異世界転移した現役No.1ホストは人生設計を変えたくない。

みなみ ゆうき

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本編

9.交渉

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そういえば外人って高校生くらいでもオッサンみたいなヤツいるよな……。日本人にもたまにいたりするけどさ。
まさかの年下とは……。

俺はオーナーとセドリックが俺より三つも年下だという事実に驚愕していた。


……もしかして、三十ちょい手前だって勝手に思ってたネイトさんもホントは俺より年下だったりして……。


俺はこの世界の人間との成長の違いに大きな世界間ギャップを覚えつつも、何とコメントしたらいいのかわからずとりあえず曖昧に笑っておいた。

ホストとしては気の利いた返しのひとつも出来ないことが歯痒い気もするが、この場合は下手に話題を広げるよりスルーしておいたほうが無難だろう。

それに、この世界の人間が皆フケ顔で、俺よりデカいヤツだけで構成されている訳じゃないと思うので、きっと他の従業員は年相応な見た目のヤツもいるはずだ。


そう考えたところで、俺は今更ながらにこの店にいる他の従業員の事を全く聞いていなかった事に気がついた。


「……申し訳ありません、オーナー。ここの従業員の方々のことをお尋ねしてもいいですか?」

「ええ、勿論です」


こうして俺が聞き出した、ここの従業員情報はというと。


『月下楼』の従業員は全部で五十名ほど。

その内男娼は、十八名。他は店の内勤スタッフや従業員の住居のほうで働くスタッフだ。
スタッフの年齢は様々だが、今いる男娼の年齢は下は十五歳から上は二十三歳。
男娼自体長く続けられる仕事ではないので、年季が明けたらすぐに辞める人間も多く、意外に入れ替わりも早いらしい。

スタッフに定年というのは特に無いが、店のほうのスタッフは大体三十歳くらいまでのメンバーで構成されており、男娼に至っては二十五歳までが客が取れるギリギリの歳なんだそうだ。


……あのさ。

俺、二十四なんだけど。一番新人なのに一番年上で、しかも男娼として働けるギリギリ……。


ガーンって感じになっている俺にオーナーが穏やかな口調で慰めの言葉を掛けてくれる。


「コウキさんの世界での成人が二十歳だというのなら、こちらの年齢に当て嵌めるとまだ十九歳ということになりますし、コウキさんはお若く見えるので、それで充分通用すると思いますが」


完全に後からのこじつけではあるが、あと一年で仕事が無くなっても困るので、ありがたくそれに乗っかることに決めた。

まあ、セドリックも俺のことまだ十代だって思ってるみたいだし、俺がそうだって言えばバレないよな。


あっさり気持ちを切り替えた俺は、続いて昨日寝る前に確認しようと思っていた事を順にオーナーに質問した。


まずはここのシステムだが。

開店時間は夜の九時。閉店は午前五時。

お客様はその時間の中の、自分の都合のいい時間に来店することになっている。
完全予約制で、一見さんはお断り。
新規の客になるには常連客からの紹介のほかに、厳しい審査もある。


次に俺が一番気になっていた料金システムはというと。

『時間いくら』じゃなくて『男娼に対する指名料』という感じでお金を払うことになっているので、一時間でも一晩でもかかる値段は同じ。
そして男娼は一日にひとりしか客を取れない決まりになっているのだと聞かされ、俺は愕然とした。

確かに高い金払ってるのに、時間制じゃ存分に楽しめないだろうし、例え浄化の魔法をかけてあったとしても、さっきまで誰かが突っ込んでいたところに突っ込むなんてのはあんまりいい気はしないからそれはわかる。

でも一時間でも一晩でも同じ料金って……。


要するにセドリックみたいな客は物凄く効率が悪いってことじゃん!

何となく貧乏クジを引かされた気分になり、俺は益々アイツのことが嫌いになった。


いっそのこと教育期間とやらが終わったら、すぐに指名変えしてくれないかな……。


ここのシステムでは基本的に、お客様は最初に指名した男娼を指名し続ける決まりとなっている。

しかし、男娼が引退したり、希望する日の予約が取れなかったり、お客様からの希望があった場合には他の人間を指名することも出来るのだ。

指名変えは一応契約違反的な感じなので、引退以外の理由では違約金が発生する。予約が取れなかった場合の一時的な指名変えなら、基本の料金にちょっと上乗せした金額で利用出来る仕組みだ。


ちなみにお客様が娼館でされる飲食代は全てサービス料に含まれているので、いくら飲み食いしようと俺の売り上げにはならない。


オプション料金も一切なし。

高級娼館といわれる所はみんな基本的に変わったプレイをするような客はお断りという暗黙のルールがあるそうだ。
まあ、高級娼館に来るような上流階級の人間は上品なセックスしかしないってことなのかもしれないが、昨夜のセドリックのやり方が上品かと言われると甚だ疑問だ。

そもそもこの世界のスタンダードなやり方なんて俺は知らないから比べようもないしな。

あ、そうだ。セドリックといえば。


「そう言えば今朝セドリック様がお帰りになられる際に『また夜に』と仰っていたのですが、私はいつから他のお客様の前に出ることができるのでしょうか?」

「そうですね。話を聞く限りコウキさんの接客に問題はなさそうですが、もう少しこの世界の事を学習してから他のお客様の前に出たほうが無難かと思われます」

「そうですか……」


ってことは当分セドリック以外の客は取れないってことか。
今日もあの絶倫フルコース……。

少し遠い目になりかけたが、ただ働きする訳じゃないから、ま、いいか、と無理矢理自分を納得させる。

早く色んな事覚えて他の客を取れるように頑張ろう……。


そう考えたところで突如閃いた。
俺、冴えてるかもしんない。


「オーナー。お願いがあるんですけど」

「何でしょうか?」

「男娼としてだけでなく、空いた時間は内勤スタッフとして働かせていただきたいのですが」


俺の提案にオーナーは少しだけ口の端を上げた。
どうやら興味を持ってもらえたらしい。


「この世界の事をただ聞いて覚えるよりも、実際に経験しながら学びたいのですが」


内勤スタッフなら客とのやり取りの他に、ここに納品にくる業者とのやり取りもあるはずだから、世の中の仕組みや常識も知ることが出きるだろうし、男娼たちの買い物などで外に出る機会もあるだろうから、物価とか相場もそれで知ることができるだろう。

それに何より、空いてる時間を無駄にせず金も稼げる。正に一石二鳥。
我ながら結構いいアイディアだと思うんだけど。

緊張の面持ちでオーナーを見つめると、オーナーは少しだけ考える素振りを見せた後、静かに口を開いた。


「コウキさんのお話はわかりました。なかなか良い考えだと思います」


ヨッシャ!!

心の中で密かにガッツポーズを決めていると。


「でも、それを許可するにあたりひとつ条件があります」


その一言に一気に緊張が走る。
この手の交渉は注意しないと、うっかりこっちが不利な条件を飲まされかねない。


「コウキさんは先程、セドリック様に口での愛撫を施した、と仰っていましたよね?」

「……はい」


なんでいきなりフェラの話?

訝しむ俺にオーナーはにこやかな笑みを見せる。
この笑顔。要注意。


ところが。


「それを私に実演していただくことはできますか?」

「え?」

「勿論、タダで、とは言いません。もしその条件を飲んでいただけるのならその分の料金も弾みますし、先程の提案も許可しましょう。──もちろん有償で」


オーナーからの甘い誘惑に、俺は手のひらを返したようにあっさりと懐柔され、一も二もなく頷いた。
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