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序章
【如月 遠依】
しおりを挟む「え、死んだ……?」
片割れが突然死んだことを、私はあまりにも急すぎて理解できなかった。
お腹も膨れた、日常を形にしたような昼下がり。眠い現国の授業を、教室中央で受けているときだった。教師の「俺はまだ死んでないぞ、如月ぃ」というおどけた調子のツッコミさえ頭に入らない。
(死んだ死んだ死んだ死んだ、死んでしまった――)
そればかりが頭をがんじがらめにして、ぐるぐるぐるぐる混流していく。
ああ、死んでしまったのか。
自然と涙は零れなかった。
混乱の方が強く、動揺が勝った。寂寥は、底にべったりと張り付いたまま、必死で上には上がって来ないように無意識で眠っていた。
ああ、死んでしまったのか。
ノートがぐしゃっと音を立てた。握り締めていたシャーペンがノートに亀裂を作ったのだ。
私の大事な片割れは、私が日常を体験しているとき、一人寂しく死んでしまった。
ああ、死んでしまったのか。
ぼんやりと視界がおぼろげになる。外気にあたって冷えた涙が頬を伝うことなく、破れたノートの上に楕円を描いた。
2017年11月27日(月)14時12分――片割れが死んだ。
***
生まれた頃より、自分の視界(ビジョン)がおかしなことには気づいてた。
それを指摘して両親に不思議がられたことや、周囲に如月さんちの遠依ちゃんはおかしな子だと不躾に言われたことも多々あった。
ただ、自分が見えているものが私にとって特別なものなのだと気づいたのは、物心つく少し前だったと記憶している。
私は別の誰かと視界を共有していた。
しかも別世界と思われる別次元の誰かの視界。
それは私の世界の邪魔にならないときにだけ、透明のガラス版を目に装着したように表現された。
不思議も不思議、摩訶不思議。別次元の世界は私の想像を超えた、とてもきれいで美しく、煌びやかな世界だった。
そこに生きる、私と視界を共有する誰かを、私は気にならずにはいられなかった。
あなたはだあれ?
そう聞くと、「トーイ。トーイ・キサラギ」と私と同じ名前が返ってきた。
もちろん、対面に彼女がいるわけではない。彼女の視界を通じて世界を見ているに過ぎず、私は彼女の顔を鏡越しにしか視たことしかなかった。
彼女はいつも絵本の中のお姫様が着るような衣装を身に着け、歩きにくそうなその服を見事に着こなしていた。
トーイの声は私の耳を通り抜け、頭に響いた。当初、頭に響く通信が苦手だったが、
しばらくして頭痛にも慣れた。
トーイと話すことが、視界を共有することが、何よりも楽しく嬉しく言葉に尽くせない喜びがあった。
彼女は私のかけがえのない友人で、片割れであることは、私たちの中では共通認識であった。
なかなか部屋から出ることが許されないトーイのために、私はこちらの世界の美しいものをたくさん見せた。何より珍しがったのが動く長い車両や、空高くつんざくような塔(トーイ曰く)だったのは、電車やビル群を見慣れた私には面白くなかった。
トーイも私に多くのものを見せてくれた。
宝石を散りばめたドレスを着て、巨大なシャンデリアに見守られながら踊り回る視界は、私にはついていくことが難しかった。
部屋の窓を開けた階下には、絶景が広がっている。季節の花が均等に花を付け、どれもがトーイに視線を向けていた。広大な庭の向こうには、分厚く高い塀。そしてその向こうに野高い山々と青い空が広がっている。
おいしいもの、綺麗なもの、熟練したたしなみごと、美しいものばかりをトーイは見せてくれた。
代わりに汚いものは一切、私に見せようとはしなかった。
私も馬鹿ではない。トーイが別世界でも特別な階級にいる人物であることは想像に難くなかった。
トーイは私を対等に扱った。だから私も自分を卑下に感じることなく、自然体でトーイに接することができた。
優しい、純粋な心を持つトーイ。いつも朗らかな笑顔を称え、私に話しかけてくれたトーイ。
トーイの最期の言葉。
憎しみと、恨みと、怨みを込めた最期の嘆き。
「その顔を覚えたぞ! 遠依がきっと、おまえらに復讐してくれるだろう。私の恨みを晴らしてくれるだろう。忘れないぞ。その顔、決して忘れないぞ!」
トーイ、覚えたよ。
奴の顔、確かに覚えたよ。
あなたの復讐心、確かに受け継いだよ。
必ず、私があなたを殺した奴を殺しに行くよ。
だから、安心して召されて。
綺麗な場所で眠っていて。
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