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第20話 君との約束
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高校への通学路はちょうど満開の桜が並んでいて、今日という日を祝ってくれているような気がした。
今日は卒業式だ。
あんなにも練習させて、きっと先生方並びに親御さんたちは涙で前が見えなくなるのだから。
教室に入ると、違うクラスのはずのあの子の声が聞こえてきた。
「萌ちゃん!おはよう! 」
「めぐおはよー。」
お互いの久しぶりの正装になんだか笑ってしまう。
私とめぐはそのまま他愛もない話をしながら、教室の隅に置いてある小さなジョウロを手に取り、水を組みに行く。
先にめぐの教室へ。
それからまた私の教室に行き、私の隣の机に置いてある花に水をやる。
「二つとも、今日までなんとか枯れないですんだね」
「ほんとだね。同じクラスだったら良かったのにね」
ちょうど八ヶ月程前、私もめぐも一人のクラスメイトを失った。
結局二人の遺体は発見されてないけど、踏切内に粉々になった荷物が散乱してたんだっけ。
私は彼のことが好きだったかも知れない。それでも彼の真っ直ぐな目を見ていると、その視線の先に私の姿は微塵もないんだなと確信した。
それでも、最後に彼と交した約束がある。
「高峯さん、あの小説の結末、高峯さんの好きに書いて欲しいんだけどいいかな?」
「え、急にどうしたの?」
「なんでもないよ!その代わり、出来上がったら一番最初に見せてね!」
彼は私に言ってきた。
ようやくその約束を果たせる時が来たのだ。
お昼頃には卒業式は終わり、私たちは教室や廊下で友達との思い出話に浸っていた。
「......ほんとにお互い大学受かってよかったよね!」
「ほんとにめぐは一般でよく頑張ったと思うよ」
「でも萌ちゃんと違って将来何したいか全く分からないよ」
わたしは専門学校に通うことになった。
もっと文学小説について勉強したいし、自分で書けるようにもなりたい。
理系のクラスに来たはずなのに、結局文系に進むなんて。
でもこのクラスに来なかったら、彼との会話もしなかっただろうし、この小説も書かなかっただろう。
「そういえば、あれ完成したの?」
「もちろんよ」
私はギリギリまで彼が戻って来ることを信じていた。しかし彼の信じた理想郷がもし本当に存在したなら、この小説も日の目を浴びる日がいつかは来るだろう。
「それで、結末はどうなったの?」
「だから、これを最初に読むのは彼だけなんだよ」
興味津々にきいてくるめぐ。
でもこれは私と彼が交した最初で最後の約束。
「あ、そろそろ最後のホームルームだから戻るね!また後で、」
そう言い放ちめぐは自分の教室に戻って行った。
先生が何度か事件のことを口にするのが耳に入ったが、それはもう過ぎ去ってしまったことだ。
私たちは前を向いて、生きていかなければならない。
初めて見た先生の涙の記念写真。
筒に入った卒業証書を片手に、教室を後にする生徒。
窓から吹き込む風が春を知らせる。
私とめぐも揃って学校を後にした。
本当ならこの場にもう二人、繋がった影があったかもしれない。
コンビニで飲み物を買って、私たちは彼らの元へ歩く。
少し前に置かれたと思われる花束。彼らの友人だろう。
その横に、卒業証書と原稿用紙を置いて、私たちは手を合わせる。
本当なら手渡しで彼に読ませるつもりだったのに。
買ってきた飲み物を開けて、彼が一番大好きだったその言葉を送ろう。
「ありがとう。 」
その間も警報機の音は止むことなく、私たちのいる空間の中を鳴り響いていた。
ー完ー
今日は卒業式だ。
あんなにも練習させて、きっと先生方並びに親御さんたちは涙で前が見えなくなるのだから。
教室に入ると、違うクラスのはずのあの子の声が聞こえてきた。
「萌ちゃん!おはよう! 」
「めぐおはよー。」
お互いの久しぶりの正装になんだか笑ってしまう。
私とめぐはそのまま他愛もない話をしながら、教室の隅に置いてある小さなジョウロを手に取り、水を組みに行く。
先にめぐの教室へ。
それからまた私の教室に行き、私の隣の机に置いてある花に水をやる。
「二つとも、今日までなんとか枯れないですんだね」
「ほんとだね。同じクラスだったら良かったのにね」
ちょうど八ヶ月程前、私もめぐも一人のクラスメイトを失った。
結局二人の遺体は発見されてないけど、踏切内に粉々になった荷物が散乱してたんだっけ。
私は彼のことが好きだったかも知れない。それでも彼の真っ直ぐな目を見ていると、その視線の先に私の姿は微塵もないんだなと確信した。
それでも、最後に彼と交した約束がある。
「高峯さん、あの小説の結末、高峯さんの好きに書いて欲しいんだけどいいかな?」
「え、急にどうしたの?」
「なんでもないよ!その代わり、出来上がったら一番最初に見せてね!」
彼は私に言ってきた。
ようやくその約束を果たせる時が来たのだ。
お昼頃には卒業式は終わり、私たちは教室や廊下で友達との思い出話に浸っていた。
「......ほんとにお互い大学受かってよかったよね!」
「ほんとにめぐは一般でよく頑張ったと思うよ」
「でも萌ちゃんと違って将来何したいか全く分からないよ」
わたしは専門学校に通うことになった。
もっと文学小説について勉強したいし、自分で書けるようにもなりたい。
理系のクラスに来たはずなのに、結局文系に進むなんて。
でもこのクラスに来なかったら、彼との会話もしなかっただろうし、この小説も書かなかっただろう。
「そういえば、あれ完成したの?」
「もちろんよ」
私はギリギリまで彼が戻って来ることを信じていた。しかし彼の信じた理想郷がもし本当に存在したなら、この小説も日の目を浴びる日がいつかは来るだろう。
「それで、結末はどうなったの?」
「だから、これを最初に読むのは彼だけなんだよ」
興味津々にきいてくるめぐ。
でもこれは私と彼が交した最初で最後の約束。
「あ、そろそろ最後のホームルームだから戻るね!また後で、」
そう言い放ちめぐは自分の教室に戻って行った。
先生が何度か事件のことを口にするのが耳に入ったが、それはもう過ぎ去ってしまったことだ。
私たちは前を向いて、生きていかなければならない。
初めて見た先生の涙の記念写真。
筒に入った卒業証書を片手に、教室を後にする生徒。
窓から吹き込む風が春を知らせる。
私とめぐも揃って学校を後にした。
本当ならこの場にもう二人、繋がった影があったかもしれない。
コンビニで飲み物を買って、私たちは彼らの元へ歩く。
少し前に置かれたと思われる花束。彼らの友人だろう。
その横に、卒業証書と原稿用紙を置いて、私たちは手を合わせる。
本当なら手渡しで彼に読ませるつもりだったのに。
買ってきた飲み物を開けて、彼が一番大好きだったその言葉を送ろう。
「ありがとう。 」
その間も警報機の音は止むことなく、私たちのいる空間の中を鳴り響いていた。
ー完ー
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