夏の終わりに君が消えた

ぼの

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第1話 君の元へ。

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「また明日ね!」

そう言う彼女の背中を見送った。
いつもの背中はとても愛おしくて、心の底から好きが溢れるくらい。

「あぁ。好きだなぁ。」

なんて一人呟きながら、その日も一人教室の机に向かう。

今年は受験だから。何とかして第一志望の大学に合格するために、
追い込みを続ける日々。


放課後の学校には部活動の生徒の声が響いていて、夕焼けが窓一面に広がっている。

その日教室を出たのは17時になる15分前だった。

なんだか胸騒ぎがして。

誰かが呼んでいるような気がして。

僕は堪らずいつもの帰り道をかけていた。

学校と僕の家は歩いて一時間くらいかかる距離にあって、いつも屯するコンビニと、信じられないくらい長い踏切がある。

待つことは嫌いじゃない。
踏切を超えたらすぐ家に着くし、君にも会えるから。

多少空が薄暗くなってきた。

セミの声はどこかで微かに聞こえていて、近所の人が水撒きをしたあとが目立つ。

セミの声に紛れて踏切の警報音が聞こえてきた。

「飲み物でも買っておけばよかったな......」

なんて思いながらも足は止まらない。

その時、遮断機の間で霞んだ君を見た気がした。
気のせいだろうとその時は思っていた。

気づくと僕を呼ぶ声は無くなっていて、それでも心はどこか落ち着かない様子で、その日は家に帰った。

君に送ったLINEは、

既読すらつかなかった。










君の死を認識したのは次の日の朝。

テレビに君の写真が写って、アナウンサーは感情を見せない言葉で、綴られている文章をただ読む。

自分が泣いていることに気づかなかった。

しばらく僕は、死を待つだけのセミのようになっていただろう。


何時間たったのだろう。


気づくと僕は遮断機の前に立っていて、また足が勝手に動くんだ。

遮断機の音も、電車が走る音も聞こえなかった。

初めて体が宙に浮く感覚を知った。


それでもセミの声は鳴り止まなくて、今もずっと鳴っている。
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