私に彼氏は出来ません!!

ももくり

文字の大きさ
4 / 45

その4

しおりを挟む
 
 
「へえ、なんか想像と違ってメチャ広いんだな」
「元々は義父の浮気用の部屋だったらしくて。でもまあ、本人はバレてないと思ってるみたいですけど」

 都心の駅近で高層階、しかも2LDKの分譲マンション。最初、義父は『家賃収入を得る為の不動産投資として購入してあった』と説明したが、そんな嘘はスグにバレた。何故なら私を新しい浮気相手だと勘違いした愛人が、深夜に突撃してきたからだ。その場で娘であることを伝え、家族写真などで証明したところ、即座に理解して快く撤退してくださったのだが。

「ふああ、お茶とか結構なんで、お構いなく」
「って、ちょ、瀧本さん?!そこに座らないで。祥が帰ってくるかもしれないから私の部屋に行きますよ」
 
「みなと」
「ああ、もう。このやり取り飽きましたって」
 
「怒るなよ。恨むんなら、自分の記憶力の悪さを恨め」
「記憶力が悪いんじゃなくて、ワザと間違えてみたんです。なんか名前で呼ぶのはリア充っぽくて恥ずかしいから、出来れば名字で呼びたいなあ…なんて」
 
「やだ、俺は『湊』と呼んで欲しい。その方が親密な感じがする」
「30過ぎて、何カワユイことを」

 おっといけない、こんなことをやっているうちに祥が戻ってくるかもしれない。慌てて私は湊の手首を掴んで立ち上がらせ、自室へと誘う。

「やだ、七海ったら、意外と強引?」
「うるせえ、黙ってついて来い!!」
 
 最早、男女逆転の口調になっているが、我らの他に誰もいないので全然平気だ。
 
 パタンと後ろ手でドアを閉めると、湊はキョロキョロと室内を見回しながらベッドに腰を下ろす。6畳の部屋にダブルベッドなんか置いてあるので狭いったらありゃしないが、これは私が引っ越してくる前から置いてあった父の所有物なので文句は言えない。
 
「この部屋に何人の男を連れ込んだの?」
「な、内緒です」

 言えるものか、本当は2人目だなんて。それも1人目は飲み会が盛り上がって終電に間に合わなかったバイト仲間で、私と2人きりではなく他にも女子が大勢いただなんて死んでも言えない。

「仕方ないよな。弟のことが好きだから他の男とは付き合えなかったんだろ?」
「うっ、ぐッ」

 これだから恋愛経験豊富な男ってイヤなのよ!でも、残念でした~。一応、彼氏がいたことは有るんですう。
 
「さっき、ドーナツショップの前で話そうとしたこと、今から言ってもいい?」
「えっ、はい、どうぞ…あ、でもやっぱり、お茶!要らないと言われましたけど私が飲みたいので持って来てもいいですか?」

 『やれやれ』という感じで肩をすくめて頷かれたので、少しだけムッとしながらキッチンへ向かう。まったく変なことになってしまったな、どうして私の部屋にイケメンなんぞが降臨してしまったのだろうか。祥がいなくて本当に良かった。最近、新しい彼女が出来たみたいだし、もしかして今夜はその彼女の部屋に泊まるのかもしれない。
 
 グラスに麦茶を注いでからポットを冷蔵庫に仕舞い、ふと違和感に気付く。あれ?水切りラックに朝は無かったはずの食器が置いてある。慌ててリビングの方を眺めると案の定、ソファの方から声がした。

「姉ちゃん、おかえり」
「祥?」
 
 どうやら私より先に帰宅し、自室に籠っていたらしい。我が家は靴が乱雑に置かれているので、玄関先で不在かどうかを判断することは難しいのだ。

 これはきっと聞かれていたな…って何を?
 私、リビングで湊と何を喋っていたっけ?
 
 まずは部屋が広いって言われて、そこからお義父さんの愛人が突撃して来たという話になり、名前で呼んでと可愛く強請られた…ところで話は終わったはず。うん、ヨシ、大丈夫だぞ!!何も後ろめたいことは言っていない。それにほら、祥だっていつもココに客人を連れて来るんだから、私にもその権利は有るよね?って、祥が連れて来るのは大抵、男友達なんだけどさ。

「誰か連れて来たの?」
「うん、ごめん」
 
「なんか男みたいな声の人だったね」
「えっ?」
 
 私が連れて来たのは女友達だと思われているらしい。まあ、そう思われても仕方ないほど男っ気の無い生活をここ最近続けていたんだけど。なんだか真実を告げ難くなって口籠ると、私の部屋の方からドスドスと誰かが歩いてくる音がした。

 『誰か』って、あの人以外にいませんけど。

「おいこら七海、お茶持ってくるって、どんだけ待たせるんだよッ」
「た、瀧本さん…」

「『みなと』だっつってんだろうがッ」
「は、はいっ、湊」

 『えっ、誰?』そう呟いて祥が立ち上がり、
 その姿を見て今度は湊が固まった。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...