夏の終わりに君が消えた

ぼの

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第18話 事故の前日

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僕は結衣さんと友達という関係に戻った。

不安を抱えていた僕にとって、今はこの関係が最良の選択だと感じている。

この関係からまだ数える程しか日が経っていないのに、その事実を知る一人のクラスメイトがいる。

「それで? 最近結衣ちゃんとどうなのよ」

「どうって......友達に戻っただけだから」


高峯さん。なぜこの人は僕のことに限らず、この関係のことについて知り尽くしているのだ。

この人の後ろ盾を知りたい。


「でも今日の放課後二人で勉強するんでしょ?」

「そりゃ受験のためだよ。別に変な意味はないし......」

「なるほどね~」

昨日のLINEで放課後勉強することを約束した。

いつも一人で勉強していたこともあって、誰かと一緒に勉強するのはとても嬉しかった。

分からない問題にも共に取り組めるし、苦手なところを確認できる。


僕は放課後を待ち遠しく思いながら授業を受けていた。


授業が終わり、帰りのホームルームが終わったのは二時頃だった。


僕が教室を出ると、結衣さんはそこにいた。

「おまたせ。」

「ううん、こっちも今終わったよ」

生徒のまばらになった教室に結衣さんを招き入れ、僕の隣の席に座った。

「よし、始めようか。」


「うん。頑張ろう。」


そう言葉を交わしてから、僕らは机に齧り付くよに勉強を始める。

僕は数学の問題集の付箋の着いたページを開き、解き始める。


「ねえ、ここの問題どうやって解くかわかる?」


結衣さんが聞いてきたのは数学の確率問題。


「ああ、これは組み合わせの問題だから......」


「なるほど、もう一回解いてみる!ありがとう!」

そう言って再び机に向かう。
確率は共通テストや入試でも問われやすい問題だから、何度も解いておいてよかったと初めて思った。


僕が思わず、ペンを置いて伸びをすると、

「少し休憩しようか」

と結衣さんが言ってきた。

お互い集中していたせいか、開始から既に一時間以上過ぎていて、教室にいる生徒は僕らだけになってしまっていた。

「さっきの問題解けたよ!」

「そっか、ならよかった!」

休憩中も二人の会話は途絶えることなく、「まじめ」という言葉が似合うほど、勉強の事しか口にしなかった。

再び机に向かい、僕は苦手な現代文をやることにした。

漢字は人並みに書ける。しかし筆者の考えを読み取ろうなんて、正解が書いてある訳でもないのに、難しい問題。

「......結衣さん、ここ分かる?」

「これか、筆者の考えは問われやすくて、これは......」

なるほど。
結衣さんに教えられ指摘されたところを踏まえてもう一度問題を解く。

疑問文と呼ばれるその箇所を見つけ、解答する。

「解けた......」

久しぶりにすっきりとした気分になった。

分からない問題に頭を抱えることは何よりもしんどい。

机に向かう僕らに、五時を知らせる鐘がなった。

「......そろそろ帰ろうか?」

「うん。」

僕らは片付けをして教材をカバンにしまった。

廊下を歩く僕らの背中を西陽が照らす。

会話をしながら二人で歩く帰り道。そしてその間に佇む微妙な距離。

途中、二人の間に行く手を遮断機が塞ぐ。

久しぶりの光景に僕は嫌な気一つしなかった。


それでも結衣さんの表情はまたどこか暗い。

いつか見た顔とは少し違う。
僕は口には出さず、見て見ぬふりをした。


「ここでいいよ」


聞いたことのあるセリフ。
駅に着いたところで、僕と結衣さんは別れた。


僕はその日、結衣さんと一緒に帰れる日が最後になるとは思いもしなかった。


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