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第1章

189話 哀れな末路

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僕は至近距離まで近づいた敵に「着弾する火種」を全力を込めて発射した。視界が紅く染まりしばらく何も見えなくなる。やがてその赤みが徐々に消えていくと。

「が、がが、がぁぁ!」

体を半分ほど吹き飛ばされながらもまだ生きている怪物がいた。何というしぶとさだろう。普通の人間なら跡形も無く消し飛んでいたはずだ。

「ユウキ様、ご無事ですか!」

周りの味方が敵を包囲する。

「平気、それよりも」

まさかあの魔薬の効果がここまで強いとは。これはいよいよ厄介だった。あの勇者らはまだこのような姿になってないがこれがばら撒かれている状況を考えると相当に危険である。

あのジークムントらもこれが元はベルファストであることに薄々気が付いているはずだ。なのに、それを否定した。自分らはこうはならない、という風に考えているのだろうが。

「(これは悪い夢どころじゃないよね。こんな化け物を自分らで生み出してることにすら否定するとは。これはもう行動を起こして討伐せざるを得ないか)」

非業の死を遂げた兄弟のためにも。心を決める。

化け物はいまだに生きているとどめを刺さなくては。

「なゼだ?ナゼダ?ナゼだ?オレはユウしゃだ、ゆうシャベルファスト、それが、ナゼこんナ…」

化け物は苦痛にもがき怨嗟の声を上げる。

ベルファスト。能力に見合わぬ夢を抱いた哀れな若者。欲深く身勝手であったがこうなっては救いようがなかった。

「(ごめん)」

元仲間として憐みの感情はあった。しかし、そのようになってしまった原因は自分らにある。それでも、人として死にたかっただろうが。

いまだにもがき苦しむ化け物にとどめを刺す。

シュウウ~

着弾する火種に全力を込め撃ち放つ。紅い光が敵目掛けて飛んでいき業火を生み出すと大きな叫び声と共に敵を焼き滅ぼした。

「ユウキ様…。あれが、勇者…」

ミーティアやシャルティエもあれがベルファストだとは信じられないようだ。その質問を後回しにしてやるべきことがある。

「死体の埋葬と負傷者の救護を」

丁重にと、念押しする。

周りの者らも戸惑いの色が見えたが気が付いたように死体の処理といまだ苦痛にもがく負傷者の救助を優先させた。

しばらくして。

「気が付いた?」

「「ユウキ…」」

ベルライトとカノンに声をかける。

勇者らはかなりの重傷を負っており即死の人間もいたがベルライトとカノンは何とか助かる見込みがあったのだ。磯急いで神官魔術で治療した。それでも助かるかどうかは難しいことだったが。

「我らはなぜ助かった?」

「まぁ、運がよかったのと…、ね」

助かった理由は勇者らに提供されている魔薬のおかげだろう、そうでなければもう土の中だったはずだ。

「あれは……やはり?」

「そうなのですね…」

二人ともあの化け物がベルファストであることを確信したようだ。

「ベルファストには治療が困難な一撃を与えたけど死ぬようなものではなかった。ちゃんと治療すれば助かったはずだ。なのに、あんな化け物に変わってしまった」

いったい彼に何をしたのか?問い詰めると、二人はジークムントに命令されてベルファストと崖下に突き落としたと白状した。

「なるほどね。普通の人間であれば即死だろうけど魔薬を飲んでいたためかろうじて生き残った。そして、生命活動が危機となり魔薬の魔性が現れたということか」

「ユウキ、俺たちも、あんなふうになってしまうのか?」

二人の顔は恐怖に染まっていた。

「分からない。あの秘薬の効果は大部分が解明されてない。どうなるかなど今後も分からないし”奴ら”はこれを歴史的発明だと言って製造している。製作者自身も具体的な効果など分からないはず」

「「……」」

「その秘薬のおかげで助かったものだけど。もう苗は芽吹いている」

「「そ、それじゃ!」」

自分らもあのような化け物と化してしまうのか!

「なるかもしれないしならないかもしれない、とにかく」

一刻も早く手を切って逃げ出すべきだと、そう言うしかなかった。

「だ、だが、もう兄弟たちは…」

「うん。私達にはもう逃げるところが無いの…」

一族を人質に取られて言うことを聞かなければならない立場に追い込まれてしまったことを白状した。

「……」

僕はしばし無言となる。

二人はもう情けなく懇願してくる。「助けて欲しい」と。今まで扱いを考えれば見捨てて当然だが仲間だったファラとメルもすでに逃亡してるようだし。

「どうにかできなくもないんだけど」

「「!?」」

「ただし」

条件はかなり厳しいものだと。二人はひたすら地面に頭を下げる。僕は二人に手紙を書いて渡し「この場所に行け」体が治ったら向かえと命じた。

「ユウキ様、あの化け物は…」

ミーティアとシャルティエがやってきた。

「君らの予想どおりだよ。もっとも、悪い方向に出てしまいあんな悲惨なことになったけどね」

「国は、貴族らはあのような連中を援助してるのですか!」

「これは明らかに戦乱の火種を生み出しておりますです!」

二人は激怒して、

「「冒険者ギルドを通じて世界中の貴族らを問い詰めるべきです!!」」

「待って」

僕は二人を制止する。

「今はまだ行動に移すべきではない。何しろ国というのはそれだけ強大なんだ。むやみやたらに噛みついても潰されるか逃げられる」

時期が来るのを待てと。

「「しかし!」」

「二人の言い分も分かる。でも、あの麻薬は製造するには特別な材料が必要になる。だけども、それの確保手段があまだ安定していない。あれの製造量はさして多くないからしばらく待てばどうしよう無くなるはずだから」

僕はそう断言して二人を下がらせる。今はとにかく犠牲者が増えるのを止めないと。



~その後、ミーティアとシャルティエ~

「ミーティア様、ユウキ様はあのように言いましたがあんな化け物が今後現れるかもしれない危険性を放置するわけにはいきませんです。事後承諾になりますが私達が動いた方が良いのでありませんか?」

「そうですね。ユウキ様は何かを隠しているようですがここに来た勇者らといい横暴な世襲貴族らといいせっかく得た領地に害が及ばぬよう手配するべきですね」

「では」

「我が主君のスフィア夫人はユウキ様をこの上なく評価しております。冒険者ギルドでもそれは同じです。これから領地開発が本格化するのですから味方を引き込むのは早い方が良いでしょう」

ユウキ様は男爵位を持ちさらに行動小隊長第一位で初級官史資格者、軍事政治両面で権限を有してる。ユウキ様はあまりこういう権限を無用に行使することを好まない方なので回りがそれを理解しておく必要があるだろう。

「シャルティエさん。私は一度主君の元に戻りユウキに賛同する者らを集めてきます。この領地の重要性は誰もが知っているのでそこに関われるとあれば拒む者はいないでしょう」

「分かりましたです。私はこのままユウキ様の護衛を続行いたしますです」

ミーティアとシャルティエは秘かにユウキを援護する者らを集めることにした。
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