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雷鳴はまだ遠く
消滅の勇者、運命の輪廻へ
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500年前ーー魔王城・地下――
そこは死の臭いがこびりついた“地獄の胎内”だった。
闇と光がぶつかり合い、天井を舐める黒雲が祭壇を渦巻く。
無数の生贄の魂と血が染みついた呪詛の祭壇――
空間そのものが腐ったように重く、ただ息をするだけで肺が焼ける。
祭壇の前に、二つの影。
血まみれで槍を杖に立つ雷光の勇者、ロウ=ボルト。
その正面――妹・レイの身体をまといし魔王。
顔はまだ人の形を保っているが、目の奥では異形の“獣”が嗤っていた。
「……レイの身体を返せッ!!」
ロウは血を吐くように叫び、息を深く吸い込む。
全身に迸る雷光が、聖剣の刃先へと収束していく。
『──天を裂き、地を穿ち、万象を灰燼と化せ』
「雷帝穿光刃らいていせんこうじん!!」
上空から無数の雷柱が降り注ぎ、それらが一点に集束する。
蒼白の閃光が奔り、時空すら震わせる轟音とともに前方を薙ぎ払った。
その一撃は、魔族を滅ぼし、空間すら焼き裂く――はずだった。
だが、目の前の魔王は一歩も動かず、無傷のまま笑っていた。
「クク……勇者ロウ。お前の妹、勇者レイの肉体は、今や我が意のまま、仲間である紅氷の魔女リゼリアも剛岩の守護者レオニスも倒れた。残るは貴様一匹。――何も救えなかった男よ」
祭壇に響くその声は、怨嗟と侮蔑と、そして確かな愉悦に満ちていた。
「見よ、この“器”を! 弱点であった雷鳴すら、今や我が肉体の糧だ。妹の魂は、闇の底で喘いでいる。
“二人の勇者の奇跡”など、所詮は呪いの餌だったな?」
ロウは血反吐を吐きながら睨み返す。
「……それでも、何度でも立ち上がる。
俺は、希望を、光を、この世界に――残す!」
「愚かなり」
魔王の声が祭壇を震わせる。
『──虚空より出で、万象の命脈を断ち、すべてを漆黒へと還せ』
「黒雷葬槍こくらいそうそう」
片手が高々と掲げられた、その瞬間――
空間が轟音とともに裂け、
漆黒の雷が無数の槍となって生まれ、光すら飲み込みながらロウの肉体を容赦なく貫いていく。
骨が砕け、肉が裂ける音――
それでもロウは倒れない。片膝をつきながら、剣を握る指だけは死んでいなかった。
魔王は満足げに見下ろす。
「勇者の雷の力すら、我が支配の内よ。貴様はただ己の無力さと敗北を嘆き、ここで朽ちろ」
(……終わりか。否、まだだ)
魔王は勝ち誇るように手をかざす。
『──尽きぬ劫火よ、命脈を焼き絶やせ。
滅びの息吹は大地を焦がし、魂すらも灰に帰せ』
灼熱の奔流が圧縮され、空間すら歪める炎球がその掌に生まれた。
咆哮するような紅蓮の輝きが、呪いの祭壇を鮮やかな朱に染め上げる。
「最後の慈悲だ。一瞬で灰にしてやる」
「燃え尽きろ、勇者ロウ=ボルト!獄炎滅劫終火!」
唸りをあげた炎球が解き放たれる――
ロウの身体に当たるその瞬間、
ロウの肉体が、限界を超えて光と雷の奔流を放ち
炎球を無効化する。
「な……!? なぜだ!
その身体はもはや死肉だぞ! なぜ動く!!」
ロウは、ちぎれた身体を引きずり立ち上がると――
光になって消えた。
祭壇の前で後ずさる魔王の背後に現れると両腕で抱きすくめる。
「これが……俺の、最期の“光”だ……!」
『我、雷と聖光の契約によりて告ぐ。天を裂きし剣は大地を裁き、
地を穿ちし裁きは、万象を呑む闇を封ず。
古き星よ、運命の糸を絡め、五芒の檻を成せ
――封印・聖光五芒陣!』
全てを引き裂く雷鳴と、焼き尽くす光。
五芒星の結界が祭壇と魔王を空間ごと裂く。
魔王は押さえ込まれ暴れるが光を纏うロウの両腕は動かない。断末魔の悲鳴をあげる。
「やめろォォォ!!
貴様ごときが、この器を! この力をッ!!」
轟音と閃光。
呪いの祭壇は砕け、光の祭壇へと産まれ変わる。魔王はレイの身体ごとその祭壇の“封印の棺”の中へと引きずり込まれた。
ロウもまた、光を失いその肉体が崩れ落ちていく――
(レイすまない……いつか……必ず……。
祭壇には静寂だけが残る。
血も、肉も、魂も、全てが光と闇に飲まれ消えていった。
ーミルテ村カミナの部屋ー
……意識の奥で、カミナが眠っている。
ボルトは、久しぶりに自分だけの感覚で目を覚ました。静かな部屋――母親の気配もない。
(……夢、か。いや、違う。“記憶”だ)
(あのとき、俺は――確かに魔王を封印した……レイの身体ごと……)
自分の意識が“赤ん坊”に宿っていると理解して、ふと手を動かす。
(……試すか)
赤ん坊のカミナの身体、指をゆっくりと動かす――
その瞬間、人差し指と人差し指の間で、バチバチバチッと、雷光が走った。
(……間違いない。こいつ――カミナも勇者の血を継いでる)
(転生ガチャ大当たりだなヒカル!
この偶然……神の悪戯か、魔王の復活が近いのか?だがこのチャンス!封印された“魔王”……
ヤツが目覚めた時に、
――今度こそ、レイの身体を取り戻す!)
そう誓った瞬間、赤ん坊のカミナが、ふっと意識を取り戻す。
(……いかんいかん、勝手に動かすのはダメだよな)
ボルトはそっと意識をカミナに返し、
再び深い眠りの中へと沈んでいく――。
そこは死の臭いがこびりついた“地獄の胎内”だった。
闇と光がぶつかり合い、天井を舐める黒雲が祭壇を渦巻く。
無数の生贄の魂と血が染みついた呪詛の祭壇――
空間そのものが腐ったように重く、ただ息をするだけで肺が焼ける。
祭壇の前に、二つの影。
血まみれで槍を杖に立つ雷光の勇者、ロウ=ボルト。
その正面――妹・レイの身体をまといし魔王。
顔はまだ人の形を保っているが、目の奥では異形の“獣”が嗤っていた。
「……レイの身体を返せッ!!」
ロウは血を吐くように叫び、息を深く吸い込む。
全身に迸る雷光が、聖剣の刃先へと収束していく。
『──天を裂き、地を穿ち、万象を灰燼と化せ』
「雷帝穿光刃らいていせんこうじん!!」
上空から無数の雷柱が降り注ぎ、それらが一点に集束する。
蒼白の閃光が奔り、時空すら震わせる轟音とともに前方を薙ぎ払った。
その一撃は、魔族を滅ぼし、空間すら焼き裂く――はずだった。
だが、目の前の魔王は一歩も動かず、無傷のまま笑っていた。
「クク……勇者ロウ。お前の妹、勇者レイの肉体は、今や我が意のまま、仲間である紅氷の魔女リゼリアも剛岩の守護者レオニスも倒れた。残るは貴様一匹。――何も救えなかった男よ」
祭壇に響くその声は、怨嗟と侮蔑と、そして確かな愉悦に満ちていた。
「見よ、この“器”を! 弱点であった雷鳴すら、今や我が肉体の糧だ。妹の魂は、闇の底で喘いでいる。
“二人の勇者の奇跡”など、所詮は呪いの餌だったな?」
ロウは血反吐を吐きながら睨み返す。
「……それでも、何度でも立ち上がる。
俺は、希望を、光を、この世界に――残す!」
「愚かなり」
魔王の声が祭壇を震わせる。
『──虚空より出で、万象の命脈を断ち、すべてを漆黒へと還せ』
「黒雷葬槍こくらいそうそう」
片手が高々と掲げられた、その瞬間――
空間が轟音とともに裂け、
漆黒の雷が無数の槍となって生まれ、光すら飲み込みながらロウの肉体を容赦なく貫いていく。
骨が砕け、肉が裂ける音――
それでもロウは倒れない。片膝をつきながら、剣を握る指だけは死んでいなかった。
魔王は満足げに見下ろす。
「勇者の雷の力すら、我が支配の内よ。貴様はただ己の無力さと敗北を嘆き、ここで朽ちろ」
(……終わりか。否、まだだ)
魔王は勝ち誇るように手をかざす。
『──尽きぬ劫火よ、命脈を焼き絶やせ。
滅びの息吹は大地を焦がし、魂すらも灰に帰せ』
灼熱の奔流が圧縮され、空間すら歪める炎球がその掌に生まれた。
咆哮するような紅蓮の輝きが、呪いの祭壇を鮮やかな朱に染め上げる。
「最後の慈悲だ。一瞬で灰にしてやる」
「燃え尽きろ、勇者ロウ=ボルト!獄炎滅劫終火!」
唸りをあげた炎球が解き放たれる――
ロウの身体に当たるその瞬間、
ロウの肉体が、限界を超えて光と雷の奔流を放ち
炎球を無効化する。
「な……!? なぜだ!
その身体はもはや死肉だぞ! なぜ動く!!」
ロウは、ちぎれた身体を引きずり立ち上がると――
光になって消えた。
祭壇の前で後ずさる魔王の背後に現れると両腕で抱きすくめる。
「これが……俺の、最期の“光”だ……!」
『我、雷と聖光の契約によりて告ぐ。天を裂きし剣は大地を裁き、
地を穿ちし裁きは、万象を呑む闇を封ず。
古き星よ、運命の糸を絡め、五芒の檻を成せ
――封印・聖光五芒陣!』
全てを引き裂く雷鳴と、焼き尽くす光。
五芒星の結界が祭壇と魔王を空間ごと裂く。
魔王は押さえ込まれ暴れるが光を纏うロウの両腕は動かない。断末魔の悲鳴をあげる。
「やめろォォォ!!
貴様ごときが、この器を! この力をッ!!」
轟音と閃光。
呪いの祭壇は砕け、光の祭壇へと産まれ変わる。魔王はレイの身体ごとその祭壇の“封印の棺”の中へと引きずり込まれた。
ロウもまた、光を失いその肉体が崩れ落ちていく――
(レイすまない……いつか……必ず……。
祭壇には静寂だけが残る。
血も、肉も、魂も、全てが光と闇に飲まれ消えていった。
ーミルテ村カミナの部屋ー
……意識の奥で、カミナが眠っている。
ボルトは、久しぶりに自分だけの感覚で目を覚ました。静かな部屋――母親の気配もない。
(……夢、か。いや、違う。“記憶”だ)
(あのとき、俺は――確かに魔王を封印した……レイの身体ごと……)
自分の意識が“赤ん坊”に宿っていると理解して、ふと手を動かす。
(……試すか)
赤ん坊のカミナの身体、指をゆっくりと動かす――
その瞬間、人差し指と人差し指の間で、バチバチバチッと、雷光が走った。
(……間違いない。こいつ――カミナも勇者の血を継いでる)
(転生ガチャ大当たりだなヒカル!
この偶然……神の悪戯か、魔王の復活が近いのか?だがこのチャンス!封印された“魔王”……
ヤツが目覚めた時に、
――今度こそ、レイの身体を取り戻す!)
そう誓った瞬間、赤ん坊のカミナが、ふっと意識を取り戻す。
(……いかんいかん、勝手に動かすのはダメだよな)
ボルトはそっと意識をカミナに返し、
再び深い眠りの中へと沈んでいく――。
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