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20.公爵との面談④
口に出してしまった言葉は、取り消せない。
そうわかってはいたものの、誤魔化しなら効くかななんて、この期に及んでまだそんなことを考えていた俺は、それがいかに甘い考えであったかを思い知らされた。
「もしかして君が私に話してくれるのかい? ──君がここに来てからの三日間をどう過ごしたか」
公爵様にそう促されても、すぐには何も答えられない。
魔法を試していたこともそうだが、俺の体感ではまだ一日も経っていないのに今日が三日目だというのが衝撃的過ぎて、騙されてるのではないかと疑いたくなってしまう。
(本当にあれから二日も経ってるのだとしたら、その間俺は誰にも発見されずにほったらかしにされていたってことだよな……)
気を失っていたのは確かだが、それは時間にして数分か、多くて一時間程度のことだと思っていた。
二日間床に倒れたままの俺という、かなりシュールな光景が繰り広げられていた上に、誰にも発見されていなかったのだと思うとちょっと悲しくなってくる。
「えっと……」
ありのままを話すわけにもいかずに困り果てた俺は、思わず後ろに立つジェレミーさんに視線を向けた。
するとジェレミーさんは、一度目を閉じると、覚悟を決めたといった感じの表情で深くうなずいたのだ。
(え、なに、どういう意味?)
もしかしたら、全てを話して構わないということなのかもしれないが、食べ慣れないものを食べて消化不良を起こした挙げ句、気絶していただけの俺に話せることなんてほとんどない。
むしろこの二日間どういう状況だったのか、俺のほうが聞きたいくらいだ。
公爵様は俺が話すまで待つ気でいるらしく、画面越しにじっとこちらを見据えている。
(どうしよう。この状況)
さっきのジェレミーさんとのやりとりを思い返す限り、彼は誰かに俺のことを任せていたのだろう。
その誰かは俺の様子を見ることもなく、虚偽の報告をしていたのだと思われる。
(たぶんアイツだな。俺を迎えに来た執事見習いの男爵令息)
俺を蹴っただけじゃ飽き足らず、職務放棄までするとは。
初日のジェレミーさんの素っ気ない態度や、他の使用人たちが醸し出していた空気から、使用人全体で俺を冷遇する気満々だと思っていたけど、あれはジェレミーさんの本意とするところではなかったということか。
もちろん執事長という屋敷内を監督する立場である以上、『知りませんでした』で済む訳がないのだけれど、少なくとも俺を排除しようという意図はないらしいことがわかって少しほっとする。
(ああ、なるほどね。だからあのパフォーマンスだったというわけか……)
『見せしめのためには、まずは事実をありのままに見せつける必要性がございますので』
今になってようやくその言葉の真意を理解して、肩の力が抜けた。
実際のところ、ジェレミーさんが俺のことをどう思っているかはわからない。
俺を迎えに来た執事見習いの態度や、公爵様の息子のリアンと従者の少年がわざわざ釘を刺しに来たことから、屋敷内で俺に関して良くない噂が流れていることは明白で、おそらくジェレミーさん自身も俺の存在を好意的に受け止めていたわけではないだろう。
それは仕方のないことだと思う。俺だって警戒していたわけだし。
ジェレミーさんが俺に関することを他の人間に任せた理由を察した今では、監督不行届きを責める気にもなれない。
(俺を不当に扱った人間のことは、絶対許すつもりはないけどな)
そちらは是非とも正当に処罰を受けるべきだと思う。
──問題は公爵様のほうだ。
俺を引き取った理由は魔力だということはわかっているけれど、よく考えたら、引き取った俺をどうしたいのかという話は全く聞いていない。
とりあえず手元に置いておいて、それから使い道を考えようとしている可能性もあるが、それにしてはやけに性急に事を運んだ印象が拭えないのだ。
公爵様は、良からぬ考えを持つ者が俺を利用しないように、と言っていた。
筆頭貴族で宰相位に就いているワーグナー公爵の管轄下にある者を、我欲で手に入れようとする人間なんていないと思っていたけれど、そう甘いものではないということか。
(確かに記憶が戻る前の俺のままだったら、心配にもなるかもな)
実年齢より幼い外見に、常識を身につけるどころか言葉を話すことすらままならないと思われていた俺が、高位貴族をも凌駕する魔力の持ち主になったのだ。
無知を利用して、その力を悪用されでもしたら大変なことになるとでも思ったのかもしれない。
さっきはこの場を適当に乗り切って、手の内がバレないうちに放逐されるのもアリかなと思っていたが、公爵様を利用して、この先の選択肢を増やす方向を考えたほうが良い気がしてきた。
でもその前に、ひとつ確認しておかなければならないことがある。
「僕がこの三日をどう過ごしていたのかお話する前に、お聞きしたいことがあるのですが、お許しいただけますか?」
本来は聞かれたことにしか答えてはいけない立場だということはわかっているけれど、これを逃したら次のチャンスはないかもしれない。
そう考え、公爵様を真っ直ぐ見据える。
公爵様はガラリと変わった俺の表情を見て、面白そうに片眉を上げた。
「いいよ。許可しよう」
意外とあっさり認められたことに内心驚きながら、本題を切り出す。
「──現時点で公爵様がお考えになっている僕の役割は何でしょう?」
「ふむ。それを聞いて、君はどうするつもりなんだい?」
質問に質問で返され、ここが分岐点だと気を引き締め直す。
「公爵様が想定していらっしゃる以上の価値を提示するための、判定材料にしようかと思いまして」
公爵様は俺がそんなことを言い出すとは思っていなかったのか、軽く目を見開いた。
しかしすぐに全ての表情を消し去ると、どこか獰猛さを感じさせる視線を俺に向ける。
「──君に求められている役割は、魔力面で王族を補佐することだ」
ある程度想定できていたことだけにそれほどの驚きはないが、前世のことで『王族』に良いイメージがないため、うっかり嫌そうな顔をしてしまいそうになる。
なんとか堪えたと思った次の瞬間、とんでもないことを伝えられ、絶句した。
「君には、この国の第二王子の婚約者になってもらいたい」
そうわかってはいたものの、誤魔化しなら効くかななんて、この期に及んでまだそんなことを考えていた俺は、それがいかに甘い考えであったかを思い知らされた。
「もしかして君が私に話してくれるのかい? ──君がここに来てからの三日間をどう過ごしたか」
公爵様にそう促されても、すぐには何も答えられない。
魔法を試していたこともそうだが、俺の体感ではまだ一日も経っていないのに今日が三日目だというのが衝撃的過ぎて、騙されてるのではないかと疑いたくなってしまう。
(本当にあれから二日も経ってるのだとしたら、その間俺は誰にも発見されずにほったらかしにされていたってことだよな……)
気を失っていたのは確かだが、それは時間にして数分か、多くて一時間程度のことだと思っていた。
二日間床に倒れたままの俺という、かなりシュールな光景が繰り広げられていた上に、誰にも発見されていなかったのだと思うとちょっと悲しくなってくる。
「えっと……」
ありのままを話すわけにもいかずに困り果てた俺は、思わず後ろに立つジェレミーさんに視線を向けた。
するとジェレミーさんは、一度目を閉じると、覚悟を決めたといった感じの表情で深くうなずいたのだ。
(え、なに、どういう意味?)
もしかしたら、全てを話して構わないということなのかもしれないが、食べ慣れないものを食べて消化不良を起こした挙げ句、気絶していただけの俺に話せることなんてほとんどない。
むしろこの二日間どういう状況だったのか、俺のほうが聞きたいくらいだ。
公爵様は俺が話すまで待つ気でいるらしく、画面越しにじっとこちらを見据えている。
(どうしよう。この状況)
さっきのジェレミーさんとのやりとりを思い返す限り、彼は誰かに俺のことを任せていたのだろう。
その誰かは俺の様子を見ることもなく、虚偽の報告をしていたのだと思われる。
(たぶんアイツだな。俺を迎えに来た執事見習いの男爵令息)
俺を蹴っただけじゃ飽き足らず、職務放棄までするとは。
初日のジェレミーさんの素っ気ない態度や、他の使用人たちが醸し出していた空気から、使用人全体で俺を冷遇する気満々だと思っていたけど、あれはジェレミーさんの本意とするところではなかったということか。
もちろん執事長という屋敷内を監督する立場である以上、『知りませんでした』で済む訳がないのだけれど、少なくとも俺を排除しようという意図はないらしいことがわかって少しほっとする。
(ああ、なるほどね。だからあのパフォーマンスだったというわけか……)
『見せしめのためには、まずは事実をありのままに見せつける必要性がございますので』
今になってようやくその言葉の真意を理解して、肩の力が抜けた。
実際のところ、ジェレミーさんが俺のことをどう思っているかはわからない。
俺を迎えに来た執事見習いの態度や、公爵様の息子のリアンと従者の少年がわざわざ釘を刺しに来たことから、屋敷内で俺に関して良くない噂が流れていることは明白で、おそらくジェレミーさん自身も俺の存在を好意的に受け止めていたわけではないだろう。
それは仕方のないことだと思う。俺だって警戒していたわけだし。
ジェレミーさんが俺に関することを他の人間に任せた理由を察した今では、監督不行届きを責める気にもなれない。
(俺を不当に扱った人間のことは、絶対許すつもりはないけどな)
そちらは是非とも正当に処罰を受けるべきだと思う。
──問題は公爵様のほうだ。
俺を引き取った理由は魔力だということはわかっているけれど、よく考えたら、引き取った俺をどうしたいのかという話は全く聞いていない。
とりあえず手元に置いておいて、それから使い道を考えようとしている可能性もあるが、それにしてはやけに性急に事を運んだ印象が拭えないのだ。
公爵様は、良からぬ考えを持つ者が俺を利用しないように、と言っていた。
筆頭貴族で宰相位に就いているワーグナー公爵の管轄下にある者を、我欲で手に入れようとする人間なんていないと思っていたけれど、そう甘いものではないということか。
(確かに記憶が戻る前の俺のままだったら、心配にもなるかもな)
実年齢より幼い外見に、常識を身につけるどころか言葉を話すことすらままならないと思われていた俺が、高位貴族をも凌駕する魔力の持ち主になったのだ。
無知を利用して、その力を悪用されでもしたら大変なことになるとでも思ったのかもしれない。
さっきはこの場を適当に乗り切って、手の内がバレないうちに放逐されるのもアリかなと思っていたが、公爵様を利用して、この先の選択肢を増やす方向を考えたほうが良い気がしてきた。
でもその前に、ひとつ確認しておかなければならないことがある。
「僕がこの三日をどう過ごしていたのかお話する前に、お聞きしたいことがあるのですが、お許しいただけますか?」
本来は聞かれたことにしか答えてはいけない立場だということはわかっているけれど、これを逃したら次のチャンスはないかもしれない。
そう考え、公爵様を真っ直ぐ見据える。
公爵様はガラリと変わった俺の表情を見て、面白そうに片眉を上げた。
「いいよ。許可しよう」
意外とあっさり認められたことに内心驚きながら、本題を切り出す。
「──現時点で公爵様がお考えになっている僕の役割は何でしょう?」
「ふむ。それを聞いて、君はどうするつもりなんだい?」
質問に質問で返され、ここが分岐点だと気を引き締め直す。
「公爵様が想定していらっしゃる以上の価値を提示するための、判定材料にしようかと思いまして」
公爵様は俺がそんなことを言い出すとは思っていなかったのか、軽く目を見開いた。
しかしすぐに全ての表情を消し去ると、どこか獰猛さを感じさせる視線を俺に向ける。
「──君に求められている役割は、魔力面で王族を補佐することだ」
ある程度想定できていたことだけにそれほどの驚きはないが、前世のことで『王族』に良いイメージがないため、うっかり嫌そうな顔をしてしまいそうになる。
なんとか堪えたと思った次の瞬間、とんでもないことを伝えられ、絶句した。
「君には、この国の第二王子の婚約者になってもらいたい」
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