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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(53) 初恋? 鎌田桃子。
しおりを挟む重い! NOZOMIはそう思った。
関節技の鬼権代喜三郎が相手といえども、NOZOMIだって関節技、絞め技を駆使する天才柔術家。
サブミッション・アーティストとも云われ決して権代に引けを取らない。
それでも権代の関節技は重くて中々外すことが出来ない。
(これが、プロレス流のサブミッションなの? 明らかに柔術でのそれとは別種のもの。それに権代さんは重い)
NOZOMIは権代との体重差に苦戦。
まだ味わったことのない未体験プロレス流サブミッションに驚異を感じながらも持ち前の柔軟性で極めさせない。
一方、脇固めを仕掛けている権代は相手の柔軟性に戸惑っていた。
(なんだ! こいつは、、軟体動物なのか? まるでロープに仕掛けているようで全然手応えがない。こいつには関節がないのか? これが雌蛇と言われる所以なのか? 男相手にこんな奴は記憶がねえ。これが女の肉体なのか?)
やがて、NOZOMIはジワジワと権代の脇固めを知恵の輪を外すように脱出すると立ち上がった。
権代は打撃があるNOZOMIとは距離をとらず組み付いてくる。この状態になると体重に勝る権代が有利だ。
コーナーに押し込むとショルダータックル。そして軽量のNOZOMIを軽々と持ち上げると、またしてもマットに叩きつけた。そして、NOZOMIの足を取ると何か関節技を狙っている。
そこで第1ラウンド終了のゴング。
「鎌田さん、私はプロレスを甘く見ていたみたい、、否、通常のプロレスというより、頑固一徹でやってきた権代喜三郎流プロレスはスゴいものだわ。彼が10若ければ私は勝てない...」
セコンドの鎌田桃子にそう声をかけると彼女は嬉しそうに頷いた。
第2ラウンドに入るとNOZOMIは距離を取りローキック、パンチ等で攻勢に出るがプロレスラーの肉体は強靭だ。
初回のハイキックでも、普通なら立ち上がれるはずがないのに立ち上がってきたのには驚いた。
でも、相手の攻撃を受けて成立するプロレスの癖が見え隠れする。
権代が盛んに組み付いてくる。
ショルダータックル、至近距離から相手を掴んでのタコ殴り。
何度もNOZOMIの身体を抱え上げるとマットに叩きつけてきた。プロレス流の荒々しい攻撃が続きNOZOMIの身体は悲鳴を上げそうになるが、44才になる権代は少しずつスタミナが切れてきたようだ。幾分動きが鈍くなる。
権代がNOZOMIの身体を何度目か抱え上げた時だった。
マットに叩きつけられるより前にあり得ない体勢からNOZOMIの長く美しい脚が権代の首に巻き付いてきた。
そのままグラウンドになると、ジワジワと無間蛇地獄が始まった。
権代はNOZOMIの絞め技にパワーは感じられず、意外と大したことないじゃないかと必死に解こうとする。
しかし、抗えば抗うほど無限地獄に陥るのが雌蛇の罠なのだ。
雌蛇NOZOMIが権代の身体に巻き付くと全身を這っていった。
(権代さん、頑張って...)
NOZOMIのセコンドに就いているはずの鎌田桃子が、相手の権代喜三郎に拳を握りながら心の中で声援を送っていた。その目は悲しそうだ。
プロレスのリングに上がっている時の桃子を、何かとかわいがり面倒見てくれたのが権代喜三郎であった。
「桃子! 男に混じってプロレスするのも大変だが、お前が来てくれてからお客さんの反応もよくなったな。客を呼べない俺は嫉妬するよ。ハハハ!」
桃子はそんなことはないと思った。
(権代さんはプロレスの魂を後輩に伝えている。若手も煙たがりながらも無意識のうちにそれを継承している)
「おい桃子! よく見ると、お前も案外かわいくて美人だな。ワハハ!」
酔った勢いだったが、桃子は男性にそんなことを言われたのは初めてだ。
「桃子! もし、夏の格闘技戦で俺が勝つことが出来たら結婚してくれ!」
桃子が権代にプロポーズされたのは三ヶ月前だった。その照れくさそうな笑顔に桃子は胸がキュンとなった。
頑固で不器用で照れ屋の権代は44才の今になるまで独身であった。
格闘技一筋だった桃子は女であることを捨てていた。自分には恋だとか結婚だとか縁のないものだと諦めていた。
遅い初恋だった。
リング上では権代が真綿で首を絞められるように雌蛇に巻き付かれている。
それでも強靭な肉体を誇る権代は抵抗している。NOZMiは絞め上げながらも権代の顔面を殴った。血に染められた顔面、意識も遠のいたようだった。
レフェリーが大きく手を振った。
うつ伏せに失神している権代喜三郎。
それを見下ろすNOZOMI。
昭和プロレスの終焉?
なんて、残酷なシーンなのだろうか?
(権代さん、私はアナタの生き様は忘れない。まだまだ昭和のプロレススピリットは生きていたのね...)
セコンドの鎌田桃子がリング内へ飛び込んできた。桃子はNOZOMIを祝福するよりも先に、倒れている権代の元へ行き、そっとその背中に触れた。
桃子は泣きながら大声で叫んだ。
「権代さん。ナイスファイト!!」
つづく
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