそうも言っていられないため、なんとか気力を振り絞り、公爵邸の立派な入り口の前に立つ。
そこで出迎えてくれたのは大勢の使用人たち。
公爵らしき人物の姿は見当たらない。
内心首を傾げていると、この屋敷の執事長らしき壮年の男性が、俺のほうへと歩み寄ってきた。
「ようこそいらっしゃいました、シリル様。王都におられる旦那様に代わり、歓迎いたします」
少しも感情の読めない作られた笑み。
歓迎と口にするわりには、誰一人として俺を歓迎する空気は伝わってこない。
俺は疲労とこの先の不安で、ともすれば膝から崩れ落ちそうになる自分を、必死に奮い立たせていた。
「ワーグナー公爵家よりお迎えにあがりました。シリル様はどちらにいらっしゃいますでしょうか?」
そう言って入室してきたのは、前世のテレビや漫画で見たような、いわゆる執事服に身を包んだ、青年だった。
手持ち無沙汰なまま椅子に座って待っていた俺は、すぐに立ち上がり、頭を下げる。
「……はい。僕がシリルです。よろしくお願いします」
この世界の礼儀作法なんて知らないから、咄嗟に日本人的なお辞儀をしてしまったけれど、それほど無作法ではないだろう。
そう考えながら顔を上げると、青年の顔にあきらかな不快感が浮かんでいるのがわかり、ため息を吐きたくなった。
俺を引き取ることにした公爵様が、使用人にどこまで事情を説明してるのかはわからないが、おそらく、公爵家に迎え入れられることになった子供が、ここまでみすぼらしい見た目をしているとは思っていなかったのだろう。
公爵家の使用人ともなると、下級貴族の出身だったりするらしいし、貴族の中には当たり前のように平民を差別する人がいるのは前世でも学習済みだから、驚きはしない。
それにしても。主人の命令で仕事としてここに来てるのに、個人的な感情を顔に出すなんて……
こういった手合いは、相手によって態度を変えがちだし、陰で何か良からぬことを考えていそうだから信用できないし、用心するに越したことはない。
使用人がこんな感じなら、公爵も似たような考えなのかもしれないな、なんて密かに思っていると。
「お荷物はどちらに……?」
青年が困惑気味に室内に視線を巡らせる。
孤児の俺が公爵家に持っていけるようなものなど何も無いため、正直にそう告げたところ、さすがにここまでとは思っていなかったのか、青年はしばし絶句した後、俺に対する嫌悪感を隠そうともしなくなった。
「…………それでは馬車までご案内します」
表面上はかろうじて丁寧な口調ではあるものの、俺のほうなど気にかける素振りもなく歩き出す。
俺は遅れまいと必死に足を動かすが、気ばかり焦っていたせいで足がもつれ、うっかり転んでしまった。
青年は面倒臭そうにこちらをチラリと見て小さく舌打ちする。
「チッ、……転ばないよう気を付けてください」
俺は、慇懃無礼というのはこういう態度のことなんだな、と妙に納得した気持ちになりながら、痛みを堪えて立ち上がった。
執事見習いで、どこかの男爵家の出身らしい青年の態度は、他人の目がない馬車の中で更にエスカレートした。
まず、薄汚れた格好で公爵家の立派な馬車に座って乗るなと言われ、服を全部脱ぐか、足元に座るかの選択を迫られた。
あまりに低レベルな嫌がらせに呆れながらも、俺はこの場を穏便にやり過ごすため、足元に座ることを選んだ。
しかし嫌がらせはこれで終わらず、その後も、公爵邸までの決して短くはない道のりの間中、デコボコした道で馬車が大きく揺れる度、執事見習いは偶然を装って俺を蹴り、その都度まるで心の籠もっていない謝罪をするということを繰り返した。
俺は少しでも自分の身を守るために、魔法で身体を覆う薄い幕のようなものを作り出し、ダメージの軽減に努めた。
おかげで、ケガはしないで済んだけれど、前世でされた酷い仕打ちの数々を思い出し、身体が勝手に震え出しそうになるのをじっと堪えるほうがキツかった。
そんな状況だったため、公爵の屋敷に到着した時には、心身共にヘトヘトだった。
でもそうも言っていられないため、なんとか気力を振り絞り、公爵邸の立派な入り口の前に立つ。
そこで出迎えてくれたのは大勢の使用人たち。
公爵らしき人物の姿は見当たらない。
内心首を傾げていると、この屋敷の執事長らしき壮年の男性が、俺のほうへと歩み寄ってきた。
「ようこそいらっしゃいました、シリル様。王都におられる旦那様に代わり、歓迎いたします」
少しも感情の読めない作られた笑み。
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俺は疲労とこの先の不安で、ともすれば膝から崩れ落ちそうになる自分を、必死に奮い立たせていた。
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