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第1章

157話 ユウキの正体は何者なのか?

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『もう一人の自分』から膨大な量の知識経験を引き出した僕はしばし落ち着く。

「(これで初級官史試験の方は大丈夫だろう。問題は、あの勇者らのことだ)」

ユーラベルクに戻ってきたのでどんな行動をしているのかを確認したいと考えたさっそう冒険者ギルド支部の建物に向かう。

受付に名前を言いリサギルド支部長に会う。

「ユウキ?試験に備えてお休みを出していたはずですが」

「実は確認したいことがありまして」

ベルファストやジークムントと名乗る勇者らのことについて。その話題を出すと極めて不機嫌な顔になった。

「? どうかされたのですか?」

「あいつらが今何をやっているのか知っていますか?」

詳しく事情を聴く。

何でも、ライク家に領地に侵攻した貴族やジーグルト伯爵家に喧嘩を売って当主や跡取りがいなくなった貴族家から借金の回収をしていると

「はぁ!?」

さすがに僕も驚く。それらの戦いで目に映る相手はことごとく殺してきた、その中には多数の貴族らがいただろう。それらに物資や装備などの代金を貸し付けていた貴族家が敗北した生き残りの家族に「貸した金を返せ」要求してきた。

だが、それは当主が借りたのであってその家族にまでは取り立てられないはずだ。あの無残に死んだ者らの親族家族から金を取り立てるのは非道すぎる。というか、普通なら不幸にあった相手に心付けを送るのが普通だ。それなのに無理を通して金の回収をしているそうだ。

それに白羽の矢がたったのが勇者らである。彼らは遺族を脅し無理矢理金の回収を行っていた。そのため、遺族は暴力から逃げるように教会や修道院に我先にと逃げ込んでいると。

「どう考えても非道で正統性の無い取り立てですよね」

「ええ……」

リサさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「冒険者ギルドでも資金の貸し付けは行っているはずですが」

「奴らにとって冒険者ギルドから金を借りれば行動を制限される。だから金を借りに来ないのです」

「そんな」

「貴族間での金のやり取りについては無理に干渉できません」

取り立てに会った遺族家族らはあまりの暴力的な行為に次々と貴族家としての相続を放棄し教会などに逃げ込んだそうだ。彼らは残された家々など売り飛ばし残りの財産をすべて回収したそうだがそれでもまだ足りない。

業を煮やした勇者らは教会まで押しかけて、

『借りた金を返せ!さもなくば切り捨てる!』

極めて乱暴に脅したそうだ。

教会の影響力を知らない勇者らはそれで身柄を引き渡すと思ったそうだが無力な善人を保護する建前を持っている教会などが暴力に屈するはずがない。

信徒を集めて防衛をしているそうだ。

「ユウキ、改めて確認したいことがあります」

「なんでしょうか」

「あの愚か者の勇者らはどんな”貴方の秘密”を握っているのですか?」

「……それは」

「冒険者ギルドでも徹底的に調べましたが貴方の出自に関してはどこからも情報が上がってきませんでした。尋常ならざる武力といい常識を超えた知識といい、何もかもが優れすぎているとはいえそれ相応の育成者教育者がいなければ身につかないモノばかりです」

いったい誰からどのようにして教わったのか?血縁者は誰なのか?隠し続けている秘密について触れられる。

「あの馬鹿勇者らがこの前来ましたよ『ユウキの功績はすべて我らのモノだ!』とね。徹底的に搾取しておきながら突き放し追い出したくせに何かと貴方の名前と立場を利用しようとする言動の数々。もうよろしいのではありませんか?」

ここで今まで隠していた真実を教えてほしいと。

「すみません」

それだけはと。

「……ふぅ、致し方ありませんね。冒険者ギルドの上層部からは無理押しするなと言明されてますから」

リサさんは渋々引き下がる。

「貴方に装備を渡した大貴族や組織からも頼まれていますから」

彼らとて貴方の出自について尋ねたいことを伝えられる。

「とりあえずは初級官史試験に全力を挙げて下さい」

そうして僕は部屋から出ていく。



~リサ視点~

「で、結局のところ。どうなのですか?」

ユウキを帰した後、私は情報部の幹部を呼び出す。

「公爵家や侯爵家、辺境伯家などと深い繋がりがあるのは間違いありませんがそれ以前のことは全く情報が入ってきておりません。ただ、確実に言えるのは国から勇者らのお守りを命じられたことですね」

「つまり、国が秘匿する人物ということですか」

「はい」

そうなると世界を探しても名が上がる家々や一族は限られてくる。

「もしかして!」

「そのまさかが考えられます」

まさか……、そんな!

「”大公爵”の身内だというのですか」

『大公爵家』

つまり、世界最高位の貴族家ということ。ただ、その中身は国や通常の貴族とはまったく異なる。彼らは貴族ではあるのだが国から認定された貴族家ではない。

遥か遠い遠い古の時代、まだ国という枠組みが朧げに形作られ冒険者ギルドが立ち上がり始めた頃、モンスターの脅威は格段に強く未開の土地はいくらでもあった。地形的に難所である場所も多くそこの主の討伐は困難を極めた。

それらを討伐し誰もバックにいない貴族家として立ち上がったのが大公爵家の始まりとされる。その初代に共通することは”幻想の存在”に力を借りたことだ。

『竜』『巨人』『妖精』『幻獣』『小人』『吸血鬼』などなど。この世界の御伽噺にしか出てこない存在ら。それらから教えを受け力を授かり国を建国したのだ。最初こそ自称であり自警団のような集まりだったが初代の力は絶大でありあっという間に強大な存在となる。当然国が認定する貴族家ではないので彼らの言い分はすべて無視し自分らで取り決めを決め主張を押し通した。

国は激怒し幾度となく軍勢を派遣したがそのことごとくを撃退、時代によっては複数の国が連合を組んだことさえあったがそれすらも敗北に追い込んだ。

度重なる惨敗により国の力は衰退し最終的に相手側の要求をすべて受け入れて『大公爵』という地位を与えて戦いを終わらせた。

ただし、彼らは諸国の言うことを聞かなかった。

国々はその武力に目を付けて同盟関係を結び上手く利用しようとしたがそれらの交渉をすべて無視した。それどころか周囲に圧力をかけて諸国側を不利な状況に追い込んだ。時によっては国や領地の全てが占領されてしまい一声上げれば滅亡ということにすらもなった。

そのため、大公爵家は複数存在しそれぞれが幻想の存在を旗印としている。そして、ほとんどの相手と同盟関係を結んでいない。それに関わっているのは数えるほどであり冒険者ギルドですらも場合によっては弾き出される。

中には、武装中立主義を唱え諸国中を震え上がらせる家もあるほどに。

「ユウキがどこかの大公爵の身内であるのならば納得もできますね」

「はい」

では、どこの家の者か?早急に調べる必要がある。

「すぐに大公爵家と交渉している者全員らに命を伝えなさい」

「ははっ」

ただし、勇者とかいう悪い連中がいるから極秘裏にと。

もしも、それが事実ならば話は格段に進むだろう。何しろ、大公爵家は冒険者ギルドの依頼ですら難色を示すからだ。彼がその身内ならば彼を通して依頼を受けさせることもできるし他の貴族家の抑止力にある。いや、絶対に冒険者ギルドの旗持ちとなってくれるだろう。

リサはそうして冒険者ギルド支部全てと本部に送る書類を書き始めることにした。
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