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7.雨夜の品定め その2
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「身体を重ねることで相性を図る。それもまたひとつの手段かもしれませんね……」
再び距離を縮めてきた中将に、今度は逃げることも出来ないまま抱きすくめられハッとする。
桐山とアレコレやっちゃった時と似たようなシチュエーションに、俺は自分のピンチを確信した。
夢の中とはいえ桐山に続き将平ともこんな風になるなんて!
そもそもこんなリアルな感覚が夢ってことがあるんだろうか……?
あまりに長く続く全く自分の思い通りにならない夢に、これはホントに夢なのかどうか疑いたくなってしまう。
そんな事を考えているうちにあっという間に中将の顔が近付き、いよいよヤバい状況になる。
そして唇が重なる直前。
突如何者かの足音が近付いてくるのが聞こえたことで、中将は何事もなかったかのように俺から離れていった。
「源氏の君と頭の中将が宿直だと聞いたのでお邪魔させてもらいに参りました」
そう言いながら部屋の中へと入ってきたのは左馬の頭と藤式部の丞。
二人は所謂職場の同僚ってやつで、わりと話をする間柄だ。
お邪魔だなんてとんでもない!むしろナイスタイミング!!
俺は心の中でそう言いながら二人を笑顔で迎える。
危うくまた新しい扉を開けることになりそうな状況だっただけに、思いがけない二人の訪問は手放しで喜びたいくらいありがたい。
「当世名高いお二人が顔を合わせて一体どのようなお話をなさっておいでか興味がありましてね」
大した話なんてしてない上に、仕事中にヤバい状況になってましたけど。
冷や汗もので中将を盗み見ると、中将は憎らしいくらい涼しい表情で話し出した。
「大した話ではございませんが、理想の女性の話などを少々」
「ほう、それは是非ご高説いただきたいものですな」
中将の話にガッツリ食い付いてきた二人は、ここに腰を落ち着けて雑談していくことに決めたらしい。
一応俺ら仕事中だし、お前ら家に帰んなくていいのかよとは思いつつも、中将と二人ってのは気まずくて、俺も話に乗っかることに決めた。
で、順番に今までの経験談を披露することになったんだけど。
「私の少ない経験から申しますと、上流の姫は周りからかしづかれて欠点も隠されていることも多く、面白みに欠ける場合があったり、評判を聞いて会いに行ったのに実際は案外出来の悪い姫だったりということが多くて……。かといって身分の低い者ではやはり気が合わないことも多いので付き合えません。なので恋の駆け引きをする相手は中流が一番しっくりくるような気がします。
地方の受領の女たちの中に個性的で思いがけず面白みのある者がいることが多いので、これからは中流の時代と言えましょう」
「遊び相手でなく妻にするとなるとまた事情が違います。
なにせ優しい女は情に流されて浮気をしかねないし、しっかり者はガサツで色気に乏しく味気ない。嫉妬深いのも堪らないが、嫉妬すらしてくれないのも愛情を疑いたくなるというもの。可愛いばかりで愚かな女も困りますが、教養深い学者肌の女も困りものでして……」
二人は交互に好き勝手なことを言い出した。
結局は良いとこ取りだけしたいだけなのはよくわかるけど、現実世界でそんな事言ったら女子から敵認定されること間違いなしな気がする。
ちなみに俺はそこそこ可愛くて簡単にヤらせてくれて後腐れのない女がいいけど、これもおおっぴらに口に出したらマズい事なので黙って二人の話を聞いておいた。
「中将どのは?」
藤式部の丞が話を振ると、中将は切なげに目を眇めながらもかつて経験したという恋愛話を披露した。
「私がまだ身分の低かった時に長い付き合いの恋人がいてね。内気で儚げな人だったのだけれど、いつの間にか行方知れずになってそれきり。一応手を尽くして探したけど、とうとう見つからなかったのですよ」
「中将どのにもそのような相手がいらっしゃったのですね……」
遊び人だとばかり思ってたから、そんな真面目な恋愛があったなんてビックリだ。
だったらさっきのおかしな雰囲気は一体なんだったんだ?
もうその人のことは忘れちゃったって事なのか?
「源氏の君はいかがです?」
「え?」
突然水を向けられた俺はうっかりマヌケな反応をしてしまった。
正直話を振られても、俺自身の経験を話す訳にもいかず、かといって光源氏としてのこれまでの経験はさっぱりわからないし、俺が光源氏になってからは惨敗続きだし。
「私は話せるようなことは何も……」
馬鹿正直に告げると、左馬の頭と藤式部の丞が不満そうな顔をする。
「またまたご謙遜を。色々と聞き及んでおりますよ。麗景殿の女御の妹君や式部卿宮の姫君の話」
ああ、その話な……。
俺もそんな噂を聞いて何度も惟光に確認したんだけど、手紙のやり取りをしてるだけでホントに何にもないらしい。
がっかりもいいとこだ。
「世間で取り沙汰されているような関係じゃないよ」
謙遜でも何でもなく正直に答えたのに、『またまた~。もったいぶってんじゃねぇよ』みたいな目で見られるんだからたまったもんじゃない。
俺だって光源氏になればそれこそ入れ食い状態でウハウハのハーレムライフを送れるもんだと思ってたよ?
でもさ、いくら自分の希望どおりに進めようとしてもそうなってくれないんだからしょうがないじゃん。
ちょっとふて腐れながら黙っていると。
「案外それを隠れ蓑に、秘めたる恋でもなさっているのかもしれませんよ」
頭の中将が助け船らしきものを出してくれた。
秘めたる恋なんてもんをした覚えはないけれど、下手に経験談を話す羽目になるより、この沈黙の意味を勝手に解釈してもらったほうがありがたい。
俺は何も言わず薄く微笑んでおくだけにとどめておいた。
ところが、何故か胸の辺りがツキリと痛み、普段感じることなど滅多にない類いの感情が一気に胸の内に広がっていく。
なんだろう……?この胸が締め付けられるような感じ。
たぶんこの感情に名前を付けるとしたら『切ない』とかっていうものになるんだろう。
俺はこの馴染みのない感情に支配された事を不思議に思いながらも、何故夢の中の俺がこういう気持ちになるのかを知るために、もう一度惟光にしつこいくらいに事実確認をしてみようと心に決めたのだった。
再び距離を縮めてきた中将に、今度は逃げることも出来ないまま抱きすくめられハッとする。
桐山とアレコレやっちゃった時と似たようなシチュエーションに、俺は自分のピンチを確信した。
夢の中とはいえ桐山に続き将平ともこんな風になるなんて!
そもそもこんなリアルな感覚が夢ってことがあるんだろうか……?
あまりに長く続く全く自分の思い通りにならない夢に、これはホントに夢なのかどうか疑いたくなってしまう。
そんな事を考えているうちにあっという間に中将の顔が近付き、いよいよヤバい状況になる。
そして唇が重なる直前。
突如何者かの足音が近付いてくるのが聞こえたことで、中将は何事もなかったかのように俺から離れていった。
「源氏の君と頭の中将が宿直だと聞いたのでお邪魔させてもらいに参りました」
そう言いながら部屋の中へと入ってきたのは左馬の頭と藤式部の丞。
二人は所謂職場の同僚ってやつで、わりと話をする間柄だ。
お邪魔だなんてとんでもない!むしろナイスタイミング!!
俺は心の中でそう言いながら二人を笑顔で迎える。
危うくまた新しい扉を開けることになりそうな状況だっただけに、思いがけない二人の訪問は手放しで喜びたいくらいありがたい。
「当世名高いお二人が顔を合わせて一体どのようなお話をなさっておいでか興味がありましてね」
大した話なんてしてない上に、仕事中にヤバい状況になってましたけど。
冷や汗もので中将を盗み見ると、中将は憎らしいくらい涼しい表情で話し出した。
「大した話ではございませんが、理想の女性の話などを少々」
「ほう、それは是非ご高説いただきたいものですな」
中将の話にガッツリ食い付いてきた二人は、ここに腰を落ち着けて雑談していくことに決めたらしい。
一応俺ら仕事中だし、お前ら家に帰んなくていいのかよとは思いつつも、中将と二人ってのは気まずくて、俺も話に乗っかることに決めた。
で、順番に今までの経験談を披露することになったんだけど。
「私の少ない経験から申しますと、上流の姫は周りからかしづかれて欠点も隠されていることも多く、面白みに欠ける場合があったり、評判を聞いて会いに行ったのに実際は案外出来の悪い姫だったりということが多くて……。かといって身分の低い者ではやはり気が合わないことも多いので付き合えません。なので恋の駆け引きをする相手は中流が一番しっくりくるような気がします。
地方の受領の女たちの中に個性的で思いがけず面白みのある者がいることが多いので、これからは中流の時代と言えましょう」
「遊び相手でなく妻にするとなるとまた事情が違います。
なにせ優しい女は情に流されて浮気をしかねないし、しっかり者はガサツで色気に乏しく味気ない。嫉妬深いのも堪らないが、嫉妬すらしてくれないのも愛情を疑いたくなるというもの。可愛いばかりで愚かな女も困りますが、教養深い学者肌の女も困りものでして……」
二人は交互に好き勝手なことを言い出した。
結局は良いとこ取りだけしたいだけなのはよくわかるけど、現実世界でそんな事言ったら女子から敵認定されること間違いなしな気がする。
ちなみに俺はそこそこ可愛くて簡単にヤらせてくれて後腐れのない女がいいけど、これもおおっぴらに口に出したらマズい事なので黙って二人の話を聞いておいた。
「中将どのは?」
藤式部の丞が話を振ると、中将は切なげに目を眇めながらもかつて経験したという恋愛話を披露した。
「私がまだ身分の低かった時に長い付き合いの恋人がいてね。内気で儚げな人だったのだけれど、いつの間にか行方知れずになってそれきり。一応手を尽くして探したけど、とうとう見つからなかったのですよ」
「中将どのにもそのような相手がいらっしゃったのですね……」
遊び人だとばかり思ってたから、そんな真面目な恋愛があったなんてビックリだ。
だったらさっきのおかしな雰囲気は一体なんだったんだ?
もうその人のことは忘れちゃったって事なのか?
「源氏の君はいかがです?」
「え?」
突然水を向けられた俺はうっかりマヌケな反応をしてしまった。
正直話を振られても、俺自身の経験を話す訳にもいかず、かといって光源氏としてのこれまでの経験はさっぱりわからないし、俺が光源氏になってからは惨敗続きだし。
「私は話せるようなことは何も……」
馬鹿正直に告げると、左馬の頭と藤式部の丞が不満そうな顔をする。
「またまたご謙遜を。色々と聞き及んでおりますよ。麗景殿の女御の妹君や式部卿宮の姫君の話」
ああ、その話な……。
俺もそんな噂を聞いて何度も惟光に確認したんだけど、手紙のやり取りをしてるだけでホントに何にもないらしい。
がっかりもいいとこだ。
「世間で取り沙汰されているような関係じゃないよ」
謙遜でも何でもなく正直に答えたのに、『またまた~。もったいぶってんじゃねぇよ』みたいな目で見られるんだからたまったもんじゃない。
俺だって光源氏になればそれこそ入れ食い状態でウハウハのハーレムライフを送れるもんだと思ってたよ?
でもさ、いくら自分の希望どおりに進めようとしてもそうなってくれないんだからしょうがないじゃん。
ちょっとふて腐れながら黙っていると。
「案外それを隠れ蓑に、秘めたる恋でもなさっているのかもしれませんよ」
頭の中将が助け船らしきものを出してくれた。
秘めたる恋なんてもんをした覚えはないけれど、下手に経験談を話す羽目になるより、この沈黙の意味を勝手に解釈してもらったほうがありがたい。
俺は何も言わず薄く微笑んでおくだけにとどめておいた。
ところが、何故か胸の辺りがツキリと痛み、普段感じることなど滅多にない類いの感情が一気に胸の内に広がっていく。
なんだろう……?この胸が締め付けられるような感じ。
たぶんこの感情に名前を付けるとしたら『切ない』とかっていうものになるんだろう。
俺はこの馴染みのない感情に支配された事を不思議に思いながらも、何故夢の中の俺がこういう気持ちになるのかを知るために、もう一度惟光にしつこいくらいに事実確認をしてみようと心に決めたのだった。
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