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虚像
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第ニ話 「虚像」
序章
気がつくと、麻衣は暗闇の中にいた。
深く、濃く、どこまでも続く黒。足元も、手も、どこにもない。重力すら消えたような、無音の世界。
何かを忘れている気がした。
何かとても大切なもの――名前、声、匂い、あの温かさ。
けれど、思い出そうとすると、まるで心が拒絶するように霧がかかる。
「…まい……」
遠くで声がした。誰かが呼んでいる。懐かしくて、優しくて、でも、どうしてもその顔が思い出せない。
「……たすけて……」
今度は自分の声だった。喉から絞り出したような、乾いた音。けれど返事はない。代わりに、どこからか猫の鳴き声が聞こえた。
「にゃあ」
瞬間、世界が一変する。
目の前に赤い海。黒く焼け焦げた空。
街は崩れ、建物は倒れ、人の形をした何かが血を流しながら笑っていた。
それでも、彼女はその中心に立ち尽くしている。
血に濡れた両手。笑っている口元。涙を流している瞳。
「これは……私?」
次の瞬間、視界が真っ白に染まり、激しい耳鳴りが世界を引き裂いた。
あの声が、また呼ぶ。
「――起きて、麻衣」
麻衣は息を詰めて目を覚ました。
冷たい朝。現実の世界。穏やかな日常。
だが、その夢の余韻は、どこか現実を浸食していた。
手のひらの奥が、まだ何かを握っている気がした。
血のように温かい、何かを
第一章
放課後の風は、どこか甘い匂いがした。春の終わりと夏の気配が交じる、公園の空気。
麻衣は、クラスメイト数人とブランコのそばで笑っていた。
「ねぇねぇ、麻衣、あれ見て!」
ベンチの脇、草むらがざわついている。
好奇心旺盛な友人の一人が駆け寄り、指さした。
そこにいたのは、一匹の子猫だった。
小さく、白く、汚れていて、体を震わせていた。
「うわ、やっば……超ちっちゃくない?」
「てか、死にかけじゃん、これ」
誰かがそう言い、笑いがこぼれる。
麻衣も、笑った。
笑わなきゃいけない気がしたからだ。
その瞬間、軽い音が鳴った。
手の中の石が、草むらに向かって投げられたのだ。
「うわっ、マジでやる?!」
「最低~!」
「ひどーい!」
誰かが騒ぎ立てる。その中に、麻衣の声もあった。
でも彼女の心は、凍りついていた。
(やめて……)
そう言いたかった。
けれど喉がつまったように、言葉は出てこなかった。
「笑顔でいなきゃ。楽しそうにしなきゃ。嫌われたくない」
思考が渦を巻く。猫のうずくまった姿が、胸の奥に焼きついた。
「もう飽きたし、帰ろーぜー」
誰かが言い、自然と集団は動き出す。
麻衣もその流れに乗り、笑顔を浮かべたまま歩き出した。
その背後で、小さな命が静かにうずくまっている。
それに背を向けた瞬間、麻衣の笑顔が、音もなく崩れていった。
(私は、なんで止められなかったの……)
その問いは、心の底に沈み、誰にも聞かれることはなかった。
第二章
夜の公園は、昼とはまるで別の顔をしていた。
街灯の明かりはまばらで、草の香りが湿った空気に溶けている。
麻衣は、足音を忍ばせながら公園の中へ入った。
ランドセルを置いてすぐに戻ってきた。どうしても――あの猫のことが気になって。
(まだ、いるかな……)
草むらに近づこうとしたそのとき、ベンチの影に人影が二つ。
見覚えのある声が聞こえた。
「もう、ちゃんと持っててよ、揺れると怖がるんだから」
「わかってるって。ほら、タオル、これで大丈夫?」
莉子と詩織だった。
二人は、ダンボールにくるまれた小さな子猫を、そっとタオルで包んでいる。
「病院……まだ開いてるかな?」
「調べた。○○動物病院、夜間やってる」
莉子がスマホを見ながら言うと、詩織が頷いた。
二人は、ただ黙って猫の命を守ろうとしていた。
麻衣は、息を殺したまま、植え込みの影に立ち尽くす。
(どうして……私じゃないの?)
視線の先で、猫が小さな声で鳴いた。
その音が、麻衣の胸に深く突き刺さる。
「バイバイ、ここにはもう来ない方がいいよね」
莉子がそう言いながら、猫を抱いて立ち上がる。
詩織がその背を追い、二人の姿はゆっくりと街の明かりに溶けていった。
彼女たちは最後まで、麻衣の存在に気づくことはなかった。
公園にひとり残された麻衣は、震える手で口を押さえた。
声を上げて泣くことも、何かを叫ぶこともできなかった。
そのとき、突如として、空気が変わった。
風が止まり、空間が揺れる。
ベンチの近く、空間がねじれるようにして、光の粒が集まり始めた。
そして、そこに現れたのは――鏡。
縁にはどこか異国めいた模様が刻まれ、中央は黒曜石のように深く光る。
それは、現実のどこにも属さない存在だった。
「未来を見せてやる」
誰かの声が、鏡の奥から響いた。
低く、静かで、抗えない力を孕んでいた。
麻衣は一歩、また一歩と引き寄せられるように近づいた。
鏡の表面がゆっくりと揺れ、波紋が広がる。
その中に、見たこともない――けれど確かに自分の人生が、映し出されていく。
未来①:「逃避の未来」
鏡の中に映ったのは、誰もが羨むような笑顔の麻衣だった。
教室の中央。
明るい声と、可愛い仕草。
麻衣はいつものように、クラスの視線を一身に集めている。
「ほんと麻衣って、完璧だよね~!」
「いっつも元気もらってる!」
麻衣は笑顔で頷いた。
嬉しそうに。楽しそうに。何もかも、うまくいっているように見える。
けれど、それを見ている“今”の麻衣は、知っていた。
これは、あの日、猫を見て見ぬふりをし、何も選ばなかった自分の未来。
(これが……「成功」なの?)
笑い続ける麻衣の表情に、かすかに“ひび”が入っていた。
夜。
スマホの画面に、母からのメッセージが連なっている。
*今日の写真、すごく反応いいわ!
*明日はリボンの色、もっと明るいのが映えるかも!
ベッドに横たわる麻衣の部屋は、どこまでも整っていた。
乱れたものはひとつもない。完璧に“映える”世界。
麻衣は、無表情のまま鏡の前に立った。
「私は……完璧。いつでも笑ってる。みんなに愛されてる」
そう呟く声に、感情はなかった。
誰にも嫌われない。
誰にも踏み込ませない。
ただ“正しい役割”を演じ続ける――。
そしてまた、朝が来る。
笑顔を貼り付け、教室の光の中心に立つ麻衣。
だけど心のどこかで、彼女は気づいていた。
――これは、本当の自分ではない。
「これでいいの。これが、正しい私なの」
鏡の中の麻衣がそう言ったとき、彼女の目から、涙がひとすじこぼれ落ちた。
それを誰も見ていない。
誰も気づかない。
完璧な笑顔のまま、未来の麻衣は、沈んでいくようだった。
未来②:「赦しの未来」
鏡の中に映ったのは、以前よりも静かな麻衣だった。
教室の隅、窓際の席。
誰かの笑い声が響く中、彼女は一人でノートを開いていた。
かつてのように、中心にはいない。
誰も彼女を必要としない。
それでも――彼女は、自分で選んだ道を歩いている。
(あの日、私は……止まらなかった)
猫を見つけた次の日、麻衣は一人で公園に戻った。
そこにはすでに、莉子と詩織の姿があった。
勇気を振り絞って声をかけ、病院へ同行した。
しかし――猫は、助からなかった。
「間に合わなかったみたい。あの子、弱ってたから……」
動物病院の獣医の言葉に、莉子は唇を噛みしめ、詩織は黙ったままだった。
麻衣は何も言えなかった。ただ、ただ悔しかった。
(私が、もっと早く……)
自分を責める気持ちは消えなかった。
けれど、何もしなかったあの夜と、今は違った。
自分の手で“何か”をしようとしたこと。
それがどんなに小さくても、何も変えられなかったとしても――それは確かに、自分の意志だった。
学校では居場所を失いかけていた。
「なんか、麻衣って地味になったよね」
「前の方が好きだったな~」
そんな声もあった。
それでも麻衣は、自分に嘘をつかなかった。
放課後、机の中には莉子からの短いメモがあった。
あのとき、来てくれてありがとう。
あの子の名前、一緒に決めてくれたこと、ちゃんと覚えてるよ。
小さなメモ用紙を、麻衣は大事そうに折りたたんだ。
「私、間違ってなかったよね……?」
鏡の中の麻衣が、誰にともなく呟いた。
その目には涙が浮かんでいたが、同時に、どこかまっすぐな光も宿っていた。
未来③:「カオスの未来」
鏡の中に映ったのは、歪んだ笑顔の麻衣だった。
彼女は今、クラスの片隅でひとりぼっちだった。
誰も近づこうとしない。
ただ、無理に作り笑いを浮かべて、気まずい空気の中で孤立している。
「麻衣、最近なんかおかしいよね」
「なんか、すごく意地悪になった感じ?」
誰かが噂をしているのが聞こえたが、麻衣はその言葉を気にすることなく、強引に笑顔を作り続けた。
それでも、内心ではもう耐えきれなかった。
あの猫を助けなかった罪悪感、莉子と詩織の目に見えた優しさ、そして周りの期待――それらが全て、麻衣を苦しめていた。
「私は、何をしてもダメなんだ」
放課後。
麻衣は公園に足を運んだ。
そこにいたのは、見知らぬ顔の数人と、彼女がよく知っていたはずの莉子と詩織だった。
「ねえ、麻衣、元気?」
莉子が笑顔で話しかけてきたが、麻衣の目は冷たくなっていた。
「何が元気よ。あの猫、結局死んだし、あなたたちもどうせもう私なんて……」
麻衣は言葉が止まらなかった。
「どうせ、私なんか助けたって何も変わらなかった。みんな、私を必要としてない。」
詩織が眉をひそめて、ゆっくりと口を開いた。
「麻衣、どうしたの?そんなこと言わないで。私たちだって――」
「黙って!」
麻衣は叫んだ。
「私は、みんなみたいに優しくできないんだよ!どうせ、私だけが悪いんだ!私が、あの猫を助けなかったから、すべてがダメになったんだ!」
その瞬間、麻衣の中で何かが崩れ落ちた。
涙が止まらなくなり、怒りと悲しみが混ざり合い、全身を支配した。
「あんな猫、どうでもいいじゃない!何が赦しだ、何が助けることだよ!」
麻衣は叫び、怒りをぶつけた。
莉子と詩織は、何も言えなくなった。
麻衣の言葉は、彼女たちの心に深く突き刺さり、何もかもが壊れていった。
その後、麻衣はクラスで孤立していった。
周りの人々は、彼女を恐れ、距離を置き、言葉を交わすこともなくなった。
どこかで麻衣は、思っていた。
「これで良かったんだ」と。
彼女の心は、完全に壊れていた。
それでも、その壊れた心を引き裂くことすらできずに、彼女はただ笑顔を作り続けていた。
その笑顔は、まるで狂気に満ちたように歪んでいた。
「私は、正しいことをしたんだ……」
誰に向けるでもなく、麻衣は呟いた。
その言葉には、何の意味もなかった。
ただ、麻衣の心の中で繰り返し響き続ける虚しさだけが、残った。
第三章
麻衣は公園に立っていた。
あの日、あの猫を助けられなかったことを今でも悔い、心の中で繰り返し問い続けていた。
「もし、あのとき、私が声をかけていたら、あの子は……」
公園の隅には、かつて猫が震えていた草むらが広がっていた。
でももう、そこには何も残っていなかった。
猫も、迷宮の鏡も、すべて消えていた。
あの鏡を覗いた夜から、麻衣はずっと自分の選択に迷い続けていた。
彼女が見た未来には、どれも安らぎはなかった。
「逃避の未来」では、孤独と偽りの笑顔に押し潰され、
「赦しの未来」では、他者との関わりが失われ、心はさらに孤独になった。
そして、最も恐ろしいのは、「カオスの未来」だった。
自分を犠牲にし、他人を傷つけることでしか、自分を保てなかった麻衣。その未来は、破滅の先にしか進めなかった。
「私は、何をしているんだろう。」
言葉が胸に詰まる。
彼女は、もうどこに向かうべきか分からなくなっていた。
その時、ふと目に入ったのは、どこかで見たような鏡だった。
かつて、麻衣が覗き込んだ「迷宮の鏡」が、今ここに立っていたのだ。
その鏡の中から、あの日のように声が響いてきた。
「未来を見せてやる。」
麻衣はその言葉に引き寄せられるように、鏡を見つめた。
そこには、彼女が想像していたものと全く違う光景が広がっていた。
――映し出されたのは、今の自分が選んだ未来だった。
自分がどう生きていくのか、それは他の誰かの期待でもなく、鏡が見せた未来でもない。
麻衣が選ぶ未来。それだけが、真実の答えなのだと。
「私は、どうしたいんだろう……」
その問いに、麻衣は答えることができた。
「助けたかった、あの猫の命を。そう、私も犠牲にならずに、人として……ちゃんと向き合っていきたかった。」
その気持ちが、初めて自分の中でしっかりと形を成した。
そして彼女は、鏡の前から静かに立ち去る。
これからどう生きるのか――それを、もう一度自分の手で選ぶために。
終章
麻衣は再び公園に立っていた。
あの鏡に映し出された未来に、どうしても向き合うことができなかった。
何度も迷い、苦しみながらも、自分の心に嘘をつき続けていた。
(私は、まだ笑っているだけだ)
クラスの中で、麻衣は相変わらず中心に立っていた。
他の誰かに合わせて笑顔を作り続け、「完璧な自分」を演じることが、もはや彼女の日常となっていた。
でも、その笑顔の奥には深い闇が広がっていた。
人々の期待に応えることしかできなくなり、自分を犠牲にしてまで周囲に愛されようとする麻衣の心は、日に日に壊れていった。
「麻衣、今日はどんなことがあったの?」
友人たちの言葉に、麻衣は無理に笑顔を作って答える。
でもその笑顔は、もはや偽りのものであり、心から湧き上がるものではなかった。
「何も、特に……」
その言葉が終わった瞬間、麻衣の胸の奥で何かが爆発した。
彼女は、次第に自分の周りのすべてが虚しくなり、耐えきれなくなっていた。
「どうして、みんなこんなに……私を見ているの?」
麻衣はふと声を上げた。その声には狂気が宿り、彼女自身もそのことに気づいていなかった。
誰も麻衣に気づいていなかった。
莉子も詩織も、もう麻衣が変わってしまったことに気づいていない。
あの猫が亡くなったことで、彼女の心は無理に変わろうとし、しかしそれが間違っていたのだと気づくことなく、麻衣は周囲と自分との距離をさらに広げていた。
「私は……みんなを傷つけてもいいのよ」
そう思った瞬間、麻衣の心には冷たい刃が突き立てられる。
彼女はもはや、他者を傷つけることでしか、自分を保てない存在になっていた。
カオスの幕開け
麻衣は、あの日のように詩織と莉子の前で言葉を発した。
「私なんて、どうでもいいんでしょう?」
その一言から、麻衣の中の歯車が壊れ始めた。
「それなら、みんなも私を見下すのよ!」
麻衣は叫び、理性が完全に崩壊した。
「そんなこと、言わないで!」
詩織が必死に手を伸ばしたが、麻衣は冷徹に彼女の手を振り払う。
「もう、私にはあなたたちなんか必要ない。さよなら。」
麻衣は無表情に告げ、彼女の心は完全に壊れた。
それから、クラスでも次第に麻衣は孤立していった。
誰も彼女に近づこうとせず、麻衣はいつしか暴力的な言葉を吐くようになった。
「私は悪くない、みんなが私をこんなにしたんだ!」
誰も麻衣を理解しようとはしなかった。
彼女の目に宿ったのは、虚無と破壊の光。
そしてその光は、次第に麻衣自身を飲み込んでいった。
終焉
ある日、麻衣は再びあの公園に足を運んだ。
あの日、あの猫が助けを求めていた場所に立つと、何もかもが自分のせいだと思えてきた。
「私、何をしてきたんだろう。どんなに頑張っても、どんなに笑顔を作っても、結局……」
涙が止まらなくなり、麻衣はそのまま地面に膝をついた。
そして、声をあげて泣き出した。
「誰も、私のことなんて分からない!」
その叫びは空しく響き渡り、誰にも届かなかった。
彼女の心は、完全に壊れ、壊れたまま戻らなかった。
麻衣は再び、自分の笑顔がどこから来たのかも分からなくなった。
その笑顔の裏には、深い闇と自己嫌悪しか残されていなかった。
「私は……ただ、みんなの期待に応えたかっただけなのに。」
誰も彼女を理解することなく、麻衣は孤独の中で彷徨い続けた。
そして、暗闇の中でただ一人、笑い続ける。
その笑顔は、もはや誰にも届くことはなかった。
序章
気がつくと、麻衣は暗闇の中にいた。
深く、濃く、どこまでも続く黒。足元も、手も、どこにもない。重力すら消えたような、無音の世界。
何かを忘れている気がした。
何かとても大切なもの――名前、声、匂い、あの温かさ。
けれど、思い出そうとすると、まるで心が拒絶するように霧がかかる。
「…まい……」
遠くで声がした。誰かが呼んでいる。懐かしくて、優しくて、でも、どうしてもその顔が思い出せない。
「……たすけて……」
今度は自分の声だった。喉から絞り出したような、乾いた音。けれど返事はない。代わりに、どこからか猫の鳴き声が聞こえた。
「にゃあ」
瞬間、世界が一変する。
目の前に赤い海。黒く焼け焦げた空。
街は崩れ、建物は倒れ、人の形をした何かが血を流しながら笑っていた。
それでも、彼女はその中心に立ち尽くしている。
血に濡れた両手。笑っている口元。涙を流している瞳。
「これは……私?」
次の瞬間、視界が真っ白に染まり、激しい耳鳴りが世界を引き裂いた。
あの声が、また呼ぶ。
「――起きて、麻衣」
麻衣は息を詰めて目を覚ました。
冷たい朝。現実の世界。穏やかな日常。
だが、その夢の余韻は、どこか現実を浸食していた。
手のひらの奥が、まだ何かを握っている気がした。
血のように温かい、何かを
第一章
放課後の風は、どこか甘い匂いがした。春の終わりと夏の気配が交じる、公園の空気。
麻衣は、クラスメイト数人とブランコのそばで笑っていた。
「ねぇねぇ、麻衣、あれ見て!」
ベンチの脇、草むらがざわついている。
好奇心旺盛な友人の一人が駆け寄り、指さした。
そこにいたのは、一匹の子猫だった。
小さく、白く、汚れていて、体を震わせていた。
「うわ、やっば……超ちっちゃくない?」
「てか、死にかけじゃん、これ」
誰かがそう言い、笑いがこぼれる。
麻衣も、笑った。
笑わなきゃいけない気がしたからだ。
その瞬間、軽い音が鳴った。
手の中の石が、草むらに向かって投げられたのだ。
「うわっ、マジでやる?!」
「最低~!」
「ひどーい!」
誰かが騒ぎ立てる。その中に、麻衣の声もあった。
でも彼女の心は、凍りついていた。
(やめて……)
そう言いたかった。
けれど喉がつまったように、言葉は出てこなかった。
「笑顔でいなきゃ。楽しそうにしなきゃ。嫌われたくない」
思考が渦を巻く。猫のうずくまった姿が、胸の奥に焼きついた。
「もう飽きたし、帰ろーぜー」
誰かが言い、自然と集団は動き出す。
麻衣もその流れに乗り、笑顔を浮かべたまま歩き出した。
その背後で、小さな命が静かにうずくまっている。
それに背を向けた瞬間、麻衣の笑顔が、音もなく崩れていった。
(私は、なんで止められなかったの……)
その問いは、心の底に沈み、誰にも聞かれることはなかった。
第二章
夜の公園は、昼とはまるで別の顔をしていた。
街灯の明かりはまばらで、草の香りが湿った空気に溶けている。
麻衣は、足音を忍ばせながら公園の中へ入った。
ランドセルを置いてすぐに戻ってきた。どうしても――あの猫のことが気になって。
(まだ、いるかな……)
草むらに近づこうとしたそのとき、ベンチの影に人影が二つ。
見覚えのある声が聞こえた。
「もう、ちゃんと持っててよ、揺れると怖がるんだから」
「わかってるって。ほら、タオル、これで大丈夫?」
莉子と詩織だった。
二人は、ダンボールにくるまれた小さな子猫を、そっとタオルで包んでいる。
「病院……まだ開いてるかな?」
「調べた。○○動物病院、夜間やってる」
莉子がスマホを見ながら言うと、詩織が頷いた。
二人は、ただ黙って猫の命を守ろうとしていた。
麻衣は、息を殺したまま、植え込みの影に立ち尽くす。
(どうして……私じゃないの?)
視線の先で、猫が小さな声で鳴いた。
その音が、麻衣の胸に深く突き刺さる。
「バイバイ、ここにはもう来ない方がいいよね」
莉子がそう言いながら、猫を抱いて立ち上がる。
詩織がその背を追い、二人の姿はゆっくりと街の明かりに溶けていった。
彼女たちは最後まで、麻衣の存在に気づくことはなかった。
公園にひとり残された麻衣は、震える手で口を押さえた。
声を上げて泣くことも、何かを叫ぶこともできなかった。
そのとき、突如として、空気が変わった。
風が止まり、空間が揺れる。
ベンチの近く、空間がねじれるようにして、光の粒が集まり始めた。
そして、そこに現れたのは――鏡。
縁にはどこか異国めいた模様が刻まれ、中央は黒曜石のように深く光る。
それは、現実のどこにも属さない存在だった。
「未来を見せてやる」
誰かの声が、鏡の奥から響いた。
低く、静かで、抗えない力を孕んでいた。
麻衣は一歩、また一歩と引き寄せられるように近づいた。
鏡の表面がゆっくりと揺れ、波紋が広がる。
その中に、見たこともない――けれど確かに自分の人生が、映し出されていく。
未来①:「逃避の未来」
鏡の中に映ったのは、誰もが羨むような笑顔の麻衣だった。
教室の中央。
明るい声と、可愛い仕草。
麻衣はいつものように、クラスの視線を一身に集めている。
「ほんと麻衣って、完璧だよね~!」
「いっつも元気もらってる!」
麻衣は笑顔で頷いた。
嬉しそうに。楽しそうに。何もかも、うまくいっているように見える。
けれど、それを見ている“今”の麻衣は、知っていた。
これは、あの日、猫を見て見ぬふりをし、何も選ばなかった自分の未来。
(これが……「成功」なの?)
笑い続ける麻衣の表情に、かすかに“ひび”が入っていた。
夜。
スマホの画面に、母からのメッセージが連なっている。
*今日の写真、すごく反応いいわ!
*明日はリボンの色、もっと明るいのが映えるかも!
ベッドに横たわる麻衣の部屋は、どこまでも整っていた。
乱れたものはひとつもない。完璧に“映える”世界。
麻衣は、無表情のまま鏡の前に立った。
「私は……完璧。いつでも笑ってる。みんなに愛されてる」
そう呟く声に、感情はなかった。
誰にも嫌われない。
誰にも踏み込ませない。
ただ“正しい役割”を演じ続ける――。
そしてまた、朝が来る。
笑顔を貼り付け、教室の光の中心に立つ麻衣。
だけど心のどこかで、彼女は気づいていた。
――これは、本当の自分ではない。
「これでいいの。これが、正しい私なの」
鏡の中の麻衣がそう言ったとき、彼女の目から、涙がひとすじこぼれ落ちた。
それを誰も見ていない。
誰も気づかない。
完璧な笑顔のまま、未来の麻衣は、沈んでいくようだった。
未来②:「赦しの未来」
鏡の中に映ったのは、以前よりも静かな麻衣だった。
教室の隅、窓際の席。
誰かの笑い声が響く中、彼女は一人でノートを開いていた。
かつてのように、中心にはいない。
誰も彼女を必要としない。
それでも――彼女は、自分で選んだ道を歩いている。
(あの日、私は……止まらなかった)
猫を見つけた次の日、麻衣は一人で公園に戻った。
そこにはすでに、莉子と詩織の姿があった。
勇気を振り絞って声をかけ、病院へ同行した。
しかし――猫は、助からなかった。
「間に合わなかったみたい。あの子、弱ってたから……」
動物病院の獣医の言葉に、莉子は唇を噛みしめ、詩織は黙ったままだった。
麻衣は何も言えなかった。ただ、ただ悔しかった。
(私が、もっと早く……)
自分を責める気持ちは消えなかった。
けれど、何もしなかったあの夜と、今は違った。
自分の手で“何か”をしようとしたこと。
それがどんなに小さくても、何も変えられなかったとしても――それは確かに、自分の意志だった。
学校では居場所を失いかけていた。
「なんか、麻衣って地味になったよね」
「前の方が好きだったな~」
そんな声もあった。
それでも麻衣は、自分に嘘をつかなかった。
放課後、机の中には莉子からの短いメモがあった。
あのとき、来てくれてありがとう。
あの子の名前、一緒に決めてくれたこと、ちゃんと覚えてるよ。
小さなメモ用紙を、麻衣は大事そうに折りたたんだ。
「私、間違ってなかったよね……?」
鏡の中の麻衣が、誰にともなく呟いた。
その目には涙が浮かんでいたが、同時に、どこかまっすぐな光も宿っていた。
未来③:「カオスの未来」
鏡の中に映ったのは、歪んだ笑顔の麻衣だった。
彼女は今、クラスの片隅でひとりぼっちだった。
誰も近づこうとしない。
ただ、無理に作り笑いを浮かべて、気まずい空気の中で孤立している。
「麻衣、最近なんかおかしいよね」
「なんか、すごく意地悪になった感じ?」
誰かが噂をしているのが聞こえたが、麻衣はその言葉を気にすることなく、強引に笑顔を作り続けた。
それでも、内心ではもう耐えきれなかった。
あの猫を助けなかった罪悪感、莉子と詩織の目に見えた優しさ、そして周りの期待――それらが全て、麻衣を苦しめていた。
「私は、何をしてもダメなんだ」
放課後。
麻衣は公園に足を運んだ。
そこにいたのは、見知らぬ顔の数人と、彼女がよく知っていたはずの莉子と詩織だった。
「ねえ、麻衣、元気?」
莉子が笑顔で話しかけてきたが、麻衣の目は冷たくなっていた。
「何が元気よ。あの猫、結局死んだし、あなたたちもどうせもう私なんて……」
麻衣は言葉が止まらなかった。
「どうせ、私なんか助けたって何も変わらなかった。みんな、私を必要としてない。」
詩織が眉をひそめて、ゆっくりと口を開いた。
「麻衣、どうしたの?そんなこと言わないで。私たちだって――」
「黙って!」
麻衣は叫んだ。
「私は、みんなみたいに優しくできないんだよ!どうせ、私だけが悪いんだ!私が、あの猫を助けなかったから、すべてがダメになったんだ!」
その瞬間、麻衣の中で何かが崩れ落ちた。
涙が止まらなくなり、怒りと悲しみが混ざり合い、全身を支配した。
「あんな猫、どうでもいいじゃない!何が赦しだ、何が助けることだよ!」
麻衣は叫び、怒りをぶつけた。
莉子と詩織は、何も言えなくなった。
麻衣の言葉は、彼女たちの心に深く突き刺さり、何もかもが壊れていった。
その後、麻衣はクラスで孤立していった。
周りの人々は、彼女を恐れ、距離を置き、言葉を交わすこともなくなった。
どこかで麻衣は、思っていた。
「これで良かったんだ」と。
彼女の心は、完全に壊れていた。
それでも、その壊れた心を引き裂くことすらできずに、彼女はただ笑顔を作り続けていた。
その笑顔は、まるで狂気に満ちたように歪んでいた。
「私は、正しいことをしたんだ……」
誰に向けるでもなく、麻衣は呟いた。
その言葉には、何の意味もなかった。
ただ、麻衣の心の中で繰り返し響き続ける虚しさだけが、残った。
第三章
麻衣は公園に立っていた。
あの日、あの猫を助けられなかったことを今でも悔い、心の中で繰り返し問い続けていた。
「もし、あのとき、私が声をかけていたら、あの子は……」
公園の隅には、かつて猫が震えていた草むらが広がっていた。
でももう、そこには何も残っていなかった。
猫も、迷宮の鏡も、すべて消えていた。
あの鏡を覗いた夜から、麻衣はずっと自分の選択に迷い続けていた。
彼女が見た未来には、どれも安らぎはなかった。
「逃避の未来」では、孤独と偽りの笑顔に押し潰され、
「赦しの未来」では、他者との関わりが失われ、心はさらに孤独になった。
そして、最も恐ろしいのは、「カオスの未来」だった。
自分を犠牲にし、他人を傷つけることでしか、自分を保てなかった麻衣。その未来は、破滅の先にしか進めなかった。
「私は、何をしているんだろう。」
言葉が胸に詰まる。
彼女は、もうどこに向かうべきか分からなくなっていた。
その時、ふと目に入ったのは、どこかで見たような鏡だった。
かつて、麻衣が覗き込んだ「迷宮の鏡」が、今ここに立っていたのだ。
その鏡の中から、あの日のように声が響いてきた。
「未来を見せてやる。」
麻衣はその言葉に引き寄せられるように、鏡を見つめた。
そこには、彼女が想像していたものと全く違う光景が広がっていた。
――映し出されたのは、今の自分が選んだ未来だった。
自分がどう生きていくのか、それは他の誰かの期待でもなく、鏡が見せた未来でもない。
麻衣が選ぶ未来。それだけが、真実の答えなのだと。
「私は、どうしたいんだろう……」
その問いに、麻衣は答えることができた。
「助けたかった、あの猫の命を。そう、私も犠牲にならずに、人として……ちゃんと向き合っていきたかった。」
その気持ちが、初めて自分の中でしっかりと形を成した。
そして彼女は、鏡の前から静かに立ち去る。
これからどう生きるのか――それを、もう一度自分の手で選ぶために。
終章
麻衣は再び公園に立っていた。
あの鏡に映し出された未来に、どうしても向き合うことができなかった。
何度も迷い、苦しみながらも、自分の心に嘘をつき続けていた。
(私は、まだ笑っているだけだ)
クラスの中で、麻衣は相変わらず中心に立っていた。
他の誰かに合わせて笑顔を作り続け、「完璧な自分」を演じることが、もはや彼女の日常となっていた。
でも、その笑顔の奥には深い闇が広がっていた。
人々の期待に応えることしかできなくなり、自分を犠牲にしてまで周囲に愛されようとする麻衣の心は、日に日に壊れていった。
「麻衣、今日はどんなことがあったの?」
友人たちの言葉に、麻衣は無理に笑顔を作って答える。
でもその笑顔は、もはや偽りのものであり、心から湧き上がるものではなかった。
「何も、特に……」
その言葉が終わった瞬間、麻衣の胸の奥で何かが爆発した。
彼女は、次第に自分の周りのすべてが虚しくなり、耐えきれなくなっていた。
「どうして、みんなこんなに……私を見ているの?」
麻衣はふと声を上げた。その声には狂気が宿り、彼女自身もそのことに気づいていなかった。
誰も麻衣に気づいていなかった。
莉子も詩織も、もう麻衣が変わってしまったことに気づいていない。
あの猫が亡くなったことで、彼女の心は無理に変わろうとし、しかしそれが間違っていたのだと気づくことなく、麻衣は周囲と自分との距離をさらに広げていた。
「私は……みんなを傷つけてもいいのよ」
そう思った瞬間、麻衣の心には冷たい刃が突き立てられる。
彼女はもはや、他者を傷つけることでしか、自分を保てない存在になっていた。
カオスの幕開け
麻衣は、あの日のように詩織と莉子の前で言葉を発した。
「私なんて、どうでもいいんでしょう?」
その一言から、麻衣の中の歯車が壊れ始めた。
「それなら、みんなも私を見下すのよ!」
麻衣は叫び、理性が完全に崩壊した。
「そんなこと、言わないで!」
詩織が必死に手を伸ばしたが、麻衣は冷徹に彼女の手を振り払う。
「もう、私にはあなたたちなんか必要ない。さよなら。」
麻衣は無表情に告げ、彼女の心は完全に壊れた。
それから、クラスでも次第に麻衣は孤立していった。
誰も彼女に近づこうとせず、麻衣はいつしか暴力的な言葉を吐くようになった。
「私は悪くない、みんなが私をこんなにしたんだ!」
誰も麻衣を理解しようとはしなかった。
彼女の目に宿ったのは、虚無と破壊の光。
そしてその光は、次第に麻衣自身を飲み込んでいった。
終焉
ある日、麻衣は再びあの公園に足を運んだ。
あの日、あの猫が助けを求めていた場所に立つと、何もかもが自分のせいだと思えてきた。
「私、何をしてきたんだろう。どんなに頑張っても、どんなに笑顔を作っても、結局……」
涙が止まらなくなり、麻衣はそのまま地面に膝をついた。
そして、声をあげて泣き出した。
「誰も、私のことなんて分からない!」
その叫びは空しく響き渡り、誰にも届かなかった。
彼女の心は、完全に壊れ、壊れたまま戻らなかった。
麻衣は再び、自分の笑顔がどこから来たのかも分からなくなった。
その笑顔の裏には、深い闇と自己嫌悪しか残されていなかった。
「私は……ただ、みんなの期待に応えたかっただけなのに。」
誰も彼女を理解することなく、麻衣は孤独の中で彷徨い続けた。
そして、暗闇の中でただ一人、笑い続ける。
その笑顔は、もはや誰にも届くことはなかった。
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