~ファンタジー異世界旅館探訪~

奈良沢 和海

文字の大きさ
5 / 74
~ファンタジー異世界旅館探訪~【前日譚】現実と異世界の狭間

第1話「突然の連絡~慌しく旅立つ」

しおりを挟む
 入広瀬優希いりひろせゆうきは、第一志望の大学に落ちてしまい無気力真っ只中だった。現に今もベッドの上でスマホ片手にゴロゴロしていたが、クラスメイトの書き込みに返信するでもなく放置していた。その割に勉強の合間にイベント周回を重ねたスマホゲームは惰性だせいで続けている辺り罪深いとも言える。

せぬ。もしやこれは何者かの陰謀いんぼう……って、そんな訳ないか」

 第一志望は、県外の国立で偏差値へんさちはそこそこ高いものの入試倍率は1.2倍。第二志望は、なんとなくで受けた地元の有名私立。こちらの学科の倍率は9.7倍だったが、なんと合格してしまったのだ、もっとも補欠合格だったが……。
 ただ少々特殊な学科のせいなのか入学金や授業料、寄付などなど、合計すると結構な金額になる事が後で分かった。
 両親は『お金の事は気にするな』とは言ってくれたが、どうしても気になってしまう。

「やっぱり、どこかで、まだ遠慮えんりょしてるのかも……」

 父親が単身赴任して、入広瀬いりひろせ家の現在の家族構成は、母の優子ゆうこ。妹の彩香あやか。そして優希ゆうきの三人暮らしだ。
 問題は、同居している家族が二人とも女性……なので何かと気を使うというのもあるが、最大の問題は、二人とは家族だが血が繋がっていない、所謂いわゆる義母ぎぼ義妹ぎまいという関係だという事だった。
 母は40代前半、妹は今年から高一という年齢も重要なのだろう。新婚半年で単身赴任となった、実の父からは『俺が居ない間は二人の事を頼む』と言われた。
 きっと男としてという事だろうが、ここに引っ越してきた時に、お隣さんのおばさんから『』と言われた事は忘れてはいない。次の言葉が『お母さんもお綺麗で』だったから優希に逃げ道はなかった。
 未だにご近所からは、姉妹と認識されているらしい。通っていた高校が制服のない私服通学だったのも誤解の元だったのだろうが、スカートを穿いた事も無いし女性らしい色使いの服も着ていなかったはずなのにと優希は思わずにはいられなかった。

 そんな事を考えていると唐突とうとつにドアがノックされ妹に呼ばれた。

「優希さん。田舎のお父さんの方の、お爺ちゃんから電話」

「わ、分かった~」

 階段を上がる音も聞こえなかったが何の気配もしなかった事に驚きながら、一階に下りると家電の保留を解除した。

「はい、もしも…―「おう、久しぶり。今回は残念だったな~」―…し……」

 この豪快さは相変わらずだな~と思いつつ、懐かしくも感じた。

「あ、まあ、うん。お爺ちゃんも久しぶり。それで、何か用? お父さんなら長期出張中だけど」

「ああ、旅館の方が人手不足でな。どうだ手伝いに来んか?」

「えっ、突然どうしたの? 今までそんな事無かったと思うけど」

 ――詳しく話を聞くと、仲居さんなど数人が体調不良で暫く休むらしい。食中毒でも出したのかと思ったが、違ったようで電話の向こうで怒鳴られてしまった。ノロウイルス怖いのに。
 どうやら仲居さんの高齢化と少子化が原因らしい。何故、少子化がと思ったが繁忙期はんぼうきにはバイトに高校生などをやとうのは割と一般的らしい。地方の人口減少や労働力不足は深刻なのだろうか?

「う~ん、取りとりあえず分かった。それで何時いつそっちに……」

「おお! そうかそうか、じゃあ、明日からよろしくな。優子さんと妹ちゃんにもよろしく伝えておいてくれ」

『ガチャン……ツーツーツー――――』

「……と言う訳で急だけど、明日から実家に行く事になったから」

 夕飯を食べながら、家族に報告する。母親の優子には普通に応援されたが、向かい合って座っていた妹は、こちらをじっ――と見つめてくる。思わず目をらしてしまう優希だった。
 その後、あわただしく荷物をまとめ参考書もきちんと詰めて早めに就寝しゅうしんした優希は、次の日、二人の見送りを受けていた。

「お手伝いもあるだろうけどしばらくはあっちでのんびりするといいわ。入広瀬のお爺様によろしくね。お土産はどうするの?」

「ん~、それは駅の売店で買えば良いかな。こっちの名物って何だっけ?」

 母親と話している間も妹はじっと兄を見つめていた。やがて二人の会話が終って優希が荷物を背負うと、妹の彩香と目が合った。

「あれ? 制服着てるけど今日は学校あるの? まだ入学前だけど」

 それを聞いた彩香は、むっとした顔をした後、穴が開くんじゃないかと言う程、優希をにらみ気味に見つめた。

「そんなの優希さんに関係ないです」

 兄妹のディスコミュニケーションに優希は理不尽りふじんさを感じたが、隣の優子さんは物知り顔で笑っていた。
 ――考えて見れば、妹が兄を名前で呼ぶから姉妹だと思われているんじゃないだろうか。そんなどうでもいい事を考えていたせいか、出発の時間がギリギリになってしまった。
 あわてて荷物を背負うと二人に向き合う。

「それじゃあ行って来ます」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

「―――行ってらっしゃい」

 急いで駅に向かう優希の背をずっと見送っていた彩香に母が声を掛けた。

「制服姿、見て貰いたかったんじゃないの?」

「――そんなんじゃない」

 母は若干、呆れながらずっと兄の背を見ている実の娘を微笑ましく見ていたが、玄関を開けると中に入って行った。

「行ってらっしゃい。――お兄ちゃん」

 一人残った彩香は、優希が見えなくなった後もしばらくその背中を追うように見つめ続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~

草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。 勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。 だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。 勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。 しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ! 真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。 これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...