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パワーバランス
しおりを挟む「うおおおっ、久々に廣瀬さんから返信が!」
「良かったね、朱里ちゃん。こりゃあもう祝杯をあげるしかないんじゃない?」
相変わらず、会社近くのビヤスタンドで我らは仲良く飲んでいた。立ち位置も最早お約束になっており、奥の方から湊、私、九瀬さんの順だ。
既にビアグラスを1杯空にして、ほろ酔い気分になっていた私は裁判所の前で“勝訴”と書かれた紙を掲げる人の如く、自分のスマホ画面を2人に見せびらかす。すると湊がそれを奪い取り、じっくりと画面を見詰めながらボソリと言う。
「…すげえな、この温度差。長すぎて目が滑りそうになる朱里のメッセージに対して、廣瀬さんの返信が『へえ、そうなんだ』の一行だけ。その前の返信は…って何だよコレ、廣瀬さんの返信、メッチャ少なくないか?10:1…いや、それ以下かもな。あ、見つけたぞ、前の返信が『了解』の二文字って、どれに対する了解なんだっつうの。こ、これは酷い、朱里、お前よくキレないな」
「うん、別に平気。だって最初に『返信不要。読んでも読まなくても構いません』って伝えてあるし、困らせたくて送ってるワケじゃないから」
反対隣りで九瀬さんがウンウンと頷いている。
「朱里ちゃんはとにかく廣瀬さんと繋がっていたいのよね?私も恋する女だから、その気持ちはとってもよく分かるわ」
「えへへ、なんか健気な彼女アピールをしてみました」
にへにへと笑う我ら女子に対して、なぜか湊は苛立っているようだ。
「はあッ?なに呑気なことを言ってるんだよ!朱里は廣瀬さんの彼女なんだから、もっと権利を主張すべきだろうがッ。邪険に扱われてるんだから、もっと怒れって。どっちが先に好きになったとかはこの際、置いておいてさ、付き合うことになった時点で立場は対等になっているんだからな!」
「…やだなあ、バカなことを言わないでよ」
私の言葉に、湊がポカンとしている。
「いまバカって言ったか?」
「うん、言った。だって、恋愛に於いて“対等”なんて有り得ないと私は思う。世の中のカップルが別れる理由は、その根本的なところを理解していないからかもしれないね。だって友人ですら、そうでしょう?どちらか一方が強くて、パワーバランスを調整し合うことでその関係は長続きするんだから。日頃から弱い立ち位置の人間が、恋愛して急に強い立ち位置の相手と“対等”であろうとすれば、必ず歪みは出てくるし一緒にいることが苦痛になってしまうのは当然なんだよ」
すかさず九瀬さんも同調してくれる。
「分かる!そうだよね、奴隷属性の人間が、ご主人様と張り合うなんて無謀だもの。イニシアチブなんて喜んで譲るから、そんなことよりどうすればもっと好きになってくれるのか、この恋が長続き出来るのかを教えて欲しいもんだわ」
その意見に頷きながらタコのフリットを食べていると、湊が吐き捨てるように言う。
「奴隷とかさ…、お前らにはプライドってもんが無いのかよッ」
「それ…湊が言う?私だって、数年前までは結構自分に自信が有ったんだよ。だけど、湊を好きになったことで身の程を知ったというか。地元じゃそれなりにモテてお姫様扱いだったけど、東京にはもっと綺麗な女性が大勢いるんだもの。ツンツンとお高くとまっているだけじゃ、振り向いて貰えない。好きな人が出来たら、地べたを這いつくばってでも必死にアピールしなくちゃ」
そう言い切った私に向かって、九瀬さんはパチパチと拍手し、何故か湊は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
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