解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

138話 単純明快な策略

ユウキとジーグルト伯爵軍は三つの拠点の治安維持に全力を注いでいた。前の統治者が行っていた悪政を廃止し軍規を厳しくして暴行事件などを起こさないようにし民心を着実に高めていた。

前回やってきたナウビッシュ男爵らの兵士の死体を地面に開けた穴に入れて処理と始末を付けるよう指示を出したユウキとそれに従う兵士。そうして、死体の処理が終わった頃に作戦会議をが始まる。

そして、今後取るべき方針を会議で決めている最中に、

「ユウキ様、もはや周囲には悪徳貴族ばかりがいる状態です。ここは積極的に兵を出すべきかと?」

「ん?」

会議に出席している一人が具申する。彼が言うには周囲の治安が乱れているのは確実、大義名分は立っているのだから攻勢に出るべきだと。そう言っているのだ。

周りを見ると彼の意見に賛同する者らも少なからずいるようだ。その意見は決して悪くはない。

「なるほど、その意見には思うところがあるね」

「ならば!」

「でも、今は駄目」

その意見を実行に移すのは時期尚早であると説明する。

まず、今まで通行税を取っていた悪政はすべて無くした、そのためその収入を頼りにしていた数多くの世襲貴族の懐が乏しくなるのは確実だ。

そうなるとなにがしかの行動を起こすのは間違いない。

単純明快に兵士を集めて押し寄せてくるのか?それとも争うのは危険であると判断し外交で上手く交渉するのか?どうなるかは分からないがあんな馬鹿な世襲貴族共の頭では良くない方法を取るだろう。

本当なら冒険者ギルドの応援を要請したり伯爵家からもっと兵士を借りたい、そうすると本拠地の守りがスカスカになるし冒険者ギルドも無用な争いに貴重な冒険者を取られたくないだろう。

僕の考えとしてはこの争いの決着がついてから出てきてもらう方が好ましいと考えている。決着がついた後の戦後処理は大変だからだ。

各地で軍縮が進み持てる兵士に限度がある時代なので相手も数を集められない、しかし、金をばら撒いて兵を集めるという手段もある。手荒にいけば農民を無理矢理徴募するという手も考えられる。

冒険者ギルドが貴族らと交わした協定ではそのような軍事行動は非常事態を除いて禁止されていた。だけども、2回に渡り攻撃を受けたのでもはや相手はそのような協定を守る気はないようだ。

こうなると身内の争いではなくなっている。

冒険者ギルドがこの事態をどのように判断するのかはまだ分からないがもう書類が届いているころだ。怒り心頭であるのは間違いない。

何しろ納税する金額を誤魔化していたのだから。

だが、僕はまだ冒険者ギルドに応援を頼む気はない。ここで介入されると描いている絵が上手くいかないからだ。伯爵家の当主となったアルベルトに大きな手柄を立てさせたい、良い貴族だということを周囲に認知してもらいたい。

そのために、周期の重臣や兵士らを焚きつけて兵を派遣するという強硬な意見を通したのだから。その結果がどういうものであるのかを教えても無駄だし意味がない。もしかしたら信頼を損なうかもしれない、それでも。それでも彼の未来のためになればいいのだ。

僕にも守りたい人や恩返しをしたい人々がいる、連絡を取ったり帰ろうと思えば帰れるのだがあの馬鹿勇者らがいる限り帰れないだろう。彼らは僕の弱みを握っている……、と思い込んでいる。僕からすれば意味の無いことだがそれが火種であることは間違いない。

僕は彼らのことで不利を受けても関与しないのは彼らもまた犠牲者だからだ。あのような手段で勇者を増産するなどどう考えても人道的ではない。その代償はとてつもなく重くどのような不幸になるのか想像もできない。だけども国はそれを良しとしている。腐敗した政治の逆転策だということだ。

彼らとて元は普通の人間だ、ほんの少し、ほんの少しだけ夢を見ただけ、それだけだ。

その代償として未来が無くなるというのは最悪だろう。それを気付かず教えられない馬鹿な勇者たち。使い捨ての駒として使い続けられるだけの人生。思うところはあるが僕にはどうしようもない。それだけ国や貴族という集団が愚かだということだ。

今は現実の問題を解決しなければ。

「こちらの兵数はさして多くない。周囲の貴族が集まればそれ以上は集まるだろう。まずは相手の出方を見る」

「しかしながら、兵が少ないのに受け身では」

その不安点は当然のことだ。だから、相手の勢力に種を撒くのだ。

”流言飛語”という単純明快な方法だがこれでもかなりの効果がある。何しろこの世界では戦術が子供のお絵かきレベルでしかない、政治的な要素を含んだ作戦などだれも考えないのだ。戦争が無い平和な時代が長く続いたせいでそうした兵法学や戦術学を学ぶ機会が圧倒的に少なくなっていた。

だから、ちょっと考えれば出来る策略謀略にすら耐性が殆どもっていない。

流言飛語など当たり前すぎる謀略にすら対応できない。ほとんど予算なしで実行でき効果が高い、しかもそれを消すのは難しいといたせりつくせりだ。

貴族とは戦では先頭に立つのが義務なのにそれすら出来ない馬鹿ばかりが生き残っている、しかもそれは今なお増え続けている。才能のある兄弟姉妹らを追い出し続けてきた弊害だ。

僕にとって周囲の貴族らなどさして脅威には感じていない、それぐらいひ弱な連中だからだ。威張り散らし人を貶める言葉遣いが上手いだけの子供である。常識的に言葉で説得するという段階はもう過ぎている。

そうなると、味方となってくれる貴族らに注意を払うべきだろう。数はけっして多くはないだろうから褒美を手厚くする方針でいこう。彼らにとっても伯爵家と繋がりを得ることは得であり損にはならない。

さて、もうそろそろ種は芽吹く頃合いだ。果たして世襲貴族らは対応できるのだろうか?
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