9 / 9
09
しおりを挟む8000日目
今日、久しぶりに家族三人で星を見に行ったわ。
ローレンツィアったら、13歳になってもお転婆さんなのよ。
流れ星を何個見つけられるか競争したのだけれど、惨敗しちゃったわ。
さすがね。
8458日目
今日、ローリズが血を吐いたわ。
心臓の病気になったみたいよ。
私もどんどん力がなくなってる気がするの。
もうすぐ死ぬのね。
……でも、後悔のないように生きるわ。
ローレンツィアのためにもね。
8604日目
…………とても手記を残す気力がないわ。
8607日目
「フェリツィア」
ベットで眠っていたはずのローリズが目を覚ました。
私はお水が欲しいのかと思って、水差しを持っていこうとするけれど。
「ありがとう」
「なに言ってるの、これくらい当然よ」
ローリズは小さく首をふった。
否定の意味かしら。
「君と過ごした人生はとても楽しかったよ。本当に、ありがとう」
「なにを言ってるの……」
「賢い君なら分かるだろう……? だから、最後の言葉を言おうと思って……」
私は唇をかみ、そんなわけないと大きく首をふった。
「あなたはまだ生きれるはずよ! それに、ローレンツィアはどうするのよ!!」
「心残りはたくさんある。あの子ともっと時間を一緒にいてあげたかったけど、フェリツィアがいれば大丈夫だ」
「だめよ……!」
どうしたら彼を助けられる?
必死に考えたけれど、妙案は浮かばなかった。
「フェリツィア、ずっと愛してる」
「ええ。……私もよ、ローリズ。愛してる、愛してるわローリズ。だからお願いよ、まだいかないで……っ」
大量の涙を流す私に、大きくて優しい手が伸びてくる。
大好きな人の手は、弱々しく私の頬を撫でた。
「過去は辛かったかもしれない。でも、前を向いておくれフェリツィア。傷たらけの人生を歩いてきた君は、誰よりも強くて気高くて、美しいよ」
「美しくなんてない! 醜い魔女なのよ、私は。だって、私の寿命はまだ残ってるのよ……」
ローリズの人差し指が私の唇に添えられる。
そんなことないよと、彼は笑った。
「人を恨み続けないでいてくれて、ありがとう。愛してるよ」
享年47歳。
穏やかな顔で、ローリズはこの世を去った。
それから十年後、愛する人のもとへ旅立つように、フェリツィアも静かに息を引き取った。
とても穏やかで、幸せそうな顔で、眠るように亡くなったと後のローレンツィアは言う。
かつて、人間を恨み魔獣の巣窟へと変わった森は、魔女の意向により美しい花が咲き誇る癒しの世界へと変貌を遂げた。
森の近くにすむ人々は、愛する人や家族と一緒にそこへいき、親睦を深める。
不思議なことに、その森の奥地には人が住んでいた形跡のあるツリーハウスがあって、そこには二つの墓標が立っていた。
ローリズとフェリツィア、ここに安らかに眠る。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
28
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる