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第1章

119話 砂糖の製造

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あの馬鹿勇者らが追い返されてからも僕は新兵らの訓練に励んでいた。

「午前の訓練は終了」

『や、やっと、終わった』

全員がヘロヘロな状態だ。まぁ、これでも初日に比べれば大分マシになった方である。

「全員、食事を取れ」

その言葉で兵士らが元気づく

『うおぉぉ~!飯だ飯だ!』

なお、調理はほとんど僕がしている。

メニューは雑穀粥に魚醤を加えたものに肉団子スープとサラダ、付け合わせに油で揚げた千切りポテトだ。

兵士らは無我夢中でそれらを胃の中に入れていく。

『う、うめぇぇえ~!!』

ハッキリ言って前の飯場の料理長や料理人の腕前はよろしくなかった。

僕も食べたが、

「こんなの食わされ続けて兵の士気が上がるわけがないでしょ」

即刻そいつに命じて料理の改善を求めた。

調理方法を教えて覚えられなければクビだと脅す。多少反発があったがジーグルト伯爵様から厚い信頼を得ている僕に対してただの料理長らが逆らえるはずがない。

多少のコスト高は受け入れさせている。

そうして、今のメニューになったわけだ。

さて、このまま訓練を続けて食事をとらせれば兵士らの練度については問題ないだろう。

ここに来ているリフィーア達の様子でも見に行こうかな。

「ユウキ様、お帰りさないませ」

『おかえりなさいませ』

「…ただいま」

なんか全員様子が変わっていた。口調がなんか丁寧だし動きもおかしい。いつもオドオドしているアリーナですらそうなのだ。

「エーディン、何を教えたの?」

「ちょっとばかり妻としての作法を」

何を教えたのか気になるところだが別に悪いことではないので任せておくことにした。

「当主様が相談したいことがあるそうです」

「アルベルトが」

何か頼みたいことがあるそうだ。すぐさま向かう

「ユウキ、兵士らの訓練で忙しいところすまないな」

アルベルトは笑顔で迎えてくれる。

「何かご相談でしょうか」

「うむ、貴金属精錬でこの領地は格段に潤うのは間違いないが。その後のことだ」

地下資源が枯渇した場合の問題をどうしたらよいのか、と。なるほど、今のところ莫大ともいえる地下資源もいずれは枯れてしまう。その前に伯爵家にとって利益を生み出す産業を確立しておきたいのだろう。

「ハッキリ言ってしまうが土質が荒く貧相な土地のためあまり生産には向かない土地なのだ」

そのため外部からの供給に大きく依存している。土地は広いがあまり農業は発展しないとの答えがもう出ている。

「冒険者ギルドの意見も一致しています。どうしたらよいのかと」

ユーヴィルさんも難しい顔をしていた。

ふむ、ならあれをやってみようか。あれならばどこでも売れるし買い手はいくらでもいるから。

「”砂糖”の製造はどうでしょうか」

「「はい?」」

二人そろって変な顔をしていた。

「だから、砂糖の製造です」

「「さ、砂糖?!」」

二度目で二人は仰天した。

「駄目ですか?」

「駄目どころかこの土地でも砂糖が製造できるなら何の心配もいらなくなる。しかし」

サトウキビが育つような環境ではないのにどうやって?と。二人の疑問は当然だった。

「とりあえず、試験的な生産に留めますので土地をお借りしたいのですが」

いまだに半信半疑のアルベルトに頼んで鉱石が埋まってない土地を借りることにした。

―――それからしばらくして

「ユウキ様、この植物は何なのですか?」

ユーヴィルさんらが視察に来た。

「カロナダイコンと呼ばれる南部の植物です。荒れた荒野でも育ちやすく気温が低くても成長が早いですよ」

「それはいいのですが、これでどうやって砂糖を製造するのですか」

「じゃあ、量が安定してきたので製造します」

まず大きな鍋で温水を作りそこに細かく刻んだカロナダイコンを入れて煮詰める。そこに石灰乳を入れて成分を沈殿させてから目の細かいろ過機で取り出す。

後に残ったのは白い小さな結晶だった。

「よし、うまくいった」

「え?これが砂糖、ですか。えらく色が白いですね」

この世界の砂糖は不純物を取り除いていないため黒いのが普通だ、このカロナダイコンには不純物が少ないので白に近い色になっている。

「舐めてください」

ユーヴィルさんは恐る恐るそれを手に取り舐める。

「?!こ、この甘さは、間違いなく砂糖です!普通の砂糖より甘さは強くないですが強いクドさがなく後味がよい!」

通所の砂糖はほぼ黒砂糖なのでアクが強いのだがこの方法でやると甘さが控えめになるがアクの強さが控えめになる利点がある。

さて、これで目的は達成したのだが。

「ユウキ様、是非ともお願いしたいことがございます」

熱い視線をこちらに送ってくるユーヴィルさん。何か嫌な予感がしてきた。

「私の弟がもうすぐ成人するのですが勤め先を探してます。この砂糖の製造の責任者に推薦してほしいのですが」

もちろん、冒険者ギルドから手厚い支援も用意すると、やっぱりこんな話になるのか。

嫁を押し付けられるよりは楽な案件だと思い承諾することにした。




「初めましてユウキ様。ユーヴィルの弟のエックハルトと申します」

外見は中々いいし真面目そうだ。

「姉上、本当にここで砂糖の製造が可能なのでしょうか?」

エックハルトは当然の質問をしてきた。製造した砂糖を確かめさせる。

「こ、これは本当に、砂糖ですね……」

「手紙で書いた通りでしょう」

ユーヴィルさんはとても自慢げだった。

「アルベルトにはちゃんと説明してきた」

「そちらの方は問題ありません。現物を渡したらすぐに農地拡大の許可が下りました」

これで大規模な農地開発が可能になる。荒れた土地でも育つが手入れした土地の方が効率はいい。ユーヴィルさんは弟だけではなく働く労働者も用意していた。

「今はまだ試験的な状況からスタートですがこの砂糖の製造は将来間違いなく莫大な利益になるでしょう。この巨大な利権を他に渡さないように努力しなさい」

「畏まりました、姉上」

そうしてエックハルトに砂糖の製造方法とカロナダイコンの栽培を命じてからジーグルト伯爵家本屋敷に戻る。

「おおっ、ユウキ。今か今かと待ちかねていたぞ」

当主の部屋に行くとアルベルトは大喜びで迎えてくれた。

「まさかこの土地で本当に砂糖が製造できるといまだに信じられん、信じられんが」

現物を送って確認したのだから信じるしかないのだ。

「今はまだ原料が足りないのでその生産に力を注ぐべきですね。本格的な砂糖の製造はその後ということで」

「うむ」

これで伯爵家に大きな産業が生まれたことが確定する。貴金属精錬と砂糖製造の二つがあればこの領地は何も問題は起こらないだろう。

「ベルン様は今どこにおられるのですか?」

先代当主ベルン様は跡取りのアルベルトの嫁探しに出ていった。

「それならば手紙が来ている」

内容は…、良くないようだ。

「どこの世襲貴族も礼節をわきまえず我欲で動く愚か者ばかりで嫁として迎え入れられるものではないそうだ」

「そうですか」

「しかも、事あるごとに金を無心するので二度と会いたくないと書かれている」

嫁探しはまだまだ苦労するだろうな。

だからといって、領地の開発を止めるわけには出来ない。むこうはむこう、こっちはこっちでやるべきことをやらないと。

「あ、ユウキには証書が届いているぞ」

何か、冒険者ギルドから伝えたいことがあるようだ。

「そなたの功績と実績を評価し冒険者ギルドから”行動小隊長第一位”に命ずると」

冒険者ギルドから冒険者を指揮統率できる隊長位に命ずるとのことだ。証書とバッジが贈られる。

「そんなに手柄らしき手柄なんて立てたとは思えないのですが」

そのようなことはない、全員が否定する。

「ユウキの実績なら当然の評価ですね」

今後はそのバッジを身に着けていろとのことだ。銅の五つ星バッジだった。

それを左胸につける。

「さて、今後の方針は固まった」

兵士らの鍛錬や貴金属精錬や砂糖の製造などやるべきことは山ほどある。そのほとんどに口を出すことが出来る僕の立場は大きい。とはいえ、無用に動く必要はない。

とりあえず、休みたい。
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