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第十二章 放浪編

第31話 単性の国

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「起きて!
 起きてください!」

 少年の声で目が覚める。
 どうやら彼は俺を起こそうと、身体を揺すっていたらしい。
 どこかで見たことあると思ったら、彼は俺をこの部屋に案内した少年だった。

「ああ、お早う」

「外はもう暗くなっています」

 確かに、部屋の天井に灯りがともっている。
 丸い照明器は、地球の明かりを思いださせた。

「大尉が、お食事をご一緒なさりたいということです」

「ありがとう。
 顔だけ洗うからちょっと待ってね」

 洗面台がないので、シャワーで顔を洗う。
 足元が濡れたので、火魔術で乾かしておく。

「では、ご案内します」

 薄暗い廊下を少年の後ろについて歩いていく。
 コツコツという、二人の足音だけがドアが並んだ廊下に響く。 
 あるドアの前で少年が立ちどまり、ノックをした。
 どうやらこの世界にもノックの習慣はあるようだ。

 八畳ほどの部屋に入ると、かなり暗い照明の下でヴァルム大尉がテーブルに着いていた。
 テーブルの上には、光沢のある白い素材でできた角皿が二枚置いてあり、その上にウエハースのようなものが一つずつとチューブ二本ずつが載せてあった。
 
「口に合うかどうか分からないが、それを食べてくれ」

「ああ、ありがとう」

 ヴァルムは、ウエハースに片方のチューブから捻りだした黄色いペーストを乗せて食べはじめた。俺も見よう見まねで食べてみる。

『(>_<) まずーっ!』
  
 俺と感覚を共有している点ちゃんが驚くほど、それはまずかった。
 これではグルメ嗜好のブランなど見向きもしないだろう。

「口に合わなかったようだな。
 まあ、これが旨いと言うのは、ドマラくらいだろう」

 ああ、俺に突っかかってきた小男か。これが旨いなんて、俺とは気が合わないはずだ。

「君は自分が異世界から来たと言っていたが、どんな世界から来たんだ?」

 うーん、これは本当の事を伝えない方がいいな。

「俺がいた世界は、『鬼ヶ島』という場所があって……」

 色んな物語を合体させて、適当な場所をでっち上げた。

『(・ω・)ノ ご主人様、適当過ぎる』

 まあね、シンデレラが自分の妹っていう設定は、俺もどうかと思うよ。

「なるほど、君の妹は王子と結婚したのか。
 君はその国でかなり高い身分だったんだな」

「ま、まあ、まあまあ」

『(・ω・)つ ご主人様、「まあ」しか言ってないね』

 まあ、この際しょうがないじゃん。

 ウソがばれない内に、こちらから質問しとこう。

「そういえば、この世界に来てから女性の姿を見ていないですね」

 俺の何気ない質問は、しかし、ヴァルムの顔色を変えさせた。
 食べかけのウエハースを放りだし、ガタっと立ちあがった彼は、鋭い目で俺を睨んでいる。

「急にどうしたんです?」

 俺の言葉で、彼は首を振りながら席に座った。

「そうか、君は異世界から来たのだったな。
 異世界では、『劣性』と一緒に暮らすことがあると聞いたことがある」

「ええと、その『劣性』ってなんですか?」

「異世界では、『女』と言われるヤツらだ」

「ええと、どういうことでしょう?」

「我が国が現在戦っている相手、ウエスタニアは『劣性』だけが暮らす国なのだ」
 
「ということは、この国は――」

「そうだ。
 このイスタニアは『優性』、異世界で言うところの『男』だけが住む国だ」 
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