2 / 28
2
しおりを挟む今日は例のお茶会が開かれる日だ。
結局、私のドレスは新調されてしまった。
「婚約者候補の集まるお茶会にクラリスのドレスのリメイクなど、侯爵家の恥です。」
という次期侯爵である兄の鶴の一声により、私はとても素晴らしいドレスを仕立てられてしまった。
「もったいない。」
と抗議すると、兄はすました顔で、「孤児院に寄付するための貴族バザーの提供品の一つにするので問題ない」と言い放った。
なので私にできることは、シミなどを付けないように細心に注意を払うだけだ。
(プレシャー以外のなにものでもないわ!!)
会場につくとお茶会というより、式典のようだった。
ダンスホールに、静かな音楽が流れ、
中央には玉座が配置されて、とても厳かな雰囲気だ。
周りを見ると私は「はぁ~。」と息を吐いた。
さすがに王太子殿下の婚約者候補が集まるお茶会だ。
そうそうたるメンバーだ。
(あの方は公爵家の3女クロエ様ね。
あちらは、辺境伯のご息女ミラー様。
それに事業が大変成功された伯爵令嬢のマリー様。
素晴らしいわ!!
これだけの方々がいらっしゃれば、私が目立つこともないわね。)
ほっとしていると、数人の令嬢に囲まれた。
「まぁ、アリエッタ様、御機嫌よう。
先日の剣舞会は素晴らしかったですわ~~。」
「本当に!!乗馬大会も他の追随を許さぬ圧倒的な成績でしたわよね。」
「今度わたくしに剣舞を見せて頂けませんか?」
「ずるいわ!!私もぜひ。」
「アリエッタ様。私に乗馬を教えて頂けませんか?」
(『貴族の言葉はそのまま信用するな。』とお兄様には言われているけれど・・。
褒められれば嬉しいのよね~。
それに、この言葉に裏があったとしても大した問題ではないように思うのだけど?
楽観的かしら。)
「皆様。ありがとうございます。」
私は素直に言葉を受け取ることにして、心からの笑顔を向けた。
「「「「はぁ~素敵~。」」」」
可愛らしい令嬢の方々と交流していると、王太子殿下がいらっしゃるという声が響いた。
多くの令嬢が我先にと中央に陣取る中、
私は流れに逆行し、中央から離れた位置にそそくさと移動した。
(きっと話が長いだろうし、姿勢が崩れても目立たない場所がいいわ。)
「アルベルト殿下のご入場。」
声と共に王太子であるアルベルト殿下の姿が見えた。
アルベルト殿下は輝く黄金色の髪に長身で身体のバランスも素晴らしい方だった。
(はぁ~。殿下の髪は、収穫前の夕日に照らされた小麦のようで美しいわ。)
殿下が中央に立ち、話が始めた。
形式的なあいさつのようだったので聞き流しても問題ないと判断して、ぼんやりと聞くふりをしていた。
話が終わった。
次は参加しているすべての令嬢が個別に殿下にのあいさつをしていく時間だ。
実は、本日のメインイベントはこの個別あいさつだ。
こういう場で、あいさつは爵位順が一般的だ。
(面倒だわ。)
私は侯爵家なので、恐らく公爵令嬢のクロエ様と、同じ爵位の侯爵令嬢、そして前王妃様の妹の娘である辺境伯のご息女ミラー様の次になるのだろう。
(はぁ~。まぁ、早く終わってしまう方が気が楽よね。)
少しだけ中央に近くに寄って、3人のあいさつが終わるのを待った。
しかし、さすがは王妃選定のお茶会だ。
(一人のあいさつが長い!!)
通常のあいさつは殿下から話を切り上げるのが慣例だが、今日は婚約者対象である令嬢から話を切り上げるのがマナーだ。
このあいさつで自分をアピールしなければならないのだ。
だからこそ皆、側近の方の咳払いがあるまで王太子と話をする。
側近の方は皆が平等になるように砂時計を使って計っている。
(アルベルト殿下も側近の方も大変ね~20人はいらっしゃるわよね~。
せめて対象外の私は素早く終わらせて私の分の時間休ませてあげましょう。)
そして私の順番になった。
「アリエッタ・ライトでございます。
本日はお招き頂き、誠にありがとうございます。」
そう言って、カーテシーをする。
「初めまして、お噂はかねがねお伺いしております。
乗馬大会や剣舞会での活躍を拝見致しました。
おめでとうございます。」
「ありがとうございます。光栄です。
それでは、御前を失礼致します。」
ちらりと護衛の方を見た。
(側近の方も大変ね。)
頭を下げて見上げると驚いたような殿下の顔が見えた。
殿下に一礼した後、側近の方にも小さく頭を下げた。
(お疲れ様です。)
心の中で激励し、踵を返した。
もう今日は殿下と話すことはないだろう。
きっと、みんなとあいさつが終わったらお茶会終了の時間だ。
(よし!!視察!視察~!!)
195
あなたにおすすめの小説
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
本当に現実を生きていないのは?
朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。
だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。
だって、ここは現実だ。
※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。
残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください
mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。
「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」
大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です!
男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。
どこに、捻じ込めると言うのですか!
※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる