勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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おこぼれにありつこうとする連中 1

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依頼を終えて帰る際中の連中(観客)共は色々と騒いでいた。

「あんな危険な依頼はあり得ない」「そうだ、あまりにもおかしい」「でも実際に問題が起こってたよね」「自分らじゃ解決不可能だ」「そもそも緑光玉級の依頼なのか。限度があるぞ」

後方のウザイ連中はもう僕にはどうでもよかったからだ。彼らが望む武勲詩の1ページを最初から最後まで何の問題もなく見せてあげたのだからさっさとどっかに行って欲しかった。

《バーミット》まで戻りようやく解散と、なるはずが。

「こんなのは卑怯だズルだ反則だ」

一部が騒ぎ出す。

なんなんだよ、もぅ。良いもの見れたから観客はさっさと家に帰ってよね。

「一体何がそう思うことが出来るの」

「お前らは自分らに都合のいい依頼を受注してるな」

都合がいい、か。たしかにまぁ都合がいいと言えばそうだがそれは逆に言えばそんな難易度を選択しているという危険性も存在しているのだ。それに気づいているのか。この様子だと無理みたいだが。

「このことを冒険者ギルド上層部に教えればただでは済まないぞ」

なんだ、そんな程度の脅ししかできないなんて、クソい連中だ。相手にする価値がない。

「じゃ、好きなようにやっていいよ」

『え?!』

全員が驚いていた。驚くようなことかなぁ。

「見たことをありのまま好きなように語ればいいし冒険者ギルドとか部族氏族同族とかなんでも言いふらしまくればいい。都合がいい?ああ、そんなことだけでこちらが悪いと証明できるのならね」

「本気だぞ!本気の本気だからな。後悔しても手遅れだぞ!」

「はいはい。ご勝手に」

一部の連中は怒りを浮かべたまま雑踏に消えていく。

「いいの。あんなに明言しちゃって」

「そうですわ。今後の活動にも制限があるのでは」

「いいんだよ。最悪パーティ解散すればいいだけだし」

「冒険者ギルドはそれを断固それを許すとは思えませんが」

「そうですねぇ。私達じゃないと解決不可能な案件一杯ありますから」

「そういうこと。まったく、観客が何を騒ぎ立てるんでしょうか」

「困ったものですね」

「この手の馬鹿はめんどうだねー」

日も暮れてきたので依頼達成の報告は後日でいいか。翌日冒険者ギルドの建物で昨日の連中の一部が騒いでいた。

「いいから、都合のいい依頼を出せよ」「お断りします」

どうもこの手の連中は自分にとって都合のいいことしか信じないようだ、自分の都合で世界が回るはずなどないのに。

「なんであいつらには依頼を回せて俺らには回せないんだ」

「灰色級で何ができるとおっしゃってますか」

「出来るさ」

「…根拠のない自信は早死にするだけですよ」

これ以上は話の無駄だと判断した連中はゴブリンの巣穴討伐の依頼を受けようとしてた。もう手の施しようがないと理解した受付嬢はそれを承認しサインをする。

そいつらはこちらを睨んでくる。

『お前らに出来て俺らに出来ない理由などない』

そういう目である。そうか、そういうことなら何も言わずに行ってこい。ただ、その代価は果てしなく重いものだと実感することになるだろう。

ただ、すぐさま出発とはいかなかった。

「こんなのは無謀です。やめましょう」「うるせぇ。黙ってついてこい」

仲間割れである。

しばらく言い争った後出ていく者と残される者に分かれた。

「ううっ。どうしたらいいのよ」

仲間からも見捨てられて不憫な連中、そして僕の仲間からの視線「助けてあげて」と。ま、いいだろう。それが世界のためになるというのならば。

「ねぇ」

「あなたは前回の」

「なんか置いてきぼりを食らったみたいだけど」

「私達数日前に冒険者登録をしたんですけど奴らから無理に誘われて仕方なく一緒にいたんですけど考え方の違いからもうついていけなくて」

ふむ、それならば都合がいいな。

「あなたのような戦い方は私達には不可能だと分かってますけど今の時代食い扶持がなくて」

「自分らだって物語を綴りたいけどいきなり大物討伐は不可能だと理解してます」

「でも、どうしたらいいのか誰も彼も答えてくれないんです」

それだったら、立ち上げた制度の第1号生にちょうどいい

「僕のレクチャー受けてみる気はない?」

「えっ!レクチャー、ですか」

「君たちが躊躇う最初の一歩、その感触を確かめてみる、ただそれだけ。勝者と敗者のその差はどこなのかを確認はできるようにしてあげる」

「よ、よろしくおねがいします!」

そうして、最初の生徒をゲットした。早速冒険者ギルドに説明をして授業に入る。

各種水薬と解毒剤を一つづつ支給する。武器はこん棒と木製の盾で十分だろう。大鼠と大虫ぐらいしか相手にしないけど実戦経験の最初としては良い相手だ。

「こんな粗末な装備で大丈夫なんでしょうか」

「どんな刃物でも5体切ればまともに切れなくなるし武器が抜けなくなったら取り返せない。これで十分」

事前にこん棒で狙う場所を重点的に教えておく。狙うのは頭部と胴体を繋ぐ頸椎、首だ。ここを正確に狙って打ち込めば十分倒せる。

数回見本を見せる。うめき声をあげて大鼠が即死する。

「ほら、ちゃんとこれで倒せるでしょ」

『なるほど』

「僕は一人でいいけど仲間と組めば役割が持てる。分担すれば個々の損傷も少ない」

『わかりました』

そうして、下水道に住む大鼠や大虫退治を始める4人、各自役割を持ち回りしてモンスターを倒していく。しばらく時間が進んで12体の大鼠と7体の大虫を倒した。

「はい、これで今日はおしまい」

「えっ、撤退するんですか」

本人たちは興奮していて自覚がないがそろそろ足や腰に来る頃だ。目的の成果は十分なのでここで下がるのが良い目なのだ。各自倒した証拠として部位を切り出して冒険者ギルドに戻る。

「おつかれさまでした。これが報酬です」

チャリチャリと、ちょっとした小金が目の前に積まれていった。それに目を輝かせる4人。

「授業料分はもう差し引いてますので」

「授業料?え、これって申請すれば冒険者なら受けられるんですか」

「そうですよ。今はまだこの場所限定ですから運がよかったですね。その制度の実施を宣言した本人から受けられたんですから」

本人から?じゃ、この人がそうなのか。

「冒険者ギルドとしても初心者が躓きやすい場所を念入りに知っているため実に安心できますよ」

「え、あ、それじゃ。この人はすごいんですか」

「まだまだ上が存在しますがこの場所では最優秀、そう言えるかと」

「あ、ありがとうございます」

「それ以上は言わないで」

彼らは僕に対してお礼を言おうとするのを僕は拒否する。

「僕の名前なんて覚えなくていい。顔も知らないほうがいいし姿形なんて何の意味もない。ただ、その制度の恩恵を受けて覚えるべきことを覚えたら先に進めばいい」

「でも、それじゃ」

何のためにこんなことをしているのか。慈善事業ではないことは確かだけど。

「僕はね。未来ある命の進める先が良い方向であることが一番の報酬なんだ。僕は見てきた、未来ある命が理不尽に無慈悲に際限なく奪われるその場所を。だから、命のいく道の先を照らし出すささやかな明かりでありたいだけ」

あの絶望しかない場所で最後まで生き残ってしまったこと。それが偶然か必然かはまだ分からないけど。愚かな命は助けないけどそうでないなら救い上げても問題はないはずだ。世界はそれで回ってるんだから。

翌日、体中筋肉痛でビリビリしてたのにはちょっとだけ微笑ましかった。

その後しばらく彼らに教えるべきことを教える時間だけが過ぎていく。彼らは真面目で物覚えが良い生徒たちだった。

「はい、お疲れさまでした」

「先生。今日も教えていただきありがとうございます」

僕はいつの間にか先生と呼ばれるようになっていた。。うーん、そんなに年が違うわけではないはずだけど彼らからしたら先達なのだろう。

この場所で教えられることはほぼ終わった。次はいよいよ最初の壁越えだゴブリンの巣穴討伐である。

ゴブリンという存在は小さく子供ぐらいであるが知恵がありすばしっこい、その上繁殖力が旺盛だ。新人が担当する中では結構な難関でもある。実際3組中2組が壊滅させられてしまうほどだ。最後には討伐されるがその犠牲もまた増加中である。

敵も必死であるという事だ。

依頼を受けて現場に行くと一人が入れるぐらいの小さな穴だった。

「これが最初だけど終わりまで続く延々の戦いの入り口だと思え。サポートはするけど万全ではないことを理解しておくこと。僕が関われるのはここまでだと思え」

『はい、先生』

まず松明を持つ役を選んでおく。暗がりの中奇襲されるのを防ぐためだ。各自装備はそのままだが大丈夫だろう。

松明の明かりを頼りに徐々に前に進む。

「そこの岩陰に松明を向けろ」

松明を近づける。何もいないはずのそこには、

「しゃああああ」

ゴブリンがいた。

仲間の一人がとっさに盾となりもう一人が首にこん棒を打ち据える。

『はぁはぁ』

全員息が荒くなる。呼吸が辛い。緊張の汗が止まらない。それでも前に進まなければならない。

「そこの暗がりに目を向けろ」

そこに松明をかざすと子供ぐらいなら通れそうな横穴があった。もし見逃していれば後ろからきていたのかもしれないことに気づかされる。

「この先で終わりのようだね」

僕は2本の杭を穴の端に打ち込みロープで縛る。

「これは」

「命を助けるお呪い。ここを通るときはこれがあることを覚えておいて」

奥に進んでいくとゴブリンが数体集まっていた。こちらの松明の明かり目がけて群がってくる。

「引くよ」

仲間全員が一旦戻る。ここでお呪いがあることを知っているのはこちらだけだ。そこを軽くジャンプしながら飛び越えていく。後ろから来たゴブリンどもはそれがあると気づかず転ぶ。自分達はそれを即座に叩き潰す。

「待ち伏せ。こういう場所では下がる行為は決して恥ではないことを覚えておいて」

『はいっ』

そうして、確実にモンスターを倒していき最後にあったのは、小さなゴブリンの子どもだった。

「さっさと倒して」

『で、でも、まだ、こんなに幼いのに』

「生き残りは知恵を付けて逆襲してくる。自分の大事な人たちが蹂躙されて欲しいのか」

これは平和を守るために必要な処置、そう必要だから手を血で汚す冒険者、でもこの現実は彼らには重いのだろう。同族を殺された報復行為は日常茶飯事だ。なら、決断しなくてはならないのは自分達だ。

全員が決意し子供のゴブリンを殴り殺した。
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