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14.魔力の発現と思わぬ展開⑦
──夢を見た。
夢の中の俺は風間大河のままで、社会人になってからずっとひとり暮らしをしていた部屋で、一匹の猫と一緒に暮らしていた。
シルバーの艶やかな毛並みとブルーグレイの瞳。見るからに気位の高そうな猫は、飼い主であるはずの俺には懐いていないらしく、同じ部屋にいても常に一定の距離を保ちながら過ごしており、決して俺の側に近寄ってこようとはしなかった。
それなのに、俺が部屋から出ようとするとドアの前に移動し、行くなと言わんばかりに『ニャ~』と鳴くのだ。
こちらから近付いた時には逃げるくせに勝手だな、なんて苦笑いしながらドアに手をかけると、まるで何かを必死に訴えかけるかのように、大きな声でニャアニャアと鳴き始めた。
何を俺に伝えたいのかさっぱりわからない。
俺にはやらなきゃならないことがあるのに、外に出られないのは困るな、なんて思いながら一歩踏み出したところで、目が覚めた。
◇
(あれ……? 俺何してたんだっけ?)
ぼんやりとする頭で考えても、色んな記憶がごちゃ混ぜになっていて、俺が誰で、ここがどこで、どういう状況なのかすぐに思い出せない。
まさか、『ここはどこ? 私は誰?』を本気でやることになる日が来るとは思ってもみなかった。
しかも、なぜかやたらと眠い。
なんとか目を開けていようとしても、また意識が遠のいていくことの繰り返し。
何かやらなければいけないことがあった気がするが、睡眠を欲しているらしい身体は、自然とスリープモードに移行していく。
抗うのも億劫に感じられ、身体が求めているとおりにしようと、再び意識を手放しかけた時。
誰かの話し声が聞こえた気がして、一気に眠気が吹き飛んだ。
「ここにいることはわかっている。誰も何も教えてはくれないが、私たちが留守の間に連れて来ただけでなく、このような場所に閉じ込めておかなければならないなど、何か問題がある人間だと言っているようなものだ。──父上は一体何をお考えなのだろう」
大人びた話し方だが、声の感じからはまだ変声途中といった印象を受ける。
(なんでこんなところに子供が……?)
そう考えたところで不意に、今の俺が『誰』で、『どこ』にいるのかを思い出した。
意識を失う前より、格段に鮮明になった風間大河としての記憶と意識のせいで、俺がシリルとして生まれ変わったことを忘れていた。
さっきまでは前世のことは知識として頭の中に残っている感覚だったのに、今は自分の経験として定着している感じがする。逆にシリルの十年間を覚えてはいるのに、その感覚が随分希薄になっていた。
(あんな夢を見たからか?)
夢の内容はすでに朧気になっているが、忘れてはいけないことのような気がしてモヤモヤする。
「何の物音もしないな。本当にここにいるのか?」
「……はい。おそらく眠っているのではないかと」
「鍵は?」
「申し訳ございません。そちらは執事長が管理しておられるので、入手できませんでした」
扉の向こうから聞こえてくる会話に、夢の内容よりこちらのほうが緊急の問題だと、すぐに思考を切り替えた。
声を掛けられたところで、内側から開けられるわけでもないから、このまま無視する以外の選択肢はない。
身動ぎせずに、そのままじっと外にいる人物たちが去ってくれるのを待つ。
「いかがなさいますか?」
「ここまで来たのに、姿すら見ずに帰るのは腹立たしいが、仕方ない」
あっさり諦めてくれるらしいことがわかり、詰めていた息をそっと吐いた。
「私はともかく、母上には余計な心配をかけたくない。ただでさえ身体が弱い方だ。今回の件に関する父上の真意はまだわからないが、新たに子供を迎えたとなると、表面上はともかく、心の中は穏やかではいられないだろうからな」
「奥さまのようにお優しい方が、つらい思いをされるなんて、耐え難いことですね……」
「そうだな。だからせめて、得体の知れない孤児が公爵家の養子になったことで思い上がった真似をしないよう、先に釘を刺しておこうと思ったのだが」
この子供の正体と目的がわかり、思わず苦笑いする。
ここに来る前に司祭様から説明された、ワーグナー公爵家に関する情報に間違いがないのなら、扉の向こうにいる人物は、公爵のひとり息子であるリアン・ワーグナーだろう。
俺の存在を聞きつけ、従者を引き連れて、わざわざこんなところまで物申しに来た、という感じか。
厄介なことにならないといいなと思いながら、俺はひたすら気配を消すことだけに集中していた。
夢の中の俺は風間大河のままで、社会人になってからずっとひとり暮らしをしていた部屋で、一匹の猫と一緒に暮らしていた。
シルバーの艶やかな毛並みとブルーグレイの瞳。見るからに気位の高そうな猫は、飼い主であるはずの俺には懐いていないらしく、同じ部屋にいても常に一定の距離を保ちながら過ごしており、決して俺の側に近寄ってこようとはしなかった。
それなのに、俺が部屋から出ようとするとドアの前に移動し、行くなと言わんばかりに『ニャ~』と鳴くのだ。
こちらから近付いた時には逃げるくせに勝手だな、なんて苦笑いしながらドアに手をかけると、まるで何かを必死に訴えかけるかのように、大きな声でニャアニャアと鳴き始めた。
何を俺に伝えたいのかさっぱりわからない。
俺にはやらなきゃならないことがあるのに、外に出られないのは困るな、なんて思いながら一歩踏み出したところで、目が覚めた。
◇
(あれ……? 俺何してたんだっけ?)
ぼんやりとする頭で考えても、色んな記憶がごちゃ混ぜになっていて、俺が誰で、ここがどこで、どういう状況なのかすぐに思い出せない。
まさか、『ここはどこ? 私は誰?』を本気でやることになる日が来るとは思ってもみなかった。
しかも、なぜかやたらと眠い。
なんとか目を開けていようとしても、また意識が遠のいていくことの繰り返し。
何かやらなければいけないことがあった気がするが、睡眠を欲しているらしい身体は、自然とスリープモードに移行していく。
抗うのも億劫に感じられ、身体が求めているとおりにしようと、再び意識を手放しかけた時。
誰かの話し声が聞こえた気がして、一気に眠気が吹き飛んだ。
「ここにいることはわかっている。誰も何も教えてはくれないが、私たちが留守の間に連れて来ただけでなく、このような場所に閉じ込めておかなければならないなど、何か問題がある人間だと言っているようなものだ。──父上は一体何をお考えなのだろう」
大人びた話し方だが、声の感じからはまだ変声途中といった印象を受ける。
(なんでこんなところに子供が……?)
そう考えたところで不意に、今の俺が『誰』で、『どこ』にいるのかを思い出した。
意識を失う前より、格段に鮮明になった風間大河としての記憶と意識のせいで、俺がシリルとして生まれ変わったことを忘れていた。
さっきまでは前世のことは知識として頭の中に残っている感覚だったのに、今は自分の経験として定着している感じがする。逆にシリルの十年間を覚えてはいるのに、その感覚が随分希薄になっていた。
(あんな夢を見たからか?)
夢の内容はすでに朧気になっているが、忘れてはいけないことのような気がしてモヤモヤする。
「何の物音もしないな。本当にここにいるのか?」
「……はい。おそらく眠っているのではないかと」
「鍵は?」
「申し訳ございません。そちらは執事長が管理しておられるので、入手できませんでした」
扉の向こうから聞こえてくる会話に、夢の内容よりこちらのほうが緊急の問題だと、すぐに思考を切り替えた。
声を掛けられたところで、内側から開けられるわけでもないから、このまま無視する以外の選択肢はない。
身動ぎせずに、そのままじっと外にいる人物たちが去ってくれるのを待つ。
「いかがなさいますか?」
「ここまで来たのに、姿すら見ずに帰るのは腹立たしいが、仕方ない」
あっさり諦めてくれるらしいことがわかり、詰めていた息をそっと吐いた。
「私はともかく、母上には余計な心配をかけたくない。ただでさえ身体が弱い方だ。今回の件に関する父上の真意はまだわからないが、新たに子供を迎えたとなると、表面上はともかく、心の中は穏やかではいられないだろうからな」
「奥さまのようにお優しい方が、つらい思いをされるなんて、耐え難いことですね……」
「そうだな。だからせめて、得体の知れない孤児が公爵家の養子になったことで思い上がった真似をしないよう、先に釘を刺しておこうと思ったのだが」
この子供の正体と目的がわかり、思わず苦笑いする。
ここに来る前に司祭様から説明された、ワーグナー公爵家に関する情報に間違いがないのなら、扉の向こうにいる人物は、公爵のひとり息子であるリアン・ワーグナーだろう。
俺の存在を聞きつけ、従者を引き連れて、わざわざこんなところまで物申しに来た、という感じか。
厄介なことにならないといいなと思いながら、俺はひたすら気配を消すことだけに集中していた。
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