等級概念を破壊せよ 〜ゴミF等級が!と罵られた少年は、実は至高の革命家の血を受け継ぐ天性者でした〜

北城らんまる

文字の大きさ
32 / 34
第三部 F組解体編

Episode32 準々決勝とフィオナの涙 ※3人称

しおりを挟む

 長期休み期間中、アスベルはヴェルディから魔導剣士としての立ち振舞い方を教わっていた。魔元素マナ量が多い者なら、攻撃に重きを置きつつ敏捷性や防御面にもバランスよく振り分けることができる。でもそれは、力量が同じくらいの相手と勝負するとき。

 エキシビションマッチ一回戦の相手ロイードは、初めて見る1年生チビアスベルに対して何の警戒心も抱いていなかった。だからアスベルは防御に回す魔元素マナを大幅カットし、初撃決着を望むべく敏捷と攻撃に魔元素《マナ》を回し、見事勝利した。
 二回戦、三回戦も同じ要領だ。体力ともに魔元素マナの節約にもなる。アスベルの強さに気付いた相手選手は警戒を強めていたものの、スピード負けして初撃で破れている。

『魔導剣士は魔導士レベルで魔元素マナの扱いに長けていなければならない。戦況を見極め、自分の魔元素マナの絶対量と相談しながらどの項目パロメータにどれくらい魔元素を振るのか、強者相手にその一瞬の判断が命取りになる』
魔元素マナの扱い……』
『俺はそこまで量は多くないけどね。状況判断力がすごいって、当時の学園の教官から褒められたことがあるんだ』

 魔元素《マナ》の量はアスベルより少ないものの、攻防の最中瞬時に魔元素マナ振りの項目変更パロメータ・チェンジできる天才児。それが剣皇アーサー第一候補たるヴェルディの強さだ。
 指導を受けながら、アスベルはずっとヴェルディの一挙手一投足を観察していた。言うなれば、見るだけで彼の魔元素マナの流れを掴み、自分のものとしようとしていた。

『君の何がすごいって、なにより魔元素マナの量が多く練り方が上質なことだ。だからもっと高度な戦い方ができると思う』
『高度な戦い方……?』
『ああ。普通の魔導剣士は、あくまでサブにしか魔法を使わない。俺が思うに、君ならもっと大胆な上級魔法の行使もできると思う。魔導士みたいに大技を何発も撃てなくても良い、ここぞというときの一発をぶち込むんだ』
『……魔導士みたいに』
『特に、相手がヨハネ皇子のような化け物級の魔導士ならこの戦い方のほうがいいと思う。──まぁ、今からエキシビションマッチまでに仕上げるのは大変だろうけど、どうする?』
『やります。やらせてください、ヴェルディさん』
『ああ。俺も卒業生のよしみで最後まで付き合ってあげるよ。どこまで上り詰めるのか楽しみにしておこうか』

 それからというもの、アスベルは常に自分の魔元素マナと向き合っていた。
 剣士として立ち振る舞えばどれくらいの魔元素マナがなくなり、どんな魔法なら使用できるようになるのか。

 
 進化を試すのはもうすぐだ──


『なんということでしょう!! アスベル選手の快進撃が止まることを知りません!! 準々決勝をまたもや一撃で仕留め、明日の準決勝に進出いたしましたっ!!』

「いいぞ!! アスベルっ!!」

「すごいわ、アスベルさんっ!!」

「1年のくせにやるじゃないか!!」 
 
 歓声があがる屋内競技場。
 アスベルは軽く手を振り返し、明日に備えるために控室に戻る。
 いろいろなものを荷物に詰め込んでいるとき、フィオナとユリアがやってきた。

「準決勝進出おめでとう、アスベル」

「……おめでとう……」

「二人ともありがとう」

 フィオナは複雑な表情を浮かべている。
 アスベルには心当たりがあった。

「負けたのか……?」

「うん。さっきの準々決勝でね。ベスト16には入れたから目標は達成したんだけど……」

 フィオナは自分の実力を試したいと言ってエキシビションマッチに参加していた。
 とても悔しかったのだろう。
 目元が赤く腫れている。
 
「いざ負けると……とっても悔しくて悔しくて仕方ないのよ。おかしいな、私はただ孤児院のみんなが笑顔で暮らせるように、奨学金を送って満足だったのに……」

「……フィオナ……」

「いいのユリア。──私ね、あなたの隣に立ちたいの。あなたの仲間である以上に、背中を預けられるくらいのパートナーとして隣に立ちたいの。それは……ダメ?」

「ダメじゃないよ」

 濡れそぼった瞳が、再び大量の液体を湛《たた》え始める。
 それは嬉しさだ。
 フィオナはアスベルに憧れた。同時に、アスベルにとって自分とは背中を預けられるような

「ありがとう。これだけ聞けたら、いいわ。私はもっと上を目指す。もっと強くなるわ」

 そして、それを見ていたユリアは──
 フィオナの幼馴染であるユリアは、悲しみをこらえるようにそっと目を伏せていた。
 大好きな親友フィオナに芽生えた新たな感情。それを、自分の我儘で押さえつけてはいけない。
 報われなくたっていい。
 ただ笑顔で一緒にいれればいい。
 ユリアは、あくまでフィオナの幼馴染のユリアとして、フィオナの隣にいると決めていた。

「ユリア……? 大丈夫……?」

「……うん。大丈夫……」

 フィオナがユリアの不安げな様子で見つめている。
 アスベルもそんな二人の様子を気遣い、「さ、疲れたし帰ろう帰ろう」と、わざとおどけた調子を見せる。

 そんなとき、ちょうど最後の準々決勝が終わったようで、盛大な拍手が控室まで響いていた。
 アスベルは控室にあるモニターをつける。
 
『3年生トップクラスの魔導士をくだし、準決勝最後に進出した者はなんとラクバレル財団のお嬢様!! マクロネア・ラクバレル選手ですッ!!』

「あ、あいつこんなに強かったの!?」

「らしいね。マクロネアさんは確か槍使い。学年総合第七位なだけあるよ」

 続いて、司会進行係が準決勝の組分けに移った。
 残っている四人は、アスベル、ヨハネ皇子、マクロネア、2年生学年一位の戦斧使いの女子生徒だ。

(さて……誰と当たるのやら……)
 
『Aブロックで戦う選手が決定致しました。1年F組アスベル・F・シュトライム選手と、1年S組のマクロネア・ラクバレル選手です!!』

(マクロネアさんか……)

 長期休み期間中、マクロネアはフィオナたちに勉強を教えていた。
 情報は少ない。
 それでも、アスベルは絶対に勝つ自信があった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる

あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。 魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。 しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...