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27.それから
しおりを挟む──数日後。
「華ちゃん、さあグイッと飲もうか!」
「あー、えっと、ハイ」
どこの会社でもそうなのかもしれないが
12月に入った途端、飲み会ラッシュだ。
因みに本日は取引先のお偉いさん2人を招き、我が社側は総勢5人でもてなす予定だったのだが、さすがは大手。来て早々、業務上のトラブルにより短い滞在となることを宣言し、2時間ジャストで引き上げてしまった。
というワケで、残された我らはまだまだ出てくるコース料理をまったり食している最中である。
けぷ。
あのさー、この時期ってさー、店側が忘新年会に向けて『そろそろエンジンかけようかな』とかいう微妙な時期でさー。まあズバリ言うとあまり手際が良くないんだよねー。だからー、料理が出てくるのが遅いのなんのー(※語尾伸ばし、ここで終了)。
手持無沙汰なせいで、飲むしか無くなってしまうのだが、隣席の田島登志夫(31歳独身・性格に難あり)が女慣れしていない為、何かっちゃあ私にビールを勧めてくる。さっきなんて1口しか飲んでないのに、注いできたからねッ。
わんこそばならぬ、わんこビールかっつうの!
って、犬型ビールを想像しちゃう私って愛犬家!
ワンコビール!ぜひ見てみたい!!
ここでプチ田島情報を伝えておくと、とにかく怒りと笑いの沸点が低い。吃驚するほどツマラナイことで大笑いするし、そして笑っていたかと思うと突然怒り出す。そのキレるポイントは本人以外誰にも分からず、正直言うとあまり関わり合いたくない人物なのである。
しかし、田島さんの反対隣りはお偉いさんがいたため現在空席で、話し相手は私だけ。私の方も端の席なので、これまた話し相手は田島さんのみという状態だ。
長テーブルを挟んだ向こう側では、副社長と清水さんと須賀さんが何やら深刻な話をしており、それに加わろうかとも思ったが、声が遠かったので早々に諦めた。
「華ちゃんって彼氏と別れたんだろ?」
「……」
そんでもってここで返事をしなかったのは、脳内でワンコビールのディティールを細かく妄想していたせいだったりする。
「あれっ、違うの?すげえ女にだらしない彼氏で、浮気されまくって最後には捨てられたと聞いたぞ」
「…んあ」
この曖昧な返事も、脳内でようやくワンコビールの構想が固まったので、次はニャンコビールで妄想してみようと考えた幕間だったせいなのだ。
「あのさあ…いいぜ。俺、付き合っても、別に」
「……」
どうして倒置法なのかが気になって、言葉自体が頭に入って来ない。
「付き合っても、いい」
「あん?」
繰り返し言われたお陰で漸く脳が処理してくれたらしく、私は某ミ●ター・ミニットのキャラに似たその顔をジッと見つめた。
なぜ、そんなに上から目線?
なぜ、こんな宴席で切り出した?
なぜ、満面の笑みを浮かべている?
次から次へと湧き出る『なぜ』よりも、とにかくこの場を上手く収めることで頭が一杯になった私は、無意識のうちに須賀さんへ視線を移してしまったらしい。
だってっ、下手に断ったら、『皆んなの前で恥をかかされた』とか言って怒り出しそうだし!穏便に且つ、キッパリと断わるにはどうすればいいの?!
既に次の彼氏が出来たことにすれば…オウ、それは良いかもしれない。でも、その相手を厳選しなくては。社外の人間にしておこうか、それとも社内の人間に…壮ちゃんはどうだ?いやいや、そんな嘘はスグにバレるし、最終的にはトラブルの素になるだけだぞ。
じゃあ、じゃあ、いったい誰に??
>あー、すんません、華はもう俺のなんで。
>ちょっかい出さないで貰えると有り難いです。
──ほあッ?!
私がピグミースローロリスみたいな目で振り返ると、そこには。
我が敬愛する須賀龍氏が、
そりゃもう爽やかに微笑んでいた。
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