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第1章
165話 予想外の結果
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宿屋に戻って休もうかと考えていると、
「さて、そなたに先に伝えておかねばならぬことがある」
審査官の魔術師のおじさんが話しかけてきた。
「なに?」
「じつはのう」
審査官が実は複数人いて一回では終わらない事を伝えられた。
「え?!」
どういうことだ。公募の内容では本試験の審査官はおおむね一人だけ、それを突破すれば合格のはずだが?何か雲行きが怪しくなってきたな。
「これは別段不思議なことではないぞ。優秀な人間には多くの進路を取らせたいのが試験の本質じゃ」
僕が一次試験を免除されておりなおかつ二次試験の解答があまりにも優秀であるが故に複数回審査を行うことになったそうだ。
通常であれば冒険者ギルドが認定している小隊長はそのまま中級以上の部隊長コースに進むのが多く初級官史にはあまり進もうとはしない。小隊長はれっきとした武官コースなので文官コースであるこちらとは分業制が成り立っている。そのため兼任する人材は殆ど出ない。それぐらい難しいからだ。
だが、僕は小隊長一位でありながら初級官史試験を受けたのだ。普通に初級官史本試験を受けるのならば審査は一回だけだが、兼任するのならば複数回の審査を通る必然性があるわけだ。
「多数の試験者が満足に回答を埋められない昨今、見本回答とも言えるおぬしに対しては複数人で当たるべきだという結論がすぐさま出てな」
「それで」
「戻り次第すぐさま別の審査官に会ってもらう」
「わかりました」
もう夜の帳が来ている時間だがそれでも審査官は待っているそうだ。仕方ない、大急ぎでユーラベルクまで戻る必要がある。案内役は冒険者ギルド建物にいるそうだ。
駆け足で戻り冒険者ギルドの建物の中に入る。そこにはフードを被り顔を隠した人物が待っていた。
「ユウキですか?」
表情を隠しながらも明確にこちらの正体を確認してくる。
「そうです」
「では、こちらへ」
指さしたのは冒険者ギルド支部長の部屋だった。たしか、あそこに入れるのは相当な人物か職員でないと不可能なはず。どうにも相手が読めないな。とはいえここまで来て無視しては色々と手を貸してくれたリサさんの顔が立たなくなる。
相手が何者かは知らないが貴重な時間を割いてまで来ているのは間違いない。それなら会ってみるのも悪い選択ではないだろう。
案内役を先に行かせて扉を開けようとするが、
「扉を開けないで下さい」
「?」
案内役に制止させる。
扉はほんのちょっと空いているがそこから入ってくる気配が尋常ではない。
「扉の向こうにいるのは誰ですか?相当な腕前な上に複数人いますね。数は……、椅子に座っているのが一名で他五人、強い魔術師も含まれますね。それが武器を抜いて待ち構えているというのならそれ相応の対応になりますが」
案内役が扉に手を掛けながらもこちらの対応をどこか感心しながら頷いていた。
扉の向こうには間違いなく知らない相手がいる、それも相当な手練れが複数人、それが武器を抜いて待ち構えているというのならば無傷で通ることは不可能だ。相手側の意図が読めてない以上倒さざるを得ないだろう。気配を見る限り他にも数人いるようだが。
「ほう。これはやはり優秀であるな」
案内役はまるで描いた絵の通りだと、感情を隠さず喜んでいた。
「このまま何も知らずに通れ、そういうことですか?」
「いや、そこまで分かっていれば目的は達成された」
扉を開けて案内役が通ると中の気配が落ち着いた。どうやらこちらを殺傷するという意図はないようだ。
「中に入れ」
入ってすぐ脇に控える案内役、どうも大物のようだ。中に入ると、
「(ヤレヤレ、そういうことか)」
もてなしの意味を知ることになる。
両脇に控えていたのは明らかに修羅場を潜り抜けた戦士および魔術師だった。それも相当に手練れ、こんな人材が脇に控えているというのは冒険者ギルドの重鎮なのだろう。
中に入ると、いつもリサさんが座っている椅子には着飾った女史がいた。
「あんさんがユウキかや?」
薄紫色の髪をした女史が問う。
「はい」
「特化戦士と聞いてたからどんな顔立ち体格やろうと思ってたんやけどえらい細い体やし顔つきも女子のようや、見栄えはすっごく絵になるみたいやけどな」
ほんまに特化戦士かや?女史はやや拍子抜けしたようだ。
「貴女は何者ですか?」
「うちか?うちはまぁとある名門の一族やわ。冒険者ギルドの古参の出とでも言おうかや。パトロン様とでも呼んでや」
ほな、本題に入ると。
「そなたが製作した『トウキ』ちゅう物が欲しいんよ。数を揃えてな」
「そういう試験ですか」
「そういうことや」
この女史は相当な資産家であると同時に権力者なのだろう。そして、芸術に対しても武芸に関しても奥深い。何しろ座れる人間が限定される冒険者ギルド支部長の椅子に誰の許可も得ずに座っているのだから。
「リサギルド支部長に許可は取っているのですか」
「彼女はほんまに優秀やな、貧しい家の出でありながらも見事に立身出世したんやからな。冒険者ギルドの典型的な成功例や」
リサギルド支部長のことを間違いなく評価しているようだ。だが、この様子では彼女の許可を得ているようには思えないのだが。
「ほんまはもうしばらく様子見をする予定やったんやけど辛抱できへん性分でな。横槍入れさせてもろうたわ」
この試験に横槍を出すほどに実力があるということか。これはちょっとまずいかも。
「特化戦士のことをご存じだから戦働きを所望かと考えもしましたが」
「そっちのほうは後回しや。先に依頼の品、納品してや」
「試験の合否は?」
「完成品の出来を見て決めることになっとるわ。目的の品物を作成出来たら文句無しや」
条件期日については。すると一枚の紙が出される。ここに書かれている条件を満たしたうえで品物を持って来いということか。
「完成品はどなたに渡せばよろしいので」
「ミーティア!そなたが行きや」
脇に控えていた女性が出てきた。ややピンクの髪色で如何にも芸術家肌という女性だ。
「その子を傍に置いて作業を見せてやってや。いくらでもこき使ってや」
「わかりました」
まさか試験がこんな内容になるとは。陶器製作所は放置してたから状況も気になるし、とにかく。一度戻ってみよう。
「さて、そなたに先に伝えておかねばならぬことがある」
審査官の魔術師のおじさんが話しかけてきた。
「なに?」
「じつはのう」
審査官が実は複数人いて一回では終わらない事を伝えられた。
「え?!」
どういうことだ。公募の内容では本試験の審査官はおおむね一人だけ、それを突破すれば合格のはずだが?何か雲行きが怪しくなってきたな。
「これは別段不思議なことではないぞ。優秀な人間には多くの進路を取らせたいのが試験の本質じゃ」
僕が一次試験を免除されておりなおかつ二次試験の解答があまりにも優秀であるが故に複数回審査を行うことになったそうだ。
通常であれば冒険者ギルドが認定している小隊長はそのまま中級以上の部隊長コースに進むのが多く初級官史にはあまり進もうとはしない。小隊長はれっきとした武官コースなので文官コースであるこちらとは分業制が成り立っている。そのため兼任する人材は殆ど出ない。それぐらい難しいからだ。
だが、僕は小隊長一位でありながら初級官史試験を受けたのだ。普通に初級官史本試験を受けるのならば審査は一回だけだが、兼任するのならば複数回の審査を通る必然性があるわけだ。
「多数の試験者が満足に回答を埋められない昨今、見本回答とも言えるおぬしに対しては複数人で当たるべきだという結論がすぐさま出てな」
「それで」
「戻り次第すぐさま別の審査官に会ってもらう」
「わかりました」
もう夜の帳が来ている時間だがそれでも審査官は待っているそうだ。仕方ない、大急ぎでユーラベルクまで戻る必要がある。案内役は冒険者ギルド建物にいるそうだ。
駆け足で戻り冒険者ギルドの建物の中に入る。そこにはフードを被り顔を隠した人物が待っていた。
「ユウキですか?」
表情を隠しながらも明確にこちらの正体を確認してくる。
「そうです」
「では、こちらへ」
指さしたのは冒険者ギルド支部長の部屋だった。たしか、あそこに入れるのは相当な人物か職員でないと不可能なはず。どうにも相手が読めないな。とはいえここまで来て無視しては色々と手を貸してくれたリサさんの顔が立たなくなる。
相手が何者かは知らないが貴重な時間を割いてまで来ているのは間違いない。それなら会ってみるのも悪い選択ではないだろう。
案内役を先に行かせて扉を開けようとするが、
「扉を開けないで下さい」
「?」
案内役に制止させる。
扉はほんのちょっと空いているがそこから入ってくる気配が尋常ではない。
「扉の向こうにいるのは誰ですか?相当な腕前な上に複数人いますね。数は……、椅子に座っているのが一名で他五人、強い魔術師も含まれますね。それが武器を抜いて待ち構えているというのならそれ相応の対応になりますが」
案内役が扉に手を掛けながらもこちらの対応をどこか感心しながら頷いていた。
扉の向こうには間違いなく知らない相手がいる、それも相当な手練れが複数人、それが武器を抜いて待ち構えているというのならば無傷で通ることは不可能だ。相手側の意図が読めてない以上倒さざるを得ないだろう。気配を見る限り他にも数人いるようだが。
「ほう。これはやはり優秀であるな」
案内役はまるで描いた絵の通りだと、感情を隠さず喜んでいた。
「このまま何も知らずに通れ、そういうことですか?」
「いや、そこまで分かっていれば目的は達成された」
扉を開けて案内役が通ると中の気配が落ち着いた。どうやらこちらを殺傷するという意図はないようだ。
「中に入れ」
入ってすぐ脇に控える案内役、どうも大物のようだ。中に入ると、
「(ヤレヤレ、そういうことか)」
もてなしの意味を知ることになる。
両脇に控えていたのは明らかに修羅場を潜り抜けた戦士および魔術師だった。それも相当に手練れ、こんな人材が脇に控えているというのは冒険者ギルドの重鎮なのだろう。
中に入ると、いつもリサさんが座っている椅子には着飾った女史がいた。
「あんさんがユウキかや?」
薄紫色の髪をした女史が問う。
「はい」
「特化戦士と聞いてたからどんな顔立ち体格やろうと思ってたんやけどえらい細い体やし顔つきも女子のようや、見栄えはすっごく絵になるみたいやけどな」
ほんまに特化戦士かや?女史はやや拍子抜けしたようだ。
「貴女は何者ですか?」
「うちか?うちはまぁとある名門の一族やわ。冒険者ギルドの古参の出とでも言おうかや。パトロン様とでも呼んでや」
ほな、本題に入ると。
「そなたが製作した『トウキ』ちゅう物が欲しいんよ。数を揃えてな」
「そういう試験ですか」
「そういうことや」
この女史は相当な資産家であると同時に権力者なのだろう。そして、芸術に対しても武芸に関しても奥深い。何しろ座れる人間が限定される冒険者ギルド支部長の椅子に誰の許可も得ずに座っているのだから。
「リサギルド支部長に許可は取っているのですか」
「彼女はほんまに優秀やな、貧しい家の出でありながらも見事に立身出世したんやからな。冒険者ギルドの典型的な成功例や」
リサギルド支部長のことを間違いなく評価しているようだ。だが、この様子では彼女の許可を得ているようには思えないのだが。
「ほんまはもうしばらく様子見をする予定やったんやけど辛抱できへん性分でな。横槍入れさせてもろうたわ」
この試験に横槍を出すほどに実力があるということか。これはちょっとまずいかも。
「特化戦士のことをご存じだから戦働きを所望かと考えもしましたが」
「そっちのほうは後回しや。先に依頼の品、納品してや」
「試験の合否は?」
「完成品の出来を見て決めることになっとるわ。目的の品物を作成出来たら文句無しや」
条件期日については。すると一枚の紙が出される。ここに書かれている条件を満たしたうえで品物を持って来いということか。
「完成品はどなたに渡せばよろしいので」
「ミーティア!そなたが行きや」
脇に控えていた女性が出てきた。ややピンクの髪色で如何にも芸術家肌という女性だ。
「その子を傍に置いて作業を見せてやってや。いくらでもこき使ってや」
「わかりました」
まさか試験がこんな内容になるとは。陶器製作所は放置してたから状況も気になるし、とにかく。一度戻ってみよう。
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