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さよならコトリ②~富樫side~
しおりを挟む「中林建設の社長の亡くなった妻…敬子という人が多分、お前の実の母親だと思う。この敬子がとんでもなく美人だったんだと。ってことはどうやら富樫は父親似だな。あはは残念な奴~」
「うるせえ!そういうのはイイから、早く話せ」
たぶん、珍しく俺が緊張しているのを察して、ワザと冗談を織り交ぜてくれたのだろうが。とにかく早く真実を知りたかった俺にとって、それが逆に歯痒く感じてしまったのだ。
「ゴメンゴメン。で、敬子嬢は大学卒業と同時にデキ婚してる。相手は同級生だったみたいだ。ところが妊娠中の浮気で即離婚。わずか7カ月の結婚生活だったんだとさ。
乳飲み子を抱えながらも、どうにか稼ごうと思った敬子嬢はその美貌を活かしてコンパニオンのバイトを始めたらしい。そこで出会ったのが、中林建設の社長だ。
余程、好みのタイプだったんだろうな~、敬子嬢が断っても断っても迫りまくって、『お前の両親や兄弟の職を奪うことも出来るんだぞ』とかなんとか脅して、半ば強引に結婚したんだと。…しかも子供とは縁を切れとさ。
もう分かってると思うけど、この“子供”ってのが富樫、お前だ」
なんだか荒唐無稽な話過ぎて、実感が湧かない。
じゃあ何か?
好きでも無い男に言い寄られた挙句に、俺を捨てたということか??
「仕方が無かったんだ、お母さんを恨むなよ。
今でもスゴイが、当時の中林建設は相当な権力を誇っていて、議員とか警察とかそっち方面にも太いパイプを持っていたから八方塞がりだったんだと思う。しかも社長本人よりもその両親がとにかくクセ者でな。
敬子嬢との結婚は渋々許したんだが、億単位の財産を他人にビタ一文も渡したくないと騒いで、息子であるお前との関係を完全に断ち切れと。戸籍上は勿論、会うことすらも許さなかった。
以上の経緯から、お前は敬子嬢の姉夫婦である現在の両親の養子に納まったらしい。残念ながらその敬子嬢も若くして亡くなり、…あ、そうだ、妹と弟がいるみたいだぞ!
妹は確か…コトリという名前だ」
その時は『へえ』とだけ答えた。
見たことも無い実母が産んだ、自分とは関係の無い世界の話…そんな風に思えたから。残念だが実母はあまり幸せでは無かったらしく、再婚相手の中林は目的の女を手に入れた途端、すぐに飽きてしまったようだ。
愛人を囲った挙句、そちらに長男が誕生。
しかし、あれほど大騒ぎして結婚した母と別れることはバツが悪かったらしく、ああでもないこうでもないと揉めているうちに母が妊娠。
結局、財力にモノを言わせて愛人は愛人のまま、長男は本妻である母が育てることになる。
羽柴は最後にこう言葉を締め括った。
「とにかくメッチャ可愛いらしいぞ、お前の妹。周囲からも愛されまくりで幸せイッパイだとさ」
そっか、幸せだったらそれでいい。俺の存在を知らせるつもりも無いし、このままお互い何の関わりも無いまま一生過ごせばいい。
当時、俺は亡くなった兄の遺品整理をしていて偶然知ってしまったのである。
…その死が自殺だったということを。
そっち方面に聡い羽柴の手を借りてログインした兄のスマホとパソコンの中には、毎日のように上司から受けていた凄惨なまでのパワハラの内容が綴られており。日に日に心を病んでいく兄の姿が、痛いほど伝わって来た。
子供の頃から成績優秀で何でも労せずこなしてしまうスーパーマンみたいな兄が、奴隷の如く罵倒され、時には暴力まで振るわれていたのだ。
就職と同時に1人暮らしを始めていたせいで、誰ひとり家族はその異変に気付けなかった。
…バカだなあ、兄さん。
アンタを追いつめたその上司は、罪の意識なんかこれっぽっちも感じていない。だって、兄さんの同期の女性から聞いたんだ。そいつ、死んだと聞いてこう言ってたんだって。
>これで俺の足を引っ張る奴がいなくなった!
>あー、本当にせいせいしたよ。
しかもダメ押しで笑ってたんだとさ。
…この世の中は優劣で勝ち負けは決まらない。有能でも弱い人間は負けるし、無能でも強ければ勝つんだよ。
胸を焦がす、後悔にも似た痛み。
そんなものを抱えながら、表面上は面白おかしく暮らしていた。
血の繋がった妹と弟とは接点も無く、このまま会えずに一生を終えるはずだとそう思っていたのに。
「中林…コトリ…ですか?」
大学の教育実習先で、担任が挙げた要注意人物。…そこに幸せなはずの妹の名前が含まれており、そのことに俺は激しく動揺した。
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