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反撃
しおりを挟む※少しだけ残酷な表現があります。
「ヴェラ!後は任せろ」
「は、はいっ!」
その人が起きて叫ぶのと同時に、私は震える脚を奮い立たせベッドから遠ざかる。
「あはは、残念だったね。俺はアンドリューじゃないぞ」
ベッドの上で胡坐をかきながら、その人は屈託なく微笑む。マイクは一瞬だけ呆けたかと思うと、すぐに剣を突きつけて目の前の人に問う。
「お、お前は誰だっ?」
「酷いなあ、これでも結構有名なんだけど。でもまあ、近衛隊のキミとは初めましてだからしょうがないか。キッシンジャー家の将来有望な二番目の息子と言えば、この僕、ジェレミー・キッシンジャーのことだよ」
ああ、良かった、大丈夫だ。
これで何もかも上手くいく。
マイクは気付いていない、自分の足元に起きている変化を。ベッド横に敷いてある毛足の長いラグには細工がしてあるのだ。
「アンドリュー・ローランドはどこだ!答えないとその喉をこの剣で掻っ切るぞッ」
「煩いなあ、そんなに凄んでも全然怖くないよ。ほら、見てご覧よ、自分のことを。ああ、なんか麻薬っぽいのを飲まされてて、痛覚が鈍ってるのか?ソレ、ちょっとやそっとじゃ切れないよ」
ソレとは、足元から伸びている蔓のことだ。
棘だらけのその蔓は、この世で最も厄介な植物と呼ばれており、寄生先を定めるとギュウギュウ締め付けて離さない。とにかく鋼並みに頑強で、鋏や小刀では切れないそうだ。しかも成長が異常に早く、こうしている間にも太く長く育ち続けている。勿論、ジェレミーお兄様の異能で成長を促しているからこそ、これほど急速に伸び続けているのだが。
そう、お兄様の異能は植物の成長を促すこと。数年前からその才を、戦力とするため秘密裡に特訓を受けていたと言う。
「ぐっ、こんな草木如きで、…こ、この卑怯者め」
「ハイハイ。麻薬なんぞに溺れて、味方を裏切ったキミにだけは言われたくないな」
みるみるうちに蔓は剣を持つ腕まで到達し、残すは顔だけとなっている。
「ぐ、ぐおおおっ、くそっ、くそっ」
「あははっ、もうこのへんで止めておこうかな」
蔓は尚も締め続けているらしく、ギチギチと奇妙な音がする。いつの間にか敵側の黒装束の男は、ケヴィンにより捕縛されていた。
「はい、じゃあコレはそっちの分ね」
そう言ってジェレミーお兄様が放り投げた、黒くて小さな巾着袋。ケヴィンがそれを受け取り、中から何かを摘まみ出す。それから黒装束の頭巾を剥いで、巾着の中身を男の口へと捻じ込んだ。
「ジェレミー、用意が出来たぞ」
「うん、じゃあ舌を噛んで自害しないよう、猿轡でもしておいて」
何が起こるのか知らされていない私は、ただただ眺めていることしか出来ない。
「さあ、ショーの始まりだ!」
「待て待て、こっちの男にも飲ませないと」
そう言って、ジェレミーお兄様がマイクにも何かを飲ませる。
──暫くして、響き渡る絶叫。
「ぐ、ぐおおおおッ、や、やめてくれえええ」
「があああ、痛いッ、痛いいいいッ」
手足を縛られながらも、床でのたうち回る黒装束の男。そして、身動きが出来ないせいか、苦悶の表情が一層激しくなっていくマイク。その姿を見ておきながら、何の感情も乗せない声で淡々とケヴィンが言う。
「先ほどお前達に飲ませたのは、ディスキア…ほら、マイク・ホートンに巻き付いている、棘だらけの蔓…それの種だ。今はまだ腹の内側に棘が刺さっているだけの状態だが、あと少しすれば蔓が更に伸びて、臓腑を突き破ることだろう。小悪党の最期に相応しい死に方だとは思わないか?」
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