119 / 146
第二章 クリスタ編
110.運命のいたずら
しおりを挟む
レイの告白の後、時が止まってしまったかのように無言で見つめ合っていた二人だったが、やがて柏木はレイから視線を外すと、自嘲するようにフッと口の端を歪めて笑った。
『なんか都合が良すぎるな……。このタイミングでその名前が出るなんて。
それに君が玲香さんだという証拠は?君がこっちでは一切名乗っていない俺の本当の名前を知っていたということは、間違いなく俺のことを知っている人間だとは思うけど、君が今言ったことは、ある程度俺らの関係性を知る人間なら誰でもわかることだけに、イマイチ信用性に欠けると思わないか?』
『玲香だっていう証拠……?』
そうは言われても、自分と柏木だけの秘密の合言葉があった訳でもないので、証拠といわれても日常であった柏木との思い出を順に語っていくしかない。
(えーと、柏木さんとは何の話したんだっけ?うーん、何かいつも言われてたあの言葉以外は何てことない話ばっかりだった気がするな……。)
暫く考えたところで、不意に。
“あの日”の朝。
スマートフォンのメッセージアプリに柏木から何か連絡が来ていたことを思い出す。
大学の卒業式の準備で朝から慌ただしくしていた玲香は、その内容を確認しないままスマートフォンを自宅に忘れ、結局そのまま生涯を終えてしまったのだ。
『……そういえばあの日。大学の卒業式の朝、メッセージくれたよね? あれ、見れないままでごめんなさい。卒業式の後、一旦自宅に戻ったら読もうと思ってたんだ。でもその前にあんなことになっちゃって……。』
玲香と柏木の間にあった直近の出来事を語ったレイの言葉に、先程まで僅かに不信感を見せていた柏木の表情が少しだけ和らいだ気がした。
『……部屋に忘れてたんだろ?……いかにも君らしいミスだと思ったよ。』
ボソリと呟かれた一言に、レイは柏木の中でレイが玲香の記憶を持つ者だと認めて貰えたのだと感じ、ホッとする。
『だって!ちょうど部屋を出ようとしたら着信音が鳴って、バッグから取り出した時に小夜子さんに急ぐよう言われたから、そのまま忘れちゃったんだもん!仕方ないでしょ!!』
気持ちが軽くなったついでに言い訳すると。
『……そこでまたバッグに仕舞わず、どこかに置き忘れるのが君だよな。』
柏木は呆れたような表情でそう言ってくれた。
『本当にごめんなさい。家を出てすぐに気付いたんだけど、飯塚さんに戻ってもらうのも申し訳なくて、どうせ家に戻るから後でいいかなって思ったの。
──まあ、結局戻れなかったんだけどね……。』
レイは玲香として過ごした最後の日を克明に思い出し、それを口にしたことで、自分の気持ちが大きく揺れたのを感じた。
慌てて何か言葉を紡ごうとするがそれは叶わず、視界すら段々と滲み出す。
『玲香さん……。』
柏木の呟くような呼び掛けに、レイはハッとして顔を上げた。
途端に頬に一筋の涙が伝う。
すると。
柏木はゆっくりと立ち上がり、レイのすぐ横に座ると。
『また会えて良かった……。』
そう言ってレイをそっと抱き締めてくれたのだ。
初めて直に感じる柏木の温もりに戸惑いながらも、レイは涙が乾くまで柏木の胸に顔を埋めていた。
『そういえば、あの後どうなったの?信号無視の車が突っ込んできたことまでは覚えてる。そこから記憶がないってことは、やっぱり助からなかったってことなんでしょ?』
涙が渇き、ある程度冷静さが戻ったレイがそう聞くと、柏木は酷く悲愴な顔で頷いた。
『そっか……。』
既にこの世界でレイ・クロフォードとして存在している以上、玲香の存在が消えていることはとうにわかっていた事だが、改めて肯定されると些かショックだ。
しかし、レイは自分の死因以上にどうしても確認しなければならないことを思い出したため、先程よりも格段に緊張の度合いをあげながら次の質問をした。
『ねぇ、……飯塚さんは?……どうなったの?』
未だにレイを抱き締めたままの柏木を見上げると、柏木はレイの頬に残る涙の跡を優しい笑顔で拭ってくれた。
『……飯塚さんは大ケガだったけど、命に別状はなかったよ。』
『そっか……。良かった……。じゃあ、お孫さんの顔も見れたんだね。』
桐嶋家で運転手をしていた飯塚と、家政婦をしていた小夜子は夫婦という間柄で、あの日の朝、もうじきその二人の娘に赤ちゃんが産まれるというおめでたい話を聞いたばかりだったのだ。
自分ばかりでなく、飯塚までもがあの時の不慮の事故で命を失っていたのだとしたらやるせない。
少しは良かったと思えることがあったのが救いだと思ったレイに、柏木の口から告げられたのは予想も出来なかった言葉だった。
『……たぶんな。』
『たぶん、って、どういうこと……?』
『知らないんだ。──俺はそれを確認する前にこっちに来ちゃったから。』
『え!?』
何てことない口調であっさりと告げられた事実に、レイはそれまで柏木に預けていた身体をガバリと起こした。
『ねぇ、柏木さん。柏木さんがこっちに来たのっていつ?』
『それは向こうの時間のいつかってことだよな?』
『そう。柏木さんが転移したのってあの事故からどのくらい経った後なの?』
『……俺がこっちの世界に来たのは、君が亡くなって一週間後だ。』
『一週間!?』
レイは思わず驚きの声をあげると、まじまじと柏木の顔を見つめた。
玲香が亡くなり、レイとして生まれ変わって14年。
そのとおりの時間が経過していれば、柏木は今43歳になっている筈で。
いくら日本人が若く見えると云っても、それほどの時間の経過があれば、多少なりとも身体には年齢を重ねた証が見えるはずなのだ。
しかし、目の前の柏木はとても14年もの歳月を重ねてきたようには見えない。
『……じゃあ柏木さんがこっちに来てからどのくらい経ったの?』
『半年くらいかな。』
『半年ッ!?』
『そんなに驚くことか?』
『だって、たった半年なのにファランベルク語ペラペラだし、それに僕が生まれ変わってから14年経ってるんだよ?!』
レイの言葉に何かしら思うところがあったのか、柏木が軽く目を眇めた。
『……こっちの言葉は生きていく上で必要不可欠だったから、それこそ死ぬ気で覚えたんだよ。』
『………。』
『そんでもって、俺がここで過ごした年月と君が過ごした年月に差違があるのは、俺が巻き込まれた時空の歪みが繋がっていた場所が、たまたま君が生まれた14年後だったってことだからだと思うけど。』
『時空の歪み?』
『たぶんそういうことなんだろうと自分で勝手に分析してるだけだけどな。
──あの日、君の初七日が終わって、久しぶりに自分の部屋に戻ったんだ。で、玄関のドアを開けた瞬間、グニャリと視界が歪んだと思ったら、いつの間にかこの世界にいた。』
『そんな事ってホントにあるんだ……。』
まさしく超常現象としか言い様のない柏木の体験にただただ驚いていると、
『あるから俺がここにいるんだろ?』
呆れたようにそう言われ、レイはなんだか妙に自分の発言が恥ずかしくなった。
(ってことはあっちの世界とこっちの世界が繋がってる場所がどこかにあるっことだよね……?)
『柏木さんが飛ばされてきた所ってどこにあるの?クリスタ?』
レイが気軽に尋ねたつもりの問い掛けに、柏木は僅かに表情を曇らせる。
(あれ?聞いちゃまずかった?)
『ゴメン。それは国家機密が関わってくるから答えられないんだ。』
国家機密という言葉聞いた途端、レイは顔色を変えた。
『それってクリスタに口止めされてるってこと?もしかして柏木さんってクリスタに脅されてるの?』
言葉の真偽を見極めるため、レイは柏木のどんな些細な表情の変化も見逃すまいという気持ちで、じっとその目を見つめる。
柏木も真っ直ぐレイを見つめ返すと、何の誤魔化しもないといったように真剣な表情で口を開いた。
『心配してくれてありがとう。でも俺は自分の意思でここにいるんだ。軟禁されてもいないし、脅されてる訳でもない。比較的自由にやらせてもらってるよ。得体の知れない異世界人の俺をここに住まわせてくれたユーイン様には感謝してる。さっき見てのとおりちょっと難有りだけどな。』
最後の部分が苦笑い交じりだったのは、先程会ったあの個性的な第一公子に対し思うところが有りすぎるせいだろう。
『とりあえず俺は大丈夫。もっと詳しい話が聞きたいっていうんなら、君がここに残ってくれれば教えてあげられるけど、どうする?』
レイを心配させないための配慮のつもりなのか、冗談めかしてそう言った柏木に、レイは首を横に振った。
『……ごめんなさい。僕はもう玲香じゃなくて、レイ・クロフォードというファランベルクの人間なんだ。……簡単にクリスタに留まるとかってことは言えないよ。』
レイの答えを聞いた柏木は苦笑いしている。
『そういう意味じゃなかったんだけど……。まあいいか。君が鈍いのは元からだしな。』
そして柏木は少し困ったような顔をすると、レイの頬にそっと触れた。
『──運命のいたずらか、神の気紛れかはわからないけど、今はこの世界に来れたことに感謝している。君が桐嶋玲香ではなくレイ・クロフォードという人間だったとしても、もう一度“君”という人間に巡り逢えた訳だから。
……実は、俺にはずっと君に伝えたいと思ってたことがあったんだ。』
『伝えたいこと……?』
『あの日、俺が君に送ったメッセージは、“大事な話があるから時間を作って欲しい”という内容だった。』
もしそれが事実なら、柏木からあらたまってそんなメッセージをもらうのは初めての事だったような気がする。
レイはその事に気付いてドキリとした。
『俺はそこで今後の君のことに関する大事な話をするはずだった。』
あの時の玲香の今後と聞いて思い出すのは。
『……もしかして、婚約のこと?』
玲香は近々父親が決めた相手と婚約する予定になっていたのだが、玲香自身はそれがどこの誰だか全く知らないままだったのだ。
『──でも何でお父様じゃなくて、柏木さんが?』
柏木はレイのその問い掛けに酷く気まずそうな表情をした。
(え……?どういうこと?)
レイが不思議に思った次の瞬間。
『君の婚約者が俺だったからだよ。』
「えぇーーーッ!!」
驚愕の事実を聞かされ、レイは思わず大声をあげてしまった。
『なんか都合が良すぎるな……。このタイミングでその名前が出るなんて。
それに君が玲香さんだという証拠は?君がこっちでは一切名乗っていない俺の本当の名前を知っていたということは、間違いなく俺のことを知っている人間だとは思うけど、君が今言ったことは、ある程度俺らの関係性を知る人間なら誰でもわかることだけに、イマイチ信用性に欠けると思わないか?』
『玲香だっていう証拠……?』
そうは言われても、自分と柏木だけの秘密の合言葉があった訳でもないので、証拠といわれても日常であった柏木との思い出を順に語っていくしかない。
(えーと、柏木さんとは何の話したんだっけ?うーん、何かいつも言われてたあの言葉以外は何てことない話ばっかりだった気がするな……。)
暫く考えたところで、不意に。
“あの日”の朝。
スマートフォンのメッセージアプリに柏木から何か連絡が来ていたことを思い出す。
大学の卒業式の準備で朝から慌ただしくしていた玲香は、その内容を確認しないままスマートフォンを自宅に忘れ、結局そのまま生涯を終えてしまったのだ。
『……そういえばあの日。大学の卒業式の朝、メッセージくれたよね? あれ、見れないままでごめんなさい。卒業式の後、一旦自宅に戻ったら読もうと思ってたんだ。でもその前にあんなことになっちゃって……。』
玲香と柏木の間にあった直近の出来事を語ったレイの言葉に、先程まで僅かに不信感を見せていた柏木の表情が少しだけ和らいだ気がした。
『……部屋に忘れてたんだろ?……いかにも君らしいミスだと思ったよ。』
ボソリと呟かれた一言に、レイは柏木の中でレイが玲香の記憶を持つ者だと認めて貰えたのだと感じ、ホッとする。
『だって!ちょうど部屋を出ようとしたら着信音が鳴って、バッグから取り出した時に小夜子さんに急ぐよう言われたから、そのまま忘れちゃったんだもん!仕方ないでしょ!!』
気持ちが軽くなったついでに言い訳すると。
『……そこでまたバッグに仕舞わず、どこかに置き忘れるのが君だよな。』
柏木は呆れたような表情でそう言ってくれた。
『本当にごめんなさい。家を出てすぐに気付いたんだけど、飯塚さんに戻ってもらうのも申し訳なくて、どうせ家に戻るから後でいいかなって思ったの。
──まあ、結局戻れなかったんだけどね……。』
レイは玲香として過ごした最後の日を克明に思い出し、それを口にしたことで、自分の気持ちが大きく揺れたのを感じた。
慌てて何か言葉を紡ごうとするがそれは叶わず、視界すら段々と滲み出す。
『玲香さん……。』
柏木の呟くような呼び掛けに、レイはハッとして顔を上げた。
途端に頬に一筋の涙が伝う。
すると。
柏木はゆっくりと立ち上がり、レイのすぐ横に座ると。
『また会えて良かった……。』
そう言ってレイをそっと抱き締めてくれたのだ。
初めて直に感じる柏木の温もりに戸惑いながらも、レイは涙が乾くまで柏木の胸に顔を埋めていた。
『そういえば、あの後どうなったの?信号無視の車が突っ込んできたことまでは覚えてる。そこから記憶がないってことは、やっぱり助からなかったってことなんでしょ?』
涙が渇き、ある程度冷静さが戻ったレイがそう聞くと、柏木は酷く悲愴な顔で頷いた。
『そっか……。』
既にこの世界でレイ・クロフォードとして存在している以上、玲香の存在が消えていることはとうにわかっていた事だが、改めて肯定されると些かショックだ。
しかし、レイは自分の死因以上にどうしても確認しなければならないことを思い出したため、先程よりも格段に緊張の度合いをあげながら次の質問をした。
『ねぇ、……飯塚さんは?……どうなったの?』
未だにレイを抱き締めたままの柏木を見上げると、柏木はレイの頬に残る涙の跡を優しい笑顔で拭ってくれた。
『……飯塚さんは大ケガだったけど、命に別状はなかったよ。』
『そっか……。良かった……。じゃあ、お孫さんの顔も見れたんだね。』
桐嶋家で運転手をしていた飯塚と、家政婦をしていた小夜子は夫婦という間柄で、あの日の朝、もうじきその二人の娘に赤ちゃんが産まれるというおめでたい話を聞いたばかりだったのだ。
自分ばかりでなく、飯塚までもがあの時の不慮の事故で命を失っていたのだとしたらやるせない。
少しは良かったと思えることがあったのが救いだと思ったレイに、柏木の口から告げられたのは予想も出来なかった言葉だった。
『……たぶんな。』
『たぶん、って、どういうこと……?』
『知らないんだ。──俺はそれを確認する前にこっちに来ちゃったから。』
『え!?』
何てことない口調であっさりと告げられた事実に、レイはそれまで柏木に預けていた身体をガバリと起こした。
『ねぇ、柏木さん。柏木さんがこっちに来たのっていつ?』
『それは向こうの時間のいつかってことだよな?』
『そう。柏木さんが転移したのってあの事故からどのくらい経った後なの?』
『……俺がこっちの世界に来たのは、君が亡くなって一週間後だ。』
『一週間!?』
レイは思わず驚きの声をあげると、まじまじと柏木の顔を見つめた。
玲香が亡くなり、レイとして生まれ変わって14年。
そのとおりの時間が経過していれば、柏木は今43歳になっている筈で。
いくら日本人が若く見えると云っても、それほどの時間の経過があれば、多少なりとも身体には年齢を重ねた証が見えるはずなのだ。
しかし、目の前の柏木はとても14年もの歳月を重ねてきたようには見えない。
『……じゃあ柏木さんがこっちに来てからどのくらい経ったの?』
『半年くらいかな。』
『半年ッ!?』
『そんなに驚くことか?』
『だって、たった半年なのにファランベルク語ペラペラだし、それに僕が生まれ変わってから14年経ってるんだよ?!』
レイの言葉に何かしら思うところがあったのか、柏木が軽く目を眇めた。
『……こっちの言葉は生きていく上で必要不可欠だったから、それこそ死ぬ気で覚えたんだよ。』
『………。』
『そんでもって、俺がここで過ごした年月と君が過ごした年月に差違があるのは、俺が巻き込まれた時空の歪みが繋がっていた場所が、たまたま君が生まれた14年後だったってことだからだと思うけど。』
『時空の歪み?』
『たぶんそういうことなんだろうと自分で勝手に分析してるだけだけどな。
──あの日、君の初七日が終わって、久しぶりに自分の部屋に戻ったんだ。で、玄関のドアを開けた瞬間、グニャリと視界が歪んだと思ったら、いつの間にかこの世界にいた。』
『そんな事ってホントにあるんだ……。』
まさしく超常現象としか言い様のない柏木の体験にただただ驚いていると、
『あるから俺がここにいるんだろ?』
呆れたようにそう言われ、レイはなんだか妙に自分の発言が恥ずかしくなった。
(ってことはあっちの世界とこっちの世界が繋がってる場所がどこかにあるっことだよね……?)
『柏木さんが飛ばされてきた所ってどこにあるの?クリスタ?』
レイが気軽に尋ねたつもりの問い掛けに、柏木は僅かに表情を曇らせる。
(あれ?聞いちゃまずかった?)
『ゴメン。それは国家機密が関わってくるから答えられないんだ。』
国家機密という言葉聞いた途端、レイは顔色を変えた。
『それってクリスタに口止めされてるってこと?もしかして柏木さんってクリスタに脅されてるの?』
言葉の真偽を見極めるため、レイは柏木のどんな些細な表情の変化も見逃すまいという気持ちで、じっとその目を見つめる。
柏木も真っ直ぐレイを見つめ返すと、何の誤魔化しもないといったように真剣な表情で口を開いた。
『心配してくれてありがとう。でも俺は自分の意思でここにいるんだ。軟禁されてもいないし、脅されてる訳でもない。比較的自由にやらせてもらってるよ。得体の知れない異世界人の俺をここに住まわせてくれたユーイン様には感謝してる。さっき見てのとおりちょっと難有りだけどな。』
最後の部分が苦笑い交じりだったのは、先程会ったあの個性的な第一公子に対し思うところが有りすぎるせいだろう。
『とりあえず俺は大丈夫。もっと詳しい話が聞きたいっていうんなら、君がここに残ってくれれば教えてあげられるけど、どうする?』
レイを心配させないための配慮のつもりなのか、冗談めかしてそう言った柏木に、レイは首を横に振った。
『……ごめんなさい。僕はもう玲香じゃなくて、レイ・クロフォードというファランベルクの人間なんだ。……簡単にクリスタに留まるとかってことは言えないよ。』
レイの答えを聞いた柏木は苦笑いしている。
『そういう意味じゃなかったんだけど……。まあいいか。君が鈍いのは元からだしな。』
そして柏木は少し困ったような顔をすると、レイの頬にそっと触れた。
『──運命のいたずらか、神の気紛れかはわからないけど、今はこの世界に来れたことに感謝している。君が桐嶋玲香ではなくレイ・クロフォードという人間だったとしても、もう一度“君”という人間に巡り逢えた訳だから。
……実は、俺にはずっと君に伝えたいと思ってたことがあったんだ。』
『伝えたいこと……?』
『あの日、俺が君に送ったメッセージは、“大事な話があるから時間を作って欲しい”という内容だった。』
もしそれが事実なら、柏木からあらたまってそんなメッセージをもらうのは初めての事だったような気がする。
レイはその事に気付いてドキリとした。
『俺はそこで今後の君のことに関する大事な話をするはずだった。』
あの時の玲香の今後と聞いて思い出すのは。
『……もしかして、婚約のこと?』
玲香は近々父親が決めた相手と婚約する予定になっていたのだが、玲香自身はそれがどこの誰だか全く知らないままだったのだ。
『──でも何でお父様じゃなくて、柏木さんが?』
柏木はレイのその問い掛けに酷く気まずそうな表情をした。
(え……?どういうこと?)
レイが不思議に思った次の瞬間。
『君の婚約者が俺だったからだよ。』
「えぇーーーッ!!」
驚愕の事実を聞かされ、レイは思わず大声をあげてしまった。
10
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる