5 / 60
4
しおりを挟む
ある日。
いつものように図書館通いをしていた僕は、顔馴染みになった司書からおすすめの本を教えてもらい、棚に並んだ本を手に取ると早速空いてる席に座って本を読み始めた。
それは普段の僕があまり読まない種類の流行りの恋愛小説で。登場人物は全て男という不思議な構成の物語だった。
正直興味はなかった。
でも僕の予想に反してその物語は想像以上に面白く、読み終わった直後は主人公の気持ちを追体験したような気持ちになってしまい、僕にしては珍しいことになんだかふわふわした気分のまま、図書館を出たのだった。
しかし、その日に限ってなんとなくそのまま真っ直ぐ邸に戻る気になれず、たまたま図書館の隣にある公園へと足を伸ばしたことで、運命の出会いが訪れた。
木陰で少し休もうと遊歩道から外れ、以前来た時に気に入った木の下に向かって歩いていた時のこと。
目的としていた場所の近くに誰かの足らしきものが見えた僕は、すでに先客がいることを残念に思いながら、ここ以外のどこに行こうかとキョロキョロしながら考えていた。
できればあそこがいいんだけど……。早く退いて欲しい。
そんな事を考えていると、願いが通じたのか先客が動いてくれたのだ。僕は内心大喜びしながら、完全にその人がいなくなるのを待って当初の予定どおりの場所へと向かった。
そこは周りと比べて一際大きな木の下で、地中に伸びている根の部分に繋がっている分岐部分が地面から盛り上がるようにして張り出しており、それがちょうど肘掛けのような役割を果たしてくれるのだ。
ひとりで座るのにちょうどよいところを見つけ、先程図書館では読まずに家で読む分にと借りてきた本を開こうとした時だった。
「ここで読書?珍しいね」
不意に頭上からかけられた声に驚いた僕は、声の主の顔を見てもっと驚くことになってしまった。
黒髪に憂いを帯びたような青色の瞳は、先程図書館で読んだばかりの本に出てきた登場人物を彷彿とさせるものだったのだ。
主人公の秘密の恋人『アーサー』。
実は隣国の王子だったという設定の彼は、身分の低い主人公と運命的な出会いをし、惹かれ合った二人は誰にも内緒で逢瀬を重ねていくのだ。
本の中から現れたかのような容姿の人物に、僕は言葉を失ったまま、ただただ呆然としてしまった。
「ごめん。驚かせてしまったね」
申し訳なさそうな顔をして謝った彼は、少し長めの黒髪をかきあげると、きれいな青色の瞳で僕を真っ直ぐみつめてきた。
──本当に『アーサー』みたい。
ぼんやりとそう考えながら、不躾にも彼の顔をじっと見てしまった僕に、彼はちょっと困ったようにはにかんだ笑顔を見せたのだ。
その瞬間。僕の胸はドキリと跳ね上がってしまった。
「そんなに見られるとちょっと困るな……」
彼の言葉にようやく自分が不躾な態度をとっていたことに気付いた僕は慌てて目を伏せた。
僕は一旦気持ちを落ち着かせると、素直に自分の非礼を詫びた。もちろんじっと見てしまったことに対する尤もらしい言い訳をするのも忘れない。
「申し訳ありません。他に人がいると思わなかったので驚いてしまって……」
本当は先客がいることがわかっていたが、動く気配がしたので、もういなくなってると勝手に思い込んでいたということは、口が裂けても言えない。
もちろん彼を『アーサー』だと思ってしまったことも……。
「人がいないと思ってるのに急に声をかけられたら驚くよね。この辺りは本当に誰も来ない場所だから……」
彼の言葉に僕も頷いて同意する。
ここは遊歩道から少し外れた場所にあり、滅多に人が来ない場所なのだ。だからこそ僕もゆっくり本が読めると思ってやって来たわけなのだが。
「ちょっと色々面倒なことが多くて、ここに避難してたんだ。私のことは気にせず君は読書を楽しんで」
彼は僕が持っていた本に目をやると、魅力的な笑顔を見せてそう言ってくれた。
「……ありがとうございます」
僕はたった一言そう返すと、再び本に視線を落とす。
情けないことに、再び高鳴ってしまった胸の鼓動と、勝手に赤くなっていく顔のせいで、それだけ言うのが精一杯の状態だったのだ。
ところが、ページをめくり、本に集中しようと思ったその時だった。
急に影が差したような気がして、曇ってきたのかと空を見るため顔を上げると、そこには先ほどよりも近い位置に彼の整った顔があったのだ。
僕は予想外のことにただ驚くばかりで、身体も表情も思考さえも全てが凍りついてしまったかのように動けなくなってしまっていた。
僕をそんな状態にさせた彼は、先ほどとはまた違った魅惑的な笑顔で僕をじっとみつめてくる。
「邪魔してごめん。綺麗な髪だったから、つい目が離せなくて……」
彼はそう言うと、あろうことか僕の髪を指で掬いあげたのだ。
僕はというと。
………驚き過ぎて声も出せなかった。
その上、気の効いた受け答えも出来なまま無表情で固まる僕に、彼は容赦なくとどめの一撃をいれてきたのだ。
「触り心地もいいね」
彼はそのまま髪に唇を寄せると、軽く口付けるような仕種をしてから、そっと手を離したのだった。
その瞬間。
僕は生まれて初めて、胸の高鳴りというものを感じてしまった。
──相手は同性だというのにも関わらず。
いつものように図書館通いをしていた僕は、顔馴染みになった司書からおすすめの本を教えてもらい、棚に並んだ本を手に取ると早速空いてる席に座って本を読み始めた。
それは普段の僕があまり読まない種類の流行りの恋愛小説で。登場人物は全て男という不思議な構成の物語だった。
正直興味はなかった。
でも僕の予想に反してその物語は想像以上に面白く、読み終わった直後は主人公の気持ちを追体験したような気持ちになってしまい、僕にしては珍しいことになんだかふわふわした気分のまま、図書館を出たのだった。
しかし、その日に限ってなんとなくそのまま真っ直ぐ邸に戻る気になれず、たまたま図書館の隣にある公園へと足を伸ばしたことで、運命の出会いが訪れた。
木陰で少し休もうと遊歩道から外れ、以前来た時に気に入った木の下に向かって歩いていた時のこと。
目的としていた場所の近くに誰かの足らしきものが見えた僕は、すでに先客がいることを残念に思いながら、ここ以外のどこに行こうかとキョロキョロしながら考えていた。
できればあそこがいいんだけど……。早く退いて欲しい。
そんな事を考えていると、願いが通じたのか先客が動いてくれたのだ。僕は内心大喜びしながら、完全にその人がいなくなるのを待って当初の予定どおりの場所へと向かった。
そこは周りと比べて一際大きな木の下で、地中に伸びている根の部分に繋がっている分岐部分が地面から盛り上がるようにして張り出しており、それがちょうど肘掛けのような役割を果たしてくれるのだ。
ひとりで座るのにちょうどよいところを見つけ、先程図書館では読まずに家で読む分にと借りてきた本を開こうとした時だった。
「ここで読書?珍しいね」
不意に頭上からかけられた声に驚いた僕は、声の主の顔を見てもっと驚くことになってしまった。
黒髪に憂いを帯びたような青色の瞳は、先程図書館で読んだばかりの本に出てきた登場人物を彷彿とさせるものだったのだ。
主人公の秘密の恋人『アーサー』。
実は隣国の王子だったという設定の彼は、身分の低い主人公と運命的な出会いをし、惹かれ合った二人は誰にも内緒で逢瀬を重ねていくのだ。
本の中から現れたかのような容姿の人物に、僕は言葉を失ったまま、ただただ呆然としてしまった。
「ごめん。驚かせてしまったね」
申し訳なさそうな顔をして謝った彼は、少し長めの黒髪をかきあげると、きれいな青色の瞳で僕を真っ直ぐみつめてきた。
──本当に『アーサー』みたい。
ぼんやりとそう考えながら、不躾にも彼の顔をじっと見てしまった僕に、彼はちょっと困ったようにはにかんだ笑顔を見せたのだ。
その瞬間。僕の胸はドキリと跳ね上がってしまった。
「そんなに見られるとちょっと困るな……」
彼の言葉にようやく自分が不躾な態度をとっていたことに気付いた僕は慌てて目を伏せた。
僕は一旦気持ちを落ち着かせると、素直に自分の非礼を詫びた。もちろんじっと見てしまったことに対する尤もらしい言い訳をするのも忘れない。
「申し訳ありません。他に人がいると思わなかったので驚いてしまって……」
本当は先客がいることがわかっていたが、動く気配がしたので、もういなくなってると勝手に思い込んでいたということは、口が裂けても言えない。
もちろん彼を『アーサー』だと思ってしまったことも……。
「人がいないと思ってるのに急に声をかけられたら驚くよね。この辺りは本当に誰も来ない場所だから……」
彼の言葉に僕も頷いて同意する。
ここは遊歩道から少し外れた場所にあり、滅多に人が来ない場所なのだ。だからこそ僕もゆっくり本が読めると思ってやって来たわけなのだが。
「ちょっと色々面倒なことが多くて、ここに避難してたんだ。私のことは気にせず君は読書を楽しんで」
彼は僕が持っていた本に目をやると、魅力的な笑顔を見せてそう言ってくれた。
「……ありがとうございます」
僕はたった一言そう返すと、再び本に視線を落とす。
情けないことに、再び高鳴ってしまった胸の鼓動と、勝手に赤くなっていく顔のせいで、それだけ言うのが精一杯の状態だったのだ。
ところが、ページをめくり、本に集中しようと思ったその時だった。
急に影が差したような気がして、曇ってきたのかと空を見るため顔を上げると、そこには先ほどよりも近い位置に彼の整った顔があったのだ。
僕は予想外のことにただ驚くばかりで、身体も表情も思考さえも全てが凍りついてしまったかのように動けなくなってしまっていた。
僕をそんな状態にさせた彼は、先ほどとはまた違った魅惑的な笑顔で僕をじっとみつめてくる。
「邪魔してごめん。綺麗な髪だったから、つい目が離せなくて……」
彼はそう言うと、あろうことか僕の髪を指で掬いあげたのだ。
僕はというと。
………驚き過ぎて声も出せなかった。
その上、気の効いた受け答えも出来なまま無表情で固まる僕に、彼は容赦なくとどめの一撃をいれてきたのだ。
「触り心地もいいね」
彼はそのまま髪に唇を寄せると、軽く口付けるような仕種をしてから、そっと手を離したのだった。
その瞬間。
僕は生まれて初めて、胸の高鳴りというものを感じてしまった。
──相手は同性だというのにも関わらず。
11
あなたにおすすめの小説
転生×召喚
135
BL
大加賀秋都は生徒会メンバーに断罪されている最中に生徒会メンバーたちと異世界召喚されてしまった。
周りは生徒会メンバーの愛し子を聖女だとはやし立てている。
これはオマケの子イベント?!
既に転生して自分の立ち位置をぼんやり把握していた秋都はその場から逃げて、悠々自適な農村ライフを送ることにした―…。
主人公総受けです、ご注意ください。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
距離を取ったら、氷のエースに捕獲された件
米山のら
BL
無口でクール、誰も寄せつけないバレー部の“氷のエース”隼。
そんな完璧な隼が追いかけてくる相手が――
よりによって、才能ゼロで平凡な幼馴染の俺(直央)。
バレー部を辞めようとした日から、
距離を置こうとするほど逃げ道を塞がれ、気づけば抱え上げられてて……いや、何で!?
氷の瞳の奥に潜んでいたのは、静かな狂気と、俺だけへの独占欲。
逃げたいのに逃げられない。
“氷のエース”に愛され続ける、青春ど真ん中(?)の恋物語。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる