解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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2巻

2-2

 × × ×


「お断りします」

 私、ファラの目の前で、ベルファストが勧誘した冒険者が去っていく。
 あれから私たちは、解体と料理ができる仲間を探し続けていたが、全員嫌そうな顔をして拒否してくるのだった。
 そこそこの経験者から駆け出しの新人まで声をかけたが、全部空振りであった。
 ベルファストが声を荒らげる。

「我々は誇りと栄誉えいよある勇者のパーティだぞ! なぜ入ろうとせんのだ!」

 言うまでもなく、他人を見下している態度のせいだ。
 それすらもわからないほどに腐ったベルファストに、私はウンザリとした表情を隠すことができなかった。
 こうなっては、冒険者ギルドに授業料を払って、私が解体と料理を勉強するしかない。さすがにそこまでは反発されることはないだろう。
 そう思っていたが――

「そんな下民がするようなこと、高貴な我々には不必要だし、覚える必要もない! 血腥ちなまぐさく汚れる解体とか、手間がかかる料理とか、特権階級のやることではないのだ。そういうのは下の連中にさせるべき仕事だ」

 ベルファストは未だに解体と調理を見下しており、私とメルが勉強すると言ってもかたくなにこばんだ。
 授業料はそこそこ高いが、仲間に入ってくれる人物がいないのだから、覚えたほうが安上がりなのに、ベルファストは折れない。

「ハァ……」
「ファラ、もう逃げ出したい」

 私もメルも今の状況の悪さを考えて、ため息しか出なかった。
 すべての発端ほったんは、ユウキを追い出したことなのだけど、彼には何の罪もない。罪があるのはすべて私たちのほうだ。
 ユウキがよく口にしていた言葉を思い出す。


「打算的でも良いから人付き合いを大切にしろ」
「地味で面倒な仕事だからこそ優遇しろ」
「他人の信頼を得ていなければ、後ろから攻撃される」


 今になってその意味を理解できた。
 彼の言葉を守っていれば、ユウキが抜けたあとも人材の補充が難しくなかったはず。冒険者ギルドからは、将来ある冒険者として評価されたかもしれない。
 だけど現実は、最低最悪の凶状きょうじょう持ちのパーティという評価であった。
 入ってくれる者はいないし、他のパーティとの連携は不可能。こんな状態で冒険などできない。もう冒険者など辞めて畑でも耕したほうが良いぐらいだ。
 装備は以前のより落ちているし、何より資金がない。ベルファストらが馬鹿な行動をしたので稼がないといけなかった。
 私は、張り出してある依頼を見る。幸いモンスターが大量発生しているので、獲物に困ることはない。

「とりあえずボアとかシークを数頭仕留める依頼を受けましょう」
「そうだね」

 私とメルは、自分たちの実力や状態を考え、無難ぶなんな依頼を受けようとしたのだが――

「やはり勇者というからには、華々しい功績こそがふさわしいな」

 ベルファストが手を出そうとしたのは、森の奥地にいるベア数頭の討伐依頼だった。私は慌てて声を上げる。

「ベルファスト! やめなさい! そんな無理な依頼を受けて死にたいの?」
「何を言っているのだ。勇者は称えられる存在なのだぞ。なら、それにあたいする依頼こそが当たり前であろう」

 ――この程度の依頼など朝飯前だ。
 ベルファストはそんな顔だが、ベア数頭とかどう考えても戦力が足りない。回復薬だってほとんどないのだ。そのような状態で行くなど自殺行為だった。
 依頼には指定された期日があり、それを超えると報酬から減額される。酷いときには罰金を支払わないといけないのだ。
 明らかに無理な依頼なので、私とメルは必死で止める。

「勝てるのかどうかわからない相手に挑んでどうするのよ! 今は地道に結果を出すのが優先でしょ!」
細々こまごまとした依頼などしたに任せておけば良い。本当ならばもっと大物に挑むべきなのだ」

 その発言に、他の冒険者が反応する。
 たかだか8位程度のくせに大物ぶりやがってと。
 周囲には私たちより順位が上の冒険者がいるので、怒りを覚えたようだ。
 なお、冒険者パーティには厳正な順位制度が適用されており、下に落ちるのは早いが上に行くのが難しいピラミッド式になっている。
 順位はリーダーの実力によって決まるものだが、多くのパーティがリーダーに足りない能力を優秀な人材で補っている。
 一人ではできないことが二人ならでき、さらに活動の幅が広がるのだ。
 それは単純な足し算ではなく、てこの原理と同じだ。どちらかが棒となり支えとなることで、何倍もの力を発揮する。
 だが、私たちのパーティは、自分さえ良ければいいという馬鹿の集まりだ。
 当然、誰かのために棒になろうとも、支えになろうともしない。それどころか、互いに足を引っ張り合ってばかりいる。
 私はメルに向かって言う。

「そういえば、ユウキは飄々ひょうひょうとしていて人間くさかったけど、問題が起こりそうになると率先して動いていたわね」
「うん。険悪な雰囲気が漂うと、いつも割り込んできた。当時はそのことに気がつかなかったけど……」

 何か言い争いになりかけると、いつもユウキがやって来た。
 そのせいで「空気が読めない」と全員から罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせられたが――実際は空気を読んでいたからこそ割って入ってきていたのだ。
 その後、私たちは無駄な言い争いをし、結局、ベアではなく、私たちが主張したボアなどの討伐に決めるのだった。


 × × ×


 上手くいくかに思われたが――
 草原に来ても、さっきと同じ言い争いを続けていた。

「フン。たかがボア程度など、大したことなどないではないか。もっと大物こそが我らにはふさわしい」
「今の順位と実力では、危険な橋は渡れないのよ! 第一、たった五人でどうしろっていうの」

 あくまで、ベアを討伐すると言い張るベルファスト。
 堅実にいこうとする私。
 以前から、私たちはベアのような大物も討伐をしていたが、そのたびにユウキが依頼を吟味ぎんみし、単体の討伐対象を選んでいた。
 全力で押せばベアだって倒せるが、一体が限度なのだ。
 不意打ちなどされてはどうしようもないし、斥候をしてくれるユウキがいないので、危険の芽を摘むこともできない。
 喧嘩けんかは平行線で、何も解決することのないまま草原を歩く。
 ウルフ数頭を見つけた。
 すぐさまそれらを倒したが、馬鹿な三人は倒しても気が済まず、無駄にオーバーキルをする。そんなことをすれば、換金額が下がるだけだというのに。
 これまでよく見ていた光景だが、今となっては呆れるほかなかった。
 私は頭を抱えながらメルに言う。

「こんなのと今まで組んでいたとは……私たちがいかに馬鹿だったのか思い知らされるわ」
「もう何でもいいから抜け出したい。でも、ギルドとの約束のときが来るまでは我慢するしかない……」

 ギルドとの契約がなければ即刻抜けていたと思う。
 馬鹿三人はウルフの死体に攻撃し終えると武器を収め、そのまま死体を放置して先に進んでしまった。

「ああ、倒した状態のままなら……」

 こいつらが余計なことをしなければ、わずかでも金になるはずだった。
 私は、無残むざんな姿となった死体を魔法のバッグに入れる。ぐちゃぐちゃになっているとはいえ、何らかの価値はあると思ったのだ。

「獲物がいないな」

 ベルファストがそう言って周囲を見渡す。
 確かにモンスターは見当たらなかった。

「我らの実力に恐れを抱いておるのだろう。勇者だからな」

 嬉しそうに豪語するベルファスト。
 だが、こいつは今の状態がいかに危険かわかっていない。冒険者はモンスターを狩って生活費を稼ぐ。
 獲物を狩れないと、収入がなくなるのだ。
 本来であれば、斥候が獲物を発見する役割を担うのだが、ユウキがいない今、それができる者はいなかった。
 斥候職を補充したくても、このパーティの評判ではそれができない。
 そもそもベルファストは、「たかが斥候ごときが金を要求するなど、身の程知らずだ」と考えている。
 ユウキのときですらそうで、さすがに生活費は渡していたが、能力に見合う金額ではなかった。
 結局、探しても探してもモンスターはさほど見つからず、疲労だけが溜まっていった。


 その後、食事となった。

「なんだ、このボソボソして硬いパンは! それにジャムやバターなどもない。肉もないしサラダもない。こんな貧相な食事ではやる気が削がれる。もっとそれらしい食事を用意しろ!!」

 ベルファストは大いに文句を言う。
 それを買うお金をなくした理由が、自分にあるのを気づいていないらしい。
 お前が博打に金を使わなかったら、もう少しまともになっていたけど、すべてなくして借金をこさえてきたのだから、これでも十分だ。
 ベルファストがさらに愚痴ぐちる。

「白いパンは? シチューは? 柔らかい干し肉は? 果実水は?」

 そんな贅沢ぜいたくな物を作る技術も、知識も、お金もない。

「あるわけがないでしょう。この食事だってギリギリ用意できたのよ」

 節約をしてお金を貯めないと、路頭ろとうに迷うかもしれないのだ。
 いや、もう半分くらいそうなっている。装備とかも無駄に金がかかっているので、窃盗されないように気を配らないといけない。

「クソッ! 何で我らがこんな目に……」

 その原因は明確なのだけど……
 ベルファストに続いて、ベルライトとカノンが声を荒らげる。

「すべてユウキが仕組んでいるのだ。そうだ、そうに決まっている!」
「そうね! あいつがパーティを追放されたことを恨んで、周囲に悪い評判を吹き込んでいるのよ!」

 ユウキが恨みを持っていないか――難しいところだ。あれだけのことをしてきたのだ、憎まれていても不思議ではない。
 それはともかく、ギルド支部長の態度を見る限り、ユウキに相当に期待しているのは確かだ。順位を上げるだけでなく、爵位まで与えたいと言っていた。
 私とメルは無言で食事をした。
 一方、他の三人はせっかくの食事を地面に投げ捨て、足で踏みつけていた。ああ、もったいない。
 ベルファストが告げる。

「さぁ、休息は終わりだ。さっさと狩りに行くぞ!」

 こっちはまだ食事中なのに……
 硬いパンを水でふやかし無理やり喉に通してから、渋々ついて行くことにした。
 はぁ、ユウキの用意した温かい食事が恋しい。


 そうしてさらに進むが、索敵能力ゼロの私たちでは獲物を見つけることができなかった。ボアを二頭狩るのが精一杯だ。
 オーバーキルをしようとするのを何とか止めて、魔法のバッグに入れる。

「クソ! クソクソ! 何でだ、何でこれだけのモンスターしかおらんのだ!!」

 ベルファストは苛立って声を上げた。
 今回の討伐の目的の一つは、倒したモンスターを売って稼ぐこと。そして、もう一つが自尊心を満たすこと。
 ベルファストはとにかくイライラしていた。
 この辺りではモンスターが大量発生していると、ギルド掲示板で見かけた。だが、全然見つからない。
 このままでは金が手に入らない。
 ベルライトもカノンも金が欲しいので必死に探す。だが、所詮は素人。索敵能力など皆無である。遠目とおめが利くわけでもないので徒労を重ねていた。
 私たちは何時間も広い範囲を歩き続けた。


 日が落ちて、再び食事の時間がやって来る。

「腹が減った! 食事を出せ!」

 出てきたのは、さっきと同じ硬いボソボソのパンと水だけ。

「こんな不味い食事では、やる気が出るわけがないだろう」

 温かく柔らかい料理を作れと命令してくるが、そんな知識も技術も道具もないので、全員が首を横に振る。

「ええい! どうにかならんのか?」

 泣きそうなベルファストに、私が返答する。

「だから、私たちがギルドで勉強を……」
「あんな業突ごうつりの愚か者たちに金など出す必要はない!」

 そう言うが、このままでは稼ぐどころか、満足に食事すらできない。
 私はメルに向かって言う。

「いい加減、現実が見えないのかしら?」
「もう嫌だ」

 ベルファスト、ベルライト、カノンの三人は食事を憎々にくにくしげに眺めている。現時点では、この食事が精一杯なのだが、その現実を認めたくないようだ。
 急に、ベルファストが言い出す。

「そうだ、焼肉だ! 肉を焼けばいいだけの料理。それならば我らでもできる!」

 確かに、肉を鉄板で焼いて塩を振れば良いだけだが、鉄板も塩もない。

「何で用意してないのだ?」

 そうした道具は邪魔だと言って捨てたのだ。
 道具を購入して管理していたのは、全部ユウキだった。彼に持ち運びと手入れを押しつけ、私たちは料理を当たり前のように食べていた。
 大体、獲物を狩っても解体ができない私たちでは、満足の行く食事になるのかは疑問だった。
 ただ、もういちいち反論する気力は出てこない。
 結局、私とメルが町まで戻り、鉄板を買ってくることになった。
 所持金はほぼゼロ、もう破産寸前であった。


「「「さて、食うぞ!」」」

 鉄板はあるが、肝心の火がない。
 誰もまきを持っていないのだ。
 私とメルは心底呆れた。
 普通、夜間用に火種となる物を持っているのが常識だ。火を絶やすと視界が確保できないので、パーティの誰かしらが薪を確保していて当然なのだが――

「「「クソが!」」」

 肉を食えると喜んでいた三人が、一転して怒っている。
 行き先のない怒りが、またしてもユウキに向く。「あいつが身勝手に逃げ出さなければ!」と。
 肉を食べるのは諦めることになった。
 一刻も早くモンスターの死体を売って、金にすることにした。ギルドに持っていけば良いはずだが、解体などの手数料が取られる。
 とりあえず金にはなるということなので、貴族に買ってもらうしかない。
 こうして私たちは貴族のもとへ向かった。


「これはこれは、ベルファスト様。本日も稼いできたのでございますね」

 貴族の家の執事が、嫌らしい笑顔で迎える。
 すぐさま交渉に入る。

「モンスターの状態の確認は?」

 私がそう言って、冒険者ギルドでは当たり前の確認を求めるが――

「いえいえ、勇者様にそんな無粋ぶすいなことはできませんよ」

 ベルファストらは安心している。
 私は悪寒おかんを覚え、メルに尋ねる。

「モンスターの状態を確認もせずに金を出す? どういうこと?」

 嫌な予感を覚える。
 そう考えていると、執事が一枚の紙を渡してくる。

「この紙に、勇者様らの名前を全員分書いていただければ、換金します」

 その紙は――まったくの白紙だった!
 喜んでサインしようとするベルファストらに向かって、私は声を上げる。

「待ちなさい。換金内容が定かではないのに、白紙にサインをさせるなんて、どんな冗談なのかしら。何も書かれておらず、その説明すらしない……どう考えてもおかしいわ」

 今までも似たようなことはあった。
 ユウキは、こうした契約の際はその内容をよく見て、条件が悪ければサインを拒んでいた。そのため、金を借りられなかったことも多い。
 ベルファストが不思議そうな顔で聞いてくる。

「どうしてだ? 名前を書くだけで良いのだぞ」
「この馬鹿! 契約内容を書かず白紙ってことは、あとで内容を書き換えられるのよ。互いが了承してサインをした瞬間に有効になるのに、白紙だったらどんなに不適切な内容でも良いことになる。そんなこともわからないの!」

 つい声を荒らげてしまったが、白紙にサインするとはそういうことだ。
 ユウキが一番嫌がり、サインをしなかった状況である。
 それに、冒険者ギルドからの借金ならばともかく、腹に一物持つ貴族から借りる金が、まともな返済方法で済むわけがない。
 ベルファストらは「早くサインをしろ」とこちらに言ってくるが、私とメルは「嫌だ」と首を横に振リ続けた。
 執事が尋ねてくる。

「どうされましたかな?」
「私たちはサインをしないわ」

 換金するのはその三人だけだと、私は明言した。

「……」

 結局、三人からのサインだけで換金した。
 執事が使用人に持ってこさせた袋には、ぎっしりとお金が入っていた。これで、当分の生活費には困らないだろうが……
 あとになって、どんな条件に変わるのかはわからない。


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