たぶん愛は世界を救う

ももくり

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コトリは囀りまくる

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「…というワケなの」
「…そう…でしたか」

 とかなんとか弱々しく呟いたまま、立ち尽くす浦くんの背中をそっと撫でて。これ以上、日光を浴びていてはシミ・ソバカスの元になると思い、早々にダイニングへ向かう。

 ええ、そうですよ。
 1人のクセして3LDKに住んでいますけど、
 それが何か??

 自慢じゃないが実家は『中林御殿』と呼ばれ、それはもう、べらぼうに広かった。大学進学と同時に1人暮らしを始めた際も、都心の高層マンションの最上階で暮らし。それが社会人になって、親の援助無しで生きることに決めたからと言って生活レベルを下げることがどうして出来ようか?

 職場が戦場なら、自宅は疲れを癒すオアシスだ。そのオアシスの質を落としたくないというのは、建設会社の社長令嬢である私の誇りでもあり、ここを守るためにより仕事を邁進しようという強い決意にも繋がっ…

「あの~俺、暫くここに泊まってもいいですか」

 なぬ??

 ボルドーカラーのバスローブが肩からズリ落ちそうになったがそれにもお構いなしで私は問う。

「はっ?はあ??はああああっ?!」

 えっと、訂正。質問のテイを成していないので、『奇声を発した』としておこう。

「だって、部屋余ってるでしょう?」
「余ってたら、何??どうしてアナタを泊めなきゃいけないワケ??」

 垂涎モノの朝食をテーブルに並べつつ彼は言う。

「だって、酔っていたとは言え、性指南を承諾したからこそ、俺をここに連れ帰ったワケだし」
「ええっ、そうくる??」

「はい、これドレッシングですけど、スプーンで掻き混ぜてから掛けてくださいね。…だったら最後まで約束を守ってくださいよ」
「そ、それはそうかもしれないけど、でも連泊する必要は無いでしょ?一晩限りとかでも…」

 ま、またその猫で羊な顔をするッ!!

「俺、なんか精神的にヤバいんです。だから暫くだけでもいいから…その…、傍にいて貰えないでしょうかね?」

 た、頼られてるうう。それも、全面的にガッツリ頼られまくってるうう。

 …何故かこの状況に興奮し、鼻息も荒くなる私。

「わ、分かったっ。でも周囲には絶対に内緒だよ?!それとウチにいる間、食事は全てお任せします。そのくらいのメリットは有ってもいいでしょ?」
「はい、もちろん喜んで」

 ぱああっと明るく笑うその姿を見て、何となくこれで人生が変わってしまうような、そんな気がしたのだが。どうやらその直感は、間違いでは無かったようだ。





 …………
「浦くん、お帰りなさ~い。ちょっと早く話を聞いて欲しいんだけどッ」
「あ、はいはい。靴を脱ぐからちょっと待って」

 イタリアンレストランの営業時間は
 ・昼の部11:30~15:00
 ・夜の部18:00~23:00。

 その前後に仕込みや後片付けもするから、朝はだいたい9:00頃には出掛けてしまい、夜は早くても深夜0:00頃に戻って来るのだ。そして定休日は水曜のみ。前回はたまたま私が代休で水曜休みを貰ったが、基本土日休なので休みを合わせることも難しく。

 お分かりだろうか?
 2人の時間があまりにも少ない。

 同居生活から既に1週間が経過したが、我らの関係は清いままで。いや、確実にその距離は近づいたと思うが、そっち方面では無く、対人間としてである。

 魔性の女と評判のこの中林コトリちゃんが、男と一緒に住んでいながら肉体関係は無いとか。ほんとにもう有り得ないんですけどっ。

 しかし、そのせいか日に日に信頼関係は深まり、既に私たちは何でも話し合える仲となっていて。今では一日の終わりに浦くんと話をしなければ、眠れないほどになってしまった。

 イケメンで女慣れしたハイスペックな男ならば、きっと見栄を張って本音を話せなかっただろう。でも、目の前のこの男は、それほど不細工では無いが超絶イケメンとまではいかず、最終学歴が調理師専門学校で、両親も小料理屋経営。しかも話し下手で、聞き上手ときたもんだ。

 …とにかく私は毎晩話し続けた。

『チュンチュン、チュンチュン』とそれこそ小鳥顔負けの饒舌さである。その日の出来事を面白おかしく伝えると、浦くんは嬉しそうに聞き耽る。だから私もクッションを抱えながら、何度も何度も隣りに座る彼の顔を覗き込む。例えば私が10回見つめてもこの人は1回しか見つめ返してくれない。

 …それも恥ずかしそうにおずおずと。

 でも、自信満々な男達に慣れていた私には浦くんの反応が逆に新鮮で。こんな風に和んでしまうと、肉体関係とはどんどん縁遠くなり。

「…あのさ、コトリさんの過去の恋愛話を聞かせて欲しいなあ」

 生まれて初めて私に出来た、健全な男友達。

 その彼にそんな要求されてしまった喜びと、更に深夜1時という時間帯のせいか“自分に酔い痴れモード”に突入したらしく。──私は今まで隠していた自分史みたいなものを、延々と語り始めてしまうのだ。

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