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その4
しおりを挟む「へえ、なんか想像と違ってメチャ広いんだな」
「元々は義父の浮気用の部屋だったらしくて。でもまあ、本人はバレてないと思ってるみたいですけど」
都心の駅近で高層階、しかも2LDKの分譲マンション。最初、義父は『家賃収入を得る為の不動産投資として購入してあった』と説明したが、そんな嘘はスグにバレた。何故なら私を新しい浮気相手だと勘違いした愛人が、深夜に突撃してきたからだ。その場で娘であることを伝え、家族写真などで証明したところ、即座に理解して快く撤退してくださったのだが。
「ふああ、お茶とか結構なんで、お構いなく」
「って、ちょ、瀧本さん?!そこに座らないで。祥が帰ってくるかもしれないから私の部屋に行きますよ」
「みなと」
「ああ、もう。このやり取り飽きましたって」
「怒るなよ。恨むんなら、自分の記憶力の悪さを恨め」
「記憶力が悪いんじゃなくて、ワザと間違えてみたんです。なんか名前で呼ぶのはリア充っぽくて恥ずかしいから、出来れば名字で呼びたいなあ…なんて」
「やだ、俺は『湊』と呼んで欲しい。その方が親密な感じがする」
「30過ぎて、何カワユイことを」
おっといけない、こんなことをやっているうちに祥が戻ってくるかもしれない。慌てて私は湊の手首を掴んで立ち上がらせ、自室へと誘う。
「やだ、七海ったら、意外と強引?」
「うるせえ、黙ってついて来い!!」
最早、男女逆転の口調になっているが、我らの他に誰もいないので全然平気だ。
パタンと後ろ手でドアを閉めると、湊はキョロキョロと室内を見回しながらベッドに腰を下ろす。6畳の部屋にダブルベッドなんか置いてあるので狭いったらありゃしないが、これは私が引っ越してくる前から置いてあった父の所有物なので文句は言えない。
「この部屋に何人の男を連れ込んだの?」
「な、内緒です」
言えるものか、本当は2人目だなんて。それも1人目は飲み会が盛り上がって終電に間に合わなかったバイト仲間で、私と2人きりではなく他にも女子が大勢いただなんて死んでも言えない。
「仕方ないよな。弟のことが好きだから他の男とは付き合えなかったんだろ?」
「うっ、ぐッ」
これだから恋愛経験豊富な男ってイヤなのよ!でも、残念でした~。一応、彼氏がいたことは有るんですう。
「さっき、ドーナツショップの前で話そうとしたこと、今から言ってもいい?」
「えっ、はい、どうぞ…あ、でもやっぱり、お茶!要らないと言われましたけど私が飲みたいので持って来てもいいですか?」
『やれやれ』という感じで肩をすくめて頷かれたので、少しだけムッとしながらキッチンへ向かう。まったく変なことになってしまったな、どうして私の部屋にイケメンなんぞが降臨してしまったのだろうか。祥がいなくて本当に良かった。最近、新しい彼女が出来たみたいだし、もしかして今夜はその彼女の部屋に泊まるのかもしれない。
グラスに麦茶を注いでからポットを冷蔵庫に仕舞い、ふと違和感に気付く。あれ?水切りラックに朝は無かったはずの食器が置いてある。慌ててリビングの方を眺めると案の定、ソファの方から声がした。
「姉ちゃん、おかえり」
「祥?」
どうやら私より先に帰宅し、自室に籠っていたらしい。我が家は靴が乱雑に置かれているので、玄関先で不在かどうかを判断することは難しいのだ。
これはきっと聞かれていたな…って何を?
私、リビングで湊と何を喋っていたっけ?
まずは部屋が広いって言われて、そこからお義父さんの愛人が突撃して来たという話になり、名前で呼んでと可愛く強請られた…ところで話は終わったはず。うん、ヨシ、大丈夫だぞ!!何も後ろめたいことは言っていない。それにほら、祥だっていつもココに客人を連れて来るんだから、私にもその権利は有るよね?って、祥が連れて来るのは大抵、男友達なんだけどさ。
「誰か連れて来たの?」
「うん、ごめん」
「なんか男みたいな声の人だったね」
「えっ?」
私が連れて来たのは女友達だと思われているらしい。まあ、そう思われても仕方ないほど男っ気の無い生活をここ最近続けていたんだけど。なんだか真実を告げ難くなって口籠ると、私の部屋の方からドスドスと誰かが歩いてくる音がした。
『誰か』って、あの人以外にいませんけど。
「おいこら七海、お茶持ってくるって、どんだけ待たせるんだよッ」
「た、瀧本さん…」
「『みなと』だっつってんだろうがッ」
「は、はいっ、湊」
『えっ、誰?』そう呟いて祥が立ち上がり、
その姿を見て今度は湊が固まった。
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