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レイモンドからの求愛
しおりを挟むその真意が分からなくて、思わずパチパチと瞬きを繰り返す。
「…レイモンド、お前が何故それほどこの女に執着するのか俺には分からない」
「ははっ、分からない…か。実は俺にも分からないのだ。親友の想い人で、しかも互いに好き合っている。俺なんかの入る隙間は無いのだろうが…なのに、諦め切れないんだよ。初めて出会った時、美しいアメジスト色の瞳に一瞬で心を奪われ…そして、この人は未だにその心を返してくれないのだ」
初めて明かされたその気持ちに、驚きよりも切なさを感じる。ずっと気付かなかった、いや、気付かないフリをしていただけかもしれない。
優しい優しいレイモンド。たった1年間の婚約期間ではあったが、私たちはまるで家族の様に打ち解け、語らい、笑い合った。けれども私は、その笑顔の裏側に隠された恋慕に応えることが出来ないのだ。
何故なら、心は1つだけだからだ。
私の心は、ずっとあの人のもの。それを知りつつも尚、傍にいさせてくれと言うレイモンドのことがとても憐れに思えた。
「ヴェロニカ、俺を救ってくれないか?この身に流れる血のせいで、否応なしに王位争いに巻き込まれ、今では命を狙われることも日常茶飯事だ。だからこそ、安らぎが欲しい。俺は、きみと居ると心が和むんだ。ただ傍にいてくれるだけでいい。何があろうと絶対に守るから、だから、俺との未来を考えてみてはくれないだろうか?」
切実なその声に言葉を失っていると、いつの間にかレイモンドの手が私の方に伸びていた。
「…えっ?」
「顔を見せてくれ」
ゆっくりと前髪が分けられ、左右の耳へと掛けられる。途端に視界はレイモンドの薄茶色の瞳で満たされていく。
「レイモンド…、あの…、私は…」
「返事は急がないから」
改めて断ろうとしたのだが、誰かに右腕を引っ張られたせいで、レイモンドとの間に距離が出来てしまった。驚きながら振り返るとそこにはアンドリューが立っていて、訥々とした口調で訊ねてくる。
「ど…ういう…ことだ」
「何が?」
「なぜ…隠していた?」
「え?ああ、顔のことね。それは色々あって…」
穴が開きそうなほど私を見詰めていたかと思うと、突然アンドリューは笑い出す。
「ふっ、ははっ、面白い!特別な能力持ちでしかも隣国の王になるかもしれない男が恋焦がれている女とはな!」
「えっ、面白いかな?」
返答に窮する私に向かって、アンドリューは高らかに宣言した。
「気の毒だがレイモンド、俺は婚約破棄などしない。それ以前に、デュアマルク王国の至宝であるキッシンジャー家の娘を、国外に出すはずが無いじゃないか。幾らガルツィ王国の言い成りだからとは言え、そこまで我が国の重鎮たちも愚かでは無いだろう。そもそも俺とヴェロニカの婚約は王命だ。それを破棄させる権限が他国になど有るものか!なあ、ヴェロニカ!」
「えっ、あ、はい」
ぎゅっ
どうやらアンドリューに抱き締められているらしい。しかも、本人はとても楽しそうだ。突然の展開に頭がついて来ず、ひたすら視線を彷徨わせていたところ、ドアをノックする音が響き渡る。
「そう言えば、レイモンドの護衛が遅れてやって来ると言っていたわね。どうぞ、お入りなさい」
バーバラ先生の声でドアが開き、そこから入って来たのは意外な人物だった。
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