朝日家の三姉妹＜３＞～奈月の場合～

裏切りと嘘

　
　
　あまりにも急な話すぎて、言葉を失っていると久志はポツポツ話し始める。
　
　私のことは好きだけど、紗英の方がもっと好きになのだと。奈月は自分のことをいつもないがしろにするけれども、紗英は自分のことを最優先にして、必死になってくれるところがいじらしくて仕方ないのだと。
　
「紗英はさァ、親友の奈月を裏切るのがツライと毎日泣いてたんだぜ。だからその…、俺と別れた後も、紗英と仲良くしてやってくれないかな」
　
　し、親友？？いつ、誰が、どこで？！
　驚きつつも紗英に問い掛けてみる。
　
「えっと…、あの、砂山さんって私の親友だったの？？」
「ごめんね奈月！そう言いたくもなるわよね…。だって私、アナタの大事な彼氏を奪ったんだし」
　
　いや、そうじゃなくて。私、アナタのこと友人とすら思ってないんだな。認識の違い？それとも、えっと…。
　
　この人、頭おかしいの？？
　
　驚いているうちにどんどん話は進んでいく。その内容は殆どが私サゲ、紗英アゲという感じでどうやら久志は相当この女に夢中らしい。
　　
　ふーん、へーっ、ほーっ。紗英って確かに可愛い顔をしてるけど、なんかアザトイっつうか。それに下膨れだし、腹黒そう。
　
　徐々に頭が冴えてくると、この時間がとても無駄なものに思えてくる。なので、「うん、分かった。じゃあこれでサヨナラ！」とだけ言い残し、退場したワケで。
　
　この時点で既に狐につままれた気分だったところを、その晩、更に意外な事実が判明するのだ。
　
　それは、久志の部屋に置きっ放しにしていた私物を、明日持ってくからという電話連絡があって。その際に彼が、こう漏らしたのである。
　
「実はさァ、紗英がいたからあの場では言わなかったんだけど。お前、浮気しまくってたんだってな。それも友人たちの弱味を握って、俺にバレないよう彼女たちに隠蔽工作までさせてたって。何人かの教授ともデキてて、成績とか融通して貰ってたんだろ？…ほんと最低だな」
　
　は？？
　私、アゴが外れそうなんですけどッ。
　
「そんなデタラメ、誰が言ったの？」
「ほら、そう来ると思ったよ。だから黙ってたんだ」
　
　いや、訊かなくても分かるけどさ。
　この流れで考えると絶対に紗英だよね。
　
　上手いコト言って久志には口止めしたつもりなんだろうけど、この男、メチャクチャ口が軽いから！って、それにしても言っていいことと悪いことが有るでしょッ。
　
「じゃあ質問を変えるわね。何を根拠に久志はその話を信じたの？私に確認もしないで、一方的に誰かの話を信じたその理由を教えてくれないかな？」