解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

105話 招かれざる客 Ⅱ

僕は少しの間ジーグルト伯爵家で骨休めをすることにしていた。

「おはようございます」

「ユウキ殿、おはよう。その様子では良い気分で休められたようだな」

「はい」

ベッドは綺麗でフカフカだったし質素だけど美味しい料理も十分食べられた。さすが伯爵なだけはあった。

「伯爵様」

「何かな?」

「何かお困りのことがあるようですね?」

伯爵様は少しキョトンとしていた。だけど僕には分かる。ほんのわずか表情が曇っているのを見逃さなかった。

「顔には出さないようにはしていたのだが」

どこまで相手を見抜いているのだと、とても驚いていた。

「ご相談があるのなら可能な限り聞きますよ」

それも仕事の範疇だと。

「そうだな、ここは頼らせてもらうことにしようか」

話の内容は農地の開拓だった。農地を広くしたいのだが大きな木や切り株や岩が邪魔となり発展を妨げている、取り除きたいのだが動かすには強い力を持つ馬や牛で無いと不可能。だけどもその数が足りず作業が進展しないそうだ。

それぐらいなら僕の力なら十分すぎるぐらい行える仕事だった。早速その場所を聞いて仕事をすることにしよう。

「これが問題の切り株なんだね」

「はい、よろしくお願いしますだ」

伯爵様から問題の場所を聞いた僕は即座に向かい問題の存在を確認する。結構大きな切り株が農地の真ん中にある。こんなのがあると畑が歪になるから発展には邪魔だな。

農耕用の馬や牛がいれば引き抜くことは出来るが値段が高く貴重なため伯爵家ほどでもさして数は多くない。なので問題があっても中々農民には貸せない事情があった。

さっそくその切り株に太い縄をしっかり掛けて、

「うんっ、せっ!」

腰を落として全力で引っ張る。

すると徐々に切り株は動き出し最後には地面から抜けた。

「ふうっ」

「おおっ!あの大きな切り株が抜けたぞ!」

農民たちは大喜びだった。同じ作業を繰り返して切り株を全部抜いた。

「抜いた切り株の後始末はお願いしますね」

「はい、まことにありがとうございますだ」

他の農家でも同じ問題が起こっている。僕は急いでその場所に向かう。

「この木か」

「はい、昔から生えていて農地を拡大するためにはこの木を切り倒して抜かないといけなくなりまして」

次の農家は木の切り倒し、太い木が農地の拡大方向に生えていて困っていた。これを切り倒して抜けばもっと農地が拡大できる。なのだが、木が太すぎて木こり斧では刃が立たないそうだ。見るとかなり太くこれを切り倒すのは骨だろう。

「わかりました」

早速木の切り倒しにかかる。僕は特注の遥かに大きく重く硬い木こり斧を取り出して、

「せぇの!」

一心不乱に斧を振る。

ガンガンガンガン。

けたたましい音が鳴り響く。斧は確実に木に食い込み、最後には折れてしまう。

「す、すごい。あの木をこんな短時間切り倒してしまった」

その後同じように太い縄を使って切り株を抜いてしまう。木を切り倒して切り株を抜く、そうして全ての木を取り除いた。

「これで終了です」

「本当にありがとうございます」

お礼の言葉を受けて次の場所に向かう。

「この大岩が問題なんだね」

「はい、これが農地の近くにあっては畑を広く出来ないので」

次の農家の依頼は大きな岩の排除。場所からするとこれがあると畑が歪になるそうだ。移動させるのも破壊するのも難しく頭を抱えていた。

移動させても良いが破壊して小さくして移動させたほうがいいだろう。このまま移動させても結局邪魔になるだけだしね。

全てを鋼で製作した巨大なハンマーを取り出す。他の人には下がってもらう。

「うりゃっ!」

ハンマーを渾身の力で振る。

ガキィンガキィンガキィン。

ハンマーと大岩がぶつかり小さな岩が飛び散る。僕のほうにも飛んでくるが無視してひたすらハンマーを振るう。岩は一撃ごとに小さくなり最後には手で運べる程度の大きさまで小さくなる。

「うし」

「あ、あんな大岩をあっという間に砕いちまうとは」

農民らが驚いていた。

「これで終了です」

「あ、ありがとうごぜぇますだ!」

そうして僕は農家を移動して周り木や切り株や岩を排除していった。

「ユウキ殿、我らの抱えていた問題を迅速に解決して真にありがとうございます」

「真に感謝いたします」

「いえいえ」

僕はジーグルト伯爵家当主ベルン様とその跡取りであるアルベルトさんと嫁に来るエーディンと一緒に夕食を共にすることになっていた。二人は僕を下に置かぬもてなしをしてくれている。

「さて、大層なものではないが食事にするとしよう」

そうして食事となる。

「ユウキ殿は賢者であるだけではなく戦士としても比類なき力を有しておられるのだな」

「そのような人物と知り合えて我らは幸運ですね、父上」

「そんな方の嫁にいけて私は幸せ者です」

三人には終始笑顔であった。何しろ領地や多くの農家で解決策が出てこなかった問題をあっという間に解決できたからだ。これで利益が大幅に上がり農地は大きく広がるとなれば喜ばすにはいられないだろう。

お酒も進められたが僕はアルコールの類は体質的に弱いので遠慮した。

「ここで酒に弱いとは以外ですな」

「どうも僕の一族は酒全般が駄目で」

どういうわけか一族の大半が酒には弱いのだ。どうも遺伝的なものらしい。

「すみません」

祝いの席で酒は当然なのだが断らないと命が危ない場合もある。

「まぁ、取り立てて欠点という欠点でもなかろう」

「ですな」

「それよりも精錬所での貴金属の生産で収支は合いますか」

たしか、帳簿での計算では大分量が減っているはずだ、貴金属は高く売れるのだが量としては限界がある。利益を三倍にすると明言したのでその点が気がかりだった。

「そちらの方は大丈夫だよ。近年は貴金属は相当値が上がっておるから計算では今までの二倍以上は見込める。ユウキ殿が明言した最盛期の三倍にするという発言にはしばらくかかるだろうが現実的な数字となった」

どうやら嘘吐きにはならないようだ。あれからすぐに冒険者ギルドの貴金属の専門家を呼んで製錬した貴金属を鑑定させるそうだ。その結果がよければ冒険者ギルドに優先的に回す計画を立てている。

「今後は冒険者ギルドとは親密な関係を長く続けることになるだろ。投資用の資金や財政も余裕が出来たし嫁入りの時の持参金にも事欠かなくなる。それもこれもユウキ殿おかげだ」

そんなに大したことはしてないと思うだが三人は僕をこの上なく褒め称えてくれた。そうして楽しい食事は終わり寝る。

翌朝。

「おはようございます」

「ユウキ殿、おはよう」

昨日と同じく三人で食事を取る。

「それでは、いってまいります」

「いってらっしゃいませ」

まだ数件農家の問題があったのでその問題の解決に向かう。木を切り倒し切り株を抜き岩を取り除く。それが終わりジーグルト伯爵家の本屋敷まで戻る。

「?」

どういうわけか屋敷の中が騒然となっていた。すぐさま当主の部屋まで案内される。

「おおっ!ちょうどよいところに帰ってきてくれた。ユウキ殿、大変なことが起こったのだ!」

「一体どうされたのですか?」

「エーディンが誘拐されたのだ!」

「えっ?」

彼女が誘拐にあっただと!

事情を詳しく聞くとメイドら数人と花を摘みに向かったそうだがそこで正体不明の相手数人と出くわして武器で脅されたそうだ。メイドらが大急ぎで帰ってきて当主に報告、相手は紙に「娘を返して欲しくば跡取り一人指定の場所まで来い」と書いてあった。

「こんな大事な時にメイドだけで行かせたのは迂闊であった!」

「父上、急ぎ対策を」

「うむ」

これから領地が発展させていこうという時に一族の娘が誘拐に会う。タイミングが良すぎる。

「当主様、僕に考えがあります」

僕は進言する。

「ここはアルベルト様”一人”で行ってもらいましょう」

「「な、なんだと!」」

あまりの言葉に皆驚いていたが僕には考えがある。その考えを周囲の人間にだけ説明した。

そして、

「お、約束どおり跡取りのアルベルト様一人だけで来たようだな」

「・・・」

「あ?なんだ、怯えてるのか」

まるで弱者を貶めるような発言に私は少しばかり怒りと僅かながら恐怖する。ユウキの立てた作戦と相手の出方ではこのままエーディンのところまで連れて行かれるはずだ。少しながら不安はあるが大丈夫だ。今はその作戦通りに動くのみだ。

「ごたくはいい、エーディンは無事なのだろうな?」

「ああ、それはもう安全さ」

この誘拐犯らはもうすでに「勝負は終わった」と確信しているようだが果たしてその通りなのだろうか?ともかく彼女の安全を確認しなければ始まらない。

そうして誘拐犯について行く。暗い道を歩き連れて行かれたのは領地の外れの廃屋だった。

その中に入る。

「ア、アルベルト様!」

「エーディン!」

身なりの汚れは無いが縄で縛られていた、この様子では相当恐怖に怯えていたのだろう。

「な、なぜここに!?」

「君を助けに来たのだ」

いくら一族の娘とはいえ跡取りが一人で来てよい相手ではないはずだ。

「へへっ、感動のご対面だ」

誘拐犯数人が笑う、下卑た笑いだ。

「さぁて、開放する条件を言おうかね」

それは領地の権益を半分寄越せというものだった。

「異常な条件だな」

「ああ、異常さ。だが、それで命が助かるなら安いはずだろ?」

誘拐犯らは武器を構える。その数二十人が私に迫る。

「さぁ、返答を聞かせてもらおうか?」

「ああ、そうだな」

やはりユウキが予想していた展開だった、ならば、もはや遠慮はしない。人質の居場所も安全も確認できたのだ。下手に出る意味は無くなった。

「返事は”貴様らは皆殺し”だ」

『えっ?』

すると、私の足元から黒い影が立ち上がる。

「な、なんだぁ?」

突然黒い影が立ち上がり一人の誘拐犯を問答無用で殺す。

「ひ、ヒイッ!な、何だよこれは!」

誘拐犯は黒い影の存在の怯える、影は迅速に誘拐犯らに致命傷を与えていく。何人かの誘拐犯が反撃しようとするが瞬時に黒い影はどこかに消えてまた現れる。敵の足元や敵の背後から!

そうして、二十人もいた誘拐犯は最後の一人となる。安全が確保され私は誘拐犯を問い詰める。

「貴様らの依頼主は誰だ?」

「い、言える訳がねぇだろ!」

すると、黒い影はそいつを殴る。

「ぎゃうっ!」

「聞こえなかったのか?」

「ひ、ヒィッ!」

反論しようとすれば得体の知れない黒い影が殴る、腹を。何度でも何度でも何度でも。だが、中々口を割らない。すると影は手を掴み指の一本を「ベキィッ」簡単にへし折った。

「ギャァァ~!」

返事をしなかったり躊躇うと指を一つ一つへし折る、やがてそいつは観念したのか依頼主らのことをペラペラ話し出す。

「そうか、アウドース男爵らか」

「そ、そうだよ!奴らは自分らの話に興味を示さず金も出さず帰したことを逆恨みしたんだよ!」

「わかった、お前は命は助けて連れて帰る」

この拷問から逃げられるのであればどうでもいいらしく黒い影の縛る縄を大人しく受ける。そいつを外に出してから黒い影は戻ってきた。

「あ、アルベルト様?この黒い影は一体・・・」

エーディンは自分らを守ってくれた黒い影の存在が不思議なのだろう。

「安心してほしい、これは味方だ」

君もしっているはずだと。すると黒い影が正体を見せる。

「ゆ、ユウキ様!?」

「待たせてごめんね、怖かったでしょう」

エーディンは突進するかの勢いでユウキに抱きついた。さて、聞きだした話から奴らにどのような罰を与えるのかを父上と相談しなくてはならない。今後大切な関係を築く一族の娘を誘拐したのだからただでは済ませないぞ。
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