笛の音が聞こえてきたら

本の虫

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第1章 小さな街ウィルケイム

2話 笛の音

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目の前のドラゴンは赤っぽい色をしていて、10mくらいありそうだった。ドラゴンが通ってきた道は木が薙ぎ倒されていて、所々が真っ赤な炎で燃えていた。どうやらドラゴンは炎も吐くようだ。

慌てて双剣を掴むも、腰が抜けて立ち上がることすらできない。手足が震えて、思うように動かない。

「くっそ!動け、動け、動けっ!」

必死に動かそうとするも、足はピクピクと痙攣するだけ。

そんな俺の気も知らずに、ドラゴンは俺との距離を詰めてくる。

「何が騎士になりたいだ。日頃どんなにトレーニングしても、肝心な時に立ち上がりもできないんじゃ意味ねえじゃねえか!あのトレーニングはただの自己満だったのかよ!」

そんな風に叫んでいると、自分の顔の真下だけに雨が降ったように水滴なみだがたれる。これが、恐怖によるものなのか、悔しさによるものなのかは、俺にはわからない。

そんな時、どこからかフルートの音色が聞こえてきた。天つ風に乗せられて、俺の耳に流れ込んでくる。聞いたことのないメロディーだったが、とにかくとても綺麗なメロディーだった。まるで、妖精の歌声のような。

いつの間にかドラゴンと俺の間には、3人の騎士たちが悠々と立っていた。1番大柄な男が振り向いて、ニカッと笑ってこう言った。

「泣くんじゃねえ。涙を流すのは、悲しい時でも、悔しい時でも、ましてや怖い時でもねえ。泣いていいのはだけだ!お前はさっさと逃げろ。後は俺たち、騎士に任せな!」
「団ちょー。かっこつけてないで早く殺っちゃいましょう」
「そっすよ。俺もうさっきから血が滾っちゃって」

大柄な男に、かわいいが少し幼い顔立ちの女性と茶髪のチャラい男が話しかける。

そして3人、声を揃えてこう言った。

「「「ほら生きな!」」」

その後俺は無我夢中で家に帰った。

「あら、おかえり」
「ただいま」

母さんの横をすり抜けながら返事した。

自分の部屋に駆け込むと、そのままベッドに飛び込んだ。布団の中で今日の事を思い返す。

「かっこよかったな…」

つい呟いていた。

しばらく感傷に浸っていたが、あそこにフルートを忘れたのを思い出した。

「やべぇ…」

慌ててさっきの場所へ駆けていった。



そこには横たわってピクリとも動かないドラゴンと傷だらけの3人組がいた。団長と思われる大柄な男が、俺の方に気付いてフルートを掲げている。

俺はまたもや走って行った。

「忘れ物だぜ」
「ありがとうございます。皆さん無事みたいでよかったです」
「おうよ。お前フルート吹けんのか?」
「はい、一応」
「ふーん」
「?…。あのー…」
「ん?なんだ?」
「俺…僕をあなた方の騎士団に入れてくれませんか」

そう言うと急に3人共急に大声をあげて笑い出した。俺が恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしていると

「すまん、すまん。んー…。お前、名前は?」
「シフレです」
「年は?」
「10歳です」
「…よし、わかった!8年だ。8年後入団試験を受けに来い。それまで待ってるぜ」
「おっと、団長。もう時間っすよ」
「もうそんな時間か。じゃあまたな、8年後まで待ってるぜ」

そう言うと3人共、いきなり消えてしまった。

「まだ騎士団の名前、聞いてないのに…」

俺は1人、森に取り残された。
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