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第1章
117話 馬鹿勇者連中再び Ⅲ
馬鹿勇者らがジーグルト伯爵家当主アルベルトに面会するまでの間、
「ユーヴィル殿」
「何でございましょうか」
伯爵家当主となったアルベルトと重臣、冒険者ギルド貴金属部門のユーヴィルと派遣されてきた人材が話をしていた。
「今後精練施設を建設して生産できる貴金属の大体の量は計算出来たのですかな」
アルベルトはユーヴィルらに率直に聞いてきた。
「ユウキ様の考案された『灰吹き法』により今までの精練とは比べ物にならないほどに質量ともに高いですね、建設に必要な人材及び資源の大体の見積もりは出しております」
その報告書を注意深く確認するアルベルト。
「月当たり精錬できる貴金属は十五~二十トン前後となっているな」
その内容を見て喜ぶアルベルトと重臣。
「あくまで現時点での計算ですね、今後労働者の募集や新規鉱山の開発に際しては計算しておりませんので」
「なるほど」
内訳はまだ出ていないがこれだけ大量の貴金属を精練すればその利益はとてつもないことになるのは間違いない。もうすでにその貴金属を調達するために冒険者ギルドから細工師や彫金師らも顔を見せに来ているほどだ。
それらに上限を決めて値段をつけてある程度の量を持ち帰らせていた。
『今後とも長いお付き合いをお願いいたします』
彼らは大喜びで帰っていった。
ユウキの「最盛期の利益の三倍を生み出す」発言は現実のものとなっていた、それどころか今まで来なかった客の来訪により人脈も広がっている。
ここで、ユウキについて考えなければならないことが浮かんでくる。
「ユウキは一体どこから来られたのだ?」
それは、ユウキの出自についてだった。
並ぶものが居ない圧倒的な武力といい紛争に際しての明確な作戦立案といい、底知れない器の大きさを見せ付けたユウキ。父上に初対面の際に対しても間違いのない礼儀作法といい相当に高度な教育を受けているのは間違いないだろう。
なのに、ユウキは家名を名乗らない。
平民ならともかくある程度の規模の家ならば家名を有していて当然だからだ。王族貴族の家柄ならばなお重視される。なのに、名前だけしか名乗らないのは完全におかしい事だった。
「ユウキは何故自分のことを明かさないのだろうか?」
「それについては冒険者ギルドも調査しましたが・・・・・」
この世界では黒髪黒瞳はとても珍しく強い遺伝性がないと生まれては来ないとされている。大抵は茶色なのだ。東のほうで僅かながら確認される程度であり西側であるこちらではまず生まれてこない。
「本人は『星の向こうから来た』と言っておりますが」
ふむ、何かいえない事情があるのだろうか?それとも誰かから圧力をかけられているのだろうか?本人がいるのだから聞いてみたい気持ちが強くなるが、
「(本人のほうから打ち明けるまで待っていることにしよう)」
ただ派遣されてきただけなのにその恩はすぐには返せないほどに大きい、ここで問い詰めて関係が壊れたら取り返しが付かない。そう判断した。
「精練施設の建設進行度はどれほどなのかな」
話題を変える。今は今でやらなければならない仕事がある。
「ユウキ様のおかげで大分基礎工事の時間が短縮されました」
残り三月ほどだそうだ。すごいな、これだけ短期間でそこまで工事を短縮したのか。
現在精練施設はフル稼働中でありそこから産出される貴金属は冒険者ギルドに販売を委託している。大規模な精練施設が出来たら労働者の募集や技術者の勧誘までやらなければならないことは大幅に増える。
当然、次世代以降もこの領地を世襲できるようにしなければならないのだ。
当然妻を娶り子をなさなければならない。自分はまだ二十台に入ったぐらいの若さだ、これまで伯爵家の利権に噛ませてもらおうと女らが沢山やってきたが全て断った。
「(奴らが欲しいのはこの家の財産であり私を見てはいないからな)」
ハッキリ言って身なりはいいが性格が悪い女ばかりでありとても伯爵家の家柄に釣り合うような女ではないのが殆ど、浪費家の女性ばかりであったのだ。
口々に言うのは、
『どれだけお金持っていますか?』
貴族としての品格や礼儀作法云々どころではなかった。
こういう浪費家の女ばかりがやってきて結婚後の財布の中身を確認しようとする始末、とてもじゃないが嫁に貰うような女ではなかった。それでも貴族の付き合いだからとお見合いをするがハッキリ言って迷惑極まりない。父上も「嫌いな相手だ」と漏らしていたほどだ。
貴族とはこういうものである。
その父上だが、
「これ以上跡取りの正妻らを決められない現実に我慢できん!」
側近らを連れて嫁探しに出かけたのだ。
先代自ら嫁探しに出かけなければならないほどに貴族の質は目に見えて落ちてきていた。先の紛争も馬鹿な貴族の欲望が切っ掛けで起こったのでちゃんと貴族としての品格を保った家柄から嫁を探してくると。
冒険者ギルドにも連絡を入れて「職業貴族の家柄でもいいから良い娘を」と頼んでいる。どこの誰とも分からぬ家柄の貴族が増える一方なのでまともに教育がされている職業貴族からも相手を選ぶことにしたのだ。
少し前の時代だったら「下賎な民の血が混じる」そんな風潮だが近年は職業貴族の立場の見直しがされていて下手な世襲貴族よりも職業貴族のほうが教育が徹底されていることが多い。
正妻になるのは少し難しいが側室や妾としてならば十分だろう。
幸い結婚資金には事欠かないのだから。
一族や分家にも配当金を出す必要があるし馬鹿な相手に捕まって酷い目に合わされないとも限らない。なので、冒険者ギルドと協力して警備体制を強化した。暗殺事件も起こったので身辺をしっかりとしておく必要がある。また同じことが起こらないとは限らないのだから。
「当主様、呼ばれてきました」
入り口から年若い男の子が入ってきた。
「よく来たな、エルヴィン」
この子はユウキに嫁がせるエーディンの弟のエルヴィンだ。まだ成人前で体つきもさして目立つところは無いがユウキはもうすでに職業貴族として家を建てることが決定している立場。当然その妻となるエーディンの身の回りで補佐をする人間が必要となる。私は彼にジーグルト分家従士長として付いていくように命じる。
「喜んでお引き受けいたします」
彼にはすでにユウキの訓練に参加させていた。ハッキリ言ってあれほど単純明快で過酷な訓練をこなしている貴族家などほぼ存在しないだろう。礼式や作法を大事にする風潮は未だに根強いのだが大半が間違いばかりを犯している。それなのにまかり通る今の貴族家はどう考えてもおかしい。
根本的に基礎教育がなっていないのが現実だ。ユウキはそれらに対して正確に答えた。あれほどの人物の側にいることは必ず徳になるはずだ。そう考えて彼を選んだ。
「訓練の具合は」
「ハッキリ言ってキツイです」
縄跳びなど子供のお遊びであり大の大人がやるようなことではない。しかしながら、これ以上単純明確に鍛えるという訓練は無いだろう。戦闘では様々なことが起こる、味方の盾となったり援護したり、負傷した兵士を担いで逃げなければならないこともある。
この訓練で重要なのは「長時間持続する力を養う」ということである。冒険者と兵士とではここに大きな差があり瞬発力はさして違わないのだが持続時間に明確な差があるのだ。実際三分足らずでへばってしまう兵士と三十分以上続けても平気な顔をしているユウキとの格差。
先の紛争でもユウキの活躍が目立ち隠れていたが兵士の多くがヨロヨロだった事実が確認されている。そのため兵士らには長時間の戦闘に耐えられないという弱点が露呈していた。側近らは何とかついていけるが中核をなす兵士らがこれではどんな作戦を立てても意味が無い。
早急に錬度を上げる必要があった。
「皆の様子は?」
「辞めたい、口々に言いますね。若い連中ほど『こんな屈辱は家族に見せられない!』って。実際に紛争に参加して戦果上げてたら反論もあると思いますけど。今の訓練の様子では難しいですね」
先の貴族同士の紛争ではユウキが先陣を切って大手柄を上げた。
あのような人物になるのは難しいが最低でもこれに耐えられるぐらいの兵士ではないと雇うのは難しい問題がある。下手をすれば当主の首を敵に持参する裏切り者が出ないとも限らないからだ。
「辞めたい、って口々に言いますけど先代と当主様自らが頭を下げて招いている人物です。厳しいこともよく言われますけど」
自分も訓練に参加して周囲への配慮を欠かさずにやっている好人物だとの評価だそうだ。
訓練でシークやウルフなどの討伐もやるそうだが、
「その料理がすごい美味いって大評判なんですよ」
「ほぅ」
そういえばユウキは料理人としても腕が立つと聞かされていた。
「ハッキリ言って賄いとは思えないぐらいに美味いんですよ」
兵士らの言う賄いとは戦時中の食べ物のことだ。なので味付けや素材では通常よりも劣る。
「あんまり言いたくないんですけど。うちの兵士の調理場の食事よりも格段に美味いです。これ目当てに参加している兵士もいるぐらいですから」
ユウキいわく、
『美味い飯を食えば戦意は勝手に向上する!』
とのことだ。
戦時では残飯でも食わないとならないが調理のやり方次第でそこそこのご馳走になる、美味い飯食わせてお金を払えばそれだけで良い指揮官だと。
「なわけで、口々では嫌がっていても脱落しようと考えてるのは皆無です。逃げ出してもまともに働ける職場無いですからね」
何しろ冒険者ギルド側から指示されて来ている上に指揮官として有能であればその指示に従うほうが良い思いが出来る、そのような打算で兵士らは訓練を自発的に受け入れていた。
父上がギルド支部長に推薦したリサ殿も相当なやり手だが現場で指揮するというのならばこちらに軍配があるみたいだ。どちらにしても実戦経験豊富な指揮官というのはほぼ存在しないのだ。近年は国の軍事演習ですら陳腐化しているとの噂も立っているほどである。
なるほど、着実に自分の支持基盤を固めているわけだ。
重臣や側近に取り入るのは立場上不可能だから一番人数の多い兵士らから支持を集めているわけだ。さすがに当主よりも上に立つなどはやらないだろうが過去に貴族家の当主よりも支持を集めた指揮官らも多数存在している。
最後は自分よりも人気のあることを逆恨みした人間に殺されたが、ユウキに限って間違いを犯すとは考えられない。実際上下関係を厳しく遵守している。
「何か『天の上から何もかも見ている』ってぐらい、よく気づくんですよ」
訓練をしている最中こんなことがあったそうだ。
「お前!」
「は、はい!」
教官として日々厳しくしていたユウキが突然一人の兵士を止めた。
「脇腹を見せろ」
「へ?」
兵士は言われるがまま服を脱いで脇腹を見せた。
「・・・馬鹿、傷を負っているなら事前に申告しろと命じたはずだ」
その兵士は木の実を取ろうとして誤って転落し脇腹を痛めていたそうだ。
「で、でも。日々の訓練は欠かさず」
「あのなぁ、日々兵士としての訓練も大事だが負傷した体で訓練に参加されても逆に駄目なんだ」
「へ、へぇ!」
「ここに医者は?」
「居ますけど」
そこそこの代金は取られると。
「これで薬をもらってこい。それで体を休めて傷が治ってから訓練参加だ。あまりは休暇分の食費などに当てろ」
金の入った皮袋を兵士に握らせる。
「!い、いいんですか?!」
「本来だったら時間外で負傷したなら実費だが当主様から大金貰ってるからさしたる出費ではない。今後はこうしたことがないようにな」
「は、はい!」
「って、ことがあったんです」
それが切っ掛けでユウキを見る目が徐々に変化し始めたそうだ。通常であるならば兵士が勝手に負傷したので金を出さないのだがユウキは躊躇わずに出した。そのことから通常の指揮官とは明らかに違うと、そう見られるようになったそうだ。
言葉が違う、行動が違う、考えが違う。
一番危険な役回りをさせる兵士だからこそ大切に扱わないとならない。
どんなに精鋭でも世代交代は必ず訪れる。可能な限り次世代への芽を育てなければならない。
「『指揮官と兵士の命の重さは同じではない。しかし、おなじ命において公私の区別は関係ない』って、すごいですよねぇ、まるで本の中の名指揮官が現実に現れたかのようでしたよ」
ユウキは確実に自分の支持者を集めているようだった。
最初こそ兵士らの反発があり「辞めたい」という者らが出たが訓練についていけないならば解雇するという私の言葉を聞いて黙るしかなかった。しかし、ユウキは過酷な訓練を指導するからこそ兵士達の心情を理解し配慮を疎かにしなかった。エルヴィンの話し振りだと脱落するものはほぼ皆無と見ていいだろう。
本気で家臣になって欲しいが、
「ユウキ様を家臣にするのは不可能ですよ」
ユーヴィル殿に止められてしまう。
「やはり無理か」
「ユウキ様はもうすでに複数の大貴族が後ろ盾になっている身、そちらのほうが優先されます」
私よりも爵位が上の大貴族が複数援助しているとのことだ、さすがにそんな身では家臣には出来ないだろう。
とは言うもののユウキのおかげで領地に希望が差し込んだのは事実、今後とも良い関係を続けられるようにしなくては。そう考えて仕事をしていた時にメイドがやってきた。
なんでも勇者であり貴族家当主だという輩だそうだ。
「あいつら、どこまで恥知らずなのですか」
ユーヴィル殿が嫌な顔をした。
何でも、ユウキを平然と酷使した上に世の中を理解していないボンボンだという、言動が子供過ぎていくら言っても聞かない愚か者の集団だと。
なるほど、そんな手合いを国は増やしているのか。ここで叩いておかないとまた犠牲者が増えると判断し会うことにした。
「ユーヴィル殿」
「何でございましょうか」
伯爵家当主となったアルベルトと重臣、冒険者ギルド貴金属部門のユーヴィルと派遣されてきた人材が話をしていた。
「今後精練施設を建設して生産できる貴金属の大体の量は計算出来たのですかな」
アルベルトはユーヴィルらに率直に聞いてきた。
「ユウキ様の考案された『灰吹き法』により今までの精練とは比べ物にならないほどに質量ともに高いですね、建設に必要な人材及び資源の大体の見積もりは出しております」
その報告書を注意深く確認するアルベルト。
「月当たり精錬できる貴金属は十五~二十トン前後となっているな」
その内容を見て喜ぶアルベルトと重臣。
「あくまで現時点での計算ですね、今後労働者の募集や新規鉱山の開発に際しては計算しておりませんので」
「なるほど」
内訳はまだ出ていないがこれだけ大量の貴金属を精練すればその利益はとてつもないことになるのは間違いない。もうすでにその貴金属を調達するために冒険者ギルドから細工師や彫金師らも顔を見せに来ているほどだ。
それらに上限を決めて値段をつけてある程度の量を持ち帰らせていた。
『今後とも長いお付き合いをお願いいたします』
彼らは大喜びで帰っていった。
ユウキの「最盛期の利益の三倍を生み出す」発言は現実のものとなっていた、それどころか今まで来なかった客の来訪により人脈も広がっている。
ここで、ユウキについて考えなければならないことが浮かんでくる。
「ユウキは一体どこから来られたのだ?」
それは、ユウキの出自についてだった。
並ぶものが居ない圧倒的な武力といい紛争に際しての明確な作戦立案といい、底知れない器の大きさを見せ付けたユウキ。父上に初対面の際に対しても間違いのない礼儀作法といい相当に高度な教育を受けているのは間違いないだろう。
なのに、ユウキは家名を名乗らない。
平民ならともかくある程度の規模の家ならば家名を有していて当然だからだ。王族貴族の家柄ならばなお重視される。なのに、名前だけしか名乗らないのは完全におかしい事だった。
「ユウキは何故自分のことを明かさないのだろうか?」
「それについては冒険者ギルドも調査しましたが・・・・・」
この世界では黒髪黒瞳はとても珍しく強い遺伝性がないと生まれては来ないとされている。大抵は茶色なのだ。東のほうで僅かながら確認される程度であり西側であるこちらではまず生まれてこない。
「本人は『星の向こうから来た』と言っておりますが」
ふむ、何かいえない事情があるのだろうか?それとも誰かから圧力をかけられているのだろうか?本人がいるのだから聞いてみたい気持ちが強くなるが、
「(本人のほうから打ち明けるまで待っていることにしよう)」
ただ派遣されてきただけなのにその恩はすぐには返せないほどに大きい、ここで問い詰めて関係が壊れたら取り返しが付かない。そう判断した。
「精練施設の建設進行度はどれほどなのかな」
話題を変える。今は今でやらなければならない仕事がある。
「ユウキ様のおかげで大分基礎工事の時間が短縮されました」
残り三月ほどだそうだ。すごいな、これだけ短期間でそこまで工事を短縮したのか。
現在精練施設はフル稼働中でありそこから産出される貴金属は冒険者ギルドに販売を委託している。大規模な精練施設が出来たら労働者の募集や技術者の勧誘までやらなければならないことは大幅に増える。
当然、次世代以降もこの領地を世襲できるようにしなければならないのだ。
当然妻を娶り子をなさなければならない。自分はまだ二十台に入ったぐらいの若さだ、これまで伯爵家の利権に噛ませてもらおうと女らが沢山やってきたが全て断った。
「(奴らが欲しいのはこの家の財産であり私を見てはいないからな)」
ハッキリ言って身なりはいいが性格が悪い女ばかりでありとても伯爵家の家柄に釣り合うような女ではないのが殆ど、浪費家の女性ばかりであったのだ。
口々に言うのは、
『どれだけお金持っていますか?』
貴族としての品格や礼儀作法云々どころではなかった。
こういう浪費家の女ばかりがやってきて結婚後の財布の中身を確認しようとする始末、とてもじゃないが嫁に貰うような女ではなかった。それでも貴族の付き合いだからとお見合いをするがハッキリ言って迷惑極まりない。父上も「嫌いな相手だ」と漏らしていたほどだ。
貴族とはこういうものである。
その父上だが、
「これ以上跡取りの正妻らを決められない現実に我慢できん!」
側近らを連れて嫁探しに出かけたのだ。
先代自ら嫁探しに出かけなければならないほどに貴族の質は目に見えて落ちてきていた。先の紛争も馬鹿な貴族の欲望が切っ掛けで起こったのでちゃんと貴族としての品格を保った家柄から嫁を探してくると。
冒険者ギルドにも連絡を入れて「職業貴族の家柄でもいいから良い娘を」と頼んでいる。どこの誰とも分からぬ家柄の貴族が増える一方なのでまともに教育がされている職業貴族からも相手を選ぶことにしたのだ。
少し前の時代だったら「下賎な民の血が混じる」そんな風潮だが近年は職業貴族の立場の見直しがされていて下手な世襲貴族よりも職業貴族のほうが教育が徹底されていることが多い。
正妻になるのは少し難しいが側室や妾としてならば十分だろう。
幸い結婚資金には事欠かないのだから。
一族や分家にも配当金を出す必要があるし馬鹿な相手に捕まって酷い目に合わされないとも限らない。なので、冒険者ギルドと協力して警備体制を強化した。暗殺事件も起こったので身辺をしっかりとしておく必要がある。また同じことが起こらないとは限らないのだから。
「当主様、呼ばれてきました」
入り口から年若い男の子が入ってきた。
「よく来たな、エルヴィン」
この子はユウキに嫁がせるエーディンの弟のエルヴィンだ。まだ成人前で体つきもさして目立つところは無いがユウキはもうすでに職業貴族として家を建てることが決定している立場。当然その妻となるエーディンの身の回りで補佐をする人間が必要となる。私は彼にジーグルト分家従士長として付いていくように命じる。
「喜んでお引き受けいたします」
彼にはすでにユウキの訓練に参加させていた。ハッキリ言ってあれほど単純明快で過酷な訓練をこなしている貴族家などほぼ存在しないだろう。礼式や作法を大事にする風潮は未だに根強いのだが大半が間違いばかりを犯している。それなのにまかり通る今の貴族家はどう考えてもおかしい。
根本的に基礎教育がなっていないのが現実だ。ユウキはそれらに対して正確に答えた。あれほどの人物の側にいることは必ず徳になるはずだ。そう考えて彼を選んだ。
「訓練の具合は」
「ハッキリ言ってキツイです」
縄跳びなど子供のお遊びであり大の大人がやるようなことではない。しかしながら、これ以上単純明確に鍛えるという訓練は無いだろう。戦闘では様々なことが起こる、味方の盾となったり援護したり、負傷した兵士を担いで逃げなければならないこともある。
この訓練で重要なのは「長時間持続する力を養う」ということである。冒険者と兵士とではここに大きな差があり瞬発力はさして違わないのだが持続時間に明確な差があるのだ。実際三分足らずでへばってしまう兵士と三十分以上続けても平気な顔をしているユウキとの格差。
先の紛争でもユウキの活躍が目立ち隠れていたが兵士の多くがヨロヨロだった事実が確認されている。そのため兵士らには長時間の戦闘に耐えられないという弱点が露呈していた。側近らは何とかついていけるが中核をなす兵士らがこれではどんな作戦を立てても意味が無い。
早急に錬度を上げる必要があった。
「皆の様子は?」
「辞めたい、口々に言いますね。若い連中ほど『こんな屈辱は家族に見せられない!』って。実際に紛争に参加して戦果上げてたら反論もあると思いますけど。今の訓練の様子では難しいですね」
先の貴族同士の紛争ではユウキが先陣を切って大手柄を上げた。
あのような人物になるのは難しいが最低でもこれに耐えられるぐらいの兵士ではないと雇うのは難しい問題がある。下手をすれば当主の首を敵に持参する裏切り者が出ないとも限らないからだ。
「辞めたい、って口々に言いますけど先代と当主様自らが頭を下げて招いている人物です。厳しいこともよく言われますけど」
自分も訓練に参加して周囲への配慮を欠かさずにやっている好人物だとの評価だそうだ。
訓練でシークやウルフなどの討伐もやるそうだが、
「その料理がすごい美味いって大評判なんですよ」
「ほぅ」
そういえばユウキは料理人としても腕が立つと聞かされていた。
「ハッキリ言って賄いとは思えないぐらいに美味いんですよ」
兵士らの言う賄いとは戦時中の食べ物のことだ。なので味付けや素材では通常よりも劣る。
「あんまり言いたくないんですけど。うちの兵士の調理場の食事よりも格段に美味いです。これ目当てに参加している兵士もいるぐらいですから」
ユウキいわく、
『美味い飯を食えば戦意は勝手に向上する!』
とのことだ。
戦時では残飯でも食わないとならないが調理のやり方次第でそこそこのご馳走になる、美味い飯食わせてお金を払えばそれだけで良い指揮官だと。
「なわけで、口々では嫌がっていても脱落しようと考えてるのは皆無です。逃げ出してもまともに働ける職場無いですからね」
何しろ冒険者ギルド側から指示されて来ている上に指揮官として有能であればその指示に従うほうが良い思いが出来る、そのような打算で兵士らは訓練を自発的に受け入れていた。
父上がギルド支部長に推薦したリサ殿も相当なやり手だが現場で指揮するというのならばこちらに軍配があるみたいだ。どちらにしても実戦経験豊富な指揮官というのはほぼ存在しないのだ。近年は国の軍事演習ですら陳腐化しているとの噂も立っているほどである。
なるほど、着実に自分の支持基盤を固めているわけだ。
重臣や側近に取り入るのは立場上不可能だから一番人数の多い兵士らから支持を集めているわけだ。さすがに当主よりも上に立つなどはやらないだろうが過去に貴族家の当主よりも支持を集めた指揮官らも多数存在している。
最後は自分よりも人気のあることを逆恨みした人間に殺されたが、ユウキに限って間違いを犯すとは考えられない。実際上下関係を厳しく遵守している。
「何か『天の上から何もかも見ている』ってぐらい、よく気づくんですよ」
訓練をしている最中こんなことがあったそうだ。
「お前!」
「は、はい!」
教官として日々厳しくしていたユウキが突然一人の兵士を止めた。
「脇腹を見せろ」
「へ?」
兵士は言われるがまま服を脱いで脇腹を見せた。
「・・・馬鹿、傷を負っているなら事前に申告しろと命じたはずだ」
その兵士は木の実を取ろうとして誤って転落し脇腹を痛めていたそうだ。
「で、でも。日々の訓練は欠かさず」
「あのなぁ、日々兵士としての訓練も大事だが負傷した体で訓練に参加されても逆に駄目なんだ」
「へ、へぇ!」
「ここに医者は?」
「居ますけど」
そこそこの代金は取られると。
「これで薬をもらってこい。それで体を休めて傷が治ってから訓練参加だ。あまりは休暇分の食費などに当てろ」
金の入った皮袋を兵士に握らせる。
「!い、いいんですか?!」
「本来だったら時間外で負傷したなら実費だが当主様から大金貰ってるからさしたる出費ではない。今後はこうしたことがないようにな」
「は、はい!」
「って、ことがあったんです」
それが切っ掛けでユウキを見る目が徐々に変化し始めたそうだ。通常であるならば兵士が勝手に負傷したので金を出さないのだがユウキは躊躇わずに出した。そのことから通常の指揮官とは明らかに違うと、そう見られるようになったそうだ。
言葉が違う、行動が違う、考えが違う。
一番危険な役回りをさせる兵士だからこそ大切に扱わないとならない。
どんなに精鋭でも世代交代は必ず訪れる。可能な限り次世代への芽を育てなければならない。
「『指揮官と兵士の命の重さは同じではない。しかし、おなじ命において公私の区別は関係ない』って、すごいですよねぇ、まるで本の中の名指揮官が現実に現れたかのようでしたよ」
ユウキは確実に自分の支持者を集めているようだった。
最初こそ兵士らの反発があり「辞めたい」という者らが出たが訓練についていけないならば解雇するという私の言葉を聞いて黙るしかなかった。しかし、ユウキは過酷な訓練を指導するからこそ兵士達の心情を理解し配慮を疎かにしなかった。エルヴィンの話し振りだと脱落するものはほぼ皆無と見ていいだろう。
本気で家臣になって欲しいが、
「ユウキ様を家臣にするのは不可能ですよ」
ユーヴィル殿に止められてしまう。
「やはり無理か」
「ユウキ様はもうすでに複数の大貴族が後ろ盾になっている身、そちらのほうが優先されます」
私よりも爵位が上の大貴族が複数援助しているとのことだ、さすがにそんな身では家臣には出来ないだろう。
とは言うもののユウキのおかげで領地に希望が差し込んだのは事実、今後とも良い関係を続けられるようにしなくては。そう考えて仕事をしていた時にメイドがやってきた。
なんでも勇者であり貴族家当主だという輩だそうだ。
「あいつら、どこまで恥知らずなのですか」
ユーヴィル殿が嫌な顔をした。
何でも、ユウキを平然と酷使した上に世の中を理解していないボンボンだという、言動が子供過ぎていくら言っても聞かない愚か者の集団だと。
なるほど、そんな手合いを国は増やしているのか。ここで叩いておかないとまた犠牲者が増えると判断し会うことにした。
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勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
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