吸血鬼に福音を~呪われし地より召喚されたるもの闇に蠢くもの共を殲滅す〜

奈々野圭

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第2話 出会い(2/24 '23 改

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『血の契約』

 ウラトには、吸血したものを支配する力がある。

 とはいえ、それは人間相手の話だ。ヴァンパイアには、ことにヴァンパイアをベースにしたに対して有効であるかどうかは定かではない。

 それであっても、ジェイにとっては『誰が己の主人となるのか』を決める重要なことであった。

 かくして、ウラトの吸血により、ジェイは契約を結んだ。そのジェイに対し、ウラトは次のような命令を下す。

「早速だが、貴様にやってもらいたいことがある。まずは、小手調べといこうか」


***

 ――翌日。昨夜からの雨は止んだ。地面は乾いていたが、所々ぬかるんでいる。夜は更けていた。

 ジェイは伊原邸を出る。車に乗り、アサトの運転で目的地に向かう。

 アサトは運転中、「奴の能力は未知数だ、だから私に奴を任されたのだろう」とジェイとウラトのことで思案する。

 ただ、服装についてのやり取りのとき、ジェイは妙なことを口走っていた。なにより、着せ替え人形扱いされても表情一つ変えない。
 ――何を考えてるかわからない面倒くさい奴――アサトの中で、ジェイはそうなっていた。

「ジェイ。お前に言っておきたいことがある」
 アサトは、助手席に座っているジェイに向かって話しかける。

「私はウラト様からお前の監視を命じられた。いいか、私はウラト様から直接、お言葉を頂いている。
 私の命令はウラト様のものと同一だ。つまり、私の命令を聞けということだ。わかったか?」

「そうか。わかった」

 ジェイは、無表情で淡々と答える。アサトの「主人の命と同一なのだから、自分の言うことを聞け」という言葉は、ジェイにとっては、反発もないが感慨もないようだ。


***

 目的地周辺に着いたので車を停める。これから目的地に向かおうというところで、ジェイは口を開いた。
「なんで目的地の前で停めないんだ?」

 その問いに対して、アサトは呆れた調子でこう返す。
「目的地の前に、車を停めるスペースがないからだ」
 それに対し、ジェイはこう答えた。

「成程、車を圧縮して持ち歩くことができないのか。随分と前時代的だな。ここは私がいたところよりも、文明が二週ほど遅れてると見える」

「お前はもう喋るな」

 ――二人は車から降り、徒歩で目的地へと向かう。

 今は真夜中だ。にも関わらず、マッドシティは喧騒に包まれていた。昼間は営業していない店の看板が怪しく光る。通りには、若者がたむろしている一方で、怪しげな輩もちらほら見られる。時折、客引きと思われるものが、通行人に声をかけていた。

 アサトはそれらのものに目もくれず、目的地目掛けて歩く。ジェイはその後に従う。

 バー『リュクス』の前に来ると、アサトは立ち止まった。ジェイもそれに倣う。

「ジェイ、聞きたいことがあるんだが」
 アサトは入口を指差しながら、ジェイに話しかけた。

「アサト、さっきは『お前はもう喋るな』と言っていたではないか」

「あれは『任務と関係の無いことは喋るな』という意味だ!」
 ジェイは要領を得ない答え方をする。アサトは苛立ちを隠せなかった。

「ここは会員制でな。『ある条件を満たす者』でないと、エントランスから先に進めない。そこで、ジェイ、お前には中に入ってもらう」

「アサトは一緒ではないのか?」

「私は無理だ。何故なら、ここはヴァンパイア専用だからな。お前は厳密に言うとヴァンパイア『ではない』から拒否されるかもしれないが」

「そうなのか。確かにアサトは入れないな。アサトはイヌだし」

 ジェイの唐突なイヌ発言に、アサトは噴き出した。
「誰が犬だ! 誰が! 私はウェアウルフだ! 犬じゃなくて狼だ!」

 アサトに構わず、ジェイは話を続ける。
「イヌはオオカミを家畜化させたものだ。それに、アサトはウラトの命令に従っているんだろう。やっぱりイヌじゃないか」

「やっぱりお前は喋るな!」


***

 ――バー『リュクス』

 ジェイはアサトに改めて「中に入れ」と命じられる。言われるまま、店内に入り、受付に向かう。

「お客様、申し訳ありません。当店は会員制となっておりまして」

 店員は、初来店したジェイに会員証の提示を求める。それに対し、ジェイは店員の目をじっと見つめた。

「……どうぞ、中にお入りください」
 ジェイは会員証を提示していない。にも関わらず、ドアの向こうにあるバースペースの方へ案内する。

 受付には店員が他にも何人かいた。だが、案内した者と同様、すんなりと通した。


 ――向かった先のバースペースはこじんまりとしてはいるが、リラックスできるスペースは十分確保されている。他にも気の利いたBGMがかかってたりして、見たところ一般的なバーと違いはない。

 しかし、グラスに出されている飲み物は全て赤黒い。
 バーカウンターにある収納棚には、申し訳程度に酒瓶が置いてあるくらいで、その殆どが血液パックであった。
 席の方を見てみれば、テーブルにも血液パックが置かれている。

 ジェイはひとまずスペースを一巡する。席は埋まっていたが、誰ひとりとしてジェイに気がつくものはいない。

 いや、気がついたものもいようが、誰も気に止めなかった。というのも、これこそがジェイの『認識阻害能力』だからである。

 ジェイは粗方一巡し、己の存在に気づいてさえいないことを改めて確認する。そこで、ウラトから出された命令を実行することにした。

 まず、ジェイは右手で左手首を引っ掻く。手首には一直線の傷がつき、そこから血が流れる。流れた血は、コウモリに変化した。

 コウモリは、手首から飛び立ち、羽根をバタつかせながら客に近づく。
 例に漏れず、コウモリの存在に気がついている客はいなかった。

 コウモリは、談笑している客の首元に噛み付いた。

「痛っ」
「どうした?」
「いや、なんか首が……」

 噛み付かれた客は、一瞬走った痛みに戸惑い、首に手を当てようとするが――

「うぐっ」

 客は呻き声を上げたかと思うと、体からブチブチという音を立てた。
 その音に合わせるかのように、店内が静まり返る。
 それもそのはず。ブチブチというその音を、人体から発せられるのを聞いたものは、誰一人いなかったのだ。

 ブシャァッ!

 更なる音と共に、客は爆散四散した。辺りを血で染める。臓物もぶち撒けられる。客は床に散乱する肉片と化した。

 店内の客全員、爆発するまでの様子を、固唾を呑んで見守っていた。つかの間、静寂に包まれていたが――。

「何が起こったんだ!」
「ギャーっ!」

 室内に悲鳴がこだまする。和やかな雰囲気から一転、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


 それにしても、なぜ人体が爆散四散したのだろうか。
 爆発物が使われたからではない。体内から一斉に大量のコウモリが湧き出して、身体の内側を突き破ったのだ。

 体内から出てきたコウモリは次から次へと客に襲いかかる。
 客と店員は外へ逃げだそうとするも、コウモリは部屋を覆い尽くさんばかりになっていた。

 彼らは、今まさに大惨事の真っ只中であるにも関わらず、その原因を知ることができないのだ。逃げるのはもはや不可能であった。


***

 ジェイは、店内を見回す。生存者がいないかを確認するためだ。ジェイの目に、動いているものは映らなかった。

 確認は終わった。そう判断したジェイは、コウモリを引き寄せる。
 引き寄せられたコウモリは、ジェイと接触した後、次々と吸収されていった。

 店内は、辺り一面、血の海と化している。肉片やら臓腑やらがあちこちに散乱していた。

 ヴァンパイアというものは、致命傷であっても心臓さえ残っていれば再生できるものである。だが、ジェイはその心臓を完膚なきまでに粉砕した。そのため、再生不可能になったのである。

 コウモリを回収し終えたジェイは、改めて室内を見回す。

 室内には、生存者はいないはずだった――少女が一人、呆然と立ち尽くしている。茶色の瞳を丸く見開きながら。まるで、惨状を焼き付けるように。

 髪はウェーブがかった明るいロングヘアで、前髪は額が出るほど短い。その上にはヘッドドレスを乗せている。

 黒地に白のレースがふんだんにあしらわれたワンピースを着ているのだが、ヘッドドレスはそれに合わせたものだ。

 履き口に白のレースとリボンがついたニーソックスを履いている。その上に履いているものは、黒革で先が丸くなっているストラップシューズだ。

 少女は、所謂ロリィタファッションと呼ばれているような格好をしている。けれど、返り血によって見るも無残な姿になっていた。

 ジェイは少女の方へ向かう。未だ呆然としている少女の前で、認識阻害を解除する。

 ジェイの存在を認めた少女は、姿を見るなり、驚いた様子を見せる。続いて、声を張り上げた。

「これ、全部! あなたがやったのね! どうして、あなたは私を殺さなかったの! 私だってヴァンパイアよ! どうして...…」
 少女の叶声は嗚咽に変わり、泣き出した。

 ジェイは涙に暮れている少女を見ている。相も変わらず無表情であった。
 ふと、少女の顔を覗き込んだかと思うと、その前に屈む。
 手で少女の顔を挟むように持ち、向きを変える。

 そして、喉元に噛み付き、吸血した。

 粗方吸い取ると、喉元から口を離す。今度は自らの手首に噛みつき、傷をつけた。手首からどくどくと血が流れる。

「飲め」
 少女は、血を吸われ、意識が朦朧としている。ジェイはそんな少女に、血が流れている方の手首を差し出した。

 そう命じられるも、少女は血が流れている様を、ただ見ているだけだ。

 血を飲もうとしない少女に痺れを切らしたのか、ジェイ手首を少女の口に押し付ける。
 少女は手首から流れる血を飲んでいく。

 ジェイは少女が自らの血を飲んだことを確認した。しばらくして、手首を少女の口から離す。

 口から離した瞬間、少女は一瞬身体をビクッとさせる。そのまま気を失い、後ろの方に倒れ込んだ。
 ジェイは気を失った少女を抱え、室内を後にした。


***

 店の外で待っていたアサトは、予想以上に早く出てきたジェイに驚く。それと同時に少女を抱えて出てきたので思わず激昂した。

「その娘はなんだ。店にいたのならヴァンパイアじゃないのか。なんで殺さなかったんだ! ウラト様から、『店内にいるヴァンパイアを全員殺せ』と命じられてただろうが!」

 アサトはいきり立っている。対してジェイはこう答えた。

「似てるんだ。彼女はリリーにそっくりなんだ」
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