勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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いまだ全てが見えないダンジョンの恐怖

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フラフラになりながらもまだ僕にけなげについてくる3人を見て思った。

「(うん、脅威の明確さとそれに対して執念深く生き残る手段を模索することを覚えたようだね)」

彼女らの目にはもはやゴブリンは容易に追い払える存在ではなく明確な脅威として映っていた。

そうして、奥まで進むと何やら骨と皮で作られたシンボルを発見した。

「これって、まさか」

ライザらは戸惑う。敵にはシャーマンやマジシャンがいること、初級魔術師よりはるかに狡猾で知恵が回る存在の恐怖。

「トーテムがあるということは間違いないだろうね。でも、その前に」

確認すべきことがある。

「ライザ、明かりを持って右側の岩肌を調べておいて」

ライザは言われるがまま明かりを持ってそこに近づくと子供一人分は通れる横道を発見した、

「これは…」

「ゴブリンは単純な馬鹿じゃない、道具を使い穴を掘り通路とすることぐらいは知恵が回るんだ。初心者にありがちなミスだね。敵を倒して有頂天になっている冒険者どもを背後から奇襲するためさ」

そこまで知恵が回るのか、と。先ほどのゴブリンとの戦いを思い出しそんな状況に陥ればパーティは甚大な被害が出るだろう。

「ギルドの能力の判定範囲ではゴブリンの巣穴の始末は1ー4組送り込めばほぼ確実に根絶やしにできる、そんな話を声高にしてるけど死地に送り込まれる連中らは果たしてどうなるか。1組目で倒せるかもしれないが長くて4組目を送り込んでもなお解決しない事態もありうる。

冒険者ギルドに依頼を出す依頼主の金はけっして高くない。それが溜まれば上級冒険者もゴブリン退治を嫌々引き受ける。もちろん、彼らが生き残る保証など存在しない。雑草を刈るかのように追い立てられるゴブリン、だけども追い詰められた群れは犠牲を覚悟で反撃に移る。果たしてそれにどれほどが生き残れるであろうか」

ドラゴン退治や巨人退治なんて出来るパーティは限られている。まして私達はまだ新米も新米なのだ。

「さ、次の獲物が表れたよ」

相手は先ほどと同じくゴブリン、でも10体はいる。

「僕が4体を引き受けるから各自2体を倒せ」

ピュアブリングが前に出て注意を引きあぶれたのをあたしたちが始末する。それは楽な仕事ではなかった。ゴブリンらは粗末な獲物を振い執拗に攻撃を仕掛けてくる、それにどうにか対応しつつ戦うがメイスの打撃では致命傷を与え切れす反撃を何とかスモールシールドで受け流す攻防。練られた戦闘技術など皆無でありひたすら必死に脅威に抗うだけ。

「『どうにか、どうにかして敵に明確なダメージを与えないと…』」

3人は敵を一刻も早く倒さねばという焦りを感じながら各自急所と思われる場所に攻撃を集中する。狙い目は首だ。ここに確実に攻撃を入れれば首の骨は折れ呼吸困難に苦しむはず。それは当たり攻撃を討ちこむと悶絶し苦しむゴブリンたちが増えていく。

忠告を受けて私達は人数で連携を取り各自の役割を分けて敵に対処する。盾役陽動攻撃防御、パーティにおける役割の明確さをここでその重要性が必要不可欠であることを嫌というほど理解する。

ピュアブリングは私たちがすべて倒し終わることにはもう戦いは終わっておりこちらを眺めていた、彼にとっては容易い仕事でも私達からすれば大苦戦だった。そんな足手まといを3人も引き連れながら確実にダンジョンを進む彼は一体何者なのであろうか。少なくとも熟練者であることは間違いない。

彼は自分に多くの敵を引き付けながらもこちらの状況をよく見ているのだ。

「さて、道は3つある。どれを行こうか」

ピュアブリングはちょっと悩むようにしながら懐から3枚のお札を取り出す。

「それは」

「《探知》の効果を持つお札。これでどこに数が多いかを確認してもらう」

それを一枚ずつ放り込む。

「右の穴が多いね。こっちが当たりか」

他の穴にも何体かいるそうだから背後に注意しろと。右の穴に足を踏み入れる。すぐさま何かが飛び出してきたがピュアブリングはすぐさま剣を抜いて切り払う。

「偵察だ。やっぱりこの穴があたりのようだね」

私達にはゴブリンが潜んでいたのが見えてなかった。

「見えてたんですか」

「いんや。練習の成果」

「どれだけ練習を」

「血反吐を吐くぐらい」

質問ばっかだね、そんなんでこれからやって行くつもりなの。彼はまるで意に返さぬ様子である。彼はゴブリンの死体を片手で引きずりながら先に進む。何をする気なのだろうか。そうして奥まで進むと。

「ああああ!」

女性の悲鳴が聞こえてきた。まさか。

「典型的なパターンだね」

「典型的って…」

つまり、女性が連れ去られており慰み者にされていると。

「早く助けないと!」

「はいはい。焦るのは分かるけど」

その仲間入りをしたいのかと。確認を取られる。もちろん嫌に決まっている。

「《聖光》は使えるよね」

コクリと頷く。作戦は私たち3人が先に入り聖光を唱えて敵の目をくらましてる間にピュアブリングが人質を救出し入口まで戻ってくる。その後戦闘に入るというものだ。

「じゃ、さっさと覚悟を決めて行くよ」

私たちに返事は求めない。やるべきことをやるだけだ。そば近くのゴブリンの死体が気になるが今はそれどころではなかった。

私たち3人は素早く入り口から入る。

『《聖光》』

3人同時に唱える。まばゆい光が洞窟内を隅々まで眩い輝きを作り出す。敵はそれに目がくらみ身動きができないようだが同時にその数も映し出す。数は20体以上いた。これは不味くないか。でも、今更引き返せない。ピュアブリングはすぐさま駆け出し慰み者になっている女に目星を付け救出に向かう。

その数は二人。その二人を小柄な体格をものともせずに両肩に抱え入口まで戻ってきた。担ぎ上げた女を入り口近くに置くと。

「ホブに加えシャーマンマジシャンが数体混じっている。優先的に狙え」

持ってきたゴブリンの死体を引きずって中に入る。《聖光》の効果が終わり敵はこちらを向く。そして、一目散にこちらに向かってきた。

「ど、どうするんですか!」

「慌てない慌てない」

彼はゴブリンの死体を敵めがけて乱雑に投げて《爆発》そう唱えるとゴブリンの死体が粉々に吹き飛ぶ。肉骨などが粉々になり無数の鏃となって敵に襲い掛かる。その威力はすさまじくほとんどの敵に突き刺さり重傷を負わせる。さらに彼は《気絶の吐息》呪文を唱えるとバタバタと敵が倒れた。

「さ、後始末をしようか。なに、敵は身動きできない。徹底的に叩き潰せばいいだけ」

そして、血生臭い嫌な仕事が開始される。

敵は身動きできない、だから、徹底的に潰し死亡させるだけの仕事。私達は各自メイスを全力で敵目がけて振い倒す。それだけの仕事、だが楽な作業ではなかった。それなりの質量を持った鈍器とはいえ敵を殺すためには必要なだけ力を籠める必要があるのは確認済みだ。

ピュアブリングは呪文の維持のために手を貸してはくれない。私達は3人がかりでグロいモンスターどもを皆殺しにしなければならない。

敵の急所目がけてメイスを全力で振り下ろし息の根を止める。それが終わったら次へまた次へ。万が一とどめを刺し損ねれば背後から襲ってくる恐怖と戦いながらも無心で敵を倒す。ただそれだけ。メイスが血糊や脳漿でベットリと汚れその醜悪な匂いに嫌悪感が沸き上がってくるがそれを抑え込んでひたすら敵を潰す作業を繰り返す。

地道にそして確実に。もはや私たちの心には何もなかった。

「おしまいかな」

『……ようやく、ようやく、終わった……』

私たちの中にあったのはどす黒い疲労感だけだった。英雄譚であるような高揚感や達成感など微塵も欠片もない。ただただ地獄から生還した。その証拠に汚れたメイスを持っているだけ。

「新人にはキツイ内容だったけど」

ピュアブリングは奥を指さす。そこにあったのは困難を乗り越えた者だけが手に入れられる報酬が確実に存在した。

「あれがマナストーン」「綺麗」「やった、やったね」

強い輝きを放つ石の塊が目の前にあった。その数は3つある。これで、これで願い望み渇望していたクラスチェンジができるのだ。今までの苦労が報われた瞬間である。私達は喜び抱き合った。
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