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Cherry Blossom

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 エイゴ。
 
 それはイングリッシュのことでは無く、
 営業第五課のことである。
 
 エイゴの顧客は全般的に古い。何が古いのかと言うと、創業時から取引を行なっている老舗ばかりなのだ。ウチの社長曰く『バブルも不景気も共に乗り越えた戦友の如き存在』とかで、相手方の経営者は一筋縄ではいかない曲者揃いらしい。
 
 それに合わせているからか、こちら側の担当者も自然と古くなってしまう。何が古いのかと言うと、主に年齢だ。驚くことに7人いる営業のうち最年少が46歳、最年長に於いては61歳。トシはくっているが、再雇用で態々残って頂いたほどの逸材なので業務上は問題無く、むしろこちらが学ばせて貰うことの方が多い。
 
 …って、
 さっきから何を揉めているのかしらん?
 
 首を傾げつつもキーは打ったままで、私は前方の2人を見つめた。
 
「ムリですよ。だってアップデート中だし」
「それなら俺のパソコンを貸そう」
 
「それ、近藤さんの席で仕事しろってことですか」
「パソコンをそっちの机に移動させればいいだろ」
 
「他人のパソコンって使い難いです」
「まさか、このまま定時まで何もしないつもりか」
 
 どうやら、営業アシスタントの星野さんがWindowsのアップデートをこのクソ忙しい時間帯に実行してしまったらしい。いやいや、それいつも終業後にしろって言われてるよね?数時間はパソコンが使用出来なくなると分かってて、どうしてやっちゃうワケ?
 
 などと訊こうものなら、
 きっとまた泣かれてしまうに決まってる。
 
 私の名は浅倉美月。
 
 頑張り屋さんの27歳だ。自分で言うなという気もするが、言わなければやってられないのだ。その理由を今から説明するので是非聞いて欲しい。我がエイゴには、7人の営業と2人の営業アシスタントが所属している。私は勿論アシスタントの方で、その受持ち人数はもう1人のアシスタントである星野さんと半分ずつ分担するはずだった。
 
 なのに、私1人が酷使されている。私の受持ちが4人、星野さんの受持ちが3人と課長が明言したにも関わらず、なにかっちゃあ星野さんは『聞いてません』『知りません』『出来ません』の3パターンで拒絶するのだ。もちろん、最初は私も粘った。1年だけとは言え、こちらの方が先輩なのだから、後輩には優しくしなくちゃと手取り足取り指導してあげたのだが。
 
 教えても、覚えない。
 叱ると、泣く。
 電話に出ると、相手を怒らせる。
 お茶くみを頼むと、拗ねて動かない。 
 
 世の中には理不尽なことが少なからず存在する。
 
 その内のひとつがコレだと理解した私は、
 漸く星野さんに対して期待することを諦めた。
 
 周囲を失意のどん底につき落とした張本人は、鋼のメンタルを持つ。ただ座っているだけで一日を終えることは当たり前。珍しく仕事をしているかと思えば、それが他課の若くて素敵な男性社員から頼まれたお手伝いだったりする。ここが最重要ポイントで、星野さんはとにかく外面が良く、エイゴではない人からの評価が異常に高い。そして、広く浅いコネクションを使って私の悪評を流すのだ。
 
 >アサクラさんが私を虐めるの!
 >アサクラさんって全然仕事しないんだよ。
 >アサクラさん、残業代目当てで残ってるの。 
 
 そんな虚言を他課の人間は容易く信じる。それは私に彼等との接点が殆ど無く、社内でも狭い交流しかしていないせいで。その誤った噂を訂正するのは、至難の業とも言える。勿論、星野さんを除くエイゴの人々は真相を知っているが、彼等は年齢層が高いため、若者達と会話すること自体少ないのだ。
 
 それでも過去に最年少(と言っても46歳)の近藤さんが、私の汚名を晴らそうと奮闘してくれたことが有る。しかし、残念ながらそれは星野さんが嘘を重ねたことに寄って早々に頓挫した。
 
 >アサクラさんと近藤さんって、不倫してるの!
 >だからアサクラさんを庇うんだと思う!!
 
 くっそ。
 
 思い出すだけでも忌々しい。あのさあ、近藤さんは愛妻家で、奥さんは8歳も年上なんだよ。こんな乳臭い女なんか相手にしないっつうの。そう反論したかったが、出来なかった。何故なら彼女からの報復が怖い。人間という生き物は悪意に弱く、私にとって星野さんの悪意はとてつもない脅威だったのである。
 
 勿論、爪痕も残さずに諦めたワケでは無い。過去にはエイゴの総意として彼女の異動を要請したことも有る。それが無理なら増員して欲しいと言ってみたことも。しかし、部長の承認が下りない。恐ろしいことに星野さんは部長を篭絡しているらしく、我らの不満は蓄積される一方だ。
 
 
 
 
「なるほどですね!了解です」
「ガースー、有能~、好き~」
 
「…!またそんな冗談をッ」
「きゃはは、ガースーったら真っ赤。純情かッ」
 
 1回の説明で理解して貰えることが、これほどまでに嬉しいのは、たぶん星野さんのお陰かもしれない。きゃっほう、若い、若いよ!皆さん、エイゴにピッチピチの若者が加わったんですッ!!
 
 菅野 正道すがの まさみち
 通称:ガースー。
 
 話せば長いことながら、最年長の大垣さんの奥様が大病を患い、その看病をしたいという理由で突然の退職宣言。その代わりに入ってきたのがこのガースー。若いと言っても私と同じ年齢だけど、有能な大垣さんの後釜なだけあってこの男、仕事がデキルのなんの。しかも顔もそこそこ整っているんだな。
 
「でも本当にエイゴに来てまだ半年なのに、馴染んでるよねガースーって」
「前職も営業でしたから。慣れですよ、慣れ」
 
「ウチの会社、あまり中途採用しないのに。何かコネでも有ったの?」
「うーん、コネと言ったら、コネになるのかなあ」
 
「何よ、思わせぶりな言い方しちゃって」
「いやいや、そっちこそ。男心を弄ぶのは止めてくださいよ」
 
 配属されたその日のうちに、擦り寄って来た星野さんを撃退したせいで、瞬く間に根も葉もない噂を流されてしまったものの、それを憂うことも無く。むしろ他課の若者達の苦言や甘言に流されず、ひたすら仕事に取り組む姿勢にはついうっかりホレてしまいそうだ。
 
 って、ホレないけどね!
 
 こう見えて、仕事がやりづらくなるから職場に恋愛感情は持ち込まない主義なのだ。そうでもしないと、こんな夜10時に男と女が2人っきりで仕事なんか出来ないでしょ?
 
「で、送信っと。この報告書、上期と下期で年2回、必ず提出してね」
「はい。って、あ!もうこんな時間か。付き合わせて申し訳ありません」
 
「そんなの気にしないで。これでひと通り覚えたはずだし、次からはもう大丈夫でしょ?」
「ええ、お陰様で。ほんと浅倉さんには感謝しか無いですよ。そうだ!今から御礼に奢らせてください。一緒にご飯を食べに行きましょう」
 
「別に奢られる様なこと、してないし。あ、でも食事は一緒に行こう」
「やった!何か食べたいもの有りますか?俺、いい店を知ってますよ」
 
 会社を出て、ビジネスモードからプライベートモードに切り替えた途端のぎこちなさが妙に心地いい。ああ、忘れかけていたモジモジだ。自分をよく見せようとして、自然を装っているけど、意識していることがバレバレなのが堪らない。
 
 ううっ、いいわ、いいわ!
 
「えと、あの、浅倉さんって休日に何してます?」
「掃除とか洗濯かなあ。あと、買い物とか」
 
 さり気なく彼氏いませんアピールをしてますよ。
 
「あは、俺も似たようなものだな。ヒマでヒマで」
「ヒ、ヒマなんだ?」
 
 たぶんこれはガースーも彼女いませんアピールをしているに違いない。…だとすれば、休日に誘って欲しいと遠回しにおねだりされているのか?いやいや、ここは男らしくソッチから誘っておくれよ。
 
「…浅倉さんって、確かパンが大好きで休みの日によくパン屋巡りをしているとか言ってましたよね。俺、車持ってるんで、出しますよ。そしたら遠方のパン屋にも行けるでしょう?イートインコーナーで一緒に食べれば、パンもシェア出来るし、そうすればより多くの味を楽しめるからお得だと思いません?浅倉さん、細いのに結構よく食べるのは知ってますけど、あ、この前なんて昼にパンを5個も食べてましたよね。それも、デニッシュ系の甘いのばっか。あれ見てて思ったんですけど、もしかして浅倉さんってチェリーが好きじゃないですか?いつもそれが乗ったパイっぽいの食べてるし」
「チェ、チェ…リー…が、好き?」
 
 いかん。ガースーはそういう意味で言っているんじゃないのに、自分の心が汚れているせいか『童貞が好き?』にしか聞こえないッ。
 
 童貞は好きでも嫌いでもありません。
 でも、貴方は絶対に童貞じゃないよね?!
 
「じゃ、今度の土曜に行きましょうかパン屋巡り」
「あ、うん、お願いします」
 
 もじもじ。
 もじもじ。
 
 一気に話し終えたガースーは、満足気に黙ってしまい。私も脳内で童貞のガースーと絡む妄想を繰り広げていたせいで言葉を発することが出来なくなっていた。
 
「あ、この店ですよ。昼はカフェやってて、夜はバーに形態を変えるんですけど、食事メニューはいつでも注文OKでしかも美味しいんです」
「へえ、なんかお洒落な感じだね」
 
 時間も時間なので、あまりガッツリ食べると太ってしまう。ここならばきっと程好い量のシャレオツな料理が出てくるのだろう。…そんなことを思いつつも、店員に奥のテーブルへと案内される。隣りのテーブルには煌びやかな女性グループがいて、その中の1人と目が合った。見覚えの有るその人は、確か営業第一課の女性社員だった気がする。
 
 >ねえねえ、アレでしょう?
 >エイゴの給料泥棒って。
 
 >あ!シッ、聞こえるよ。
 >でもまあ、いいっか!ほんと酷いよねー。
 >可哀想、星野ちゃん。
 
 相変わらず、私の評判ときたら散々だな。
 
 怒りを通り越して、悲しいという感情が浮かび。続けて、ガースーにこんな話を聞かれて恥ずかしいと俯いた途端、目の前の男が立ち上がった。
 
 ガタッ
 
「へ?何、ガースー、どしたの?」
「もう、我慢出来ないんです」
 
 動揺する私を置き去りにして、ガースーは笑顔で女子達に近寄って行く。
 
「あの、営業第一課の御園生さんと山本さんと奥村さん、それに清水さんですよね?俺、エイゴに新しく入った…と言っても既に半年経ってるんですけど、名前は菅野といいます。せっかくですから、御一緒しませんか?」
 
 う、えええええっ?!
 ガースー、勇者だな。
 
 しかし、さすがは爽やかイケメン。すんなり了承されて、6人掛けのテーブルにちゃっかり腰を下ろしたかと思うと、何故か私を手招きしている。
 
「浅倉さん、早く!こちらの美女達と仲良くなりましょうよ」
「え」
 
 女子達の戸惑いはごもっともで、内心、同情しつつもノロノロと席を移動する私。なんだよ、仕事で疲れてるのに、更に疲れさせられるってこと?いったい何を考えているんだ、この男は。
 
「皆さんに、お話したいことが有ります!」
 
 そう言ってガースーは、カバンの中から『星野ゆかりの勤務実態』などというストーカーも吃驚なデータ資料を披露し。ついでに私の頑張りっぷりも称賛した上で、部長と星野さんが不倫関係に有る証拠画像をババンとテーブルに叩き付けた。
 
 >きゃあ、部長がゆかりちゃんの肩を抱いてる!
 >嘘!これラブホテルに入ってくとこよね?
 >やだ、こっちは営業第三課の木戸くんじゃ?
 >まさか3P?
 
 >ちょ、怖いよあのコ!
 >うわあ、経理部の岩根のオッサンとも寝てる!
 >それでか~、いつも金回りがいいと思った~。
 >キモーイ、頭おかしー。
 
 呆気ないほど簡単に、女子達は手の平を返し。その翌日には営業部全体にその話が広がり、更にその翌々日には社内全体に浸透してしまった。
 
 
 
 ──そして、事件は起こったのだ。
 
 
 
 バッシーン!!
 
「痛っ」
「当然でしょ!あんな根も葉もない嘘を広めてッ」
 
 星野さんに叩かれた頬が、ジンジンと熱い。
 
 嘘じゃなくて事実だし。
 そして、広めたのはガースーだよ。
 
 そう反論したいけど、出来ない。
 
 それは悪意が怖いからではなく、動揺しまくっているせいだ。だって、ここは仕事をする場で、そんな私的な怒りをぶつけるのであれば終業後の人目に付かない所で私を呼び出せば良かったのに。それすらもせずに、朝礼が終わった直後にいきなり喧嘩を吹っかけてくるから、営業部の全社員がこちらを見ているんですけど。
 
 私達、注目の的だってばッ。
 
 すぐエイゴの面々が飛んで来て、まずは近藤さんが星野さんを羽交い絞めにし、残りの人々は私の盾となってくれている。そこに響く朗々たる声。
 
「アナタはいったい何を言っているんだ?!」
「な、何って何よッ」
 
 絶対、ガースーに違いない。見たい、なのに見えない。こんなこと言って恩知らずと思われるかもしれないが、正直、エイゴのオジサン連中が邪魔だ。前が見えないせいで状況が分からないではないか。
 
「あの話なら浅倉さんじゃなく、俺が広めた!それに嘘じゃなくて事実だ!」
「なっ、私がッ、部長と不倫なんかするはずないでしょう!いいわ、クビよ!たかが平社員のクセに、上司を貶める嘘を広めたらどうなるか、思い知ればいいッ」
 
「思い知る?」
「そうよ、思い知りなさい!」
 
 ガースーを守らなければ!そう思って前に出ようとするが、壁状態のオジサン連中に阻まれる。
 
「あはは、面白いことを言う人だなあ」
「煩い!平社員のくせにッ!早く私に謝れ!」
 
 ビヨンビヨンと首を伸ばすけど、やっぱり見えない。誰かガースーを助けて!このままじゃ彼、この会社を辞めさせられてしまう。…と思ったその時に、近藤さんが言葉を発した。
 
「あのさ星野さん。この人、平社員じゃないよ」
「え?」
 
「菅野って名前でピンと来ない?ああ、キミは来ないか。我が社のことには全然興味無いみたいだからね。社長の名前は菅野正幸。そしてキミの前にいるのは菅野正道。そう、血の繋がった実の親子だよ」
「は?」
 
「だから、この人、次期社長なんだってば」
「まさか?」
 
「ほんとほんと。大学卒業後にすぐ同業他社で修業してたんだけどさ、急遽呼び戻されたんだ。奥さんの看病の為に辞職を決意した大垣さんが、キミとキミを取り巻く人間を排除して欲しいと社長に直訴してくれたお陰でね。だからもう、観念しなよ。ウチの会社、かなり有能な弁護士とそのお抱えの調査員が在籍してて、証拠は上がってるみたいだから。ほらキミ、経理部の社員を唆して横領もさせているだろう?それも含めて全部ね」
「ぜんぶ…」
 
 ガクリと膝を崩して星野さんは前のめりで倒れ。
 その後、営業フロアは大騒ぎとなった。
 
 
 
 
 ──その数日後の土曜日。
 
「ねえ、どうして教えてくれなかったの?」
「敵を騙すにはまず味方からって言うだろ?」
 
「やだもう、このパン美味しい」
「ほら、やっぱり浅倉さんはチェリーが好きだ」
 
 新商品のダークチェリーデニッシュを食べながら、私は頬を真っ赤に染めていた。だから童貞って意味じゃないんだってば、堪えろ、私!
 
「あのさあ、俺、童貞じゃないから」
「うっ、ぐっ、ぶっふおっ」
 
 自分でも驚くほど豪快に口からチェリーが飛び出て、その大半がガースーの白いシャツに付着した。
 
「あーっ、もう、汚いなあ」
「ご、ごめ、ごめんなさいいい」
 
 休日モードのガースーはタメ口で、いい感じに和んでいたのに。それが一転、緊迫した雰囲気になってしまったではないか。
 
「このシャツ、気に入ってたんだけどな。一点ものでもう入荷しないらしいから、早く洗わないと」
「じゃあ、ぜひ私に洗わせて!」
 
 パン屋のイートインコーナーでは脱げないよと返答され、仕方なく場所移動したのだが。まさかいきなりガースーの高級マンションに連れ込まれるとは、予想もしていなかった。
 
 
 
 
「ねえ、俺が童貞じゃないと証明させて」
「いや、最初から疑ってないから!」

 洗面所でシャツを手洗いしていたらブラウスに水が飛び、手が泡だらけの私を気遣って親切なガースーがタオルで拭いてくれた…まではヨシとしよう。しかし、その後がおかしい!タオルを持った手がブラウスの内側へと入り込んで、更にブラのホックを外され、背後から胸を掴まれた時点でさすがに私も首を傾げるっての!おいこら、何してんだ?!
 
「俺、浅倉さんが好きなんだ」
「うっ、それは、どうも」
 
「思ったとおり素っ気ない。やばい、最高…」
「最高?」
 
「俺、小さい頃からモテモテでさ、媚びられまくりの人生だったの」
「それはようござんしたね」
 
「浅倉さん、俺のこと普通に扱ってくれるから、一緒にいてスゴク楽しい」
「へえ、そうなんだ?」
 
「今まで付き合った女、皆んな俺のことチヤホヤするんだもん。なんか対等じゃない関係って、つまんなくない?」
「いや、別に私だってプライベートで素敵な男性がいたら、態度変えるよ。でも仕事だったじゃん。イケメン様に気を遣ってたら仕事が捗らないし、捗らないと自分が苦しむことになるでしょ。だからなるべくビジネスライクにいこうと心掛けてただけなんだけど。そっか、仕事を頑張ったお陰で彼氏が出来ちゃったか。あはは、こりゃ愉快だ!」
 
 ガシッ
 
 …と、ガースーの両手が私の顔の向きを変え、強引にキスしてくる。
 
「彼氏にしてくれるの?」
「彼氏にしてあげちゃう」
 
「じゃあさ、御礼に社長夫人にしてあげるよ」
「ええっ、そんな重いのはちょっと…」
 
「社長になるのはまだ先のことだけど、その前に結婚しとこうよ」
「なんと気の早い。もっと心に余裕をですね…」
 
 気のせいか、お尻にピッタリとガースーの腰を押し当てられているような。そして、いつの間にか胸をモミモミされているような。
 
「営業の仕事でもさ、俺ってすぐに契約を決めちゃうだろ?ほんと自分でも驚くほどセッカチなんだよなあ。イイと思ったらジッとしてらんないの。でも、オンナ相手にそう思ったのなんて初めてで、だから美月には押せ押せで頑張っちゃおっかなって」
「おふっ」
 
助けて!なんか固いモノがお尻にゴリゴリ当たってるよ。こんな力強くホールドされたら、逃げらんないしッ。
 
「絶対に逃がさないから、覚悟して」
「ううっ」
 
 こんなこと言われてゾクゾクしちゃうのは、何故なのか。思わず身震いしてしまう私に、ガースーは熱い吐息混じりで囁く。
 
「大丈夫、怖くないよ、全部俺に任せて」
「あ、悪魔の囁き!」
 
「ん~、まっ(キスされてる音)」
「誘惑に負けるな、頑張れ、私!」
 
「俺の前ではもう、頑張らなくていいよ」
「…キュンってした。そんなこと言うの卑怯!」
 
 んっ、んっ
 ダメ、ダメだってば、ダメ
 はあっ、はああああん、
 いっちゃう、いっちゃうってば
 
 結局、そのまま朝までブッ通しで抱き潰されて。ヘロヘロになった私に向かって、ガースーはそりゃもう爽やか笑顔でこう言った。
 
 
 「ね?俺、チェリーじゃなかったでしょ」

  ああ、もうシツコイ!!
 
 
 
  ──END──
 
 
 
 
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