濃密な月夜

苑条悠生

文字の大きさ
上 下
1 / 1

濃密な月夜

しおりを挟む
「会いたかった!」

 そう言って三咲は大樹に抱き付く。前に会ったのは一ヶ月程。三咲から連絡はしない、個人情報は検索しない。そんな理由を突きつけられ夜のみ会っての体関係はもう一年になる 。 
 初めて会ったのは、ショッピングモールの中でつまらなそうに一人 立っていた三咲。それを仕事で来ていた大樹が声をかけた。が、わからないと言う顔をした三咲。そう、三咲は耳が聞こえない。詳しく言えば、左耳は聞こえなく右耳も今は微かに聞こえてるくら いで。

 抱きついた三咲に大樹は右耳に顔を寄せる。
「元気そうでよかった」
そのままいたずらに耳朶を甘噛みしてみると三咲は大樹にしがみつく。
「大樹さん…」
「どうした?」
「…抱いて…欲しい……早、く」


 ホテルのバスタブの中は泡だらけ。毎回事の後に三咲は大樹と泡だらけのバスタブに入るのが楽しみで 。初め遠慮していた大樹だが、何回も誘う三咲に今は当たり前になっ てる。大樹に背後から抱きしめられ一番幸せそうな顔をする三咲。
 一ヶ月、大樹に会いたくて会いたくて仕方なかった。だからといって自分から連絡するともう会えなくなる。そんな葛藤の中、三咲は一人遊びもせずっと大樹から連絡来るのを待っていた。三日前、大樹からメールが来たときは嬉しくてすぐさま会えると返事を送った。
「幸せそうな顔をするな」
 ん?と、顔を上げた三咲に大樹は耳元に顔を近寄せ再び同じ事を言った。
「だって、大樹さんに会えて嬉しいし一緒に居れるから」
 その時間が一番幸せなんだと言う三咲に大樹は頬にキスをした。
「…大好き」
 顔を赤らめ呟く三咲に大樹は答えられない。抱き締めるしかない大樹に三咲は何もわからず一人幸せだった。
 スーツにネクタイをしめる大樹を見つめる三咲。次、いつ会える?なんて聞かない約束。言いたいのを我慢して唇噛み締めた。ネクタイをしめ終わると大樹はどこかに必ず電話する。そして…必ず黒塗りの車が迎えに来る。
 社長と聞いていたから…迎えに来るんだと三咲は思って。
去り際に、送ってやれなくてすまない、気をつけて帰れよと言う言葉が余計に寂しく思えてくる。遠くに去っていく車を見つめながら、三咲はさっきの幸せとは一転寂しげに家路に向かった。

 玄関に入ると、リビングからこぼれる灯り。それを横目に二階へと上がる。部屋に入るとベットに横になった。三咲の心は大樹だけ。初めて好きになったのも、体を重ねたのも大樹だけで。はっきり大樹に好きとは言ってない。何か言ってはいけない気がして。だが、たまに三咲は呟くように口に出る。
 もう寝ようと部屋の灯りを消そうと起きた時、微かに聞こえた携帯の着信音。静かな中に着信音だけが聞こえて、三咲は出る。
「はい」
『俺だ』
 耳に押し付ける三咲。
「ごめん…もう一回」
『俺だ、源川だ』
 沈んでいた心は一気に晴れた。
『家に着いたか?』
「うん」
『なら良かった…所で』
「うん?」
『来週、いつでもいい…会える日があるか?』
 こんな早くまた会える日が来るなんて思ってなくて三咲は嬉しそうにいつでもいいと。
『なら、また連絡する』
「うんっ」

男の癖に天使な寝顔は更に幸せそうで今夜の月も輝いて居た。

濃密な月夜―三咲


 耳が聞こえないからってクラスで孤立してる訳でもない。三咲にも友達は居る。綺麗なショートは黒髪。背は皆より低い。可愛らしい顔はクラスの女子を差し置いて。女子にモテると言うより男子にモテていた。それを三咲は違和感なく、と言うか多少鈍感なのかもしれない。
 そのせいか、たまに迫られ犯され…それも今じゃ当たり前になっていた。可愛らしい顔して、ヤれればいいやなんて思うようになったのは左耳が聞こえなくなってから。
 聞こえなくなったのは、体育館倉庫で見知らぬ奴と秘め事をしてる最中両耳に何かを詰められ、それが取れなくなり病院に行ったら既に手遅れで。辛うじて右耳は大丈夫だった。だが、やはり聞こえないのは聞こえない。
 それ以来三咲は拒否をした。誰とでも関係を持たなくなった。好きな人でも居ればまた違ってだろうに、そんな事思ってももう手遅れで。そんな中、大樹と出会った。
「三咲」
 不意に肩を叩かれ見上げる。クラスメイトの楢崎が三咲の携帯を指すと耳にあてた。
「携帯、さっきから鳴ってる」
「あ、ありがとう」
 笑顔見せた三咲に去っていく楢崎。携帯を開いて見てみるとメールで、相手は大樹からだった。
― 日程は決まったか?
 そんなメールに全く何も考えてなかった三咲。いつもなら大樹が日にちを決めてくれていたから、すぐ会えると返事は出来たのに。
― 大樹さんが決めてもいいよ
 そう送ると帰ってきた返事は今夜にしようかだった。

 校庭でマラソン。春なのに日中は気温が上がり三周目で汗が出ていた。学校指定の半袖で汗を拭うとフッと大樹の匂いがした気がする。…あと少し。右耳だけがかろうじて聞こえてるお陰でバランスが悪い。マラソンになると様子見で止める事を許されて。
「大丈夫か?三咲」
 走る右横に来た楢崎が心配そうに三咲を見る。
「大丈夫、もう少しで終わるから」
 そう言う三咲に楢崎は併走し始める。
「そういえば、さ」
「うん?」
「この前、三咲…」
 ふと楢崎を見ると何か言いにくそうに。
「…いいや」
 そう呟くと楢崎は先に走って言った。…もしかして、見られた?でも、今更だし…そんな事考えていたら向こうから聞こえてくる大きな声。
「またまたー」
「違うって言ってんだろ!」
「最近、高崎の近くにいるじゃん」
「居て悪いかよ!」
 楢崎が数人と走りながら。
「高崎に今夜ヤらせろとか言ってたんだろ?」
 その瞬間楢崎は言い放った男子を殴りにかかった。
「…三咲は、そんな奴じゃねぇよ!」
 体育教師が走って寄ってくる。クラスメイトはその騒ぎに走っていた足を止めた。次第に殴り合いになった楢崎に三咲は走って楢崎を背後から抱きつき止める。
と…
「三咲!危なっ!」
 遠く…凄く遠くから女子の悲鳴めいた声が聞こえて…

 うっすら開け視界に入ったのは真っ白な天井。物音一つもしない。起き上がると頭がガンガンして両手で頭を抱えた。ふと、誰かに肩を触れられ驚いて顔を上げるとナースが居た。
 口を動かしてるも三咲には聞こえない。最後の望みの右耳も、とうとう…聞こえなくなった。それに気が付いた三咲は毛布を被って丸くなった。…聞こえない…もう…大樹さんの声も…気が付いた三咲は携帯を探し大樹に電話しようと電話番号を履歴から探した。一番上にあった番号に思わず勢いで押すと、まだ鳴る呼び出し音に三咲は叫んだ。
「大樹さん…大樹さん!電話して…ごめんなさい…ごめん、なさい……僕、もう聞こえない…大樹さんの声も……聞こえない!」
 電話の向こうで呼ぶ大樹に知らず三咲は電話を切った。
「…大樹さん」
 大好きな大樹の大きな手、大きな体、優しい声…約束破って電話したことにもう会えないかと思うと涙が止まらない。
 綺麗な夕日は病室に入ってくる。母親が持ってきた小さなホワイトボードには、また明日来るからと。何かの気配に見るとそこにはいつものスーツ姿の大樹だった。
「…大樹、さん」
 近寄る大樹に三咲は両手を差し出した。体を寄せた大樹は三咲を見て何を言ってるのか口を動かしてる。
「…嫌だ、別れたくない」
 本当にそんな事を言ってるのか三咲は大樹にしがみつき別れたくないと泣く。そんな、三咲に手を出すと頭を撫でた。
「…大丈夫、心配するな」

 大樹が何を言ったのか母親は驚いた顔を見せたり複雑な顔を見せたりした後、大樹に頭を下げてる。すると、近寄り三咲を抱きしめると頭を撫でられ離れた。
「…なに」
 まるで別れのような母親の行動に、思わず掴んだ。だが、母親は笑顔を見せて病室から出て行った。
「何…」
 何が起きてるのかわからない三咲に大樹は近寄ると、椅子に座った。そして、ベットテーブルにあるホワイトボードを手にすると綺麗に全て消して、何かを書き始めた。それを三咲に見せる。一言書いては三咲見せ返事を待つ。
 三咲が病院に居るのは、昨日の体育の授業の騒ぎから始まる。楢崎を守ろうと背後から回った三咲。前からだと完全やられると思ったが、横から来た冷やかしたクラスメイトの友達が手を出し、楢崎が守ろうと掴んだ瞬間三咲の右側に当たり右耳は聞こえなくなったと。
 そして…家にいて何もならないよりは、大樹が預かると。
― 勝手に決めたが、いいか?
 そう、見せた大樹に三咲は迷わずうんと頷いた。

濃密な月夜―大樹


 プライベートでショッピングモールに寄った。知り合いがそこに居て、二年前結婚し第一子が生まれたという連絡を受け。ついで仕事の話もしに来たのだが、人払いしたせいか奴は大樹に新婚生活をノロケも加えて話が止まらない。しまいに最後はお前も早く結婚しろよなんて。
 早くに父親が亡くなった。母親はまだ妹が中学生の時に亡くなった。結局、身内は大樹と弟と妹。二十歳過ぎてた大樹はそのまま組長に。
 幼い時から家が梯也組だなんて別に気にもしなかった。逆に弟と妹の方を気にしていた。裏の他に表の事業で、飲食店を何軒か扱ってる。よく言う夜の店はない。それほど梯也組は小さい。だが、小さいながらも他の組とは同等以上の強さはある。
「最近、幸せそうな顔して何よりです」
「なんだ、それは」
 いかにも今までが幸せでないような言い方に、弟の雅紀は大樹に睨まれる。焦るように咳払いすると表情を変えた。
「どうでしたか、ショッピングモールは」
「入るまでもないな」
「と、言うと」
「飲食街にうちの店を入れても意味がない、レベルが違い過ぎる」
「名ばかりで売れてる店舗ばかり、と」
「だな…」
 自社ビルの社長室。暖かい日差しが入ってくる。社長室に大樹のデスクと入り口付近に雅紀のデスクがある。仕事しながらそんな会話。
「ところで、兄さん」
「なんだ」
「最近、夜遅くに帰ってくると…」
 迎えの西田が言ったのかと頭を抱えると同時に締めてやると。
「彼女でも出来たならオレにも教えて下さいね」
 抱えた頭を上げると雅紀が笑顔で見ている。
「…いずれな」
 組長が、しかもまだ高校生のガキに手を出してるなんて、言えたもんじゃない。
「楽しみ、兄さんそこそこいい年だしカッコいいから結婚も考えた方が」
 …結婚、か。確かに、寄ってくる女は居る。だが、なぜか体関係で終わってしまった。本当の付き合いという事がしたことがない。
 ふと、三咲の顔が浮かぶ。…いや、三咲とは結婚出来ないだろ。そもそもそこまで考える必要はない。
 そんな事を思いながら大樹の顔は暫くの間百面相だった。

 ただいまと帰る部屋は、広いマンション。日常生活が出来る最低限の電化製品はある。父親も母親も亡くなった実家は今は叔父と叔母が住んでいて、何かある時は実家に向かうぐらい。そのたび、いかにもな男達の集まりに既に隠居の叔父は何かやらかしたのかと頭を抱える。息子が居たときは安心出来たのに孫は全くとぶつぶつ言う叔父に俺なりのやり方があると言いたくなってくる。
 インターホンが聞こえて画面を見ると妹の英里だった。週に一回は、祖母の変わりに英里が来る。しかも祖母が作ったおかずを持って。
 玄関の鍵を開けると英里が入ってくる。幼い頃の記憶しかない母親にそっくりで。スリッパを履きすぐさまキッチンに向かう。社会人になって恋人が出来たとか雅紀が言っていたが、本当なのかさっぱり。聞きたいが聞けないこの気持ちは両親とも亡くなったせいで、自分が親代わりに面倒見てきたせいか。
 持ってきた紙袋から出すとタッパから皿におかずを移す。料理が出来ない訳でもないが、めんどうでやらないだけで。そんな大樹を知って祖母が心配して英里に頼んでる。
「会社はどうだ?」
「普通かな」
 大樹はリビングに戻りソファーに座ると、飲みかけだったコーヒーが入ったカップに手をつけた。
「でも、やりがいがあるよ」
そう言って、皿に盛ったおかずを大樹の前に持ってきた。
「ごはん、今日炊き込みだったから炊かなくていいね」
 茶碗に盛った炊き込みご飯に、祖母の味付けの少し濃いおかず。目の前にして大樹は箸を持った。いただきますと、おかずに手をつける大樹。
「じゃ、私帰るね」
「あぁ、ありがとな」
「うん」
 笑顔見せてバイバイと手を振る英里は部屋から出て行った。

 日中、突然の携帯が鳴る。そのディスプレイにでた名前に顔をしかめた大樹。電話は寄越さないという約束。なのに掛けてきた。たまたま社長室に居たから良かったものの、会議中やらだったら危うく若い奴に八つ当たりする所だった。居ない雅紀に出ると一方的な三咲の声。
『…なさい…』

 謝る三咲。確かに。約束は約束。
 その後、聞こえなくなったという三咲は泣き声が聞こえ。
「おい、どういうことだ…三咲!」
 大樹の言葉も遮られ電話は切れた。聞こえなくなった…という事は完全右耳もか。何があってそうなったのかと考えてる最中、雅紀が帰ってきた。
「出掛けに川向こうの高校から救急車が出て来て、何があったのかと」
 川向こうの高校とは三咲の高校。素直に自分の高校を大樹が聞いた時に答えた三咲。初めから三咲は大樹を信じていた。
 雅紀が午前中の外回りに救急車を見たと言うことは、それに三咲が乗っていたのかも知れない。そして…何かしらで右耳まで聞こえなくなった。段々、点と点が繋がって大樹は雅紀に聞いた。
「川向こうの高校なら、県立病院か」
「まぁ、大体そうかも」
 デスクに座り鞄から書類出して見始めながら言う雅紀に出掛けてくると。その慌てた言い方に、雅紀は顔を上げ乱暴に閉まったドアを見つめた。
 病院に向かい、受付で三咲の名前を言う。病室まで聞いてふと思った。自分から三咲に夜だけと言っておいて、自分から今会ってどうする。そして、何がしたい。
 初め三咲と出会った時は性欲発散な為と寂しそうに立っていた三咲に思わず声をかけた。だからといって金を払うような、取り上げるような事はしてない。
 結局、大樹は会社に戻った。だが、やはり三咲に対しての気持ちが渦巻き、どうしようもない気持ちに、別のビルにある事務所に向かうと八つ当たりに下っ端に手を出していた。
「兄貴、どうしたんすか…」
「あ?」
 睨み見る大樹に下っ端の貴奈多はビクつく。貴奈多もまた、大樹に殴られ多少なりに顔が腫れてる。
「金なら、今鷹山とかが必死になって取りに行ってますよ」
それはわかってる。けどそれじゃない。金も大事だが、今は三咲。頭かかえため息つく、大樹に貴奈多が恐る恐る聞いた。
「…もしかして、例の高校生の事…?」
 このビルには近寄らない雅紀に、遠まわしで三咲の事を言っていたのが貴奈多とかにはバレてたらしい。
「……」
 暫く黙っていた大樹だったが、雅紀には言うなよとポツリと話始めた。まるで組長ではなくただの男のように。
「好きなら、オレなら側に置いておきますけどね…」

濃密な月夜―三咲2


親と一緒に学校に向かう。何も聞こえない。怖いと思ったのは今で二回目。一回目は、左耳が完全聞こえなくなった時。走る車を見てもその音が聞こえない。
全く失ったその耳に思わず母親の腕に掴んだ。大丈夫と優しく撫でてくる母親に少しは安心する。
学校に未練はない。聞こえもしない授業受けるよりか、毎日違う奴に迫られるよりか。これからは大樹と一緒に居れる。それは楽しみで。
玄関に入り上履きから指定内履きに履き替える。ちょうど、授業が終わったのか鐘がなるも三咲には聞こえない。クラスから出てくる教師や生徒に見られても無反応。職員室に向かう三咲に向こうにある保健室から出て来た楢崎。顔にはまだ痛々しく絆創膏やらが貼ってある。
 楢崎は三咲に気が付くと、そのまま真っ直ぐ来て足を止めた。母親を見ると何かを感じたのか辛そうな顔をする。
「三咲…」
 呟くように言った楢崎に、母親は三咲から離れて先に職員室に向かった。
「聞こえない…楢崎の声」
「っ!」
「楢崎の声だけじゃない、何もかも…だから、僕、辞める…今までありがとう」
 ゆっくり手を差し出してきた三咲の手に楢崎は暫くおいて手を握った。
「…元気でな」
 笑顔見せ三咲から手を離す。
何かいいたげな楢崎にも気が付かず三咲は横を通り職員室に向かった。
隣で母親が向かいに座ってる教頭と担任教師と何か話している。三咲はその聞こえない会話に俯いていた。
 今日から学校を辞めると言うことで、三咲は一人クラスに向かう。クラスに置いていた荷物を取りに。
まだ休み時間なのか廊下に居るクラスメイトをよそに入る。
すると一気に視線が三咲に。ざわついてる空気もわからず、三咲は机の中にある置いていた教科書やらを出した。そんな三咲を辛そうに見る楢崎。全て所有物を胸に抱え三咲は顔を上げる。
「今までありがとう」
 そう言い三咲はクラスから出て行く。
 高校に入って思い出なんて何もない。しいて言えば、来るもの拒まずで休み時間や放課後、酷い時は生徒全員が居る朝礼の体育館の倉庫でヤった時もあった。一度きりの奴、何度も来る奴…よくわからないプレイや一生分ヤったような事を、結局高校で。
 授業の始まりの鐘が鳴る中、三咲は震えてる感覚にポケットから携帯を出した。見るとそれは大樹で。
― 今夜、迎えに行く、最低限の準備して待ってろ 
 うん、とすぐさま返信した三咲に人の気配がして顔を上げる。ちょうど、母親が教頭と向かってきて。三咲は携帯をポケットにしまった。教頭に頭を下げる母親。自分を見る教頭に自然と頭を下げた。
「…ありがとうございました」
 噂は聞いてる筈。校内でヤった事。なのに、教頭は最後の最後で三咲に何かを言って頭に手をやると撫でた。
 元気でな…
 そう言った気がする。三咲は小さく呟いた。
「ごめんなさい…」
 
家に帰ると部屋に向かう。もう使わない教科書を机の上に置き、大きなバックを押し入れから取り出すと自分の服を詰め込む。下着にジーンズにシャツに…ふと気になって大樹にメールをする。
― CDはいいの?
 すぐさま来た返信はついでに教科書やノートもだと。大樹と一緒に居れるだけで浮ついた心は冷静になる。一応、まだ高校生。まさか大樹の所で勉強するとは思わなかった。入りきった荷物の上に三咲はお気に入りのCDと教科書をしまい込んだ。

「三咲を幸せにしてください」
「はい、必ず」
 夕方、大樹が迎えに来た。何か持ってきた大樹は母親に渡す。それを見つめてると不意に大樹に手を握られた。見上げると大樹は口元緩め。
 行こうか…
 そんな言葉を言ったような大樹に三咲は頷く。再び頭を下げた大樹に三咲は母親の顔も見ず、玄関から出て行く。もう帰って来なくていい。これからは大樹と一緒。聞こえないのは何とかなる筈。そんなこれからの事に、色々思いながら三咲は車に乗り込んだ。

濃密な月夜―大樹2


 貴奈多に言われ三咲を側に置く事になるなんて思いもしない。しかも下っ端の奴に。どうかしてると考えたが、それしか浮かばない。まだ、高校生の三咲。学校をやめこれからどうする。就職するも聞こえないなら何も出来ない。これからの三咲の人生に自分が居ていいのか。散々悩んだあげく、決めた。
 病室に向かうと母親が居て。らしくなく緊張する大樹は母親に全てを告げた。自分は裏家業しつつ二流企業を経営してると。三咲とは体関係から始まったと。色々な事を含め自分が責任を取るので三咲は預からせて欲しい。
 それを母親に言うと、案の定…複雑な顔をされた。当たり前だ。体関係を省いても、裏家業はいただけない。たが、どうしても三咲は側に置いておきたい。そんな一心で大樹は母親の顔を見つめる。しばらくの無言の後、お願いしますとゆっくり言った母親に頭を下げた。
「夕食どうする」
 つい何時ものように口に出したあと、ちょうど赤信号で三咲を見た。やはり聞こえないのか、窓の外を見つめてる。
「三咲」
そう言って大樹は三咲の手を握る。一瞬驚いた顔をした後大樹の方を見た。
「め、し」
 ゆっくり口を動かすとわかったのかどこでもいいよと。これからどう会話していけば、なんて考えながら青信号になり車を走らせながら、自分経営の店に向かった。
「お疲れ様です、社長」
店に入ると店員が寄ってくる。何店舗かある内の一店舗。黒と白のシックな店内は恋人同士が多く。
「個室空いてるか」
「はい、ご案内します」
 先に歩く店員に大樹は三咲の腰に手をやり歩くように促す。
「…ここ、大樹さんの?」
「そうだ」
 見上げる三咲に大樹は頷く。凄いと言うように嬉しそうにする三咲。大樹のスーツを掴みついてくる三咲に奥の個室へと入った。席に座ると、大樹はメニュー表を三咲に見せる。定食から小鉢、ご飯ものが割合を占めるメニューに三咲は定食を指した。呼び出し音を押して店員を呼ぶと注文し、ついでに用紙とペンを頼む。
 今は話すのは慣れない。せめてもの会話に大樹は紙に書くことを。しばらくして来た店員に大樹は何かを書き始める。それを黙って見つめる三咲。そして、書いた文字を三咲に見せた。
 再びの約束。連絡は三咲からしない。鳴った大樹の携帯には勝手に出ない。今まで通りの約束に三咲はうんと言う。そして最後に、弟と妹が居る事を大樹は書いた。
「害はないと思うが、時々妹が勝手に入ってくる…まぁ、余り気にしなくていいからな……ただ」
 その後、言葉を止める大樹。英里はわかってくれる。ただ、雅紀は…厄介。見た目物分かり良さそうに見えて、全く逆だ。それはやはり父親の血が強いからか。自分が恋人…とはまだ決まってないが部屋に連れ込んだだけで何を言われるか。しかも男。不思議そうな顔をする三咲に、大樹の携帯が鳴る。
「俺だ」
 向こうから聞こえた声はその雅紀だった。

濃密な月夜―三咲3


 初めて連れてもらった大樹の店。雰囲気で思わず大樹に、大樹さんの店?と聞いた。社長と言うことだけ聞いていた三咲。
ただ感じゃなく、大樹のイメージな店内。入って三咲は、この店が暖かく大樹に包まれてるような安心感がある。奥の個室に案内され、メニュー表を見て注文し。
 その間、三咲が見た大樹の文字。まるで契約書のように綺麗に並べる文字に三咲は見る。今までと余り変わらない約束に三咲は頷いた。その用紙を眺めていると、大樹が動いた気配がしてふと見ると携帯で電話をしていた。
 相手は誰なんだろう…さっき言った兄弟なのかと思いつつ大なの顔を見ると、店員がドリンクを持って入ってきた。大樹は車のため、ノンアルのビール。そのグラスを手にした店員は三咲にやらず大樹の前へ。制服着ても高校生に見られないなら私服を着ても尚更。目の前に来たウーロン茶が入ったグラスを手にすると、大樹は自分のグラスと合わせた。優しい笑みを見せた大樹に三咲はウーロン茶を一口飲むと次々と料理が運ばれてくる。
 電話片手に用紙に書き込む大樹。食べていいと、三咲は箸をつけた。見た目といい盛り付けといい全体的にお洒落な雰囲気にここが居酒屋と名うってるなんて、三咲はご飯におかずを口にしながらもったいないななんて思っていた。だからと言って、大樹の事に口は出せない。仕事は仕事。…でも、美味しいと久しぶりに笑った気がする三咲は大樹の電話相手が誰と知らずに好きな物を食べていく。
 時々大樹を見ると、ずっと電話している。出された料理もご飯も一切手をつけてない。ノンアルビールも二口飲んだくらいで。空になったウーロン茶に三咲はどうしようかと悩んでると、大樹の手は呼び出しボタンを押した。
「…仕事の、電話?」
 何気に聞いた三咲。その声は電話相手に聞こえたようで、凄い男性の声。それはもちろん三咲には聞こえない。突然、大樹は電話を切り電源まで切るとポケットにしまった。その行動に三咲は、聞かなきゃ良かった。それよりか、声を出してはいけなかったんじゃ…俯く三咲に頭にのる優しい手に顔を上げる。
「気にするな」
「でも…」
 用紙に書いた大樹の字に自分が悪かったと。来た店員に大樹は三咲に聞く。
「同じのでいいのか?」
 その文字に三咲はドリンクメニューを見る。すると大樹の指は一瞬アルコールが入ったドリンクを指した気がした。すぐさまその指先はコーラへ。ご飯にコーラと一瞬悩んだ三咲だが、やっぱり同じのでとウーロン茶を頼む。店員が去った後、大樹は何やら頭を抱えたあとやっと箸を持って。
「…さっきは、ごめんなさい」
 謝りをいれる三咲に大樹は頭を横に振った。考えてみればそうだ。自分から連絡しない、大樹の携帯には勝手に出ない。そうなると、電話の最中は声を出してはいけないのも同じだ。
 落ち込みながら、これから大樹と一緒に住むことに少し遠慮の気持ちが出てくる。黙ったまま食事してると、目の前に用紙。そこには、甘えろと。ただでさえ、聞こえない。それで気にしたら居づらいだろうと、大樹は自分には遠慮しないで甘えろと言ってきた。その大樹の文字に三咲は目に涙をためる。見上げた三咲に大樹は頭を撫で、目尻に指をやった。
…愛してる
 涙で見えない唇に読めなくて、何を言ったのかわからないまま三咲は幸せそうな笑顔をま見せた。

濃密な月夜―大樹3


 雅紀の名前に大樹はしぶしぶ出る。
「どうした」
『兄さん、今どこに居ますか?』
「晩飯だ」
『そう、ですか…』
「なんだ」
『いえ、何となく…さっき、事務所に行ったら嫌な噂を聞いたので』
「…何が言いたい」
 三咲の事を知ってるのは貴奈多だけ。というか、なぜだか貴奈多だけにはバレてしまった。一応口止めなんてしてないが、貴奈多は何があっても口は割らない。だから、容易く大樹のプライベートの事を雅紀には言わない筈…
『以前、俺が言いましたよね』
「最近夜に出歩いてる話か」
『はい』
「それは、知り合いの店に飲み歩いてるだけだ、なにが不満だ」
『確かにそうかもしれません…俺が言いたいのは一般人を匿ってると、わかってる筈でしょう?俺が一番嫌いなのは一般人のガキ、だと』
 そんな言い方に大樹は笑う。
「意味がわからないな…雅紀」
『すみません、なら…今から会えますか?どこで食事をしてますか?』
「悪いな、今友人と一緒だ、後にしろ」
『どちらの……』
「…仕事の、電話?」
 突然聞こえて来た三咲の声に雅紀が叫ぶ。
『兄さん!』
 思わず電話を切り電源を切った。案の定俯く三咲。大樹の中で、三咲にはそんな顔をさせたくない。体から始まった出会い。そんな出会いでも、いつかは出会う運命。いつからそんな考えするようになったのかなんて、三咲と付き合ってから。

 夕食を終わらせ自分のマンションへと。玄関に向かうと一人の人影。妹の英里にしては背が高い。もしやと思い大樹は三咲を背後に隠した。自分に気が付いたのか人影は近寄ってくる。外灯の明かりで見えたそれはやはり弟の雅紀。
「お帰りなさい、兄さん」
「ただいま…どうした、珍しい」
「話の途中だったので」
「俺は終わったと思ったが」
 微かに目線は自分の後ろ。何か隠してると感づいたと思った。
「…すみません、今日は帰ります」
「気をつけろよ」
「はい」
 軽く頭を下げると雅紀は大樹の横を通る。妙な大きな鞄。それと背の高い大樹に隠れてる三咲。一応、隠したが絶対にわかってる。黙ったまま背中にぴったりくっつく三咲を隠し続け、雅紀の姿が消えてから部屋に入った。
 靴を脱ぎ入る雄大に、背後から足音はついてこない。振り返ると三咲はどうしたらいいかわからないように立って。玄関に戻ると三咲の手を握る。見上げた三咲に雄大はゆっくりと口を動かす。
「ただいま、だろ」
 一文字一文字に小さく頷く三咲。わかったのか少しの無言の後に、三咲は口を開いた。
「…ただいま」
 よく出来たと言うように三咲の頭を撫でる。瞬間三咲は雄大に嬉しそうに抱きついてくる。その顔に雄大は久しく三咲を抱いてない事に気が付いてしまう。持っていた三咲の荷物を廊下に置くと、三咲を軽々抱き上げ。
「雄大さん?…え…」
 もう夜。昔は夜昼構わずだったのが、仕事し始めたらそれなりに昼は昼、夜は夜と何気に規則的になってしまった。
「先…シャワー」
 セミダブルのベッドに三咲を寝かせる。その上に乗りかかる雄大。見上げる三咲は可愛い。先にシャワーは三咲のくせ。じゃないと始めない。
「入るか?」
 唇を見て頷く三咲に雄大は両手を掴み体を起こした。

濃密な月夜―三咲4


 あの人…三咲は大樹の部屋の浴室でシャワーを浴びながら考える。大樹が言っていた弟かもと。しかも大樹の背中に隠れていた時に一瞬目があった。その目は突き刺すような目で。思わずぎゅっと掴んで顔をうずめた。
…殺される
そんな事思った。
 脱衣所にあったバスタオルを借りて下着一枚で出る。大樹はリビングには姿はなく、そのまま寝室に居ると思いドアを開ける。薄暗い灯りの中、ベッドの上には先程のスーツ姿のまま横たわってる大樹。寝てるのかと静かに近寄ると、突然起きて引っ張られる。気が付いたらベッドの上で、大樹に押し倒されていた。いつもの優しく愛しい目。そっと差し出された大きな手は顔を撫でられる。
…三咲
そう、唇が動いたと思うと塞がれた。指先絡め握られると握り返した。耳を舐められ鳥肌が立つ。
「っや…」
 かかる大樹の吐息に握られてる手を強くした。すると、片手を離されたと思ったら両手を頭の上に。その状況を黙ってみているとネクタイを外し三咲の手首に結びつけた。
「…え」
 初めて縛られた事に三咲はどうしたらいいかわからない。離れてしまう大樹に三咲は泣きそうな顔になってしまう。大丈夫だと、顔を優しく撫でられる。ベッドから降りると大樹はワイシャツにズボンを脱いだ。下着一枚になると再び上に乗りかかる。抱きつきたくて縛られたままの両手を上げると、大樹に手を掴まれ甲にキスされた。
「…」
 見つめる三咲に大樹は何かを言っている。
「…わからない」
 そうか、と言う顔をすると大樹は体を下に移動した。すると、三咲の下着に手をやり脱がす。脱がされた下着はベッドの下に。
「ぁ…」
 大樹の大きな手で自分自身を軽く握られ扱かれただけで大きくなっていく。
「ん…っ、は、ぁ」
 両手首を繋がれたまま三咲は体を捩る。耳に舌を入れられ、キスすれば舌を持っていかれそうな濃厚なキスをされ、三咲の目からはもう涙がこぼれ落ちていた。怖いとかじゃなく…何度か大樹が唇動かすのは自分の名前を言ってるのだと。
 それが聞こえない。名前呼んでくれてるのに聞こえない。大樹の声が聞きたいのに聞こえない。安々と学校でヤりまくるんじゃなかった…だったら、あんな事故にもあわずにすんだし、耳が聞こえなくなるなんてなかった。そんな後悔に三咲の涙は止まらない。
「…今日は止めるか?」
 ふと、涙を拭う大樹の指に三咲は大樹を見る。心配そうに見た大樹の顔に三咲は横に頭を振る。
「嫌だ…」
 頭をポンと軽く叩かれ体を起こすと同時に自分も起こされた。ベッドに横になる大樹。続けるなら咥えろと言うように。両手首繋がれたまま、大樹の下着を脱がす。半起ちの大樹自身は明らかに自分よりは大きい。完全ならもう倍にはなるんじゃないかと思うくらい。でも、三咲は何度も見てる。細い体に入ってくる。大樹が好きな理由は一理それもある。
 口いっぱいに大樹自身を頬張る三咲。涎は流れ落ち、先走りでもうぐちゃぐちゃ。それでも三咲は一生懸命に大樹に奉仕する。早く入れて欲しい…愛撫なんてどうでもいい。大樹が自分の中に入ってるのが凄く安心するし、大好きでどうしようもない。もういいと言うように頭を撫でられる。顔を上げると腕を引っ張られ引き寄せられた。

濃密な月夜―大樹4


 何度名前を呼んでるのに三咲は泣き止まない。初めて聞こえなくなった原因は、学校で何かやらかしたとか聞いたが詳しくはわからない。泣くぐらいなら…そう思った大樹だが、じゃなかったら自分も三咲とは会わなかったかもしれない。今日は止めた方がいいかと涙を拭うと嫌だと頭を振った。
「…っ」
 根元まで入らない三咲の口。欲しそうに動かす腰。繋がれたままじゃ、自分でも出来ない。起たせた三咲は腰を使ってシーツにこすりつける。それを見た大樹は三咲の頭を撫でた。顔を上げた三咲を軽々抱き引き寄せる。膝にのった三咲は両手広げて抱きつきたいと。
「…ほどいてくれないの?」
「解いて欲しいのか」
「大樹さんに抱きつきたい」
 口元からの涎を拭い言う大樹。だが、普通の会話は噛み合わない。三咲は唇見るどころか、大樹の目から視線を外さない。
「三咲」
「お願い…これ、ほどいて欲しい……何でも言うこと聞くから」
 三咲の言うこと聞くは、日常生活的な事。夜、時々会っていた時は三咲には変なプレイなんてしてない。せめてが、ネクタイで縛るくらい。それは、大樹がほぼ八つ当たりで。今日も三咲を縛ったのは、雅紀が居たから。三咲に八つ当たりなんて悪い事だと思ってても、どうしてもやってしまう。所詮……ヤクザはヤクザだと考えつつ。
 三咲のお願いも無視し、大樹は三咲に濃厚なキスをする。一瞬戸惑った三咲の舌は素直に絡んできた。
「…ん、ふ」
 時折、離れたと思ったら軽く小さなキスをし、唇つけたまま動かす。それは、三咲の名前。こうしたら解るかと。だが、三咲にはまだわからないのか。抱きしめられない辛さに大樹の肩に顔を埋めてきた。そんな三咲に大樹は手を伸ばす。
 一瞬ビクッとなった三咲の尻に大樹は掴み両手で広げた。自分から入れろと言うように促す大樹に三咲は体を起こし、両手は大樹の胸にあて、腰を上げた。ほぼ毎日のようにヤってる三咲の蕾は既に緩く、大きく太い大樹のも軽々と飲み込んでいった。
「…だ、いき、さん……好き」
 涙流しながら言う三咲に大樹は口元緩める。可愛い、綺麗、小さい…何もかも自分の周りには居ない単語が揃ってる。
 何度か自分で動かす三咲に、大樹は三咲を押し倒した。ホテルと家とはやはり違うのか、大樹は感じるままギリギリまで引いては奥深くまで突く。乱れまくる三咲にキスをし、乳首を攻め一気に上り詰め一緒に果てた。
 浴室で、大樹は三咲の体を洗う。やっと自由になった三咲の両手はここぞとばかり大樹に抱きついてきた。
「大好き…」
 俺も…好きだ…
 三咲が聞こえないのをいい事に大樹は、ずっと胸の奥にしまっていた言葉を呟いた。

濃密な月夜―三咲5


 うっすら開いた目に入ったのは、見知らぬ部屋。薄暗い部屋のカーテンの下からはもう日中なのか、日差しが入ってきていた。ボーッとした頭で考えると、昨日から大樹の部屋に住むことを思い出した。
 気だるく体を起こすと、広いベッドの中には自分一人だった。チカチカ光る着信の携帯を掴むと、再びベッドに埋まりメールの知らせに見た。
― おはよう、三咲。
朝飯は、テーブルの上にあるからな。
あと、今夜は遅くなる…だから、朝飯の隣りに置いてある参考書の記しある所までやっておけ、帰ってきたらわからない所は教えてやる
 本来なら普通に高校に行ってる。辞めたからと言って大樹はちゃんと三咲の勉強まで見てくれている。三咲は大樹に返事を送ると、重い体で起き上がりシャツに半ズボンの姿でリビングに出た。大樹が言ったようにテーブルには、軽いおかずと参考書が何冊かがあった。
 それは、明らかに大樹が作った物じゃない。買ってきたのかと思って、炊飯器の中にあったご飯を盛りテーブルにつく。いただきますと箸を持っておかずを口にすると、買ってきたのとも何か違う。もしかして、昨日言っていた妹の英里なのか。少しの嫉妬が沸き上がるが、結局お腹が空きすぎて完食してしまった。

 食器を洗い片付けした後、周りを見渡した。一人で住むには広すぎる。社長なのはわかるが。
 小さく息を吐くと、バックから今まで使っていた教科書やノートを取り出してテーブルにつく。大樹が用意してくれた参考書を見ると付箋があって、ここまでやれと言うことか。
 学校では、余り聞き取れず黒板に書いてあるのを自ら頭を使って授業を受けていた。だから、1日が疲れる。今まで勉強した部分を思い出しながら、参考書を見てノートに書き込む。詰まると、ペンで頭をかき持ってきたCDをリビングにあったコンポに入れ音楽を聞いた。聞こえない筈なのに頭には流れてくる。そんな事をしてるうちにいつの間にかお昼。
 叩かれた肩に寝てしまっていた三咲はビクつき起きた。そこには、大樹の姿。
「…お帰りなさい」
 夕べは珍しく激しかった。両手首縛られ、大樹は抜かず三咲だけ何度もイかされ。それでも三咲は嫌だと言って大樹を離さなかった。
 寝ぼけて大樹にしがみつく三咲。それでも大樹は三咲を抱き締め頭を撫でるとテーブルの上にあるノートを手にした。頭の上で何か動いてる気配に、離れると見上げた三咲。やっと動いてきた頭。
「大樹さんが言った範囲内は、学校で勉強したから大丈夫…だと思う」
 無表情のままノートを捲る大樹に多少不安になりながら、見てると頭を撫でられた。ちゃんと出来てると。ふと、ペンを大樹は取るとノートに何かを書き込む。そして見せた。
「お昼、何が食いたい」
 その文字を見た三咲は悩む。お腹空いてる訳でもなくて、強いて言えばまだ眠い。
「…お昼、いらない……ただ眠いだけ」
 頭は動いててもまだ眠い顔をする三咲。学校では休み時間と放課後しか限られてなく、大樹とホテルと会った時はまだ暗い真夜中に帰る、会っても二、三時間くらいだった。
 夕べみたいに空が明けそうな時間まではいくら高校生の三咲でも体力の限界がある。再び寝に入りそうな三咲の体が浮いた。見ると大樹が抱きかかえ。そんな安心感に三咲は大樹の胸にもたれる。目を閉じると力が抜け深い寝に入っていった。

濃密な月夜―大樹5


 目覚めると自分の腕の中には安心仕切った三咲の寝顔。指の背で顔を撫でる。
「…三咲」
 小さく身じろぎした三咲に小さく笑うと、時計を見た。時間はまだ六時。起きるには早いが、このまま二度寝したら起きれそうにない。
 朝イチで会議があるのを思って、三咲を起こさないように枕にした腕を離し静かに寝室から出て行く。部屋から出てポストに向かい新聞を取り、テレビの音量を低くしながら米を洗い炊飯器にセットし、残っていた英里が持ってきた叔母のおかずを冷蔵庫から取り出す。
 米が炊けるまで、大樹はわざわざ自分で本屋に向かい買ってきた三咲への高校の参考書を取り出してくる。暫く眺めたあと付箋をつけ、今日の分と。そうしていると炊けたアラームがなる。一人朝ご飯を取りながら、ニュースを見て。すると、雅紀から電話が来た。
『おはようございます、兄さん』
「おはよう」
『今日、九時から会議がありますので』
「わかってる…あーあと、途中事務所に出て行くからな」
『なにか問題でも』
「いや、下っ端の戯れ言だ」
『…わかりました』
 昨日の事が、何もなかったように話す雅紀。余りほじくり返したくないと大樹も口に出さなかった。ある程度仕事の話をして電話を切った後、朝食も終わり出勤する為に、寝室に向かう。クローゼットからスーツ一式を取り着替えすると、ベッドに手をかける。まだ眠りに入ってる三咲を暫く眺めてその愛しい顔にキスをした。
「行ってくるからな」
 髪を直し頭を撫でると静かに部屋から出て行く。

 迎えに来た車の中は妙な空気。電話ではそうでもなかったのに。早めに開ける組の事務所へと向かう。
「兄さん」
「なんだ」
「……いえ」
 言葉を濁す雅紀に大樹はバックミラー越に雅紀の顔をチラリと見る。目が合わないにしても、何か隠してそうな顔。まぁ、情報収集してから言いつけて来るんだろうが、そう簡単に三咲の事をわかってたまるか。そんなこと思いながらついた事務所のビルへと入っていく。
「おはようございます!」
「おはようっす、アニキ」
 朝から元気な下っ端達にうるさいと何となく思いつつ、連絡があった下っ端から話を聞き、朝からつまらない件で呼ぶなと活を入れ早々に会社に向かった。
 社長室のデスクで今日の会議の資料を眺める。一方、雅紀は書類を手にしてるが、大樹に視線を。
「…なんだ」
「いえ」
「言いたい事があったら言えばいいだろ」
 資料をデスクに置いて雅紀を睨むように見る。流石に雅紀は目線外し、俯いた。社長より今の大樹は組長の目をしていた。そうなるとたとえ雅紀でも何も言えなくなる。

濃密な月夜―三咲6


 自分のベッド違う寝心地。気持ちいい感じにうっすら目を開けた。そこには見慣れない景色。未だ、大樹の部屋に住んでる実感がない。
 気だるく起きると三咲はベッドからおりて寝室から出る。テーブルにはやりかけの勉強。近寄ると大樹が見て丸付けの赤丸があった。間違えてる所は帰ってから教えてやると言うメモが残し。
 それと同時に腹の虫がなる。ふと時計を見ると午後二時。たしか大樹が来た時はお昼。それから約二時間は寝ていた。リビングテーブルを見ると、コンビニ袋がありそこには弁当が。来た早々に勝手に冷蔵庫開けるのも…と思い三咲はソファーに座り弁当を取り出し食べ始める。
 その玄関先でインターホンが鳴っている。
 ドンドンと、凄く遠く遠く聞こえた気がして玄関に行ってみた。が、その手前で三咲は足を止める。
 勝手に出るな─
 電話はもちろん玄関からの客にも。未だ叩いてるであろうドアに三咲はリングに静かに戻った。緊急時の連絡はしょうがないとそれだけは承諾を貰った事を思い出し、メールに誰か来た気がするけど出なかったと大樹に送った。すると直ぐに返事が帰ってきた言葉。
― わかった… 
 とりあえず今日の分の一人での勉強は終わった。コンポに入ったままのCD。大樹が止めたのか、電源は切ってあった。今は聞こえもしないが、何度も聞いたアルバム。タイミングよく脳内に流れてくる。再び流そうかと思った矢先、ポケットに入れていた携帯がバイブで知らせる。見ると大樹からだった。
―物音たてるなよ、無理なら寝室に行ってろ
 何か感づいたメールに三咲は黙ったまま、必要な物を持って寝室に行き静かにドアを閉めた。未だ、叩く音。時にインターホンが鳴る。まるで近所迷惑なんて気にしないぐらいに。せめてものテレビが見たい。ベッドに小さな冷蔵庫。クローゼットがあるくらい。
 何も出来ない三咲は暇つぶしに冷蔵庫を開けてみた。案の定、入ってるのはビール数本だけ。これからどうしよう…別に外出する事は許されてる。そもそも、監禁されてる訳じゃない。普通に大樹と一緒に住んでるだけ。
 静かに寝室のドアを開け、玄関の方を見た。どうなんだろう…ドア向こうに人が居るのかわからない。結局三咲は再び寝室に戻った。

 結局三咲は三度寝。震える携帯に三咲は手探りで掴み、うっすら開けた目で明るい液晶を少し眩しそうに見た。春先と言っても、まだ暗くなるのは早い。薄暗い部屋に光る携帯の液晶。
― 三咲、今何してる 
 そんな他愛なさそうな大樹のメールに三咲は素直に返事した。すると、来た大樹のメールは穏やかじゃない事だった。
― 雅紀がお前の存在に感づいて動いてる、多分昼間の誰か来た気配は雅紀の下っ端だろ、三咲の身内には手を出さないとは思うが、一応部屋の灯りは俺が帰ってくるまでつけるな…見つかると我が弟なのに何するわからねぇからな 
お前は俺が責任持って護ってやる──…
 最後に書かれた言葉に三咲は布団を頭まで被った。

濃密な月夜―大樹6


 私用で事務所に居た大樹。来客が居る客間に貴奈多がノックし入ってくる。ピリピリした空気は、事務所には似合わない…役所の人間。チラリと見たテーブルの上には、数字。
 一瞬で裏取引だと思った貴奈多は失礼しますと言って大樹に携帯を差し出した。意外にも普通に受け取った大樹は来ていたメールを見る。何も変哲のない三咲のメール。返事を送り、再び向かいに居る男に向き合った。
「…悪い」
「いえ……で、この数字ならいいと」
「俺はそれ以上なら、却下する…不利益だ」
「不利益と言っても多少ごまかしきくぐらいだろ」
 一瞬悩む大樹にさっきの三咲のメール。妙に引っかかっり、再び携帯を開いた。
「………大樹」
「貴奈多!」
 突然怒鳴る大樹に驚きながら、客間から出ていた貴奈多が慌てて戻ってくる。
「おい、大樹…今はこっちだ」
「うるせーよ、少し待てねぇのか」
「なんすか、大樹さん」
「ちょっとこい」
 近寄ってきた貴奈多に大樹は耳打ちする。何かを聞いた貴奈多は、客間から出て行くと数人出て行く音が聞こえた。
「大樹、兄弟喧嘩か」
「……どこで間違えた」
 メール送信した後、大樹は男を見た。
「コレで手をうつ」
 片手広げ男に見せた。
「……仕方ない」
「仕方ないってお前な…お前から言ってきたんだろうが、元々俺は興味ねぇんだよ」
「根っからのヤクザが何を言うか」
 用紙に書いた男は大樹に差し出した。
「……了解、何かあったらお前を護ってやる」
「期待しとく、同級生」
 帰っていった男に大樹は事務所内を見る。
「……連絡ねぇか」
「まだッス」
 落ち着きない大樹は心配になって来る。先程行かせた貴奈多と下っ端。頼む、早くと願いつつも犯人は誰かわかっている。
 三咲から来た、誰か居る気配は弟の雅紀の下っ端。ここで雅紀に連絡したら完全喧嘩になるのは明らか。確認の為に行かせた貴奈多からの連絡は、出て行って三十分後に来た。
「もしもし!」
『兄貴、案の定雅紀さんのやつらです』
 小声で話すのはどこからかマンションを見ながら話てるかなのか。
「やっぱりか」
『どうします?インターホンやらドア叩きまくって…これじゃ近所迷惑、にしても、あの雅紀さんのやつらの割に礼儀がなってないですよね』
「…あの時か」
『はい?』
 あの時、三咲をこれから自分の家に住ませる為に連れてきたあの日。やはり、雅紀にはわかっていた。が、兄弟とも確信がなくては動かない。
「…三咲なら大丈夫だろ、一応物音立てるなとは連絡しておく」
『了解です、なら俺らも戻ります』
「わかった」
 完全に雅紀の企み。唯一気付かれてないのが三咲が聞こえない事。おかげで三咲は無駄に玄関に近寄らない。
「どうするか…」

 雅紀が何故そんなに子供相手が嫌いになったのか、大樹はわからない。ただ雅紀が高校卒業した辺りから様子がかわった。
時々喧嘩して帰ってきた雅紀。自分がヤクザの息子だからと、それだけで絡まれていた時期もあった。それが凄く嫌だと大樹に泣いて話していた。
 仕方ない、人それぞれの生きる道だと話した数ヶ月後。雅紀は高校卒業したら大樹の会社に就職すると。そして大樹の側に居ると。叔父は雅紀の就職先に何も言わなかった。喧嘩やらが無かったら、雅紀は別の道を歩いていたのかもしれない。わざわざ嫌いな裏家業の道を選ばなかったのかもしれない。
 大樹は一応に三咲に連絡した。雅紀の奴だと。このまま会社に戻ると雅紀は居る。俺が何も知らぬふりして戻ったらどんな顔をするだろうか。戻ってきた貴奈多。
「一応、一人監視で置いときました」
「わかった」
「…どうします?相手が雅紀さんですよ」
「貴奈多」
「なんすか?」
「雅紀の事何か聞いてないか?」
 雅紀の裏は特に把握していない。その事を祖父に色々言われていた時期があった。雅紀は頭がいいから大丈夫だと思っていたが、頭良すぎるのも問題だ。
「特に…」
 下っ端同士馴れ合ってる訳でもないが、多分雅紀は会話に気を付けろ位は言ってあるんだろう。
いつか言っていた、大樹の会社を分け自分の会社を持ちたいと。それ以来何も話が出てこない。密かに動いているのか。それぐらい仕事や裏に関しては徹底している。
「そういえば、この間、ほら兄貴が…高校生を部屋に連れてきた日」
「あの時、雅紀が部屋の前に居た」
「居たんすか!」
「あぁ」
「あの日の午後、雅紀さんのと何気に話してたんすけど、雅紀さんが何か動いてるって、そいつ入ったばっかの奴だから、その上の奴らがざわざわししてたって」
 電話で三咲の声が聞こえたのは夕方。午後は仕事していた。と言うことは、雅紀の言う夜出歩いてると言った時点でつけられていた事になる。
「会社、行ってくる」
「いってらっしゃい、兄貴」

濃密な月夜―三咲7


 ざわざわする。余計な事考えないように、三咲はリビングから勉強道具だけ静かに持ってくると寝室に行き、床で開いた。
一瞬だけしか合ってない目。なのに。自分が悪いのかとも思ってしまう。ここに本当に居ていいのか。
 けど大樹は三咲を離さない。三咲も大樹から離れたくない。聞こえないこの中に大樹が居るから楽しいし嬉しい。
 暫く静かになった玄関。そのドアの向こうには弟の雅紀の姿。急に寒気がした三咲は寝室のドアを黙って見つめる。何かわからないオーラ。ただわかるのは殺られる。
 ペンを置いて三咲はゆっくり後退りする。心の中で大樹の名前を何度も。雅紀は大樹の部屋の鍵を出し鍵穴に差し込んだ。
一応の為に兄弟に合鍵を渡していた大樹。ゆっくりと回すと音をたてて鍵が開いた。寝室の隅に小さくなる三咲。
 怖い…
 静かに入ってくる雅紀は脱衣所やら風呂場やらドアを開け。
リビングで見つけた三咲の勉強するためのテキスト。それを見た雅紀は寝室のドアを見つめる。ゆっくり近寄る雅紀は寝室のドアノブに手を。玄関から聞こえた音に雅紀の手は引いた。
「なにやってんだ」
「兄さんこそ」
「ここは俺の部屋だ」
「…ちょっと探し物」
「だったら俺に言ったらいいだろうが」
 一瞬、雅紀は寝室のドアを見ると黙って出ていく。

 急に頭に何か触れた感覚に三咲は更に小さくなる。
ゆっくり撫でられた感覚に大樹だと顔を上げた。
「大樹さん!」
 良かった。どうしたらいいかわからなかった。三咲は大樹に抱きつく。
「…怖かった」
 強く抱き締める大樹。隅で小さくなるしか出来なくて。
「よく我慢したな、三咲」
 そう言うように大樹は強く。未だ震えてる三咲に大樹は抱き上げた。そのままベッドに三咲を寝かせた。
「三咲、見ろ」
 大樹は三咲を自分の口を見ろと言うように促す。親指で三咲の涙を拭い。
「お前には俺が居る」
「…うん」
「だから、泣かなくていい、怖がらなくていい」
 涙を流す三咲に額に小さなキスをする。
「…ん」
いつの間にか握っていた手。安心する。やっぱり大樹じゃなきゃと。
「今日はもう大丈夫だろ、仕事に戻るが三咲一人で居れるな?」
「…頑張る」
「帰ってきたら一番に愛してやる」
「うん」

 リビングで勉強する三咲はふと辺りが暗いのに気がつく。外はもう暗い。立ち上がりカーテンをしめ部屋に灯りをつける。
時計を見ると六時。
 大樹が帰ってくるのはバラバラ。光っている携帯を見ると、大樹からさっきで。
―もう少しで部屋につく
 帰ってくる、大樹が。返信しようと思った瞬間玄関から音が。聞こえない三咲はうんと送信してしまう。近くで鳴る携帯の音に大樹は口元緩めた。
―帰った
 その返信に三咲は振り返る。
「おかえりなさい、大樹さん」
「あぁ」
 抱きついた三咲に大樹はそのまま抱き上げ寝室に行き三咲をベッドへ。
「約束だ」
 約束…帰ってきたら一番に愛してやるって。シャツの下から触れる大樹の手にビクつく。
「…そ」
「ここがいいか」
 乳首に優しく触れる大樹に思わず声が漏れる。
「…聞かせろ、三咲の声」
 口元に手の甲をやる三咲に大樹は離した。唇合わせ刺激を与える大樹。
「好き…」

 うっすら目を覚ます三咲。広いベッドには大樹が居なく。ゆっくり体を起こすと、ベッドから降りた。裸のまま薄暗い寝室からドアを開けると、灯りで眩しいリビングに大樹がテーブルで三咲の今日の分の答えを合わせていた。ふと振り返る大樹は手を止めると三咲の側に寄ってくる。手にはホワイトボードとペン。これからこれで会話をするつもり。
[起きたか…服、なかったか?]
 そう書かれても、薄暗い寝室で気が付かない。三咲の横を通るとベッドの上に置いていた三咲の服を手にする。近寄った三咲に渡され。消すと再び書いた。
[着たらこい、飯の前に今日の分の復習だ]
「わかった」
 出ていった大樹に三咲は服を着始める。そういえば、今日の分。雅紀が来たせいで出来てない箇所がある。言ったら言い訳になるだろうか。怒られるだろうか。そんな不安に三咲は服を着終わると寝室から出て大樹の向かいに座る。
[隣]
 そんな事書かれて素直に大樹の隣に移動。
[やってない所は、雅紀のせいか?]
「…うん」
[今回は仕方ない、なら間違った箇所教える]
 ノートとペンを出し、大樹が教えた所をノートに書き写す。
その内三咲はうとうとし始め。大樹の声は聞こえなくても、隣に居る安心感と愛された事で。肩を軽く叩かれた三咲は気づいて大樹を見上げた。
「…ごめ」
[飯にして寝るか、今日は色々疲れただろ]
「…うん」
 立つ大樹に三咲はテーブルの上を片付けた。いつの間にか、明日の分の勉強に付箋紙があり。テーブルに置かれた遅い夕食を二人で食べた。一緒風呂に入り、明かりを消したら大樹は全ての鍵をかけ確認する。その間、三咲はベッドに上がり布団に潜り込む。
 この大きくて広いベッドが好きで、大樹が居るのもあるが寝つきが悪くなくすんなり寝れる。寝室の明かりだけになった部屋の中、来た大樹は布団に潜り込むと三咲は両手出すと、抱き締められる。寝るときは必ずそう。三咲が不安にならないようにと。自分の体より二倍も大きな大樹。優しいし、何でも知ってて、本当に大好きと抱きついた大樹にすり寄り静かに寝に入った。

濃密な月夜―大樹7


 大樹が気付かない訳がない。なぜ。そればかりが頭を過る。三咲にうつつを抜かして気が緩んだか。そんな筈はない。会社に入る大樹にエレベーターから雅紀が降りてきた。
「おかえりなさい、兄さん」
「ただいま」
「どうでしたか」
「渋って来たが押し通した」
「流石です、俺これから外回りしてくるので」
「気を付けてな」
「はい、行ってきます」
 お互い歩き出す。どちらとも表向き変化もないが内心ピリピリしている。エレベーターに乗った大樹、完全閉まると携帯を出した。
「貴奈多、雅紀が外回りと出ていった、気付かれないように誰か付かせろ、誰かはお前に任せる」
『了解っす!』
 社長室がある階に止まるエレベーターに降りた。ドアを開けて机につく。三咲に今連絡しても出るだろうか。寝てるかもしれない。一か八か大樹は三咲にメールを送った。
―三咲、今何してる
―勉強してた、寝室で
―何も変わりないか?
―うん
 すぐに来た返信に多少は安心する。兄弟喧嘩なんてそういえば無かった。親が亡くなってからずっと反抗期もなく、側に居てくれていた。いつからどこから変わったのか…
 すると携帯が鳴る見ると貴奈多の表示。耳に当てる前に聞こえてきた声は、兄貴の部屋に向かってますだった。
 いくらガキが嫌いと言ったとしても、どうしてこうも執拗に三咲に食らいつくのか。昔喧嘩して帰ってきた時、雅紀は兄さんの悪口言ったから…そう呟いていた。兄さんの悪口言う奴は誰であろうと許せない…側に近寄せない…
そう言っていた雅紀。電話切り社内を走る。
「社長!」
「…なんだ」
 気持ちは早く行かなければという思いと、会社に居る時ぐらいはと思いが入り交じる。
「先程、ショッピングセンターからの…」
 と、差し出した書類を思わず手に取る。一度視察に行った時は自分の店は入れるまでもないと思っていたが、予想外の提示に心が揺らぐ。そもそも前回行った時は直接連絡来たくせに、丁寧にも会社に連絡を寄越しファックスにて明細まで寄越しやがった。小さく舌打ちすると、後で当人に連絡すると社員に書類を渡す。
「悪い、それは机の上に置いておけ」
 走りながら言う大樹にはいと返事が聞こえる。駐車場から急いでマンションへ。赤信号続きでイライラしてる大樹に携帯が再び鳴る。もう面倒だと、スピーカーにした。
『マジヤバいっすよ!行った方がいいっすか!?』
「部屋に入ったか?」
 どこで監視してるのかわからないが、遠く微かに大樹を呼ぶ声が聞こえた。
「貴奈多!!」
『向かいます!』
 切れた電話に青信号に車はスピードを出す。

 昔から雅紀は何か違ってた気がする。父親に似てるようで、静かな分内面がわからない。父親の葬儀の後代継ぎの前日に、大樹は会社を雅紀は組の方と案が出ていた。それを口出したのは、大樹でもなく雅紀。ずっと黙っていた雅紀は
『会社は兄さんと一緒で、組の方は今まで通りでいいと思います、ね…兄さん』
 特に気にしても無かったのは大樹は両立出来るからで。雅紀に言われ、ついそれでもいいと返事した。その、つい、がこうも悪い方に行くとは、大樹も思ってなかっただろうに。
 マンションに車を止め急いで向かうも貴奈多達も雅紀も…三咲の姿が無い。リビングにはちらかったノートやら筆箱にペン。
「くそっ!」
 玄関開けて再び車に乗り込む。雅紀が連れて行きそうな場所、今貴奈多に電話しても出ないのはわかってるがどうにもならない感情に電話した。数回のコールに出た貴奈多。
「三咲は!」
『…すみません』
 その声は小さく。
『南方向、騒がしい』
 そう言っただけで切った貴奈多に大樹は、雅紀は自分の事務所に三咲と貴奈多達を連れていってるのだと。南方向は大樹の事務所から見て南にある、騒がしいは沢向の住所。エンジンをかけると雅紀の事務所に向かって車を走らせた。

濃密な月夜―雅紀


 大丈夫っす…そう貴奈多は三咲に向かってゆっくり唇だけ動かした。大樹から色々聞いてる。だから耳が聞こえないこともわかって、貴奈多の言葉に泣きそうになるのを唇噛み締めた。
 一方雅紀はわからない。その為会話が噛み合わないのにイライラしていた。雅紀の事務所の一室に貴奈多と三咲。
「兄さんといつから」
「大体…」
 お前は黙ってろと言うように貴奈多を睨む。
「雅紀さん」
「黙れって言ってんだろ!」
 それでも貴奈多は話す。なるべく三咲の方に向かないようにともう一つ…後ろ手に縛られた手首に俯く三咲。
「雅紀さん…亡くなった親父さんに似て来ましたね」
 見開いた雅紀は貴奈多の前に近寄るとしゃがんだ。何がいいたいと聞いてきた雅紀。

 本当はヤクザなんて必要なかった。普通の生活で普通に父親の会社の方だけ継いで…そんな人生が良かった。だから大樹には自分の会社を持ちたいと。そうしたら、自分の会社だけでヤクザは辞めようと。そう思っていた中学の進路相談の前。
 大樹の弟、ヤクザの息子それだけで絡んでくる奴ら。初めは無抵抗だった雅紀はある一言でキレた。
『お前の兄ちゃん、男にもモテるってマジか?気持ち悪い~』
 ヤクザは嫌いだが、大樹の事を言われるのは腹が立つ。大好きな自分の兄、大樹の悪口を言われるのだけは。結局喧嘩になり、普通に大学行く計画はダメになった。
 だから…嫌いなんだ…ガキが
 何も知らないでズケズケと言ってくる大人でもない子供が。なのに、舎弟から聞いた、大樹が高校生と会ってると。それもホテルに一緒に入ったのを見たと。時々、何も言わない事に雅紀は自分で確かめるまでと、あの日大樹に電話した。案の定、若い男の声が耳に入る。切れた電話に大樹のマンションに行き、待つと帰ってきた大樹の背後に居たのは三咲。
 何気ない話の中で、三咲の存在が雅紀に取って邪魔になる。
 兄さんは俺の…
 そこから雅紀は三咲を消す計画に。
「雅紀さん…兄貴の事をどう思ってんすか」
「兄さんはカッコいい…俺はそんな兄さんに憧れてる」
「…親父さんも、そんな人がいます」
 いました、ではなくいますの言葉に貴奈多を見た。葬儀に来てた、別の組の頭…覚えてる筈と。
「別の組だからこそ、近寄れないだけど好いていて」
 ドアの向こうから聞こえてきた罵倒。雅紀は立ち上がる。
「お前が教えたのか」
「雅紀さんならわかる筈」
 無表情のまま言った貴奈多に舌打ちした。ドアが開く、大樹は一旦三咲を見ると雅紀を睨んだ。
「雅紀…」
「待ってました、兄さん」
言ったじゃないですか…俺は兄さんの側には誰も近寄せない、ガキは嫌いだと。
「三咲をどうするつもりだ」
「もちろん…」
 スーツの中から出した銃を三咲に向ける。気配に顔を上げると、目の前には銃口、奥には大樹の姿。うっすら涙流したのは、ごめんなさいと。
「こういう事…こいつが居なくなれば、兄さんは俺の、俺だけの兄さんになる」
「…やめろ」
「止めない…兄さんだって俺の性格わかってる筈」
 そんなにこのガキが好きなのか?と聞いてきた雅紀に大樹は好きだと。それを見た三咲は見開いた。ずっと言ってくれなかった…好きと言う言葉。今まで聞いたこともなかったその言葉は、今唇の読みで涙が止まらない。それを見た大樹は雅紀の前に近寄る。
「大樹さん!」
 大丈夫だ、そう唇だけ動かした大樹に雅紀は目を細めた。
「兄さん」
「なんだ」
「今の、なに」
 三咲は聞こえない…それを言われて雅紀は三咲を見ると胸ぐら掴んで立たせる。
「…聞こえない、のか!」
 そう大声で言った雅紀に黙って見つめる。その隙に大樹は雅紀から銃を奪い取る。貴奈多はさっきから縛られた手首を外そうと話しながら。
「貴奈多!」
「了解っす!」
 投げられた雅紀の銃を受け取ると出ていく。三咲を払うと貴奈多を追う雅紀に大樹は胸ぐら掴み壁に押し付けた。
「もっと頭がいいと思ってたがな…」
 そう向けたのは雅紀の銃。すれ違いざまに大樹は貴奈多から受け取った。
「…兄さん」
「お前はガキが嫌いって言っていたな」
 今のお前はそこらと同じガキと変わらない。三咲が聞こえない事を知らず、噛み合わない事にイライラして。
 大樹を取られたからと三咲の邪魔に殺意湧き。
「俺はただ!」
 黙れと低い声が雅紀を縛る。
「三咲の方がもっと大人だ」
 三咲の為なら、実の弟であろうが殺る覚悟はとっくに出来てる。そう殺意ある目で見られた雅紀は小さな声で初めて大樹にごめんなさいと言った。

濃密な月夜―この先



「…っ、ん」
「……三咲」
 微かに震えてる三咲の体を愛しく触れる。怖いか?と、大樹は俺の唇を見ろと顔に手をやるとううんと返事する。

 項垂れるように、離された手に雅紀は座り込んだ。そんなにこいつのどこがいいんだと聞いてきた雅紀に大樹は全て、俺の回りにないものがある、と。可愛い、小さい…何より三咲に会うと自分にはない感情が沸き上がってくる。ずっと黙っていた好きと言う言葉もそうと。
 すると雅紀は俺は兄さんが好きだと言えば、それは俺が三咲を好きと言うのとは違うだろうと。そう言われて気づいた。そうだね、と小さく言った雅紀に大樹は優しく頭を撫でた。
 縛られていた手首を外すと三咲は大樹に抱きつく。良く頑張ったなと言えば、ちゃんと言い付け守ったと。そんな二人を横目で見ると携帯を取り出した。掛けた相手は妹の英里。何気に距離を置いていた雅紀。英里は英里で雅紀の事をわかりすぎているのが嫌で。久しぶりに飯でもと言った雅紀にフラれた?の返事にそんな感じと。

 事務所から出て車の助手席に三咲を乗せる。そのまま、マンションへと戻り散らかった部屋を片付けてる最中に、大樹に抱き抱えられた。そのまま寝室へ。
「三咲」
 ずっと大樹の唇見て読む三咲は涙が止まらない。怖がらせて悪かった、だから俺から離れないでくれないか?そんな弱い言葉を大樹が言うのは珍しく、三咲は離れないと泣く。
「…大樹さんじゃなきゃ嫌だ」
 そう言った三咲に口元緩めると顔を撫でて頭を撫でる。シャツの下から両手入れ脱がす。ジーンズも下着ごと脱がした。その真っ白な肌の一方三咲は口元に手の甲あてて恥ずかしいと顔を背ける。
 そんな三咲に大樹も脱いだ。顔に手をやると視線を大樹に。
両手伸ばして抱きついた。いつもより愛しく触れるその大きな大樹の手。油断したら壊れそうな細い三咲の体。
 お互い何もかもが愛しい、そして…

あ、い、し、て、る…



「おはよー」
 そう大樹の部屋に入ってきた英里。キッチンに居た三咲に肩を軽く叩く。気付いて向くと英里が微笑みおはよと。
「おはよう」
「今日、お兄ちゃん休み?」
 普通に言った英里にわからないと小首傾げた。んーと周囲を見渡して見つけた小さなホワイトボードとペンを持ってくると書き三咲に見せる。
「うん、まだ寝てる」
 折角の休み、もうお昼になるよと呟きながら
[予定ある?]
「一応…デート」
 少し照れくさそうに言った三咲に英里は持っていた紙袋を渡した。
[これ、おばあちゃんから、あと、おばあちゃん三咲に会いたいって言ってたから]
 紙袋を受け取ると中を見ると出した。中にはいつものように作ったおかず。
「ありがとって」
「うん」
 じゃねと手を振る英里に三咲は玄関先で見送った。戻った三咲に不意に抱き締められる。
「…どこ行ってた」
 未だ眠そうな声で言うも聞こえない。抱き締められた腕の中で、顔を上げると唇塞がれる。
「…んっ」
 そのまま大樹の手は三咲のズボンへ。下着の下から手を入れ、蕾に指を擦ると無意識に腰を上げてしまう。
 寝ぼけてるのか、三咲が居ないことに小さな不安と微かに聞こえていた誰かとの会話に嫉妬したのか。いずれにせよ、大樹の気持ちにそんな感情も増えてきた。
「…だ…」
 大樹のシャツ掴み顔を埋めると、中に指が入ってくる。
ゆっくり動かす大樹の指に、今は嫌だ、から大樹のおっきいのが欲しいに変わる。ずらした下着とズボンに三咲を廊下の壁に両手つかせる。夕べも散々したのにと言っても聞かない大樹は自ら起ち上げると三咲の中に静かに入れていく。
自分の中でわかる大樹のカタチ。
「…好き」
 本当に大好きと、必死に小さな体で大樹に食らいつく…
 
「英里が来てたのか」
 何か言った?と三咲は大樹を見つめる。唇動いた気がしたのは気のせいかと、目の前に並べた朝食とも昼食ともわからないご飯を食べる。側に置いていたホワイトボードに大樹は箸を置いてペンを持って書いた。
[何か言ってたか?]
「おばさんが俺に会いたいって」
 すると何か考えるようにすると、書いた文字を消して再び書く。
[デートの前に寄るか]
「うん」
 食器を片付け、着替えしてマンションから出る。雅紀の件で、祖父の耳に入り一度は会わせた。内心何か言われると思ったが予想外に三咲を可愛がる。まるで大樹の子供かのように。実家によりそれから、三咲が行きたい場所へ。
 大樹から聞いてきた。三咲が好きなもの行きたい場所を教えて欲しい、と。夜だけ会ってた頃とは違う。もう一緒にどこにでも行ける。大好きと言い合える。電話に出るな、三咲からするな、そんな約束もない。

 仕事の途中、三咲の通っていた学校の前をたまたま通る。校門には卒業式と書かれた立板が。
「…もう卒業か」
 そう呟いた大樹は商談の前にはまだ時間あるととある場所に向かう。
「大樹さんもやっと見つけたんですね」
 も、ってなんだと思いながら、男性店員に勧められた指輪を眺める。
「先日、英里さん来ましたよ」
 その言葉に顔を上げた。
「聞いてない」
「あれ?大樹さんには話したと言ってましたけど」
 全く…
「…相手は」
「会社の同僚と、お会いしました」
 やはり、ちらほら聞こえてきていた。英里が会社の奴と付き合ってると。まぁ、いい…それより三咲に渡そうと思う指輪を見てるとふと目に入った。三咲みたいに小さく可愛い指輪、何も飾りはないが。
 ただの体関係から始まった恋は、いつの間にか飾り気のない三咲に夢中になる。サイズもちょうどいいが金額にするとなりに高い。金額には合う三咲だと、大樹は店員にこれと。夕方帰ってきた大樹は三咲に座れとソファに。ホワイトボードに書くと大樹は見せた。
[三咲、卒業おめでとう]
 実際は卒業してないが、そんな事言ってきた大樹に三咲はうんと。
[プレゼントがある]
 ホワイトボードを横に置くと大樹は先程買った指輪を見せた。黙って見つめる三咲に、大樹は俺を見ろと手を顔に。
「受け取ってくれるか?」
 初めて貰う大樹からのプレゼントが指輪。高そうな小さな箱に光るその指輪に三咲は両手差し出し抱きついた。
「もちろん」
 大樹の膝の上に座ると背後から左手薬指にはめられる。嬉しいと顔を上げた三咲に唇塞いだ…
 聞こえなくても幸せになれる、そう初めて思えた。



   仕事が終わりメールを見れば終わったら連絡よこせだった。電話すれば待ち合わせ場所を決め美咲はそこに向かう。
見つけた仕事は何故か大樹の組の隣の小さな本屋。もっと違う職種を探せばいいのに、三咲が仕事したいと言い出した事により身近な場所を探してきた。なにも隣の小さな本屋でもと思うが、大樹によれば何かあった時に大樹の舎弟である喜奈多と連携取れると。三咲も三咲で本屋なら余り来ないから聞こえなくても大丈夫だろうと。
  本屋の店主とも仲良かった為にすんなり決まった。雑用から始まった初の仕事は聞こえない三咲に一日のスケジュールの横に詳しく書いてくれて。何か分からない事があれば遠慮しなくていいからねと。
  それも慣れて来れば黙々と仕事し、余った時間は古い書籍を借りて見ていた。高校時代のヤらかした時間が今は凄く勿体ないきがしてくる。なんで遊んでたんだろ…そのせいで聞ける筈の耳も聞こえなくなった。だからこそ余計こうして仕事出来る場所があり、時々来たお客と店主とで他愛ない会話したりするのが楽しい。

  空も暗くなった夜。帰宅中の人々の中美咲は余り人が少ない場所に居た。時折美咲が仕事の時こうして待ち合わせののち会う。そんな時ふと思う学校時代の事。あの時なんでとは未だに思う。だがそうじゃなかったら大樹に会えなかったかもしれない、こんなに今は幸せと思える毎日にならなかったかもしれないと思えば人生て何が起こるかわからないなんて一人考えていた。
  鳴るクラクションに顔を上げた。そこには大樹が運転する車は普通の乗用車はきっと表である会社の帰りなんだろう。近寄り助手席に乗り込む。
  「さっき、昔の事思い出していた」
  言いながら携帯に文字を打つと大樹に見せる。大樹はそれを見ていつでも会話出来るように小さなノートとペンをダッシュボードから出すと書いて見せた。
  [この待ち合わせして、会うのもあの時以来だろ]
  「うん」
   何か懐かしい感じに大樹は再び書いて見せた。
  [飯食ったら…行くか]
  それを見た美咲はうんと頷く。
  走り出した車に空には綺麗な月が輝いていた。

End


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...