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不憫

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「あ、ああそうだな。」
ビッチの意味を知らない服部のことが急に不憫に思えてきた。

「なんでどもってるわけ?」
まさか、不憫に思っているので……とも言えない。

「少ししたがうまく回らないかっただけだよ」誰でも思いつきそうなありきたりな嘘で誤魔化すことを試みる。
自分でも述べた通りこんな嘘誰でも思いつけるので、直ぐに見破られてしまうかもしれない。

しかし、俺の心のどこかにはビッチという単語の意味を知らなかった奴なのだ。
だからこんなに簡単な嘘を見破れるわけがない、という気持ちもせめぎ合っていた。

結果は_____「ああ私もよくあるわ。舌が回らないこと」
服部はにこやかな笑みで意見に同調した。

つまり、俺の超絶ありきたりで簡単な嘘を見破れなかったという訳だ。
もしかして?不思議ちゃんでは?もしくは天然か?

彼女の性格に対しての疑問も次から次へと湧き上がってくる。
それとも____ただのアホか?

いや、と一番最後の疑問にはかぶりを振った。
今日一日、学校と放課後合わせてこいつの様子を見てきたがそれなりに知能はあるようだった。

同時に少しだけ違和感を感じた。
こいつは、今まで全くと言っていいクラスメイトに意見をしていない。

自分の考えを伝えていない。
積極性が俺よりないように感じる。

俺も自ら進んで発言することはないが、それでも会話に齟齬があったり不備を発見すればそれを指摘したり意見を発したりする。

しかし、こいつはそんな行動が見受けられない。
適当にあいさつをして、適当に意見に同調して、適当に生きている、そんな風に感じられた。

まるで____どこかのラノベに出てくる登場人物のように人の顔色ばかりうかがい続けるつまらないモブキャラのような____そんな気概すら感じられる。

「つまんねえな」
考えていたことが口からポロリと漏れてしまった。

ヤバい、必死に先程の言葉を取り繕おうと頭をフル回転させる。
が、そんな必要はなかった。

「何か言った?」
幸いなことに俺の口から不意に漏れ出た言葉は聞こえていなかったようだった。

俺は「ふう」と心からの安堵の息をついて「何もねーよ」と平静を装った。

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