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第一章:route蓮子
03:口づけは甘く?
しおりを挟む「虎次郎様、お帰りなさいませ」
てっきりどこかのアパートか、本当に事件らしく山奥とか廃屋にでも連れていかれるのかと想像していたのに、車が到着したのは、塀の高い広い敷地内にある立派なお屋敷だった。
最初こそ、私が思っていたよりも悪い展開にはならないのかもしれない等と考えたが、車を降ろされれば、そこにはスーツ姿の方々かずらっと並んでお出迎えをしていたので、これは違う方向で新たな事件のにおいを感じた。
売り飛ばされそうである。
「蓮子様、お待ちしておりました」
そのうちの一人に声をかけられ、既に私を売り飛ばす段取りは出来ているんだろうなと思っていると、その男が急に私の前で跪いた。
「あぁ、なんという事でしょう…。
やっとお会いできた感動をどうお伝えしたら良いのか。
大変長い間お待ち申し上げておりました」
「………」
どうしよう、こいつも様子がおかしいぞ。
予想外な方向で私を惑わすのは本当にやめてほしい。
もう色々と考えすぎて、頭も心も疲れ果てている。
「風吹、蓮子は疲れている。部屋へ行くからお前はもう下がれ」
「かしこまりました、虎次郎様」
「それでは蓮子様、何か御用の際はいつでもお呼びつけくださいませ」
そう言ってホテルマンのように綺麗な礼を見せた後、彼は屋敷の奥へと消えていった。
口をぽかんと開けたままの私は気づけば腕を引かれ、立派な玄関をあがり、長い廊下を歩かされる。
とても広いこの家が一体何なのか分からないが、この男がここの主らしい存在であることは、何となく理解した。
そして一段と豪華な襖を開けると、だだっ広い畳の間が現れた。
価値は全く分からないが、なんか高そうな絵やら壺やらが飾られている。
「蓮子、今日からここがお前の部屋だ」
「………は?」
もう成り行きに身を任せる以外に私のとれる行動はない。
敵の陣地内に放り込まれているのだ。簡単に逃げられる場所ではない。
「何か必要なものがあれば、すぐに用意させるから言ってくれ」
だがしかし。やはり、こいつによる拉致事件なのは間違いなく。
車に乗せられてからここに来るまで、あまりにも急に場面が変わってそれに着いていくのが精いっぱいだった。
今、やっと少しだけ冷静に、自分が何をされているのかを考える。
彼はここが私の部屋だと言った。
ここで過ごせという事だ。
え、監禁じゃん?
この先どうなってしまうのだろう。
思い出せ、思い出せ、あの日飲み屋で一体何があったのかを。
ちょっとイケメンだからって何をしても許されるわけが、
と色々考えているところに男が目の前へと近づいてくる。
瞬間、手を伸ばされ、恐怖を感じた。
思い切り目を閉じて、顔をそむける。
恐怖で震える身体をどうにか鎮めようとするけれど、手のひらまで伝わるその震えは更に恐怖心を呼んだ。
「………」
私に触れようとしていた手は、寸前でピタリと止まり、
来ると思っていた衝撃がこない事に目を開けば、男は困った顔をしていた。
「唇を噛むな、傷がつく」
そう優しく言って、悪かったと告げた。
「強引なやり方なのは分かっている。だが、もう手段は選んでいられない。俺は十分に待った。これ以上は無理だ」
「……何が目的なの…?」
拉致したかと思えば、謝ってくる。
これはあれか、ヤンデレとかそういうやつか。
台詞の選択を間違えるとやはり行きつくのはバッドエンドなのか。
「言っただろう?俺と結婚しろと」
あぁ、振り出しに戻ってしまった…!
もうこれは大人しく頷いて隙を見て逃げる、それが一番ベストな方法なのではないだろうか。
いや、待て自分。こんな広いところから、本当に逃げられるとお思いか?
なんかスーツの怖い人たちもいっぱいいたし、見つかったら即売り飛ばされるんじゃ…。
「まぁ、今日はお前を連れ帰れただけでも大前進だ。
疲れただろう、夕飯はお前の好物を用意させるが、その前に風呂がいいか?」
上着を脱いで、ハンガーへとかける仕草に何故だかもやっとした気分になっていると、
空いていたハンガーを手に取り、今度は私にも上着をかけるかと聞いてきた。
「いえ…大丈夫です」
「はは、敬語か。改めて、お前に敬語を使われるとは新鮮だな」
「ずっと敬語ですけど」
「前は違っただろ?」
前って飲み屋か!?
だから覚えてないんだよ!!!!
「あぁ、そうだ。その前に、一つ確かめないといけなかったな」
「確かめる…?」
「我慢はする。でもこれは許せ」
「え、…んっ……!!」
何が起こったのか考える暇もなかった。
急に腕を引かれ、抱き寄せられ、声をあげる前に口づけられた。
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