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第一章
1 独りの絶望
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心、それは、人類の歴史のある時点までは、形而上の感覚的な存在であったが、その実態は"粒子"であった。
心を込める、という言葉は、まさに物質としての心を対象に注入することである。
人の"心"が込められたものは、そうでないものより、得てして特別なもののように感じられるが、それは人間の感覚的なものではなく、じつは物理的にも事実であった。
すなわち、心がこめられたものは、そうでないものより、その存在が優位する。
人間の心によるこの能力は、のちに「鼓動」と呼ばれるようになり、「波動」、そして「律動」、これらの術と合わせて、戦争のあり方を変えていった。
(死にたい・・・死にたい・・・)
艦内居住区の三段ベッドの一番下、寝台と寝台に挟まれた狭い空間で、カウル=ハウンドは身を丸めて縮こまっていた。
白銀の髪は、──普段さえ癖が強くぼさぼさにはねているのに──頭を抱える両の手のひらでさらにぐしゃぐしゃになり、淡い水色の瞳は、瞬きを忘ればっちりと見開かれている。
カウルが乗っている艦──ミズホ級一等巡洋艦"アマネ"は、敵の駆逐艦隊を撃滅するべく、敵国の海上交通路を目指し西へと向かっていた。
後ろに僚艦である、二等巡洋艦"サクラ"を従え、前衛として二隻の駆逐艦"カザキリ"と"シブキ"が先行する。
一兵卒のカウルには詳しい説明まではされていない。だがなにやら、敵の海上交通路を寸断すべく派遣されている母国の潜水艦が、ここ最近、敵の駆逐艦に立て続けに沈められているらしい。
この艦隊はそれを排除すべく編成された部隊であった。
もうすぐ、戦いが始まる。
カウルのいる静寂な居住区の一室は重く苦しい空気に満たされている。
実戦が近づく緊張。人による物音はない。艦の低部にある缶室が発する低い機関音だけが伝わってくる。
(死にたい・・・死にたい・・・)
カウルは絶望していた。
戦いがはじまったら、どうなるのだろう。次の瞬間、顔面を銃弾に撃たれて死ぬのだろうか?砲弾の爆発に半身を吹き飛ばされるのだろうか?
恐怖がカウルの胸をきゅっとしめつける。息がうまくできない。苦しい。頭が冷たく重い。
カウルはこの戦争へ徴兵された。
郷里には父と母──大切な家族がいる。しかし、戦況が悪化し、国は徴兵令を出し、心身ともに健康なカウルは兵役を強いられた。
「ううっ・・・」
身を丸め、握り合わせた両の拳に額を押し付け、カウルが呻く。その声は誰にも届かないほどに小さい。
寝ていたのか、目をつむっていただけなのか、どちらともわからない浅いまどろみのうちに時間は過ぎ、起床のベルが鳴った。
心を込める、という言葉は、まさに物質としての心を対象に注入することである。
人の"心"が込められたものは、そうでないものより、得てして特別なもののように感じられるが、それは人間の感覚的なものではなく、じつは物理的にも事実であった。
すなわち、心がこめられたものは、そうでないものより、その存在が優位する。
人間の心によるこの能力は、のちに「鼓動」と呼ばれるようになり、「波動」、そして「律動」、これらの術と合わせて、戦争のあり方を変えていった。
(死にたい・・・死にたい・・・)
艦内居住区の三段ベッドの一番下、寝台と寝台に挟まれた狭い空間で、カウル=ハウンドは身を丸めて縮こまっていた。
白銀の髪は、──普段さえ癖が強くぼさぼさにはねているのに──頭を抱える両の手のひらでさらにぐしゃぐしゃになり、淡い水色の瞳は、瞬きを忘ればっちりと見開かれている。
カウルが乗っている艦──ミズホ級一等巡洋艦"アマネ"は、敵の駆逐艦隊を撃滅するべく、敵国の海上交通路を目指し西へと向かっていた。
後ろに僚艦である、二等巡洋艦"サクラ"を従え、前衛として二隻の駆逐艦"カザキリ"と"シブキ"が先行する。
一兵卒のカウルには詳しい説明まではされていない。だがなにやら、敵の海上交通路を寸断すべく派遣されている母国の潜水艦が、ここ最近、敵の駆逐艦に立て続けに沈められているらしい。
この艦隊はそれを排除すべく編成された部隊であった。
もうすぐ、戦いが始まる。
カウルのいる静寂な居住区の一室は重く苦しい空気に満たされている。
実戦が近づく緊張。人による物音はない。艦の低部にある缶室が発する低い機関音だけが伝わってくる。
(死にたい・・・死にたい・・・)
カウルは絶望していた。
戦いがはじまったら、どうなるのだろう。次の瞬間、顔面を銃弾に撃たれて死ぬのだろうか?砲弾の爆発に半身を吹き飛ばされるのだろうか?
恐怖がカウルの胸をきゅっとしめつける。息がうまくできない。苦しい。頭が冷たく重い。
カウルはこの戦争へ徴兵された。
郷里には父と母──大切な家族がいる。しかし、戦況が悪化し、国は徴兵令を出し、心身ともに健康なカウルは兵役を強いられた。
「ううっ・・・」
身を丸め、握り合わせた両の拳に額を押し付け、カウルが呻く。その声は誰にも届かないほどに小さい。
寝ていたのか、目をつむっていただけなのか、どちらともわからない浅いまどろみのうちに時間は過ぎ、起床のベルが鳴った。
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