ヴェロニカの結婚

ももくり

文字の大きさ
52 / 54

反撃

しおりを挟む
 
 
 ※少しだけ残酷な表現があります。
 
 
 
 
「ヴェラ!後は任せろ」
「は、はいっ!」
  
 その人が起きて叫ぶのと同時に、私は震える脚を奮い立たせベッドから遠ざかる。
 
「あはは、残念だったね。俺はアンドリューじゃないぞ」
 
 ベッドの上で胡坐をかきながら、その人は屈託なく微笑む。マイクは一瞬だけ呆けたかと思うと、すぐに剣を突きつけて目の前の人に問う。
 
「お、お前は誰だっ?」
「酷いなあ、これでも結構有名なんだけど。でもまあ、近衛隊のキミとは初めましてだからしょうがないか。キッシンジャー家の将来有望な二番目の息子と言えば、この僕、ジェレミー・キッシンジャーのことだよ」
 
 ああ、良かった、大丈夫だ。
 これで何もかも上手くいく。
 
 マイクは気付いていない、自分の足元に起きている変化を。ベッド横に敷いてある毛足の長いラグには細工がしてあるのだ。
 
「アンドリュー・ローランドはどこだ!答えないとその喉をこの剣で掻っ切るぞッ」
「煩いなあ、そんなに凄んでも全然怖くないよ。ほら、見てご覧よ、自分のことを。ああ、なんか麻薬っぽいのを飲まされてて、痛覚が鈍ってるのか?、ちょっとやそっとじゃ切れないよ」
 
 ソレとは、足元から伸びている蔓のことだ。
 
 棘だらけのその蔓は、この世で最も厄介な植物と呼ばれており、寄生先を定めるとギュウギュウ締め付けて離さない。とにかく鋼並みに頑強で、鋏や小刀では切れないそうだ。しかも成長が異常に早く、こうしている間にも太く長く育ち続けている。勿論、ジェレミーお兄様の異能で成長を促しているからこそ、これほど急速に伸び続けているのだが。
 
 そう、お兄様の異能は植物の成長を促すこと。数年前からその才を、戦力とするため秘密裡に特訓を受けていたと言う。
 
「ぐっ、こんな草木如きで、…こ、この卑怯者め」
「ハイハイ。麻薬なんぞに溺れて、味方を裏切ったキミにだけは言われたくないな」
 
 みるみるうちに蔓は剣を持つ腕まで到達し、残すは顔だけとなっている。
 
「ぐ、ぐおおおっ、くそっ、くそっ」
「あははっ、もうこのへんで止めておこうかな」
 
 蔓は尚も締め続けているらしく、ギチギチと奇妙な音がする。いつの間にか敵側の黒装束の男は、ケヴィンにより捕縛されていた。
 
「はい、じゃあコレはそっちの分ね」
 
 そう言ってジェレミーお兄様が放り投げた、黒くて小さな巾着袋。ケヴィンがそれを受け取り、中から何かを摘まみ出す。それから黒装束の頭巾を剥いで、巾着の中身を男の口へと捻じ込んだ。
 
「ジェレミー、用意が出来たぞ」
「うん、じゃあ舌を噛んで自害しないよう、猿轡でもしておいて」
 
 何が起こるのか知らされていない私は、ただただ眺めていることしか出来ない。
 
「さあ、ショーの始まりだ!」
「待て待て、こっちの男にも飲ませないと」
 
 そう言って、ジェレミーお兄様がマイクにも何かを飲ませる。
 
 
 ──暫くして、響き渡る絶叫。

 
「ぐ、ぐおおおおッ、や、やめてくれえええ」
「があああ、痛いッ、痛いいいいッ」
 
 手足を縛られながらも、床でのたうち回る黒装束の男。そして、身動きが出来ないせいか、苦悶の表情が一層激しくなっていくマイク。その姿を見ておきながら、何の感情も乗せない声で淡々とケヴィンが言う。
 
「先ほどお前達に飲ませたのは、ディスキア…ほら、マイク・ホートンに巻き付いている、棘だらけの蔓…それの種だ。今はまだ腹の内側に棘が刺さっているだけの状態だが、あと少しすれば蔓が更に伸びて、臓腑を突き破ることだろう。小悪党の最期に相応しい死に方だとは思わないか?」
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...