19 / 154
2巻
2-3
× × ×
「金は分配しねえぞ!」
貴族の家を出てから、ベルファストは私とメルを怒鳴りつけた。私たちがサインしていれば、もっと金が手に入ったと考えているのだろう。
手に入れた金なんてもはやどうでもいい。とにかくこの状況から逃げ出したい。
私はメルの手を引いて、ベルファストから距離を取った。
「あん? お前ら、どこに行くんだ?」
「狩りに行くのよ。お金ないし」
「うん」
ベルファストは訝しげに私を見ると、吐き捨てる。
「けっ、せいぜいもがいていろ」
そうして三人はどこかへ行ってしまった。
もはや私たち勇者パーティには、明確な亀裂ができ始めている。ユウキが消していた火種が、燃え盛り出したのだ。
「ファラ、あいつら」
「行きましょう」
あいつらと付き合ってたら地獄が待っている。ここから早く抜け出すためには、何とかもがくしかないのだ。二人だけではウルフにすら苦戦するだろうが、それでもやらないよりはマシだ。
私とメルはさっそく冒険者ギルドに向かった。
「いらっしゃいませ」
「仲間に入ってくれる人を探しています」
とにかく素人でも駆け出しでもいいから、戦力が欲しかった。
あの馬鹿たちではどうしようもないが、私たち二人だけならば、何とか斡旋してもらえるかもしれない。
「募集は、斥候と解体師を一人ずつ」
「現在は当ギルド総出で、モンスターの大規模討伐中ですが……」
人手が足りない状況なので、分配率はどうするのかと聞いてくる。
「斥候に一割五分、解体師に二割でお願いします」
普通ならばこれで収まるのだが、ギルド職員は難しい顔をしていた。ならば、さらに報酬を引き上げるしかない。
「斥候に二割、解体師に二割五分の報酬で」
すると、ギルド職員は「少々お待ちください」と言って、奥に引っ込んでいった。
普通より高めだが、今はやむをえない。
しばらく待っていると、二人の冒険者が連れてこられた。
私は、二人に向かって言う。
「私はファラ、こっちはメルよ」
挨拶を交わして握手する。
「俺ら二人はコンビだが、戦闘能力はさして期待できないぞ」
普段は他のパーティを渡り歩いていて、その分け前で生計を立てているというタイプの冒険者らしい。順位も9位と低い。
「戦闘についてはこちらでできるから」
これでとりあえず格好は整えられたので、モンスターを狩りに行く。
「ふぅ……」
斥候が見つけたウルフの群れを、みんなで協力して倒した。
いつもと違うメンバーと組んだので不安だったが、二人には助けられてばかりだった。
連携もできていたし、そこそこの戦闘経験がある。力任せの私たちとは違い、戦闘後のことを考えて立ち回っていた。
二人から苦情を言われる。
「あんたら二人、本当に8位か? 獲物の倒し方が全然なってねぇよ」
「そうだな。あまりにも力任せすぎる」
二人のおかげでウルフの群れを倒せたが、解体のことを考えれば、お世辞にも上手い倒し方ではなかった。下の順位ですらもっと倒し方に気を配っているというのに。
倒したウルフを、解体師が毛皮や肉に分けていく。その間は無防備なので、周囲を警戒しなくてはならない。
「そういえば、私たちはこれすらもまともにしてなかったわね」
「そうだね。いつもユウキに押しつけて自分らは休んでいた」
パーティとして組んでいながら、面倒な仕事ばかりをユウキに押しつけ、パーティに貢献していなかったのは私たちのほうだった。
ユウキは警戒もなしに解体させられていたのだ。
ウルフの解体が終わり、それを魔法のバッグに入れる。取り分は約半分なので、間違わないようにした。
いつもは自分たちのバッグに全部入れるのだが、そんなことをしたらパーティは崩壊してしまう。
幸い、斥候と解体師が優秀だったので、予想よりも多くのモンスターを狩ることができた。
しかし、モンスターの攻め方がなっていないと説教を多く受けた。
やっぱり勉強不足だと実感するしかなかった。
× × ×
ファラとメルが、必死になって地獄から抜け出そうとしている最中――
ベルファストらは後先考えず浮かれていた。
「ハハハ! 飲めや歌えや、我ら勇者よ! 貧民愚民など相手にせぬぞ」
酒場で、豪華な料理と酒などを注文し、飲み食いする。
原資は、先ほどサインをして得た金だ。
自力で稼いだわけではなく、他人からの借金による一時的な金なのに、それを次へ繋げようとは微塵も思ってない。
勇者であるため、金などいくらでも手に入る。勇者の名声を使えば、地位・名誉・権力なども思いのまま。そういった愚かな夢に酔っているのだ。
すべては、ベルファストらの背後から援助している人々がいるため。
なぜ、彼らはベルファストらを援助しているのか。
――勇者として活躍し、世襲貴族を復興させる。
それが、ベルファストらに課せられた使命だった。
今、世襲貴族の権力は地に落ちている。
冒険者ギルドが職業貴族を成立させたことで、世襲貴族の力は年月を重ねるごとに落ちていた。
世襲貴族は職業貴族に比べて、圧倒的に凡庸で無能だった。
彼らはその能力のなさのために、役職や爵位を追われていった。代わりに、能力が高い職業貴族が台頭していく。
今では、世襲貴族と職業貴族の立場は逆転している。
国の要職は職業貴族から選ばれ、世襲貴族は政治の表舞台から追い出されているのだ。
そこで、世襲貴族が頼ったのが「勇者」の称号である。古より伝わる勇者を抱え込むことで、世襲貴族の地位と権力の復権を狙ったのだ。
そう考えて育てられたのが、ベルファストたちだった。
だが、ベルファストらはあまりにも愚かだった。彼らは馬鹿な行為を繰り返し、能力もないものだから、常に厄介者である。
そうして徐々に追い詰められていることにも気づかないまま、彼らは放蕩し続けるのだった。
翌日。
「あー、頭が痛い……」
飲み食いしまくったせいで、目が虚ろなベルファストたち。ベルファストは常備されている水をガブガブと飲む。
「ふぅ」
ベルファストに向かって、ベルライトとカノンが話しかける。
「ベルファスト、今日こそは大物を倒そう」
「そうね」
ファラとメルの姿が見当たらない。
見当たらないが、彼らは二人を放置することにした。
「よし、冒険日和だ。行くぞ」
そうして冒険者ギルドへ。
支部の建物まで行き、掲示板の依頼を確認する。
「あんまり依頼がないな」
「そうね」
どうやら先を越されたようだ。
そう思ったベルファストは、チッと舌打ちをする。彼はギルド職員に強引に話しかける。順番待ちをしている冒険者がいるにもかかわらずだ。
「モンスターの大量発生している場所を教えろ」
「はい?」
冷静に対応するギルド職員。
「あなたたちは何ですか? 順番待ちで並んでいる冒険者がいるのです」
「こんなゴミどもよりも俺らのほうを優先しろ」
あくまで自分らのほうが上という態度に、ギルド内が騒然となる。
× × ×
「で、何なのですか」
ギルド職員である私は、目の前にいる失礼な冒険者に尋ねました。
「モンスターがいる場所の情報が欲しい」
はぁ? そんな程度のことで、わざわざ割り込んできたのですか?
多数のモンスターが発生していて、その対応に忙しいというのに……モンスターを探すことくらい、あなたたちのほうでやるべきでしょうが。
そんな最低限の能力すらないとは。
見れば三人だけしかいない。どうも戦闘能力ばかり求めて、斥候などの人材を入れていないみたいですね。
「あと、人材も斡旋しろ」
「はい?」
あまりに馬鹿なことを言うので、目を丸くしてしまいました。
現在は大量討伐のため、各方面から冒険者が集まっている状況。その気になれば、フリーの仲間を探すことなど難しくないと思うのですが。
しかも募集ではなく斡旋しろとか、どんだけ上から目線なのですか!
「……こいつら噂の勇者だとか名乗るパーティですよ」
同僚が聞こえないように小声で教えてくれました。
なるほど、こいつらが噂の……話には聞いていましたが、ここまで酷いとは。
あなたたちの順位は8位だぞ、8位。
そんな順位のくせに「人材を斡旋しろ」とかほざくとは、その口、針と糸で縫いたくなりましたよ。
まぁ、あなたたちの悪行は聞いています。
だけどギルドの方針で、彼らを裏で支援している者たちの情報を掴むまでは、その順位に見合う対応をしろと命令されているのです。
こんなのが冒険者だと呼ばれると身内の恥になりますが、相手をするしかありません。
私は、笑みを浮かべて言う。
「現在手が空いているのは10位が多く、良くても9位ですね」
「ふざけるな! 最低でも6位以上だ。人数も十人ほど必要である!」
そんな人材を紹介したら、あなたたちのほうが寄生しているだけになりますよ。
常識を知らないどころか、頭の中身が腐ってるとしか思えないですね。さすがの私もちょ~っと怒りがこみ上げてきました。
周囲の冒険者たちも嫌そうな顔をしています。
「では、どのくらいの分け前を提示されます?」
「分け前はすべて、勇者である自分らが決める」
なるほど。どれだけ働こうとも認めないのですね。
自分らさえ良ければ、他など顧みないと。
働きに見合う分け前を提示するなら、口聞きしても良いかとも考えましたが、それは一瞬で霧散しました。
この前来たファラとメルという勇者は、しっかりと分け前の約束をしてから、仲間を探してもらえるように頼んできたので仕事として受けましたけど、こいつらはそんな常識の欠片もないですね!
「そのような条件では何もできません」
もう帰ってもらうことにしました。
こいつらに付き合っていたら、仕事がさらに遅れますし。
「なんだと! やがて最高順位まで上がるこのベルファストの言うことが聞けないと!?」
「……」
相手にもしたくない輩でした。
「この女が!」
「剣を抜きますか? ギルド職員である私に剣を向けるということが、どういう意味かわかってるならどうぞ」
ギルドは世界最大規模の組織。その正式な職員に剣など抜いたら、それだけでもう大変なことになります。最悪、犯罪者として永遠に追われ続けることすらあるでしょう。
「くそっ!」
男は武器に手をかけたまま引き下がり、苛立たしそうに仲間を引き連れて去っていきました。
「……あの様子では、また問題を起こしそうですねぇ」
私は誰にもわからぬように、ため息をつきました。
ああいう冒険者は、時々現れるんですよ。
こればっかりは大きな組織の宿命といえることで、全員が健全な精神を持ってるわけではありませんから。
潰しても潰しても出てくるし、無駄にしぶといので、始末するのも手間と時間がかかる。機を見て、掃除してしまうに限るんですけどね。
彼らは周囲の冒険者に「臨時で入らないか?」と熱心に誘ってますが、入る人は皆無でしょうね。あんな性格ではどうしようもありません。
え? 冒険者ギルドはそれで良いのか?
嫌に決まってますが、彼らの背後の存在を追っているんです。
奴らのやり方は様々で証拠を見せようとしないのですが、それらの一掃をしたいと秘密裏に計画が進んでいます。
彼らのような目に見える馬鹿は、ある意味貴重な人材なのです。何しろ問題を起こしているという自覚がありませんから。
これほど上手く動いてくれる駒はない。
そうして観察していると、あるパーティが彼らの仲間に入りました。
「……以前から警戒されていたグループですね」
すぐさま手筈を整えます。
問題児が問題児と組む、というわかりやすい構図ですね。
密偵に尾行させて、証拠集めです。
上手くいけば、息の根を止められます。害虫は迅速に潰さないと増えますし、腐った果実を取り除かないと、すべて腐るのですから。
面倒な仕事ですけど、誰かがしないと無能な連中が増えますからね。
ギルド職員である私には、大勢の人たちの生活を守るという大義があります。そんなわけで、私は馬鹿な連中の行動を調べることにしました。
× × ×
「で、ユウキから手に入れた、あの毒薬の中身はわかりましたか?」
ギルドで支部長を務めている私、エーリッヒが担当者に尋ねた。
その毒薬は、毒としての効果がしっかりとありながらも、使った獲物を食しても問題ないという不思議な物だった。
担当者が答える。
「は、あれをお抱えの薬剤師などに見せましたが、狩りの毒に使うバサド草ではなく、より効果の弱いバーミッド草から抽出した毒が主原料、それに他の毒を混ぜている――というところまではわかりました。しかし配合率が難しいうえに、微弱な複数の毒を混ぜ合わせているため、解明は難航しております」
ギルドお抱えの優秀な薬剤師が手を焼くほどの代物であるのか。
狩りにおいて毒を使うことは、決して悪い判断ではない。
しかし毒を使うと、肉質が悪くなり価値が下がるのだ。場合によっては、肉がすべて無駄になる可能性もある。
だが、ユウキの毒薬はその問題を解決していた。必要な効果を出しながら、あとにはまったく残らないのだ。
ギルドはこの毒を量産したいと考えている。
私は尋ねる。
「単刀直入に聞きますが……これを製造できるのか? できないのか?」
「……残念ですが」
現物がありながら、同じ物を作るのは不可能とのことだった。
私はため息をつく。
「……やはり難しいですか」
とはいえ、その答えは予想していた。
どう見ても従来の知識や技術を大きく超えた代物であったため、すぐさま同じ物ができるとは思えなかったのだ。
やむをえない結果なので受け入れるしかない。
私は真剣な表情で尋ねる。
「では、今後どうするべきなのか」
「本人から直接学べれば、最上かと存じます」
「……そうなりますか」
「はい」
「そうなると、人材の選別をしないといけませんね」
冒険者ギルドでは、特定の技術を伝えるため、師弟制度を採っている。先人が残した技術を守り、後継者に伝えることに、多大な予算を割いているのだ。
そうして技術を独占することで、莫大な利益を上げている。ユウキの毒薬の製造方法を確立することは、ギルドの未来のためにも必要不可欠と言えた。
担当者が、私の言葉に答える。
「解体、料理、薬剤など各部門から、若く見込みのある者を選抜して、ユウキのそばで学ばせます」
「どれほどの人数を?」
ユウキの多才な能力に鑑みれば、最低でも十人以上は付ける必要があるかもしれない。いや、ギルドの将来を考えれば、もっと多くの人数のほうが良いだろう。
私は、顎に手を当てて思案する。
まずは第一陣として何名か届けよう。彼に付き、いずれ指揮統率できるような優秀な人材が望ましい。
そうして私は、ユウキの部下となる人材の選抜作業を推し進めるのだった。
× × ×
冒険者ギルドの大工房にて、ギルドの技術者をまとめ上げている技術男爵である私、ユンファは職人たちに向かって言う。
「よし! これで、吊り上げ式解体台のために必要な物はすべて揃いましたね!」
「「「「はい!」」」」
私は、ユウキの設計図通りに必要な材料を揃えた。
より大きな吊り上げ式解体台にするというアイデアもあったが、ベアサイズまで十分対応可能だと判断したから、原寸で量産することにしたのだ。
まぁ、あれこれ弄るのは、あとからでもできるし。まずは図面通りで、どれだけの性能を発揮するのか確認したい。
今、私たちの前には、L字型の木材で中心が空洞になった物、土台となる錘、要となる鋼鉄の棒、滑車、接着剤などが並んでいる。
見本となるパーツを何度となく仮組みしたし、準備も抜かりはない。
さっそく組み立てに取りかかる。
木材の間に、芯棒となる鋼鉄の長い棒を入れて、そこに接着剤を流し込む。木材を噛み合わせて結合させ、下に土台を大きな釘と接着剤で固定する。
上の部分の角に滑車を付ける。パズルのように木材を噛み合わせて固定し、その先に組み合わせたときに分解しないように突起を付けた。
そうして半日かけて、十個の吊り上げ式解体台を作り上げていった。
「金は分配しねえぞ!」
貴族の家を出てから、ベルファストは私とメルを怒鳴りつけた。私たちがサインしていれば、もっと金が手に入ったと考えているのだろう。
手に入れた金なんてもはやどうでもいい。とにかくこの状況から逃げ出したい。
私はメルの手を引いて、ベルファストから距離を取った。
「あん? お前ら、どこに行くんだ?」
「狩りに行くのよ。お金ないし」
「うん」
ベルファストは訝しげに私を見ると、吐き捨てる。
「けっ、せいぜいもがいていろ」
そうして三人はどこかへ行ってしまった。
もはや私たち勇者パーティには、明確な亀裂ができ始めている。ユウキが消していた火種が、燃え盛り出したのだ。
「ファラ、あいつら」
「行きましょう」
あいつらと付き合ってたら地獄が待っている。ここから早く抜け出すためには、何とかもがくしかないのだ。二人だけではウルフにすら苦戦するだろうが、それでもやらないよりはマシだ。
私とメルはさっそく冒険者ギルドに向かった。
「いらっしゃいませ」
「仲間に入ってくれる人を探しています」
とにかく素人でも駆け出しでもいいから、戦力が欲しかった。
あの馬鹿たちではどうしようもないが、私たち二人だけならば、何とか斡旋してもらえるかもしれない。
「募集は、斥候と解体師を一人ずつ」
「現在は当ギルド総出で、モンスターの大規模討伐中ですが……」
人手が足りない状況なので、分配率はどうするのかと聞いてくる。
「斥候に一割五分、解体師に二割でお願いします」
普通ならばこれで収まるのだが、ギルド職員は難しい顔をしていた。ならば、さらに報酬を引き上げるしかない。
「斥候に二割、解体師に二割五分の報酬で」
すると、ギルド職員は「少々お待ちください」と言って、奥に引っ込んでいった。
普通より高めだが、今はやむをえない。
しばらく待っていると、二人の冒険者が連れてこられた。
私は、二人に向かって言う。
「私はファラ、こっちはメルよ」
挨拶を交わして握手する。
「俺ら二人はコンビだが、戦闘能力はさして期待できないぞ」
普段は他のパーティを渡り歩いていて、その分け前で生計を立てているというタイプの冒険者らしい。順位も9位と低い。
「戦闘についてはこちらでできるから」
これでとりあえず格好は整えられたので、モンスターを狩りに行く。
「ふぅ……」
斥候が見つけたウルフの群れを、みんなで協力して倒した。
いつもと違うメンバーと組んだので不安だったが、二人には助けられてばかりだった。
連携もできていたし、そこそこの戦闘経験がある。力任せの私たちとは違い、戦闘後のことを考えて立ち回っていた。
二人から苦情を言われる。
「あんたら二人、本当に8位か? 獲物の倒し方が全然なってねぇよ」
「そうだな。あまりにも力任せすぎる」
二人のおかげでウルフの群れを倒せたが、解体のことを考えれば、お世辞にも上手い倒し方ではなかった。下の順位ですらもっと倒し方に気を配っているというのに。
倒したウルフを、解体師が毛皮や肉に分けていく。その間は無防備なので、周囲を警戒しなくてはならない。
「そういえば、私たちはこれすらもまともにしてなかったわね」
「そうだね。いつもユウキに押しつけて自分らは休んでいた」
パーティとして組んでいながら、面倒な仕事ばかりをユウキに押しつけ、パーティに貢献していなかったのは私たちのほうだった。
ユウキは警戒もなしに解体させられていたのだ。
ウルフの解体が終わり、それを魔法のバッグに入れる。取り分は約半分なので、間違わないようにした。
いつもは自分たちのバッグに全部入れるのだが、そんなことをしたらパーティは崩壊してしまう。
幸い、斥候と解体師が優秀だったので、予想よりも多くのモンスターを狩ることができた。
しかし、モンスターの攻め方がなっていないと説教を多く受けた。
やっぱり勉強不足だと実感するしかなかった。
× × ×
ファラとメルが、必死になって地獄から抜け出そうとしている最中――
ベルファストらは後先考えず浮かれていた。
「ハハハ! 飲めや歌えや、我ら勇者よ! 貧民愚民など相手にせぬぞ」
酒場で、豪華な料理と酒などを注文し、飲み食いする。
原資は、先ほどサインをして得た金だ。
自力で稼いだわけではなく、他人からの借金による一時的な金なのに、それを次へ繋げようとは微塵も思ってない。
勇者であるため、金などいくらでも手に入る。勇者の名声を使えば、地位・名誉・権力なども思いのまま。そういった愚かな夢に酔っているのだ。
すべては、ベルファストらの背後から援助している人々がいるため。
なぜ、彼らはベルファストらを援助しているのか。
――勇者として活躍し、世襲貴族を復興させる。
それが、ベルファストらに課せられた使命だった。
今、世襲貴族の権力は地に落ちている。
冒険者ギルドが職業貴族を成立させたことで、世襲貴族の力は年月を重ねるごとに落ちていた。
世襲貴族は職業貴族に比べて、圧倒的に凡庸で無能だった。
彼らはその能力のなさのために、役職や爵位を追われていった。代わりに、能力が高い職業貴族が台頭していく。
今では、世襲貴族と職業貴族の立場は逆転している。
国の要職は職業貴族から選ばれ、世襲貴族は政治の表舞台から追い出されているのだ。
そこで、世襲貴族が頼ったのが「勇者」の称号である。古より伝わる勇者を抱え込むことで、世襲貴族の地位と権力の復権を狙ったのだ。
そう考えて育てられたのが、ベルファストたちだった。
だが、ベルファストらはあまりにも愚かだった。彼らは馬鹿な行為を繰り返し、能力もないものだから、常に厄介者である。
そうして徐々に追い詰められていることにも気づかないまま、彼らは放蕩し続けるのだった。
翌日。
「あー、頭が痛い……」
飲み食いしまくったせいで、目が虚ろなベルファストたち。ベルファストは常備されている水をガブガブと飲む。
「ふぅ」
ベルファストに向かって、ベルライトとカノンが話しかける。
「ベルファスト、今日こそは大物を倒そう」
「そうね」
ファラとメルの姿が見当たらない。
見当たらないが、彼らは二人を放置することにした。
「よし、冒険日和だ。行くぞ」
そうして冒険者ギルドへ。
支部の建物まで行き、掲示板の依頼を確認する。
「あんまり依頼がないな」
「そうね」
どうやら先を越されたようだ。
そう思ったベルファストは、チッと舌打ちをする。彼はギルド職員に強引に話しかける。順番待ちをしている冒険者がいるにもかかわらずだ。
「モンスターの大量発生している場所を教えろ」
「はい?」
冷静に対応するギルド職員。
「あなたたちは何ですか? 順番待ちで並んでいる冒険者がいるのです」
「こんなゴミどもよりも俺らのほうを優先しろ」
あくまで自分らのほうが上という態度に、ギルド内が騒然となる。
× × ×
「で、何なのですか」
ギルド職員である私は、目の前にいる失礼な冒険者に尋ねました。
「モンスターがいる場所の情報が欲しい」
はぁ? そんな程度のことで、わざわざ割り込んできたのですか?
多数のモンスターが発生していて、その対応に忙しいというのに……モンスターを探すことくらい、あなたたちのほうでやるべきでしょうが。
そんな最低限の能力すらないとは。
見れば三人だけしかいない。どうも戦闘能力ばかり求めて、斥候などの人材を入れていないみたいですね。
「あと、人材も斡旋しろ」
「はい?」
あまりに馬鹿なことを言うので、目を丸くしてしまいました。
現在は大量討伐のため、各方面から冒険者が集まっている状況。その気になれば、フリーの仲間を探すことなど難しくないと思うのですが。
しかも募集ではなく斡旋しろとか、どんだけ上から目線なのですか!
「……こいつら噂の勇者だとか名乗るパーティですよ」
同僚が聞こえないように小声で教えてくれました。
なるほど、こいつらが噂の……話には聞いていましたが、ここまで酷いとは。
あなたたちの順位は8位だぞ、8位。
そんな順位のくせに「人材を斡旋しろ」とかほざくとは、その口、針と糸で縫いたくなりましたよ。
まぁ、あなたたちの悪行は聞いています。
だけどギルドの方針で、彼らを裏で支援している者たちの情報を掴むまでは、その順位に見合う対応をしろと命令されているのです。
こんなのが冒険者だと呼ばれると身内の恥になりますが、相手をするしかありません。
私は、笑みを浮かべて言う。
「現在手が空いているのは10位が多く、良くても9位ですね」
「ふざけるな! 最低でも6位以上だ。人数も十人ほど必要である!」
そんな人材を紹介したら、あなたたちのほうが寄生しているだけになりますよ。
常識を知らないどころか、頭の中身が腐ってるとしか思えないですね。さすがの私もちょ~っと怒りがこみ上げてきました。
周囲の冒険者たちも嫌そうな顔をしています。
「では、どのくらいの分け前を提示されます?」
「分け前はすべて、勇者である自分らが決める」
なるほど。どれだけ働こうとも認めないのですね。
自分らさえ良ければ、他など顧みないと。
働きに見合う分け前を提示するなら、口聞きしても良いかとも考えましたが、それは一瞬で霧散しました。
この前来たファラとメルという勇者は、しっかりと分け前の約束をしてから、仲間を探してもらえるように頼んできたので仕事として受けましたけど、こいつらはそんな常識の欠片もないですね!
「そのような条件では何もできません」
もう帰ってもらうことにしました。
こいつらに付き合っていたら、仕事がさらに遅れますし。
「なんだと! やがて最高順位まで上がるこのベルファストの言うことが聞けないと!?」
「……」
相手にもしたくない輩でした。
「この女が!」
「剣を抜きますか? ギルド職員である私に剣を向けるということが、どういう意味かわかってるならどうぞ」
ギルドは世界最大規模の組織。その正式な職員に剣など抜いたら、それだけでもう大変なことになります。最悪、犯罪者として永遠に追われ続けることすらあるでしょう。
「くそっ!」
男は武器に手をかけたまま引き下がり、苛立たしそうに仲間を引き連れて去っていきました。
「……あの様子では、また問題を起こしそうですねぇ」
私は誰にもわからぬように、ため息をつきました。
ああいう冒険者は、時々現れるんですよ。
こればっかりは大きな組織の宿命といえることで、全員が健全な精神を持ってるわけではありませんから。
潰しても潰しても出てくるし、無駄にしぶといので、始末するのも手間と時間がかかる。機を見て、掃除してしまうに限るんですけどね。
彼らは周囲の冒険者に「臨時で入らないか?」と熱心に誘ってますが、入る人は皆無でしょうね。あんな性格ではどうしようもありません。
え? 冒険者ギルドはそれで良いのか?
嫌に決まってますが、彼らの背後の存在を追っているんです。
奴らのやり方は様々で証拠を見せようとしないのですが、それらの一掃をしたいと秘密裏に計画が進んでいます。
彼らのような目に見える馬鹿は、ある意味貴重な人材なのです。何しろ問題を起こしているという自覚がありませんから。
これほど上手く動いてくれる駒はない。
そうして観察していると、あるパーティが彼らの仲間に入りました。
「……以前から警戒されていたグループですね」
すぐさま手筈を整えます。
問題児が問題児と組む、というわかりやすい構図ですね。
密偵に尾行させて、証拠集めです。
上手くいけば、息の根を止められます。害虫は迅速に潰さないと増えますし、腐った果実を取り除かないと、すべて腐るのですから。
面倒な仕事ですけど、誰かがしないと無能な連中が増えますからね。
ギルド職員である私には、大勢の人たちの生活を守るという大義があります。そんなわけで、私は馬鹿な連中の行動を調べることにしました。
× × ×
「で、ユウキから手に入れた、あの毒薬の中身はわかりましたか?」
ギルドで支部長を務めている私、エーリッヒが担当者に尋ねた。
その毒薬は、毒としての効果がしっかりとありながらも、使った獲物を食しても問題ないという不思議な物だった。
担当者が答える。
「は、あれをお抱えの薬剤師などに見せましたが、狩りの毒に使うバサド草ではなく、より効果の弱いバーミッド草から抽出した毒が主原料、それに他の毒を混ぜている――というところまではわかりました。しかし配合率が難しいうえに、微弱な複数の毒を混ぜ合わせているため、解明は難航しております」
ギルドお抱えの優秀な薬剤師が手を焼くほどの代物であるのか。
狩りにおいて毒を使うことは、決して悪い判断ではない。
しかし毒を使うと、肉質が悪くなり価値が下がるのだ。場合によっては、肉がすべて無駄になる可能性もある。
だが、ユウキの毒薬はその問題を解決していた。必要な効果を出しながら、あとにはまったく残らないのだ。
ギルドはこの毒を量産したいと考えている。
私は尋ねる。
「単刀直入に聞きますが……これを製造できるのか? できないのか?」
「……残念ですが」
現物がありながら、同じ物を作るのは不可能とのことだった。
私はため息をつく。
「……やはり難しいですか」
とはいえ、その答えは予想していた。
どう見ても従来の知識や技術を大きく超えた代物であったため、すぐさま同じ物ができるとは思えなかったのだ。
やむをえない結果なので受け入れるしかない。
私は真剣な表情で尋ねる。
「では、今後どうするべきなのか」
「本人から直接学べれば、最上かと存じます」
「……そうなりますか」
「はい」
「そうなると、人材の選別をしないといけませんね」
冒険者ギルドでは、特定の技術を伝えるため、師弟制度を採っている。先人が残した技術を守り、後継者に伝えることに、多大な予算を割いているのだ。
そうして技術を独占することで、莫大な利益を上げている。ユウキの毒薬の製造方法を確立することは、ギルドの未来のためにも必要不可欠と言えた。
担当者が、私の言葉に答える。
「解体、料理、薬剤など各部門から、若く見込みのある者を選抜して、ユウキのそばで学ばせます」
「どれほどの人数を?」
ユウキの多才な能力に鑑みれば、最低でも十人以上は付ける必要があるかもしれない。いや、ギルドの将来を考えれば、もっと多くの人数のほうが良いだろう。
私は、顎に手を当てて思案する。
まずは第一陣として何名か届けよう。彼に付き、いずれ指揮統率できるような優秀な人材が望ましい。
そうして私は、ユウキの部下となる人材の選抜作業を推し進めるのだった。
× × ×
冒険者ギルドの大工房にて、ギルドの技術者をまとめ上げている技術男爵である私、ユンファは職人たちに向かって言う。
「よし! これで、吊り上げ式解体台のために必要な物はすべて揃いましたね!」
「「「「はい!」」」」
私は、ユウキの設計図通りに必要な材料を揃えた。
より大きな吊り上げ式解体台にするというアイデアもあったが、ベアサイズまで十分対応可能だと判断したから、原寸で量産することにしたのだ。
まぁ、あれこれ弄るのは、あとからでもできるし。まずは図面通りで、どれだけの性能を発揮するのか確認したい。
今、私たちの前には、L字型の木材で中心が空洞になった物、土台となる錘、要となる鋼鉄の棒、滑車、接着剤などが並んでいる。
見本となるパーツを何度となく仮組みしたし、準備も抜かりはない。
さっそく組み立てに取りかかる。
木材の間に、芯棒となる鋼鉄の長い棒を入れて、そこに接着剤を流し込む。木材を噛み合わせて結合させ、下に土台を大きな釘と接着剤で固定する。
上の部分の角に滑車を付ける。パズルのように木材を噛み合わせて固定し、その先に組み合わせたときに分解しないように突起を付けた。
そうして半日かけて、十個の吊り上げ式解体台を作り上げていった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。