朝日家の三姉妹＜３＞～奈月の場合～

奈月ちゃんのことは信じられる（志季視点）

　
　
　※昨日は16時に更新しております。そしてまだまだ志季ｓｉｄｅなのです。
　
　
　
「彼氏が迎えに来てくれるので、大丈夫です」
　
　ある日、遅い時間まで明恵といた奈月ちゃんに家まで送ると伝えたら、そう言って断られた。

　そりゃあそうだよな、こんなコに彼氏がいないワケないし。いや、付き合いたいとかそういうんじゃなくて、ただ、興味が湧いただけ。…そうやって自分で自分に言い訳して。
　
　いつでも傍観者でいることを選んだのは俺自身なのに。彼氏に手酷く裏切られ、傷ついた奈月ちゃんを慰めることも出来ず歯痒い想いをしていたら、何故かその彼女の方から告白してきた。
　
　ジッと見つめられただけで、心臓バクバク。この破壊力に耐えられる男がこの世に存在するのかと思いながら必死で耐える。俺、奈月ちゃんのことは信じられるんだ。
　
　だって妹が太鼓判を押すほどの『イイ子』だし。誰からも愛されて家族仲も良好で成績優秀な上にこの類まれなる美貌。唯一の欠点は男を見る目が無いということくらいだろうか。
　
　そんな非の打ちどころの無い奈月ちゃんが、
　この俺と付き合いたいだって？？
　
　嬉しいという感情よりも先に、無理だと思った。彼女はきっと俺が珍しいだけなんだ。だから、付き合い出した途端『志季さんと一緒にいると退屈』と言って別れを切り出すに違いない。
　
　その時に傷つくのは俺なんだぞ？？
　だったら、このままの状態でいた方がいい。
　
　手に入らない男だと思わせておいて、
　ずっと好きでいて貰えた方が幸せに決まってる。
　
　樋口の提案でお試し交際を開始したものの、一定の距離を置き、触れることもなかったのに。そんな俺の思惑を知らない奈月ちゃんの方からキスをされ、とうとうタガが外れてしまう。
　
　キスは絵画展の時にしていたから初めてでは無かったが、こちらからしたのと向こうからしてくれたのとでは全然違う。奈月ちゃんからしてくれたキスは本当に死ぬほど気持ち良くて。
　
　差し入れられた舌も嫌じゃ無かったし、むしろもっと絡めて欲しくなるほどで、とにかく俺は彼女のキスに夢中だった。だから思わず彼女を褒め讃えたのである『上手だね』と。
　
　いま思えば実に失礼な言葉だったと思う。何故なら女性に向かって経験豊富だと言ったようなモノなのだから。
　
　でも、奈月ちゃんは真面目な顔で返事した。