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27.あの日の出来事(3)
しおりを挟むグリフォンに襲われたときはもうダメかと思った。
馬車の中にも、兵士たちの叫び声が聞こえ、本当に怖かった。
だけどマルスとエルのおかげで何とか生き残れた。
と思ったら次は盗賊が現れた。
マルスはグリフォンとの戦いで魔力を使い果たしたと言っていた。
このままでは危ないかもしれない。
でも、私にはどうすることも出来ない。
「神様、マルスを助けて!」
私にできることと言えば神に祈るくらいだった。
すると、突如、馬車の外が騒がしくなる。
何事かと思い、耳を済ます。
「誰だお前は!」
誰かが助けに来てくれたようだ。
しばらくすると、外が静になり、マルスと知らない誰かの会話が聞こえてきた。
「マルス、もう大丈夫なのですか?」
馬車の扉を開け外にでた。
「お嬢様、もうしばらく中でお待ちください。ここらは血で汚れています。」
そこにいたのは、お世辞にも立派とは言えない装備をした貧乏そうな冒険者だった。
しかし、その装備とは裏腹に顔は非常に整っており、その瞳は吸い込まれそうなほど、清く透き通っていた。
婚約者候補達は私を汚い目で見る。
いやらしい目や卑猥な目。
私を権力や金の道具、性欲処理の道具とでしか見ていない。
でも、彼は真っ直ぐな目だった。
まだ穢れを知らない目だ。
そして、とても優しいそうな人だった。
「そちらの方は?」
「彼は、私達を助けてくださった……」
「バルトです。」
彼は微笑みながら名前を言った。
その笑顔がとても可愛らしかった。
冒険者とは思えないほど、優しい顔で微笑むのだ。
「そうだったのですか。本当にありがとうございました。」
私は、感情が高まり、バルトさんの手を握っていた。
「私はアルベルト家のエリナと申します。お礼をしたいのですが、生憎この後外せない用事がございまして……3日後の正午に私の家まで来ていただけないでしょうか。」
「別にお礼などは良いのですが……」
バルト様が断ろうとしたので焦った。
「とんでもありません。バルト様は命の恩人!そんな方にお礼もしなかったとあればアルベルト家にも傷がつきます。ぜひ、お越しください!」
「わ、わかりました。」
バルト様が私の圧に少し押されていたが、気にしない。
「もう1つお願いなのですが、街まで一緒に行って頂けませんか?」
マルスもエルも疲れている。
また、襲われでもしたら困るので、バルト様に付いてきて貰いたかった。
「それぐらいでしたらお安いご用ですよ。」
「ありがとうございます。それでは私は馬車に戻ると致します。」
馬車に戻ると口笛が聞こえてきた。
「ピィー」
どうやら、バルト様が吹いたようだ。
窓から見ていると遠目から狼が来ているのがわかった。
「え……今度は狼……」
狼が襲ってきたのだとおもったが、その狼はバルト様が呼んだみたいだ。
「狼に好かれるなんて……」
狼は人間の気持ちに敏感だ。
心が汚い人には絶対になつくことがない。
狼に好かれるのは、心が清いと言う証でもあると本で読んだことがある。
汚い大人や貴族の息子達と接してきたエリナにとって、バルトのような人とは初めて会う。
ドキドキドキドキ
心臓が激しく脈打つ。
私はこの時、バルト様に恋をしたのだと気づいた。
多分、一目見たときから恋に落ちていたのだと思う。
「バルト様、本当にありがとうございました。3日後またお会いしましょう。」
街に着き、バルト様とお別れだ。
でもまた3日後に会える。
逸る気持ちを抑え家に帰った。
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