朝日家の三姉妹＜３＞～奈月の場合～

反撃

　
　
　はい、いただき！
　
　次は教授の名前を訊き出そうと思ったのだが、私から言うまでもなく紗英の方から切り出してくれたようだ。

「しかも、奈月って教授をたぶらかして成績も調整して貰ってるんでしょう？！私、何もかも知ってるんだから！！」
　
「悪いんだけど砂山さん、私は教授に自分の体を差し出さなくても、もともと成績優秀なのね。それ、誰かと見間違えてない？」
　　
「いいえ、確かに見ました！下村教授と一緒にホテルへ入っていく奈月の姿をねッ」
　
　ふう、と大きな溜め息を吐いて私は勝利を確信する。うん、欲しい証拠は全部入手したみたい。
　
「あのね、市尾くんと砂山さん。もう子供じゃないんだし、自分の言葉に責任取れるよね？もし私が潔白だったら？
　
　先程も言ったように、あらぬデマのせいで見知らぬ男子学生から貞操観念の緩い女だと言われ、このままもしかしていきなり襲われるかもしれない。襲われなかったとしても、将来、それなりの家柄のお相手との縁談が過去のデマのせいで破談になるかもしれないんだよ？
　
　それに下村教授は先日、恩師である向教授のお嬢様との婚約が決まったばかりで、このデマがもし耳に入ったらどうなるかはその小さな脳みそでも分かるでしょ？
　
　というワケで、身の潔白を主張する手段として名誉棄損で２人を訴えることにしたから、宜しく。ああ、脅しでも何でも無いから。先程ウチの祖父に相談して、めちゃくちゃ有能な弁護士さんを雇うことに決まっちゃったんだよね。あはは、じゃあ、私はもう帰るわ。早く下村教授にもこの件を伝えて、訴えるならウチの弁護士さんに纏めて依頼出来ますって話して来ないと！」
　
　勢いよく立ち上がった私に向かって、久志は尚も強気の姿勢を崩さない。
　
「ふんッ、訴えたければ訴えればいいさ！こっちは全然怖くないからなッ。だって真実をそのまま伝えて何が悪いんだ？奈月の毒牙にかかる犠牲者を減らしたんだから、むしろ感謝されてもいいくらいだ。なあ、紗英？」
　
　ところがそれとは真逆で紗英の顔色は真っ青だ。
　
「ま…待ちなさいよ！奈月、アンタ訴えるってそれはどういう？だって、私たちが噂を広げたという証拠も無いし、訴えたからって、別にそんなの痛くも痒くも無いわ…よッ」
　
　あはは、効いてる効いてる。そんな震える声で虚勢を張ったってダメだよー。